第3回:好敵手と乗り比べる
驚きの実力 2015.01.02 ボルボV40の“いま”を知る ボルボV40 T5 R-DESIGN(FF/8AT)/メルセデス・ベンツA250 シュポルト 4MATIC(4WD/7AT)新たなパワートレインを得た「V40 T5 R-DESIGN」は、どんな走りをもたらすのか? 近いスペックを有するライバル「メルセデス・ベンツA250 シュポルト」との比較を通して、その素顔に迫る。
リファインされたスポーツモデル
躍動感に富んだ個性的なスタイリングと、想像以上に高い走りのポテンシャル。加えて、多くの人を納得させる価格設定で、デビュー早々にしてクリーンヒットを飛ばした「V40」シリーズ。その中で最もスポーティーなグレードである「T5 R-DESIGN」のパワートレインが、今後すべてのボルボ車で展開される基本構造を持つ新エンジンと、同じく最新のトランスミッションとの組み合わせに変更された。
従来の5気筒エンジンと6段ATに代えて採用されたのは、同じ2リッターのターボ付きでありながら直列4気筒化された直噴ユニットと8段AT。
すなわち、グレード名の中にある「5」の数字は、もはや気筒数は示さない。その値はこの先、シリーズ内での位置づけをアピールする、パフォーマンスを表す記号として用いられるというわけだ。
全長が4.3m級で、およそ1.5トンの5ドアボディー。それに対して、最高出力が200psを大きく上回る2リッターのターボエンジンを搭載した、スタイリッシュなハッチバックモデル――そんな条件で周囲を見回すと、こちらも昨今人気急上昇中という“コンパクト・メルセデス”の中に、好敵手「A250 シュポルト」が見つかる。
実はこのモデル、導入当初の日本仕様は、V40と同様のFF車だったが、2014年の春には4WDシステムの持ち主へと宗旨変え。正式なモデル名も「A250 シュポルト 4MATIC」へと改められている。
4WD化されたこともあって、V40のT5 R-DESIGNと比べると、その価格は20万円ほど上回る。が、それでも基本的に両車がライバル関係にあることに変わりはないだろう。
モテるのにはワケがある
そんな最新のAクラスとV40をあらためて並べてみると、「これはどちらも売れるよナ……」と、しみじみ感じさせられる。
理由は明快。まずは何といっても、甲乙付け難いほど、それぞれがスタイリッシュで魅力あふれるルックスの持ち主であるからだ。
Aクラスが1425mm、V40が1440mmと、その全高は絶対的には低いわけではない。しかし、いずれも実際以上に低くワイドに見えるのは、全長に対する全幅の比率が大きく、4つの車輪がボディーの外側一杯に力強く張り出していることによる。
前下がりのベルトラインなどによりもたらされる、勢いのある“クラウチングスタイル”にも、両車で共通性が感じられる。決して実用一辺倒なだけでなく、流麗にしてダイナミック。見るからに躍動感に富んだプロポーションを備えている点でも、両車のルックスは「やはり甲乙付け難い」と思える。
質感が高く、情感たっぷりに仕上げられたインテリアについても、甲乙は付け難い。
優しい“スカンジナビアンデザイン”をベースとしながらも、そこにスポーティーさと若々しさをコーディネートさせたV40。新たに若いユーザー層を開拓すべく、ジェットエンジンの噴き出し口を思わせる丸型の空調ベゼルを並べるなど、ひと昔前のメルセデスでは考えられない大胆なアプローチで挑んだAクラス。いったいどちらが良いか、という判断は、見る人の好みによるところとなりそうだ。
ともに、安全性については一家言を持つブランドの作品だけに、自動ブレーキをはじめとするドライバーアシストシステムが充実しているのは共通。ただし、最新のアイテムをセットにして標準搭載するV40に対し、Aクラスでは、それらはオプション設定となる。その上で、後退時に側方から接近する車両を検知するデバイスや、ヘッドライトのアクティブハイビーム機能、道路標識情報をメーターパネル内に表示する機能などは、V40の独壇場となっている。
予想以上の“力感”
新たなパワートレインを手に入れたV40の走りは、スタートの瞬間からスポーティーな感覚にあふれている。
動き始めの一瞬にわずかに飛び出し感が伴う点には、まだリファインの余地が残っているように思う。ごく低回転域からエンジンが発するトルク感は大きいし、その先でのアクセル踏み込みに対してもトルクの盛り上がりはしっかり追従するので、それが単なる敏捷(びんしょう)さの演出の結果とは思えない。が、スタート時には多少意識して丁寧なアクセルワークを心掛けないと、思った以上に加速Gが立ち上がり、同乗者には不快な思いを与えかねない。
一方で、スタートの瞬間から力強い加速感がエンジン回転が高まっても衰えず、6500rpmに引かれたレッドラインまでストレスなくパワフルに回る感覚は、なるほど、いかにも最新設計のエンジンらしいフリクションの小ささをイメージさせるものだ。
Aクラスは逆に、動き始めの領域がやや“鈍”で、この部分だけ切り取って言うなら「V40よりもスポーティーな印象は控えめ」だ。かつて乗ったFF仕様では、「スタートの瞬間から文句ナシの力強さ」が実感できた。ここはやはり、4WD化に伴う70kgほどの重量増が効いているのかもしれない。
もっとも、こうしてほぼ同サイズのボディーに4WDシャシーを備えた上で、V40とさして変わらぬ車重を実現していることを考えれば、「Aクラスの軽量ぶりは際立つ」とも表現できるだろうか。
ひとたび走り始めれば、Aクラスも十二分に速い。ただし、こちらは3000-4000rpm付近での強いトルク感が印象的なのに対して、その先高回転側の伸び感はV40に及ばないという印象は否めず。ここは「V40の新エンジンが生み出す“力感”が、予想と期待をはるかに上回るものだった」と評価すべきかもしれない。
Aクラスについては、格別な速さを求める向きには、さらなるスーパーウェポンが用意されている。同じ2リッターという排気量でありながら、最高出力360psという心臓を持つ「A45 AMG」がそれだ。
懐の深い乗り味
