第343回:キミはイタリア流マクドナルドを知っているか?
2014.04.18 マッキナ あらモーダ!変化したイタリア人のハンバーガー観
日本では、「100円バーガー」を復活させたことで話題を呼んでいるマクドナルド。その店舗数は、かつてより減少したとはいえ約3300店を数える。
いっぽう、イタリアにおけるマクドナルド上陸は、日本よりも14年遅い1985年で、現在でも日本よりひと桁少ない約480店にとどまる。
思えばボクがイタリアに住み始めた1996年、シエナ旧市街にあるチェーン系ハンバーガーレストランといえば「バーギー」という名の店が1軒あるだけだった。そのハンバーガーの味は、外国人大学の同級生たちに酷評されていた。なおバーギーは後年、マクドナルド・イタリア社に吸収され、店舗拡張の足がかり役となって消滅していった。
イタリア人のハンバーガー観は、劇的に変化したといってもよい。十数年前、ハンバーガーは、食文化衰退の象徴として、若者でさえ忌み嫌う者が少なくなかった。そのため、当時のイタリアにおけるマクドナルド店舗数は、日本の10分の1以下である、300店舗にようやく届くか届かないかだった。ところが近年、マクドナルドの店舗は、どこも家族連れで賑(にぎ)わっている。
ちなみにドリンクやポテト付きのビックマックメニューの価格は円換算すると900円以上するが、イタリアの軽食堂で昼コースを頼めば、最低でも1400円はするから、それに比べれば安い。そのうえ、日本同様無料の水道水が頼めるフランスと違って、イタリアで水は相変わらず有料が原則だ。
景気低迷が続くなか、そして人々がファストフードの味に慣れていった結果、イタリアにもハンバーガー文化が少しずつ根付いているのである。
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これがイタリア版マクドだ!
ボクは常々、「マクドナルドのハンバーガーは、食文化におけるフォードT型である」と信じてきた。
いつでも、どこでも、均一の品質・価値をいつでも、安く提供するシステムは、高級品を作るのとは別次元で、それに匹敵する高度なノウハウを必要とする。だからマクドナルドが作り上げたシステムを知らないで、やみくもにハンバーガーを攻撃する以前のイタリア人に、納得できなかった。
いっぽう、マクドナルドを弁護しつつも、実際イタリアのマクドナルドを訪れると、提供される商品のコンディションにバラつきがみられる。材料の一部を忘れたのかハンバーガーの味が妙に薄かったり、ポテトの塩味がほとんどなかったりしたことがあった。かと思えば、先日は加熱しすぎでカリカリのバンズに遭遇した。
それでも、あまりカウンターに戻って食って掛かるモンスター客を目撃したことがないのは、「価格が安い物は、それなりだ」という認識がイタリア人に備わっているからだ。価格以上の品質を期待する日本人と違うところである。ちなみにこれはイタリアで、アパレルなど、さまざまなモノにいえることだ。
なお、イタリアのマクドナルドでは、ケチャップとマヨネーズは有料である。にもかかわらず、店員はさも無料かのように、さりげなく「お付けしますか?」と聞いてくるので、イタリア観光する上でのミニ知識として、知っておいたほうがいい。
また、ランチタイムなどのかき入れ時を過ぎた時間にいる店員はのんびりしたものだ。例えばわが街の店舗では、店員がフラっと遊びに来たアミーチ(友達)と、カウンターで立ち話をしている。
出張先でこんなこともがあった。朝、営業時間を過ぎても開店しないので、外から「おーい!」と何度か呼ぶと、しばらくして中から女性店員が出てきて、平然と「ちょっとプロブレミーノが」という。“Problemino”とは、小さな問題のことである。結局何の問題発生かはわからなかったが、30分くらいして、ようやく開店した。このノリ、客の立場からすれば少々困るが、「死んでも開店時間厳守」なんていう、非人間的なことはないわけだ。
飛躍して考えれば、日本のフードサービス界で起きる、労働環境におけるさまざまな悲劇が起きにくいわけで、グッと我慢すべきなのかもしれない。
そしてマクドナルドといえば、ドライブスルーである。イタリアでは、「McDrive(マックドライブ)」という名で呼ばれている。当初設置され始めた頃、わがアパルタメントのインターホンから想像して、「雨ざらしの受注用マイクなんて、イタリアじゃすぐ壊れちゃって、大変なことになるぜ」と冷笑していたが、意外に今日までそうしたトラブルに遭遇したり、目撃したりしたことはない。
いっぽう、イタリア中部ムジェッロ・サーキットに近いバルベリーノにあるマクドナルドのドライブスルーは、ちょっと変わっていた。
イタリアらしく既存の建物を活用したと思われるそのお店は、ドライブスルー車両は建物の裏を回るレイアウトになっている。それはともかく、熱海のホテルのような懸造り(かけづくり)のため、クルマは谷に向かって下り、再び坂を上がっていかなければならない。強引に造った感がプンプン漂っている。幅員も狭く、前後に他車でもいたら、初心者はかなりビビるに違いない。
お役所のほうがブラック企業?
思えばかつて日本では「世界のことば マクドナルド」というキャッチが使われていたが、かくも世界共通でない点がイタリア版には数々ある。
イタリア人がハンバーガーを受容し始めたと前述したが、実はマクドナルドのイタリア法人側の努力もある。
例えば大きな郊外店舗では、コーヒー用カウンターは別に設けられている。食後にレシートを持参して、そのカウンターに行くと、エスプレッソコーヒーを入れてくれるというわけだ。イタリア人が昼食のあと、別のバールでグイッとデミタスカップを傾ける習慣を尊重したものである。
もっと深いところでは、イタリア国産食材の積極的な採用と、イタリア人好みのメニューがあることである。後者の例として、バリッラ社のパスタを使ったサラダは、レギュラー品としてメニューに定着して長い。
さらに、社会市民としての働きもアピールしている。先月のトレー用の紙マットには「マクドナルドは、イタリアで2万4000人の雇用を創出しました」といったキャッチが躍る。
少し前のCMも面白い。「マクドナルドでのアルバイトは大変です。夜シフトもあります」と始まるそのスポットは最後にこう締めくくる。「給与は毎月確実に支払われます!」
そういえば、知り合いの若いイタリア人女性は、大学卒業後に県庁に職を得た。ボクは地方公務員なら生涯安泰だと思ったものの、実は給与の遅配続きで、叔母にお金を借りていた。
外資系外食産業が優良で、役所のほうがブラックに近い? イタリアは奥深い国だ。
(文と写真=大矢アキオ<Akio Lorenzo OYA>)
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大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、25年間にわたってリポーターを務めあげる。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
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