フォルクスワーゲンe-ゴルフ(FF)/e-up!(FF)/ゴルフGTE(FF/6AT)
未来は“普通”にやってくる 2014.04.02 試乗記 「フォルクスワーゲン・ゴルフ」の電気自動車(EV)仕様「e-ゴルフ」が、いよいよ2014年末に日本に上陸する。その実力を、ひと足先にベルリンで試した。“電動化”に向けて本格始動
これまでは慎重に見えたフォルクスワーゲンのe-モビリティー、要するに電気駆動による自動車への参入が、いよいよ本格化してきた。3月中旬、ドイツの首都ベルリンで開催された「e-モビリティー・ウイークス」では、主力となる「e-ゴルフ」をはじめ「e-up!」、さらにはジュネーブモーターショーでデビューしたばかりのプラグインハイブリッド車「ゴルフGTE」をアピール。さらに、e-モビリティーにより世界がどう変わるのかのプレゼンテーションを行った。
彼らが掲げるスローガンは「electrified!」。直訳すれば「電化せよ!」とでもなるだろうか。この挑発的なキーワードの下、フォルクスワーゲンが目指すe-モビリティーの姿は一体どんなものなのか。同会場で行われたプレス向け試乗会にて試したe-ゴルフの印象から、探ってみたいと思う。
ヨーロッパでは今夏の発売が予定されているe-ゴルフは、最高出力85kW(115ps)、最大トルク270Nm(27.5kgm)の電気モーターを心臓に頂くピュアEV版のゴルフである。このモーターをはじめとするコンポーネンツはすべて内製。容量24.2kWhのやはり内製リチウムイオンバッテリーは前後シートの下、あるいはセンタートンネルに沿うようにレイアウトされた専用フレーム内に収められており、室内スペースをまったく犠牲にはしていない。
とはいえ重量はかさんで、このバッテリーだけでも318kgに達することから車重は1585kgまで増えている。それでも0-100km/h加速は10.4秒だから、動力性能はほぼ「1.2TSI」と同等。最高速は140km/hをマークする。航続距離は130kmから最長190kmとなる。
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ゴルフらしい上質な仕上がり――e-ゴルフ
外観はおなじみのゴルフだが、LED化された前後ライトに“C”の字型の特徴的なデイタイムライト、そしてラジエーターグリルからヘッドライトにかけてのブルーのストライプなどで差別化されている。もちろんエキゾーストパイプはない。そんな見た目以上に力が入れられているのが、アンダーボディーのフラット化の徹底、リアスポイラーや専用ホイールの採用などによる空力性能の向上で、空気抵抗は10%低減されているという。
インテリアも、基本的にはおなじみゴルフ。スタートボタンを押し、Dレンジに入れてアクセルを踏めば、ごく普通に走りだす。
その走りは期待通りと言っていいだろう。発進は力強いが、しっかり滑らかに調教してあって違和感はない。変速がないためシームレスな速度の上昇、踏み込めばすぐに立ち上がるトルクが爽快だ。
一方、アクセルから足を離した時には、Dレンジでは惰性走行に。そこでセレクターレバーを左に倒すと回生ブレーキモードになりD1、D2、D3と倒すごとに利きが強くなり減速感が強まる。また下り坂などで重宝するBレンジも別途用意される。高速道路や郊外路ではD、混んだ街中ではD2やD3などと使い分けると、効率良くそしてリズミカルに走れる。本当ならパドル操作で切り替えられるとベターなのだが。
ゴルフでおなじみドライビングプロファイルの選択機能も備わり、これを“Eco”に設定するとパワーが絞られアクセルの反応も穏やかに。空調の効きも抑制されて航続距離が伸びる。さらに“Eco+”では最高出力が55kW(75ps)に制限されエアコンも停止するが、さすがにこのモードは交通量のよほど少ない郊外でもないと使えなさそうだ。
フットワークは、これまたゴルフらしい上質な仕上がり。重さと、空気圧かなり高めのエコタイヤのせいでやや突き上げ感が増しているが、気になるのはそれぐらいと言っていい。
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ガソリン仕様より軽快でスムーズ――e-up!
続いてステアリングを握ったのはe-up!である。こちらは最高出力60kW(82ps)ながら車重が1214kgと軽いこともあり、太いトルクを生かして「up!」より軽快な加速を披露する。しかも当然、up!の最大の弱点と言ってもいいASGのシフトショックから解放されるのだ。端的に言って、走りの魅力の純増分はe-ゴルフの場合よりはるかに大きい。しかも、そもそもup!自体、基本的には何百kmも一気に走ろうというクルマではないから、EV化で航続距離が最高160kmとなっても、実はダメージは大きくないと言えるかもしれない。
当然、価格だってグンとリーズナブル。3万4900ユーロ(約492万円)のe-ゴルフに対して2万6900ユーロ(約380万円)に収まるから、補助金によって「日産リーフ」に対抗できるぐらいの価格になれば、十分に訴求力が出てくるのではないだろうか?
