日産GT-R Premium edition(4WD/6AT)
「R32 GT-R」の再来 2014.01.21 試乗記 進化し続ける「R35 GT-R」。日産によれば、2014年モデルは「新たな幕開けと呼ぶにふさわしい進化を遂げた」という。その言葉の意味を確かめるために、箱根に向かった。あのハンドリングがある
何の先入観も持たずそのステアリングを握って、ワインディングロードを駆け下りたとき、思わず顔がほころんでしまった。そして、心のなかで山田少年は叫んだ。
「こりゃぁ、『サンニーR』の再来じゃないか!」
クルマ好きのみなさんに、いまさらクドクドと説明する必要はないだろう。サンニーRとはご存じ、R32型「スカイラインGT-R」のことである。1989年に登場した第2世代のスカイラインGT-Rであり、今なお息づくR伝説を作りあげた「GT-R中興の祖」だ。
そのサンニーRと、最新型の「日産GT-R」が似ている? いくらなんでも20年以上前のレジェンドと、現役選手と比べるのは無理があるんじゃないか?
もちろん筆者も、これまでの「R35 GT-R」には、そんなロマンチックな印象を持ったことは一度もなかった。しかし今度の2014年型(MY14モデル)は、あのサンニーRに似ているのだ。
もっとしっかり説明するならば、あのワクワクするハンドリングを、MY14モデルは持っている。
それが何なのかを伝えることが、今回の一番大切なテーマだ。
より「スポーツカー」らしく
走りだした瞬間から感じる、乗り心地の良さ。これがMY14モデルにおける、最大の魅力であり特長だろう。しかしそれは、「フワフワしていて快適」という意味ではない。路面の凹凸を、情報としてステアリングに伝えながらも、衝撃だけは巧みに取り除く、スポーツカーとして理想的な乗り心地。自分で愛車の足まわりを散々イジり倒し、試行錯誤を重ねたことがあるクルマ好きなら、誰もが憧れる乗り味になっていると、筆者は思う。
レーシングカーとスポーツカーの線引きは年々複雑で曖昧になってきている。だが、これにあえて線を引くなら、路面から得られる情報を「質感」に変換するのがスポーツカーであり、「速さ」に変換するのがレーシングカーだと筆者は考える。そういう意味で、乗り味麗しいMY14モデルは、れっきとしたスポーツカーになった。
ちなみ上記の印象は、「COMFORT」モードでの話。MY13モデルの試乗記でもつづられているが、サスペンションのCOMFORTモードという呼び方は変えた方がいいだろう。むしろこれが、GT-Rの「NORMAL」モードだと筆者は思う。
そしてこの乗り心地の良さは、身のこなしにも影響している。
ハンドルを切った瞬間にスッとノーズが応答する。その動きは非常にクイックなのだが、これがダンパーやスプリングの剛性アップによって実現されているわけではないため、操舵(そうだ)後の反発や揺り返しが起こらない。
感触としては、MY12モデルで低められたロールセンターが、さらに低められたようだ。もしかしたら、ビルシュタイン・ダンプトロニックダンパーとスプリングのレートが以前よりも柔らかい方向へとリセッティングされ、ロールセンターを下げた効果が、さらにわかりやすく体感できるようになったのかもしれない。
ようするに、フロントサスペンションのロールスピードが以前よりも若干速い。しかし、それがバランスよくまとまっており、低い速度で走っていても、GT-Rらしさが実感できるようになったのだ。これこそが、筆者がいう「サンニーRだけが持っていた味わい」。ややパワステが軽すぎて、反応が良すぎるところまで、サンニーに似ている。
ちなみにその後のGT-Rは、「サンサン」も「サンヨン」も、そしてこのR35さえも、タイムという呪縛のために、日常での気持ち良さを犠牲にしてきたのだと思う。その理由は、GT-Rが“真の意味”でのレース活動をやめてしまったからだと思うが、話が長くなるのでここではやめておこう。
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サーキットでなくても楽しい
では、この「プレミアムエディション」が遅いのかといえば、とんでもない。このハンドリングと、持ち前の動力性能が組み合わさると、それはもうすごいことになる。
レースエンジンと同じクリーンルームで、熟練工によって手組みされるという3.8リッターのV6ツインターボエンジンは、最高出力550ps、最大トルク64.5kgmと、MY13モデルから変更ない(ちなみに同時期に発表された「GT-R NISMO」は、600ps/66.5kgm)。だからといってその馬力に不満があるかといえば、あるわけがない。
トラクションをコントロールするVDC-RだけをNORMALモードに残し、ショックアブソーバーとトランスミッションを「R」モードに入れる。そこから始まるのは、クルマ好きにとって夢の世界だ。
遮音材の変更やBOSEの「アクティブ・ノイズ・コントロール」によって最適化された室内には、澄んだエンジンサウンドが、これでもか! と鳴り響く。冷間時にウルトラクイックと感じたサスペンションは、ダンパーとタイヤが温まるほどにしなやかさを増していき、怒濤(どとう)のパワーとトルクを、じわりと受け止める。全幅が1895mmもある巨大なGT-Rが、ひとまわりコンパクトに感じられるような身のこなし。速さの質は違うが、こんなにワクワクできるスーパースポーツは、「マクラーレンMP4-12C」以来である。
