ジャガーXKRクーペ(FR/6AT)【試乗記】
大人の余裕 2011.11.29 試乗記 ジャガーXKRクーペ(FR/6AT)……1586万4000円
フロントマスクを中心にデザインを一新したジャガーの2シータースポーツ「XK」シリーズ。最もスポーティーな「XKRクーペ」でその走りを試した。
良いマイチェン
ジャガーほど大人に似合うクルマをつくるメーカーはない。街中を見回してほしい。フェラーリやポルシェには大人も乗っているが、ジャニタレみたいなのも乗っている。それがジャガーとなると、不思議と大人しか乗っていない。僕調べだと半分くらいの確率で白髪が交じった大人が乗っている。そりゃなかにはナニワ金融道みたいな人も乗っているが、少なくとも皆さん、自分は上品な大人だと信じている人ばかり。そして皆さん似合っていらっしゃる。そんなジャガーの、現状最もスポーティーなモデルである「XKR」に、似合いそうもない僕が試乗した。
現在、ジャガーはセダンの「XJ」「XF」と、スポーツカーの「XK」をラインナップする。どのモデルも共通して自社開発の5リッター直噴V8エンジン(XFには3リッターV6もあり)と、そのエンジンをスーパーチャージャーで過給したモデルを設定する。スーパーチャージドモデルにはその証しとして車名の末尾に「R」が付く。
XKシリーズは2012年モデルで顔つきが変わった。もはや定番マイチェンツールであるLEDがヘッドランプユニットへ埋め込まれたほか、ユニット自体の形状も変わった。顔つきは以前に比べ、若干アグレッシブな印象になったが、先代から引き続き採用された、往年の「Eタイプ」を連想させるオーバル型のフロントグリルは健在。このため、すぐにジャガーのスポーツカーだとわかる。クルマ全体の性能が向上し、今やブランドにとって、識別してもらえることはライバルよりパワフルであること以上に大切と言っても過言ではない。
リアに回ると、立ち気味のスポイラーが目を引く。昔の人は「マイチェンに佳作なし」と言ったが、たまにはこういうヒットもある。
乗り心地は最高、エンジンはもっと最高
乗り込んでスタートボタンを押すと、例のダイヤル式のATドライブセレクターがニョキッと出てくる。操作性が良いわけでも悪いわけでもないが、個性的だ。どうせマニュアル操作にはパドルを使うのだから、セレクターのデザインは遊んでよいのだ。そういえば、かつてのジャガーはATセレクターを「J」の形に動かすようデザインされていたが、あれは機能的でかつ個性的だった。
エンジンを始動させると、抑制されていながらも、低くくぐもった、どう猛さを秘めていることが容易に想像できるアイドリング音が聞こえる。街中を流す限り、XJに劣らぬ快適な乗り心地を保ってくれる。20インチタイヤを見事に履きこなし、ギャップを超えても不快な突き上げは一切感じない。それでいて、コーナーの連続を積極的に飛ばす際には明らかにダンピングが強まり、ドライバーの安心感は高い。面倒な「飛ばす時に押せ」といったスイッチの類いはなく、クルマが挙動をセンシングして猫の目のようにセッティングを変化させる。21世紀の猫足だ。
大人だ、上品だなどと書いたが、このクルマが積むエンジンが最高出力510ps/6000-6500rpm、最大トルク63.7kgm/2000-5500rpmと、とんでもないスペックであることは紛れもない事実で、フル加速させると脳が置いていかれる感覚に陥る。プレミアムスポーツのハイパワー合戦は、エコブームとは異なる時空で相変わらず続いており、ジャガーもライバルとがっぷり四つで組んでいるのだ。今回、燃費は計測できなかったが、このエンジンはパフォーマンスのわりには効率が高いことを、別のクルマ(レンジローバー)で確認済み。とはいえ、リッター当たり「ひと桁の後半」キロにとどまるだろう。燃費に徹した運転をすればもっといくだろうが、きっと誰も踏むのを我慢できない。
ほどほどがいい
ひとつ断っておかねばならないのは、乗り心地がよいからといって、大人3人以上の乗車を試みてはいけないということ。担当編集者を後ろに乗せると「へこんだ座面にお尻が入りきらない!」と叫んでいた。編集者は女性だったので、クルマが悪いのか人間が悪いのか検証するのはやめておいたが、Rに限らずXKシリーズは、車検証上はともかく、実際は大人2人のためのクルマだ。
結局のところ、ジャガーの魅力はなんなのかということを考えると、やり過ぎないことではないだろうか。過ぎたるはなお及ばざるがごとし。ヒストリーを振り返っても価格を考えてもアストン・マーティンほどハイブランド過ぎることはなく、イタリアのライバルほどギラギラし過ぎておらず、ポルシェやフェラーリほどやんちゃなイメージでもない。けれども、プレミアムスポーツに必要な要素は漏らさず備えている。