ジュネーブモーターショーでお披露目されたばかりのゴルフGTEも試すことができた。GTEはプラグインハイブリッド車。最大50kmを電力のみで走行でき、1.4リッターTSIエンジンとモーターを使うハイブリッドモードではEUモードでリッターあたり65.5kmという省燃費を達成し、航続距離939kmを実現する。また“GTEモード”に入れれば最高出力150kW(204ps)を発生し、「GTI」を想起させるその名に恥じないパワフルな走りも可能にする。
面白いのはモーター走行の際にも駆動にDSGを介するためギアチェンジが可能なこと。GTIモードでのエンジンとモーターが協調しての加速っぷりもなかなか刺激がある。0-100km/hは7.4秒。GTIの6.5秒には及ばないとはいえ、出足の鋭さやピックアップの良さなど、また別の喜びを味わわせてくれる。
ただし、まだ発表されていない価格はe-ゴルフよりもさらに高くなるはず。まずはGTIや「R」のようなスペシャルモデルとしての設定になるはずだ。
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“普通さ”こそが狙い
ゴルフGTEは、先進のハイテクにいち早く触れたいというようなコアなファンには間違いなくウケるだろうし、日常使用に何ひとつ不自由ないとなれば、むしろe-ゴルフよりもハードルは低いかもしれない。価格はきっと安くないだろうが、ゴルフRのような高額なモデルだってそれなりに売ってしまうのがゴルフというブランド。価値アリと判断すれば、ユーザーはお金を惜しまないはずだ。
一方、今回の目玉であったe-ゴルフは、言ってみればEVであること以外は、ごく普通のゴルフ。「BMW i3」などと比べると、スペシャル感は薄い。今やEVというだけではユーザーはなびかないだろうと考えると、この航続距離が短く車両価格の高いゴルフを訴求するのは簡単ではないだろう。
しかし、実はこの“普通さ”こそフォルクスワーゲンの狙いなのだ。カーボンボディーのプラグインハイブリッド車である「XL1」のような限定車も出すには出すが、基本的にEVもPHVも特別なものとはせず、ガソリン車やディーゼル車と同じように横並びの選択肢としてそろえて、用途に応じて選んでもらおうと彼らは考えている。
おそらくフォルクスワーゲンが見据えているのは、あと半歩ぐらい先の世界なのだろう。EVもプラグインハイブリッドも特別なものではなくなり、日常に溶け込んだものとして、ニーズに合わせて選ばれるようになれば、e-ゴルフやe-up!の実用性の高さ、良い意味で目立ちすぎることのない存在感、つまりは日常性はむしろ大きなアピールポイントになってくるに違いない。
いや、むしろe-ゴルフやe-up!は、e-モビリティーを取り巻く状況をそんなふうに変えていく役割を担っていると言ってもいいのかもしれない。日本上陸は2014年末の予定。フォルクスワーゲン ジャパンの手腕に、大いに期待したいところだ。
(文=島下泰久/写真=フォルクスワーゲン グループ ジャパン)
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テスト車のデータ
フォルクスワーゲンe-ゴルフ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4254×1799×1453mm
ホイールベース:2632mm
車重:1585kg
駆動方式:FF
モーター:交流同期電動機
最高出力:115ps(85kW)
最大トルク:27.5kgm(270Nm)
タイヤ:(前)205/55R16 91Q/(後)205/55R16 91Q(コンチネンタル・コンチeコンタクト)
価格:--円/テスト車=--円
オプション装備:--
テスト車の年式:2014年型
テスト車の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
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フォルクスワーゲンe-up!
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3540×1645×1477mm
ホイールベース:2420mm
車重:1214kg
駆動方式:FF
モーター:交流同期電動機
最高出力:82ps(60kW)
最大トルク:21.4kgm(210Nm)
タイヤ:(前)165/65R15 81T/(後)165/65R15 81T(ダンロップSPストリートレスポンス)
価格:--円/テスト車=--円
オプション装備:--
テスト車の年式:2014年型
テスト車の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
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フォルクスワーゲン・ゴルフGTE
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=--×--×--mm
ホイールベース:--mm
車重:1524kg
駆動方式:FF
エンジン:1.4リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
モーター:交流電動機
トランスミッション:6AT
エンジン最高出力:150ps(110kW)
エンジン最大トルク:--kgm(--Nm)
モーター最高出力:102ps(75kW)
モーター最大トルク:--kgm(--Nm)
タイヤ:(前)--/(後)--
燃費:--km/リッター
価格:--円/テスト車=--円
オプション装備:--
テスト車の年式:2014年型
テスト車の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター
参考燃費:--km/リッター

島下 泰久
モータージャーナリスト。乗って、書いて、最近ではしゃべる機会も激増中。『間違いだらけのクルマ選び』(草思社)、『クルマの未来で日本はどう戦うのか?』(星海社)など著書多数。YouTubeチャンネル『RIDE NOW』主宰。所有(する不動)車は「ホンダ・ビート」「スバル・サンバー」など。
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