第299回:「ボルボV40」で八ヶ岳山麓のブドウ畑へ
先進技術が支えるクルマとワインをテイスティング
2015.06.11
エディターから一言
ボルドーやブルゴーニュばかりをありがたがる時代は終わった。日本でも高品質なワインが作られている。古くからブドウの生産が盛んだった山梨県が、日本のワイン作りの先頭に立つ。「ボルボV40」で、初夏のさわやかな風が流れる農園を訪ねた。新たなパワートレインを得たモデルと意欲的な醸造に取り組むワイナリーには、思いがけないつながりがあった。
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安全装備に力を注いだ2015年モデル
ボルボに乗ってワイナリーに行くという。長い間ライターをやっていると、たまにこういう楽しい仕事が舞い込むことがある。しかし、クルマと酒というのはウナギと梅干しのように食い合わせが悪い。飲んだら乗るな、乗るなら飲むなは鉄則である。もちろん、その点ボルボに抜かりはなかった。開催概要には、《各参加メディア様には、1名「ハンドルキーパー」様を必ずご用意ください》とただし書きがある。この記事は、快くハンドルキーパー役を引き受けてくれたカメラマンA氏なしでは成立しなかった。
目的地は、今や日本ワインの聖地ともいうべき存在になった山梨県である。北杜市明野町にあるミサワワイナリーを訪ねるのだ。多くのワインメーカーや観光農園がある勝沼よりもさらに北で、八ヶ岳山麓に位置する。グレイスというブランドで知られる中央葡萄酒は、勝沼とこの明野でブドウを育てている。ここ10年ほどで急激な品質向上を果たした日本ワインを先導する存在だ。
国産ワインと書かなかったことには理由がある。法的には、輸入ブドウ果汁を混ぜて国内で醸造された製品も国産ワインと称することができるのだ。日本のブドウだけを使った純国産ワインを、区別のために日本ワインと呼ぶ取り組みが始まった。高い品質を確保するため、ワイン業界全体で努力を重ねている。
ミサワワイナリーまでは、「V40 T5 R-DESIGN」に試乗する。ボルボの中核を担うモデルV40は、2015年モデルになってさまざまな変更が加えられた。外観はLEDドライビングライトが追加されるなどの小変更にとどまったが、安全装備に力を入れているのがボルボらしいところである。V40だけでなく、ボルボのすべてのモデルに標準化されたのが、「IntelliSafe10(インテリセーフ10)」と名付けられた10種類の運転支援システムだ。ミリ波レーダーとデジタルカメラ、赤外線レーザーにリアビューカメラも加え、クルマのまわりの状況をセンシングしてドライバーをサポートする。
パワーアップと8段ATの恩恵
V40の最上級グレードであるT5 R-DESIGNは、パワートレインも一新されている。エンジンは従来の直列5気筒ターボから新型の直列4気筒直噴ターボに変更された。排気量は同じ2リッターだが、最高出力と最大トルクは大幅に向上している。トランスミッションも6段から8段になり、パドルも装備された。この組み合わせが「Drive-E」と呼ばれ、ボルボの新世代をになうことになる。
パワーアップの恩恵は、走りだしてすぐに感じられる。わずかにアクセルペダルを踏むだけで、レスポンスよくスッと前に出る軽快感がいい。力強さというよりは、軽やかさが勝っている。街なかを流しているだけでも、スポーティーな走りを予感させるのだ。高速道路に入ると、8段ATのメリットを実感した。料金所ダッシュから巡航に移るまで、実に滑らかに加速する。スピードに乗ってしまえば車内の静粛性は高く、追い越しが必要ならばパドルを引いてギアを落とせばいい。
気持ちよく走っていたら、事故渋滞につかまってしまった。完全に停まるでもなく少しずつ進んでいくという、あまり愉快ではない状況だ。こういう時こそ、コンベンショナルなATはいい仕事をする。微低速でもギクシャクしないので、アクセルペダルの操作だけで微妙な速度コントロールができるのだ。渋滞でのストレスが軽減されれば、長距離ドライブでも疲れがたまらない。
渋滞を抜けると、うそのように交通量が減って流れがよくなった。まわりにクルマがいないのを確かめ、インテリセーフ10の機能を試すことにする。少しだけハンドルを切り、車線に近づいてみた。レーンを外れるかと思った瞬間、フッと反発するような力が働き、V40はゆっくりと押し戻された。手には振動が伝わり、メーター内にビジュアルでも警告が発せられる。これがレーン・キーピング・エイド(LKA)で、フロントウィンドウに備えられたデジタルカメラが常に車線を認識してドライバーの運転ミスを監視している。
「XC60」から広まった自動ブレーキ
インテリセーフ10は、ほかにアダプティブ・クルーズ・コントロール(ACC)、レーン・チェンジ・マージ・エイド(LCMA)、ドライバー・アラート・コントロール(DAC)などの機能で構成されている。完全になくすことのできない人間のミスを、クルマがカバーしようという考え方だ。もちろん自動ブレーキも装備されていて、4〜200km/hの広い範囲で作動する。そういえば、日本に自動ブレーキが広まったのは、2009年に「XC60」が搭載した「シティセーフティ」がきっかけだった。