サスペンションのRモードにおいてだけは、もう少しアンダーステアを減らした方がいいとも思ったが、これは作り手の良心のような気がする。あえてフロントの剛性をマイルドにすることで、剛性の高いリアサスペンションは地面を捉え続けてくれる。このゲインを上げて、リアタイヤをスリップアングルぎりぎりのところで旋回させるような走りは、GT-R NISMOに委ねられたのだろう。
サーキット生まれのGT-Rにとっては本末転倒なことかもしれないが、このプレミアムエディションは、サーキットを走らなくても楽しい。ゆっくり走って、たまに飛ばして、ガソリンが尽きるまで、ずっとずっと走り続けていたいと思えるGT-Rになった。
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やっと「現実味」を帯びた
不思議なことに走りがいいと、これまでは取って付けたようにしか見えなかったレザーのインテリアも、より一層魅力を帯びてきた。いわばそれまでのGT-Rは、若さあふれる勝ち気な少女だったが、年を重ねるごとに成熟し、とうとういっぱしの女性になったのだろう。
元気いっぱいの女の子が、化粧を重ねて毛皮のコートをはおっても、なんら魅力的ではない。むしろすっぴんで結構。だからこれまでのGT-Rには、R32時代のように、華美な装飾はいらないと感じていた。
しかし今回のMY14モデルは、大人のしなやかさを身につけたことで、そのおしゃれにも説得力が出た。“走りバカ”の筆者がレザーシートに魅力を感じたのは、正直初めてのこと。同じ衣装をまとっても、走りひとつでこうも印象が変わるのだから、クルマって面白い。そしてクルマは、やはり走りが大切なのだと、あらためて感じた次第である。
ニュルブルクリンクでタイムを出して知名度を上げ、歴史を積み上げてきた世界のスーパースポーツたちに下克上を達成したGT-R。しかしその一方で、ニュルのタイムが自らを縛り上げてきたのも事実だと思う。クルマの根幹を鍛える上で、かの地は最高の舞台となるのだろう。
ただ、そこでのタイムばかりが取り沙汰されることで、手段が目的と化してしまった感は否めない。このタイムは抜群のコマーシャル要素になる。けれどすべてのユーザーが、そのニュルで作り上げた硬い足腰をも欲しているのかといえば、そうではない。
このスパイラルにはまっていたのが、GT-Rというクルマなのだと思う。
このMY14モデルでは、それまでの開発責任者であった水野和敏氏が退役し、開発部隊に新しいメンバーが加わったという話も聞く。よって、その味付けには「なるほどな……」とうなずかされる部分も多いが、MY14モデルにおいて一番の功績は、走りのバージョンをNISMOと改め、通常のエディションにロードゴーイングカーとしての質感および魅力をたっぷりと持たせたことにある。
やっとGT-Rは、われわれにとって現実味を帯びたスポーツカーになった。これならば、好き嫌いはあるだろうけれど、筆者としては自信をもってみなさんにお薦めできる。R35 GT-Rの第二章は、ここから始まるのだ。
フェラーリやポルシェもいいけれど、ニッポンにはGT-Rがある。やっぱり日本人は、GT-Rなのだと思う。
(文=山田弘樹/写真=田村 弥)
テスト車のデータ
日産GT-R Premium edition
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4670×1895×1370mm
ホイールベース:2780mm
車重:1750kg
駆動方式:4WD
エンジン:3.8リッターV6 DOHC 24バルブ ターボ
トランスミッション:6段AT
最高出力:550ps(404kW)/6400rpm
最大トルク:64.5kgm(632Nm)/3200-5800rpm
タイヤ:(前)255/40ZRF20 97Y/(後)285/35ZRF20 100Y(ダンロップSP SPORT MAXX GT 600 DSST CTT)
燃費:8.7km/リッター(JC08モード)
価格:1011万1500円/テスト車=1075万2000円
オプション装備:SRSカーテンエアバッグシステム、運転席・助手席SRSサイドエアバッグシステム(7万3500円)/ファッショナブルインテリア アイボリー(52万5000円)/特別塗装色メテオフレークブラックパール(4万2000円)
テスト車の年式:2013年型
テスト車の走行距離:4137km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(7)/山岳路(2)
テスト距離:317.6km
使用燃料:62.1リッター
参考燃費:5.1km/リッター(満タン法)/5.2km/リッター(車載燃費計計測値)

山田 弘樹
ワンメイクレースやスーパー耐久に参戦経験をもつ、実践派のモータージャーナリスト。動力性能や運動性能、およびそれに関連するメカニズムの批評を得意とする。愛車は1995年式「ポルシェ911カレラ」と1986年式の「トヨタ・スプリンター トレノ」(AE86)。
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