ルノー・ルーテシア ゼン(FF/5MT)
やっぱりベーシックが一番 2014.12.25 試乗記 フランス車はエントリーグレードがおすすめ? 3気筒ターボエンジンと5段マニュアルトランスミッションを組み合わせた、「ルノー・ルーテシア ゼン」を試す。わが道を行くルノーの戦略
日本の乗用車のマニュアルトランスミッション(MT)比率が1割を切って久しい。最新情報では1~2%という絶滅危惧種のレベルにまで達しているようで、輸入車のなかには、MTをまったく設定していないブランドがいくつかある。
ところが最近、あえてMTをラインナップに載せるブランドが目立ってきた。マツダは新世代モデルのうち「CX-5」を除く全車のクリーンディーゼルでMTを選べるようにしているし、フィアットは「500」だけでなく「パンダ」にも用意した。
ルノーもMTを設定し続けるブランドとして知られている。今回、ルーテシアにMTが復活したことで、SUV/クロスオーバーの「キャプチャー」と「コレオス」以外は、すべて3ペダルが選べるようになった。特に「メガーヌ」は3つのボディーすべてにMTがあるし、「カングー」のMTでは2つのエンジンがチョイスできる。
ここまで思い切った商品構成ができるのは、インポーターの多くが本国100%出資の日本法人になっているのに対し、ルノー・ジャポンは日産自動車100%出資の株式会社となっていて、社長も日本人であることが関係しているのかもしれない。
本国からの命令が絶対というわけではないことを生かし、日本の輸入車シーンが独特であることを鑑みて、カングーと「ルノースポール」シリーズを2本柱にするという他のブランドから見れば一風変わった戦略を打ち出した。もちろんMTも積極的に用意する。その結果、6年前の1年分に近い販売台数を半年で達成するほどになった。
だから今回、ルーテシアに5段MTが追加されるという一報を聞いて、10年以上ルノー・ジャポンのカスタマーとして過ごしている僕は「やっぱり」という感想を抱いた。インポーター側も、当初からMT導入を考えていたという。でも予想と違っていたのは、エンジンも変わっていたことだ。
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エントリーグレードでも「安物感」はなし
そのエンジンはすでに導入されている1.2リッター直列4気筒ターボではなく、0.9リッター直列3気筒ターボ。前者には、フランスでも6段デュアルクラッチ・トランスミッションの設定しかない。1.6リッター4気筒ターボを積むルノースポールも同じ。そこでこの0.9リッターに白羽の矢が立ったのだという。
グレードは1.2リッターにも存在する「ゼン」。日本語の禅がルーツで、フランスでは落ち着いている、リラックスしているという意味で使われる。入れ替わりに、受注生産だった1.2リッターのベーシックグレード「アクティフ」が消えることになった。価格はそのアクティフとほぼ同じ208万円。現在のところ、新車で買える最も安いルノーでもある。
でも安物感はない。サイドプロテクションモールにクロムメッキの帯を入れ、ドアミラーやBピラーをグロスブラック仕上げとするなど、見た目は上級グレードの「インテンス」に近い。なおかつ16インチのアロイホイールはブラック仕上げで、精悍(せいかん)な雰囲気も身につけている。
インテリアで目立つのは、デュアルクラッチのゼンと同じく、エアコンがマニュアルで、シートバックポケットがないことぐらい。装備の差は予想していたよりも少ない。もちろん室内空間は同一だ。身長170cmの僕なら前後ともに楽に過ごせ、荷室は300リッターの容量を備えている。
それよりも気になるのは、過給しているとはいえ1リッター以下でちゃんと走るのかということ。でも結果はまったく問題なかった。最近増えつつあるダウンサイジング3気筒の中でも、独自のキャラクターを持っているように感じた。
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ターボの老舗ならではの出来栄え
クラッチミートはしやすく、シフトタッチは軽くて確実。アイドリング付近のトルクは0.9リッター相応だけれど、1500rpmも回せばターボの恩恵を受けられる。スロットルを絞る「ECOモード」をセレクトしても、加速に不満はなかった。ルーテシア初のアイドリングストップの作動感も、クラッチ操作が始動の合図になることもあって問題なし。
それ以上に印象に残ったのは、トルクの盛り上がりのなだらかさ。この点は1.2リッターとも共通しており、F1やWRCで早くからターボを手掛けてきた経験が生きているのかもしれない。それでいて4000rpmあたりから吹け上がりが勢いづくというドラマ性も秘めている、自然吸気エンジンのような性格だ。だからディーゼルのように早めにシフトアップして流すような走りを受け入れる一方で、回して楽しむような乗り方も似合う。
おまけに静か。もともと現行ルーテシアは静粛性が高かったが、この0.9リッターモデルもその美点を受け継いでいて、アクセル全開で高回転まで回さなければ3気筒だと気付かないほど。100km/h巡航でのエンジン回転数はトップギアの5速で約2500rpm。室内には、かすかに低いうなり音が届くだけだ。
オドメーターが1000kmを超えた程度だったので、サスペンションには硬さが残っていたが、ホイール/タイヤが16インチということもあり、17インチを履くインテンスより当たりはまろやかだ。さらに1.2リッターのゼンより60kg軽いだけあって、身のこなしは軽やか。
昔からヨーロッパ車、特にフランス車はベーシックモデルが一番バランスに優れるというパターンが多く、現行ルーテシアもその伝統を受け継いでいた。しかもそれを3ペダルで操れる。MTが希少な国だからこそ、適度なパワーとトルクを前進につなげていく行為が新鮮だ。自動車の楽しさの根っこの部分を思う存分、味わい尽くせる。
ヨーロッパでのクルマ離れが日本ほど深刻でない理由のひとつは、手頃な価格と維持費で、実用的なのに見て楽しく乗って楽しい、こういうクルマがたくさんあるからじゃないだろうか。その一台を輸入してくれたルノー・ジャポンに感謝したい。
(文=森口将之/写真=荒川正幸)
テスト車のデータ
ルノー・ルーテシア ゼン
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4095×1750×1445mm
ホイールベース:2600mm
車重:1130kg
駆動方式:FF
エンジン:0.9リッター直3 DOHC 12バルブ ターボ
トランスミッション:5段MT
最高出力:90ps(66kW)/5250rpm
最大トルク:13.8kgm(135Nm)/2500rpm
タイヤ:(前)195/55R16 87V/(後)195/55R16 87V(ミシュラン・エナジーセーバー)
燃費:--km/リッター
価格:208万円/テスト車=211万4960円
オプション装備:なし ※以下、販売店オプション ETC車載器(1万4440円)/フロアマット(2万520円)
テスト車の年式:2014年型
テスト開始時の走行距離:1273km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター
参考燃費:--km/リッター
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森口 将之
モータージャーナリスト&モビリティジャーナリスト。ヒストリックカーから自動運転車まで、さらにはモーターサイクルに自転車、公共交通、そして道路と、モビリティーにまつわる全般を分け隔てなく取材し、さまざまなメディアを通して発信する。グッドデザイン賞の審査委員を長年務めている関係もあり、デザインへの造詣も深い。プライベートではフランスおよびフランス車をこよなく愛しており、現在の所有車はルノーの「アヴァンタイム」と「トゥインゴ」。
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