第17回:あのショーカーに乗ってトム・クルーズがインドを走る! − 『ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル』
2011.12.12 読んでますカー、観てますカー第17回:あのショーカーに乗ってトム・クルーズがインドを走る!『ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル』
大ヒットシリーズの4作目
東京モーターショーで見たばかりのコンセプトカーが、スクリーンの中で疾走している。BMWの「i8」だ。自動車会社とタイアップした映画は珍しくないが、最新のコンセプトカーが登場すると、さすがに驚いてしまう。
トム・クルーズ主演の大ヒットシリーズ『ミッション:インポッシブル』の4作目である。元は60年代から70年代にかけて製作されたアメリカのテレビドラマだったが、1996年からリメイクのシリーズが始まった。トム・クルーズ自身が制作も担当していて、彼が監督を指名している。ブライアン・デ・パルマ、ジョン・ウー、J・J・エイブラムスと大物を起用してきて、今回はブラッド・バードに白羽の矢が立った。『Mr.インクレディブル』『レミーのおいしいレストラン』などのアニメ作品で才能を見せていたが、王道のエンターテインメント作品を任されたのだ。
物語はブダペストから始まる。開始早々から激しいアクションで、息もつかせぬ展開だ。つかみはOKだが、トム・クルーズ演じるところのイーサン・ハントがいない。一転、『大脱走』オマージュらしき独房のシークエンスに移る。彼は、ロシアの刑務所にいた。そこではセルゲイと呼ばれ、まわりからはロシア人だと思われている。その割には簡単なロシア語しかしゃべっていなかったが。派手な脱走劇が繰り広げられ、いよいよ不可能なミッションが始まるのだ。
地上828メートルのアクション
与えられたミッションは、クレムリンに忍び込み、あるファイルを取り戻すこと。ロシア軍人に変装したイーサンはハイテクを駆使して首尾よく侵入するが、目的を果たせぬまま何者かによってクレムリンが爆破されてしまう。負傷したハントは病院でロシア警察の監視下に置かれる。爆破事件の首謀者だと見なされたのだ。
なんとか脱出するものの、この事件によってロシアとの関係が悪化することを恐れたアメリカ政府は「ゴースト・プロトコル」を発動し、所属組織のIMFそのものが抹消されてしまう。国や組織のサポートを得ることはかなわず、単独で嫌疑を晴らし、何者かの陰謀を阻止しなくてはならない。どうやら、姿を見せぬ敵は、ロシアの核ミサイル発射暗号を手に入れ、アメリカを攻撃することで核戦争を引き起こすことを狙っているようなのだ。
これまでは超人的個人能力で幾多の危機を乗り切ってきたイーサンだが、今回はチームプレーである。美しき敏腕エージェントのジェーン・カーター(ポーラ・パットン)、冷静な分析官のウィリアム・ブラント(ジェレミー・レナー)、天才ハッカーのベンジー・ダン(サイモン・ペグ)と一緒に悪に立ち向かうのだ。
核ミサイルの暗号が敵の手に渡るのを阻止するため、ドバイへと向かう。舞台となるのは、世界一の高層ホテル、ブルジュ・ハリファだ。予告編やポスターで紹介されているビジュアルは、このホテルの外壁でのアクションだ。地上828メートルだそうで、高所恐怖症気味の人はめまいがしそうな映像である。何もそんな高いところで戦わなくてもよさそうなものだが、トム・クルーズはスタントマンを使わずに自分で演じたというからあっぱれだ。もうすぐ50歳になろうかというのに。
6シリーズは壊しまくり、「i8」は大切に
お待ちかねのカーアクションでは、「BMW 6シリーズ」が登場する。猛烈な砂嵐の中で、ほろが飛ばされてしまったカブリオレでカーチェイスをするのだ。風が強いだけでなく、視界が遮られる中で激走する。高級車なのにぞんざいな扱いで、道を走るほかのクルマにぶつけまくりだ。イーサンは卓越したドライビングテクニックを持っていたはずなのに、どうしたことだろう。最後には正面衝突で激しくクラッシュする。完全に廃車だ。もったいない。
次はインドのムンバイに飛ぶ。ある富豪のパーティーに潜入するのだが、イーサンはそこに「BMW i8」で乗り付けるのだ。車寄せには「ブガッティ・ヴェイロン」をはじめとする高級車がさり気なく止められているが、未来感あふれるルックスはさすがに目立つ。それでもなぜかインド人はびっくりしない。
もちろん、あとでi8のカーアクションも用意されている。しかし、6のカブリオレが派手にクラッシュしていたのと対照的に、こちらは単独でスムーズに雑踏を走り抜ける。ほかのクルマとバトルするシーンはないのだ。やはり、貴重なコンセプトカーを乱暴に扱うわけにはいかなかったのだろう。ただ、せっかくEVなのだから、ガソリン車に対して電気だから勝てたというような工夫が欲しかった気もする。
BMWが活躍してきたが、最後の対決の舞台はフォルクスワーゲン絡みだ。ウォルフスブルクのアウトシュタットにある納車用のタワーそっくりのタワー型立体駐車場が使われているのだ。ここでもまたBMWが尋常ではない使い方をされ、激しい破壊が行われる。スリル満点のアクションにくぎ付けになりながら、観客はシートベルトの大切さに思い至ることになるだろう。不可能な作戦を支えたのは、常識的な安全意識だったのだ。
(文=鈴木真人)

鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。
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