日産フェアレディZ NISMO(FR/6MT)
派手だが誠実 2013.09.17 試乗記 日産の「NISMOブランド戦略」に基づくラインナップとして、装いも新たに登場した「フェアレディZ NISMO」。「フェアレディZ バージョンNISMO」発表から4年という歳月が流れ、このスポーツカーの何が古くなり、何が財産として残ったのか?4年で何が変わったか
かつて筆者が、この『webCG』で「フェアレディZ バージョンNISMO」を紹介したのは2009年。なんとあれから、丸4年もの歳月がたったということになる。
そして今回再び、この誌面でバージョンNISMOを紹介することになった。ただし面白いのは、その理由が性能のエボリューションによるものではない、ということである。
正式名称「フェアレディZ NISMO」。
簡単にいうと、今回のマイナーチェンジでこのモデルから“バージョン”の呼び名が取れた。「Version NISMO=ニスモ版」でなくなったことが、何を意味するのか?
つまりそれは、日産がこのたびNISMOというブランドを、正式に自社高性能モデルの名称に統一したことを意味する。同じ意図で名付けられたものとして、「ジュークNISMO」や「マーチNISMO」が挙げられる。
先ほども述べたように、このフェアレディZ NISMOの中身は、以前となんら変わりはない。正確にいうと、2012年7月のマイナーチェンジ(ECUによる中速域のトルクの最適化)から、特に大きな変更はない。
ただし見た目はちょこっとお化粧直しが施された。赤く塗装されたブレーキキャリパーはマイナーチェンジ以降の通常モデルと共通だが、これまでボディーと同色だったフロントリップスポイラー、サイドスカート、サイドミラー、リアウイングがブラック塗装となり、どちらかといえばぼってりとした印象のボディーを、シャープに引き締めた。
インテリアではタコメーターの縁が赤く彩られ、ステアリングとシフトノブが「ポルシェ911 GT3」のようなバックスキンタイプになった。シートはこれまで通り、座面部分をパンチングタイプのスエード調素材に張り替えた革張りである。
ざっといえば「こんなところ」だ。
しかし今回の試乗には、個人的にはかなり興味があった。なぜなら2009年に登場したスポーツカーが、いま乗り手にどのような印象をもたらすのかが知りたかったからである。4年の歳月はこのスポーツカーの何を古くし、何を財産として残したのだろうか?
磨き上げられた走行性能と商品性
フェアレディZ NISMOの一番大きな特徴。それをひとことで言うのは難しい。意地悪な言い方をすれば、それは「強烈な特徴がないこと」だといえるかもしれない。
専用のダンパー&スプリングを備え、タイヤ&ホイールを19インチに大径化。突起物となるカナードをバンパー形状に溶け込ませることで合法化し、ダウンフォース量を増加させたフロントのロングノーズ。その“あご下”は、やはりダウンフォースを増やすためにアップスイープ形状を採用しており、リアのディフューザーや、傾斜したマフラー形状と併せてグラウンドエフェクト効果を高めている。フェアレディZ NISMOは、市販車としては珍しい、マイナスリフトを達成したスポーツカーである。
ただしこうした空力性能の向上も、レースにおけるホモロゲーションを獲得するためのものではない(レースモデルとしては「RC」が存在する)。あくまでフェアレディZの走行性能と、商品性を磨き上げるために考え出された手段である。
だからであろう。いまひとつこのモデルは、カタチの割に方向性がはっきりしないのだ。
雑味のないハンドリング
そのハンドリングは穏やかだ。外見から想像されるような硬さやクイックさはまるでなく、むしろ「一ハンドルを切れば、一曲がるリニアリティー」が追求されている。ヤマハと共同開発した「パフォーマンスダンパー」も効いているのだろう、路面からの微振動はカットされ、ステアリングを切る手応えには相変わらず雑味がない。空力効果もプラスされているのか、パワーに対するリアタイヤの接地性不足や不安は感じられない。
しかし現代の水準から見ると、そのバネ下に、重さと古さを感じた。フロント245/40R19、リア285/35R19という巨大なタイヤ&ホイールの慣性モーメントに対して、ダンパーが完璧には追従せず、タイヤとボディーの上下動の、波長が合わない感じがするのだ。
