BMW M6クーペ(FR/7AT)/BMW M6カブリオレ(FR/7AT)【海外試乗記】
「M」の再定義 2012.07.17 試乗記 BMW M6クーペ(FR/7AT)/BMW M6カブリオレ(FR/7AT)……1695万円/1760万円
BMW Mシリーズのエンジンにもダウンサイジングの波。「M5」に続いてV10 NAからV8ツインターボに載せ換えた新型「M6」シリーズを、スペインはコスタ・デル・ソルの中心の街、マラガの周辺でテストした。
その真骨頂はシャシーにあり
新型「6シリーズ」のデビューから間を置くことなく登場した新しい「M6クーペ」「M6カブリオレ」は、基本構造の多くを共用する「M5」と同様、あのあまりに特徴的だった超高回転型V型10気筒5リッターエンジンを一代で捨てて、V型8気筒4.4リッター直噴ツインターボエンジンを搭載する。一番の狙いは、今や猫も杓子(しゃくし)も口にするダウンサイジングによる燃費向上ならびにCO2排出量削減である。
実際、燃料消費はクーペで9.9リッター/100km(約10.1km/リッター)、CO2排出量は232gと、従来型より30%も低減されている。それでいて最高出力は560ps、最大トルクは69.3kgmと、いずれも大幅に増強されているのだ。この辺りは、まさに今のトレンド通りの仕上がりと言っていいだろう。
「高回転・高出力型こそM」としていた以前のブランドの姿からの大胆な宗旨替えもあり、つい話題がエンジンに集中してしまうが、Mモデルは単に既存の車体に高出力ユニットを押し込んだだけの存在ではない。真骨頂は、それをしかと受け止めるシャシーにこそあると言っても、決して過言ではないだろう。
諸元にはフロントのトレッドが30mm拡大されたと記載されているシャシーは、実はそれだけでなく、6シリーズとはほぼ別物だ。フロントサスペンションには鍛造アルミ製コンポーネントが多く使われ、ジオメトリーも刷新。剛性向上のためのリーンフォースプレートも入れられている。ステアリングも、6シリーズがギア比可変の電動アシストなのに対して、M6はギア比固定の油圧アシストとなる。リニアな操舵(そうだ)感の獲得と、ワイドタイヤの大きな負荷への対応のためだ。
リアも、M6はサブフレームがゴムブッシュを介さずリジッド固定に。後輪ステア機能を持たないサスペンションも、アーム類などは新型6シリーズより、むしろ先代M6に近い構成になっており、これにロック率可変式のアクティブMディファレンシャルが組み合わされる。
劇的に向上したドライバビリティー
新型M6は、それどころかボディーだって違っている。先代同様、クーペのルーフはCFRP製。パネルの重量は3.7kgで、スチール製とした場合の8.0kgの半分以下でしかない。平面ではなく中央部分が一段へこんでいるのは空力的効果、そして重心高のさらなる低下を狙ってのこと。従来型より厚みが削られ、生産所要時間も2割ほど短縮されているという。
軽量化は、さらに他の部分でも推し進められている。フロントフェンダーは先代と同じく熱可塑性プラスチック製とされ、ドアとエンジンフードはアルミ製に。トランクリッドとカブリオレのソフトトップ収納リッドはSMC(シート・モールディング・コンパウンド)製である。ただし、車重は日本仕様で1910kgと、M5よりは70kg軽いものの、先代に比べると90kgの増加となった。
それでもパワー・ウェイト・レシオはクーペで3.3kg/psである。格段に充実した低速トルク、そしてデュアルクラッチ式のM DCTの恩恵も大きく、実用域の力強さ、扱いやすさは劇的に向上している。乗り心地もしなやか。特にカブリオレは、車重がかさむのと試乗車の装着タイヤが標準の19インチだったこともあって、とても気持ち良いドライブを楽しめた。
一方、特にクーペは一般道では少々面白みを欠く感がある。スポーツカーらしい鋭さが薄いというのが率直な印象。本領を発揮させるには、やはりサーキットに持ち込む方が良さそうだ。
門戸を広げた「M6」
低中速域ではフラットに、すさまじいトルクを発生する4.4リッターターボエンジンは、さらに踏み込むと5000rpm台中盤辺りから7200rpmのレブリミットまで一気に吹け上がり、スポーツユニットらしさを堪能させてくれる。トップエンドでのM5以上の爽快感は、車重の軽さが効いているのだろうか。
コーナーでは、やや大きめのロールを伴いながら、グイッと鋭くノーズがインを向く。この辺りの軽快感もM5とは別物。重心が低く、ホイールベースも短いだけに当然とはいえ、差は小さくはない。こちらは、やはりスポーツカーなのだ。
とはいえ、この日は車載の温度計に38度と表示されるほどの暑さだったから、タイヤも相当熱を持っていたのだろう。ブレーキを残し過ぎると、いとも簡単にリアが滑り出して、大カウンターステア大会になってしまった。この時、DSCがMダイナミックモードだと、挙動を抑えにかかりスロットルコントロールを受け付けてくれなくなる。よって腕に自信のある方は、サーキットではDSCはオフの方がかえって走りやすいかもしれない。とはいえ、車重があるだけに無理は禁物だ。
同じ理由で、オプションのMカーボン・セラミック・ブレーキはぜひ装備したい。新素材のローターは径も厚みも増し、耐熱性を大幅に高めている。しかも4輪で19.4kgもの軽量化を実現しているのだ。目印はゴールド塗装のキャリパーである。
サーキットでのM6クーペは簡単には御しきれないほど速く、豪快で結構じゃじゃ馬ではあるが、いざ大きく挙動を乱した時の懐は結構深かった。しかしながら、クルマとじっくり対話して繊細なコントロールを楽しむという意味では、先代の方がそれらしかったのも事実。ターボで車重もかさむだけに仕方ないのだろうか。
そんな思いもあって、個人的には新しいM6、カブリオレの方が楽しめたという印象だ。Mモデルとして考えると、それは寂しいことかもしれないが、広く受け入れられるのは、ピーキー過ぎた先代よりも、おそらくこうしたあり方なんだろうということは理解できる。
先代M6クーペ/M6カブリオレの日本での販売は合計約600台で、これは世界第4位に位置したという。新型はその成功を引き継げるのか、興味深いところだ。
(文=島下泰久/写真=BMWジャパン)
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島下 泰久
モータージャーナリスト。乗って、書いて、最近ではしゃべる機会も激増中。『間違いだらけのクルマ選び』(草思社)、『クルマの未来で日本はどう戦うのか?』(星海社)など著書多数。YouTubeチャンネル『RIDE NOW』主宰。所有(する不動)車は「ホンダ・ビート」「スバル・サンバー」など。
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