このクラスの輸入車としてはまだ貴重な存在である4WDシャシーを採用する今回のAクラス。この点は、雪国に住むユーザーに対しての、大きなアドバンテージとなるだろう。小さなボディーの、4WDのメルセデスが欲しいという人にとって、今回のモデルはある種“渡りに船”的な一台でもある。
一方のV40シリーズでは、4WDを欲する人に対しては派生バージョンとして「V40クロスカントリー T5 AWD」が用意されている。
ただし、こちらは同じT5を名乗るグレードでも、従来の5気筒エンジンを搭載する。当然ながら、パワーと燃費を大幅に向上させた新しい4気筒エンジンへと換装されるのも「時間の問題」と考えるべきだろう。
AMGが直接チューニングに携わったという足まわりを持つ今回のAクラスは、コンパクト・メルセデスの中にあっては珍しく、ランフラットタイヤを履いていない。そのせいもあってか、良路での乗り味はなかなか優れている。フラットな走りのテイストは「さすがはメルセデスの一員」……ではあるのだが、残念ながらそうした好印象は、少しでも路面が荒れると一気に失われてしまう。
悪路を行くAクラスは、サスペンションのストローク感に欠け、思った以上に揺すられてしまう。「良路では優れたフラット感を実現するのに、路面が荒れた途端に予想以上の揺すられ感を露呈する」というコンパクト・メルセデスが抱える振幅の大きさは、残念ながら今回のモデルでもやはり変わらなかった。
それに比べると、基本は硬めのセッティングでありつつも、よりストローク感に富んで懐の深い乗り味を提供してくれたのがV40だ。
路面を問わず、“4つの車輪が地に着いた”感覚はAクラス以上。ステアリングの正確性という点でも「Aクラスに勝るとも劣らず」という好印象を味わわせてくれた。
こうして、巨頭メルセデスの作品に対しても、あらためて一歩も引かない実力を見せ付けてくれたのが最新のV40というモデル。となると、今後のこのブランドの課題は、比べればまだ多くが望まれる、ディーラーネットワークをいかに充実させていくかといったソフト面、ということになるのだろうか。
(文=河村康彦/写真=田村 弥)
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テスト車のデータ
ボルボV40 T5 R-DESIGN
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4370×1800×1440mm
ホイールベース:2645mm
車重:1520kg
駆動方式:FF
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:245ps(180kW)/5500rpm
最大トルク:35.7kgm(350Nm)/1500-4800rpm
タイヤ:(前)225/40ZR18 92W/(後)225/40ZR18 92W(ミシュラン・パイロットスポーツ3)
燃費:15.1km/リッター(JC08モード)
価格:436万円/テスト車=466万4000円
オプション装備:パノラマ・ガラスルーフ(19万円)/歩行者エアバッグ(6万2000円)/パーク・アシスト・パイロット+パーク・アシスト・フロント(5万2000円)
テスト車の年式:2014年型
テスト開始時の走行距離:1389km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(6)/山岳路(2)
テスト距離:299.0km
使用燃料:31.7リッター
参考燃費:9.4km/リッター(満タン法)
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メルセデス・ベンツA250 シュポルト 4MATIC
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4355×1780×1425mm
ホイールベース:2700mm
車重:1520kg
駆動方式:4WD
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:7段AT
最高出力:211ps(155kW)/5500rpm
最大トルク:35.7kgm(350Nm)/1200-4000rpm
タイヤ:(前)235/40ZR18 95Y/(後)235/40ZR18 95Y(ミシュラン・パイロットスポーツ3)
燃費:14.6km/リッター(JC08モード)
価格:457万7000円/テスト車=504万6600円
オプション装備:メタリックペイント<ノーザンライツブラック>(6万4800円)/レーダーセーフティパッケージ<ブラインドスポットアシスト+ディストロニックプラス+CPAプラス+PRE-SAFE>(17万4800円)/AMGエクスクルーシブパッケージ<本革シート+harman/kardonロジックサラウンドサウンドシステム+コンビニエンスオープニング・クロージング機能+レザーARTICOダッシュボード>(23万円)
テスト車の年式:2014年型
テスト開始時の走行距離:3126km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(6)/山岳路(2)
テスト距離:293.9km
使用燃料:29.6リッター
参考燃費:9.9km/リッター(満タン法)

大谷 達也
自動車ライター。大学卒業後、電機メーカーの研究所にエンジニアとして勤務。1990年に自動車雑誌『CAR GRAPHIC』の編集部員へと転身。同誌副編集長に就任した後、2010年に退職し、フリーランスの自動車ライターとなる。現在はラグジュアリーカーを中心に軽自動車まで幅広く取材。先端技術やモータースポーツ関連の原稿執筆も数多く手がける。2022-2023 日本カー・オブ・ザ・イヤー選考員、日本自動車ジャーナリスト協会会員、日本モータースポーツ記者会会員。
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