シトロエンC4ピカソ エクスクルーシブ(FF/6AT)
うしろめたいくらい気持ちいい 2015.03.04 試乗記 日本車ともドイツ車とも一味違うシトロエンのミニバン「C4ピカソ」に試乗。「よくできている」というだけでは表現しきれない、独特の魅力に触れた。先代モデルより見た目はアッサリ
このクルマのプレス試乗会で知り合いにあった。職業:フォトグラファー(仲間うちに1人いるといろいろ使える感じのクルマ好き)。その試乗会へも乗ってきていたはずの現マイカーは先代C4ピカソ7人乗りで、彼はそれを気に入っている。せっかくなので新型C4ピカソの印象をたずねたところ、「クルマはいいです。ただし、新型になって得たものと失ったものが……」。ほう。じゃあ、その失ったものって、なに? 「ギミックさ」。
ギミック“さ”。この場合の「さ」は「高さ」とか「デカさ」の「さ」と同じで、もうちょっとフツーに通じやすい日本語(じゃないけど)に直すとギミック度、あるいはギミック充実度……ぐらいか。そのギミックが具体的にどんなものかは、きいて教えてもらったけど忘れてしまった。例えば運転席のドアの内側の収納スペースのなかの照明……だったかナンだったか。
ナルホドというか、今度のC4ピカソは内外見た目が先代比アッサリ化しているように思える。見える。あるいはフツー化無難化の方向。日本の路上で“ガイシャさ”を発揮しまくりうる物件としては先代C4ピカソ、もっというとその短いほう=5人乗りはかなりのものだった。もちろん、5人乗りの日本仕様はなかったわけだけど。
「日本で売るなら、やっぱりこのテは3列シートじゃないと……」かなんか、ヒョーロンカはいいがちである。得意顔で。♪ホワ~イなぜに? ま、きくまでもないゼはっはっは。
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「変なモノ好き」の御用達は卒業
前世紀、1990年代の終わり頃にフランスの自動車ショーを見にいった。いわゆるパリサロン。もちろんというか、アゴアシつきで。ルノーさん、メルシー。そのとき「あぁーナルホド!!」と思ったことには、街なかを走るルノーのタクシーが。プジョーは「406」でルノーは「ラグナ」……ではなくて、ほとんどどころか全数「セニック」。少なくとも、見かけたのは。当時のセニックは初代だから「メガーヌ セニック」。2列シート。5人乗り。
要は、そういうこと。セニック方式だと、中型セダンよりもググーッと短い――あるいはCセグメントのフツーのハッチバックと同程度の――全長で、荷室もふくめてタクシーに使えるクルマを作ることができる。実に合理的。セニック方式というか、このやりかたの元祖的な提唱者はもちろんジョルジェット・ジュジャーロ(ジウジアーロ、の書き間違いではありません)である。
で、新型C4ピカソ。2列シート5人乗り。運転すると、どうか。まず書くべきこととして、ハンドルやABペダル関係の手応えや足応えに特殊なところがない。それまで日本車や「ゴルフ」しか運転したことがなくてシトロエン(やプジョー)のクルマは初めて……という人でも、これだったらビビッたりマゴついたりする心配はない。スムーズに運転するのに苦労することはない。ということで、ナイス。
あと、先代C4ピカソ3列7人乗りと比べて車体のカッチリ感がずいぶんアップした。内装のキシキシ感が減ったのか。乗り心地やクルマの動きも、まあフツーにピシッと系。このへんのこともふくめて新型、実に万人向け度の高いクルマになった。順当にかつノーマルに、いいクルマ感があるようになった。日本のヘンなモノ好きのココロに(だけ?)ササる度は先代比でひょっとしてダウンしているかもしれないけれど、メデタイ。思わず、ちょっと遠い目。
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「よくできている」というだけではない
エンジン+トランスミッション=パワートレイン。簡単にいうと、チカラがあって運転しやすくて速くてスムーズで静か。要はよくできているのだけど、でも、なんだろう。この感じ。ただよくできているだけではない、ナンかこう、エンターテイナーなキャラが入っている。あるいはエピキュリアン(笑)な。食べ物でいうと、味がいいのにくわえてテクスチャーというか質感が口のなかで楽しい感じ。プニュンと。あるいは、クニュンと。そういうわけでこの1.6直噴ターボ+6AT、ミョーに存在感がある。なにかおかしなことがおきているわけではないのに、ドライバーにとっては気になる。もちろん、いい意味で。