こういった安全テクノロジーが発展していけば、最終的には自動運転が実現するはずだ。10年後には、ハンドルキーパーがいなくても山梨のワイナリーを訪ねていくことができるようになっているのだろうか。妄想しつつも、この運転の楽しさをなくしてしまうのはもったいないと思い直す。
三澤農場は、まわりを山々に囲まれた素晴らしい景観の中にあった。西には南アルプス連峰、北には八ヶ岳があり、雨雲がやってくるのを防いでくれる。年間2620時間という長い日照時間は日本一なのだそうだ。ブドウは豊かな日光を受けてすくすくと成長し、雨量が少ないことで果汁の濃縮が進む。ワイン用のブドウ作りには絶好の地なのである。
2002年から植樹が始まり、現在では12ヘクタールの広大な農園となった。赤ワイン用には、カベルネ・ソーヴィニヨン、メルロ、カベルネ・フラン、プチ・ヴェルドといったボルドー種のブドウが栽培されている。日本の気候では生育が難しいとされていたが、細やかなデータ分析で最適な環境を整える努力が続けられてきた。ブドウ畑には気象センサーと土壌センサーが設置され、天候と土の状態の変化をリアルタイムにモニターしているのだ。
白ワイン用には、ブルゴーニュで用いられるシャルドネと、日本固有種の甲州が育てられていた。訪れたのは5月下旬で、ブドウの実はもちろんなっておらず、慎(つつ)ましやかな花穂が葉の間に顔をのぞかせていた。
ワイナリーでは、三澤茂計社長が自ら案内してくれた。ワインの醸造はブドウを収穫する秋から始まるが、春も暇なわけではない。ワインの熟成には温度管理が重要で、常に環境を一定に保つ必要がある。スパークリングワインはシャンパーニュ式の瓶内2次発酵を採用しており、毎日少しずつ瓶を回転させているのだ。36カ月の手作業の末、ようやく製品として出荷される。
チャレンジ精神が共通するボルボとグレイス
テイスティングは、ワインと地野菜のマリアージュを楽しむという趣向で行われた。まずは、甲州種を用いた白ワイン3種の飲み比べというマニア好みのラインナップが供される。甲州ブドウは1200年ほど前にヨーロッパから伝わったと言われており、今ではすっかり日本の固有種となった。山梨では、明治の初めからこのブドウを使ったワイン作りがスタートした。
甲州にはシャルドネのような華やかさもなければ、ソーヴィニヨン・ブランのフレッシュな切れ味もない。しかし、誰にでも愛される奥ゆかしい可憐(かれん)さがある。自分が前に出るより、まわりを引き立てるのだ。和食に合うといわれるのがよくわかる。用意された3種のワインはどれも味わいが異なり、甲州種が豊かな可能性を秘めていることを示していた。
社長夫人の手による地野菜の料理の中に、見覚えのある形の一品があった。先ほど畑で見たブドウの花穂である。良いブドウを育てるためには花穂を間引く必要があり、それを無駄にしないで胡麻和えに仕立てたのだ。甲州の繊細な味わいに、初夏の香りをたたえた花穂の胡麻和えはみごとに調和した。
赤ワインは、グレイスメルロとフラッグシップワインのキュベ三澤の2本。どちらもボルドーの銘醸ワインに引けをとらない豊かな香りと濃厚な果実味にあふれていた。日本のワインもここまできたかと感心していたら、三澤社長が驚くべきニュースを教えてくれた。あのシャトー・モンペラとコラボする予定があるというのだ。『神の雫』で取り上げられて人気が沸騰したシンデレラワインである。2つのワインをブレンドして、マグナムボトル300本分のコラボワインを作るという。気鋭のワイナリーが国境を越えて協同するというのは、前代未聞の快挙である。
ボルボがグレイスワインと出会ったのは、2013年の東京モーターショーだそうだ。昼食を供する際に、せっかくだから日本のワインを出そうと考え、高品質なグレイスを選んだという。業種こそ違え、先進的な技術にチャレンジする精神が共通すると感じたのかもしれない。
帰路に乗ったのは、「V40クロスカントリー T5 AWD」だった。V40 T5 R-DESIGNと同様の新世代パワートレインを備えたクロスオーバーモデルである。テイスティングしてみたいのはやまやまだが、ワインが全身に回ってしまっていてはかなわない望みだ。後席でゆったりくつろいで帰ることにした。しばし夢見心地になってしまったのは、あまりにも快適な乗り心地だったからなのだろう。
(文=鈴木真人/写真=荒川正幸)
※ 三澤農場に一般の人やクルマが無断で立ち入ることは禁止されています。本記事内のブドウ畑などにおける画像は、すべて中央葡萄酒(株)の許可を得て撮影したものです。

鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。
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