これを簡単に収めてしまうなら、ポルシェ911 GT3のように潔くダンパーを固めてしまえばいい。しかし日産は、ここへの割り切りができていないようで、乗り心地を確保したい意図がチラチラ見え隠れする。同じコンセプトでいえば、「スバルWRX STI tS TYPE RA」の方が、ダンパーは上手に仕事をこなしている。もしフェアレディZ NISMOでフラットな乗り味を実現したいなら、もう少しホイールのトラベル量を増やして動きを同調させるか、より高品質なダンパーを備える必要がありそうだ。
そういう意味では、このクルマの“ウリ”である空力で上からボディーを押さえつけたいところだが、外乱要素が不確定な一般道で、これ以上空力性能を研ぎ澄ますこともできないだろう。アンジュレーションが激しい高速ワインディングロードでは、ときおり空力が効いているところと、効いていないところの差異を感じさせる場面も見受けられた。
こうした違和感を抱かせるのは、現代のタイヤの進化によるところも大きい。タイヤはデビュー当時に装着された「ポテンザ RE-11」のままだが、ブリヂストンのカタログには進化版の「RE-11A」がラインナップされている。もっともRE-11のようなサーキットグレードよりは、ポテンザでいえば「S-001」のようなプレミアムスポーツタイヤの方が、このクルマには合っている気がするが。
隠れた実力派
エンジンは素晴らしい。ダウンサイジングとターボ化が顕著な現代において、3.7リッターという排気量を持ち、これを8000rpm近くまで回しきるチューニングが施された自然吸気エンジンは、今後失われてしまう貴重な財産だといえるだろう。またシフトダウン時にエンジン回転を同調させるシンクロレブコントロールは、懸命にヒール・アンド・トウを練習してきた自分には悲しいくらいに気持ち良く決まる。これに頼り切るのは非常に遺憾なのだが、いざ高速ワインディングロードを走った際、ダウンヒルでシフトロックの心配が減るのは非常にありがたい。
見た目の派手さに対して中身は誠実。ゆえに行く先がハッキリしない。それが、いまあらためてフェアレディZ NISMOを見つめたときの印象である。
なんとも辛口な表現になってしまった。だがこのフェアレディZ NISMO、それを承知の上で付き合うと、実は“むちゃくちゃに速いスポーツカー”だ。
馬力は355psと、世界の富裕層を狙ったスーパースポーツたちに遠く及ばない。しかし実用域において、これほど安心してぶっ飛ばせるクルマはあまりない。アベレージスピードはとんでもなく高いのだが、モラルと免許の関係から、それを実践する場所が日本にはないだけなのである。
だからこそ日産(オーテック?)のエンジニアは、乗り心地を重視して、結果こうしたわかりにくい着地点に行き着いたのだと思う。隠れた実力派というには、あまりに惜しい。オプションでもいいから専用の上級サスペンションを用意し、「NISMOここにあり」と再びぶち上げても、決して遅くはない気がする。
(文=山田弘樹/写真=田村弥)
テスト車のデータ
日産フェアレディZ NISMO
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4405×1870×1315mm
ホイールベース:2550mm
車重:1540kg
駆動方式:FR
エンジン:3.7リッターV6 DOHC 24バルブ
トランスミッション:6段MT
最高出力:355ps(261kW)/7400rpm
最大トルク:38.1kgm(374Nm)/5200rpm
タイヤ:(前)245/40R19 94W/(後)285/35R19 99W(ブリヂストン・ポテンザRE-11)
燃費:--
価格:521万8500円/テスト車=563万6400円
オプション装備:カーウイングスナビゲーションシステム+ETCユニット+ステアリングスイッチ+バックビューモニター(37万5900円)/特別塗装色<ブリリアントホワイトパール>(4万2000円)
テスト車の年式:2013年型
テスト車の走行距離:2140km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(5)/山岳路(3)
テスト距離:437.6km
使用燃料:71.2リッター
参考燃費:6.1km/リッター(満タン法)、6.0km/リッター(車載燃費計計測値)

山田 弘樹
ワンメイクレースやスーパー耐久に参戦経験をもつ、実践派のモータージャーナリスト。動力性能や運動性能、およびそれに関連するメカニズムの批評を得意とする。愛車は1995年式「ポルシェ911カレラ」と1986年式の「トヨタ・スプリンター トレノ」(AE86)。
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