その高いレベルでのほどほど感が、オーナーを節度ある大人に見せる。1530万円のXKRを買ったうえで「スポーツカーが好きだが、ジャガーくらいにしておいた」「何でも買えるが、ジャガーくらいにしておいた」「去年ヨット買っちゃったから、クルマはジャガーくらいにしておいた」とか言いそう。すてき過ぎる。
ただ、ジャガーも商売だから、スポーティー過ぎる仕様を望む人に対して、「XKR-S」というカッコもパフォーマンスもより過激なモデルを間もなく発売するらしい。うーん、それはそれで楽しみだ。
(文=塩見智/写真=荒川正幸)

塩見 智
-
BYDシールAWD(4WD)【試乗記】 2026.1.17 BYDのBEVサルーン「シール」の機能アップデートモデルが登場。強化のポイント自体はそれほど多くないが、4WDモデルの「シールAWD」は新たに電子制御式の可変ダンパーを装備したというから見逃せない。さまざまなシーンでの乗り心地をチェックした。
-
マツダCX-60 XDドライブエディション ナッパレザーパッケージ(4WD/8AT)【試乗記】 2026.1.14 「マツダCX-60」に新グレードの「XDドライブエディション ナッパレザーパッケージ」が登場。スポーティーさと力強さ、上質さを追求したというその中身を精査するとともに、国内デビューから3年を経た“ラージ商品群第1弾”の成熟度をチェックした。
-
カワサキKLX230シェルパS(6MT)【レビュー】 2026.1.13 その出来には“セロー乗り”も太鼓判!? カワサキのトレイルバイク「KLX230シェルパ」に、ローダウン仕様の「シェルパS」が登場。安心の足つき性で間口を広げた一台だが、実際に走らせてみると、ストリートでも楽しめるオールラウンダーに仕上がっていた。
-
メルセデス・ベンツC220dラグジュアリー(FR/9AT)【試乗記】 2026.1.12 輸入車における定番の人気モデル「メルセデス・ベンツCクラス」。モデルライフ中にも年次改良で進化し続けるこのクルマの、現在の実力はいかほどか? ディーゼルエンジンと充実装備が魅力のグレード「C220dラグジュアリー」で確かめた。
-
日産ルークス ハイウェイスターGターボ プロパイロットエディション(FF/CVT)【試乗記】 2026.1.10 日産の軽スーパーハイトワゴン「ルークス」がフルモデルチェンジ。「見えない危険が……」のテレビCMでお茶の間をにぎわせているが、走る、曲がる、止まるをはじめとしたクルマ全体としての仕上がりはどうか。最上級グレードをテストした。
-
NEW
ベントレー・コンチネンタルGTアズール(4WD/8AT)【試乗記】
2026.1.19試乗記ベントレーのラグジュアリークーペ「コンチネンタルGT」のなかでも、ウェルビーイングにこだわったという「アズール」に試乗。控えめ(?)な680PSのハイブリッドがかなえる走りは、快適で満ち足りていて、ラグジュアリーカーの本分を感じさせるものだった。 -
NEW
第327回:髪もクルマもナイスファイト!
2026.1.19カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。日産の新型「ルークス」で夜の首都高に出撃した。しっかりしたシャシーとターボエンジンのパワフルな走りに感心していると、前方にスーパーカーの姿を発見。今夜の獲物は「フェラーリ・ローマ」だ! -
NEW
日本で売れるクルマはあるのか!? 最新の“アメリカ産ニホンシャ”を清水草一が検証する!
2026.1.19デイリーコラムアメリカからの外圧による制度変更で、北米生産モデルの国内導入を決めたトヨタ。同様に、今後日本での販売が期待できる「海外生産の日本車」には、どんなものがあるだろうか? 清水草一が検証してみた。 -
フェラーリ12チリンドリ(後編)
2026.1.18思考するドライバー 山野哲也の“目”レーシングドライバー山野哲也が「フェラーリ12チリンドリ」に試乗。前編では伝家の宝刀であるV12エンジンを絶賛した山野。後編ではコンビを組むシャシーの印象を余すところなく聞いてみた。 -
BYDシールAWD(4WD)【試乗記】
2026.1.17試乗記BYDのBEVサルーン「シール」の機能アップデートモデルが登場。強化のポイント自体はそれほど多くないが、4WDモデルの「シールAWD」は新たに電子制御式の可変ダンパーを装備したというから見逃せない。さまざまなシーンでの乗り心地をチェックした。 -
新生ノートンがいよいよ始動! 名門の復活を担う次世代モーターサイクルの姿に迫る
2026.1.16デイリーコラム英国のモーターサイクル史にあまたの逸話を残してきた名門、ノートンが、いよいよ再始動! その数奇な歴史を振り返るとともに、ミラノで発表された4台の次世代モデルを通して、彼らが思い描く未来像に迫った。