似たようなことは乗り心地に関してもいえる。ただよくできている=快適……なだけではないのがわかりやすいのはハイウェイの速度域(70km/hから上)で、具体的にはフンワリしたアシのストロークが本格的にでるようになる。フンワリ感はあるけれどだらしなくフワつきはしない。ハンパない速度域でも安心感は高……そう。ちゃんと走ってくれそう感アリアリ。街なかだけを走っていると、乗り心地はまあフツーにピシッと系。いまのクルマっぽい。もちろん、そのときもちゃんと快適ではあるけれど。
ただよくできているだけではない、ただ快適なだけではないサムシング。独特の乗りアジ……とでもいえばいいのか。運転手的には、C4ピカソ君にいい思いをさせてもらっちゃっている感じがすごくある。「こんなことしてて俺、バチ当たるんじゃないの?」的な気持ちよさ。ちょっとうしろめたくもあるような。人知れず、なんかエッチなことをしちゃってるような。
長いほうも短いほうもお薦め
細かいことをいうと、ハンドルはオモいかカルいかでいうとカルいほう。特に街なかでは。オッと思ったことに、そのスジでは「N感」と呼ばれる真ん中=直進付近の手応え(というか手応えのなさ)を出そうとしているフシがある。あと、前輪のスリップ角が大きくなってタイヤのコーナリングフォースが強まるのにつれて手応えがビルドアップしていく感じもそこそこに。EPSつまり電動パワステなのでどっちもハッキリとツクリモノっぽくはあるけれど、本来のナマのハンドルの手応えの変化を再現しようとしていると思えるデキで、つまり加点要素。
同じく、ペダル関係。ABペダルの踏み応えはカルい。特にブレーキ。ただし幸いなことに、これはただ踏力(とうりょく)がカルいだけ。薄氷を踏むかのごとき繊細さでコントロールしないとキレイに狙ったとおりの制動Gを出せない、またはそれでもムリ……なタイプではないので、たとえ初見でオッと思ったとしてもすぐ慣れる(はず)。
乗るとわかりやすくちゃんとしてる感があって万人向け度が高くて、と同時にワーゲン車とは明らかにアジが違う。キャラが違う。ということで新型C4ピカソ、いいところにきた。参考までに書くと、新型の長いほうも悪くない。デキの格差はあってもわずかなものだから、予算や用途に応じてよりピッタリなほうを選ぶといいでしょう。でもやはりオススメはこっち、つまり短いほうですけど。
(文=森 慶太/写真=荒川正幸)
テスト車のデータ
シトロエンC4ピカソ エクスクルーシブ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4430×1825×1630mm
ホイールベース:2780mm
車重:1480kg
駆動方式:FF
エンジン:1.6リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:6段AT
最高出力:165ps(121kW)/6000rpm
最大トルク:24.5kgm(240Nm)/1400-3500rpm
タイヤ:(前)205/60R16 92H/(前)205/60R16 92H(ミシュラン・エナジーセイバー)
燃費:15.1km/リッター(JC08モード)
価格:364万1000円/テスト車=388万2164円
オプション装備:ボディーカラー<ルージュ ルビ>(4万3200円)/ETCユニット(1万260円)/ETCユニット用ハーネスキット(864円)/SDメモリーカーナビゲーションユニット(18万6840円)
テスト車の年式:2014年型
テスト開始時の走行距離:2630km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(4)/高速道路(6)/山岳路(0)
テスト距離:215.3km
使用燃料:15.5リッター
参考燃費:13.9km/リッター(満タン法)/13.8km/リッター(車載燃費計計測値)
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森 慶太
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