BMW 340i(FR/8AT)
迎撃準備完了 2015.08.31 試乗記 マイナーチェンジを受けた「BMW 3シリーズ」。フラッグシップモデルの「335i」がパワーアップと効率改善を果たし、「340i」に進化した。その仕上がりやいかに? 日本での発売に先立ち、オーストリアで試乗した。Dセグメントの定番的存在
大型車なんてとても買えたもんじゃあないけれど、大衆車ではどうにも狭いし走りも物足りないし……という、ちょっといい暮らしを求めはじめたアッパー庶民の心をくすぐったマイカーといえば、隣のクルマが小さく見える合戦を繰り広げた「サニー」や「カローラ」だ。日本市場でもその名を残すカローラは、間もなく50周年を迎える。
同じく戦後急成長を遂げていた敗戦国のドイツはいかようだったのか。大衆車として活躍していたのは「ビートル」ことフォルクスワーゲンの「タイプ1」。大型車として君臨していたのは「ハネベン」ことメルセデス・ベンツの「W111」。そのはざまにあるべきパーソナルカーのカタチがあるだろうと、BMWが新しいクラス=ノイエクラッセとして提案したのが「1500シリーズ」だ。排気量拡大やシャシーのリファインを重ねて1970年代前半まで作り続けられたこのモデルこそ、FRスポーツセダンのオーソリティーという現在のBMWの成り立ちの源流である。そしてこの直接的後継として生まれたのが「3シリーズ」というわけだ。
今年、誕生から40年。その間、「メルセデス・ベンツCクラス」や「アウディA4」といったフォロワーの登場によって形成されたプレミアムDセグメントにおいて、3シリーズは常にリーダーの座を守り続けてきた。すなわちDセグメントにおける「フォルクスワーゲン・ゴルフ」のような存在といっても過言ではないだろう。動的ベンチマークとしては単に同形式の車種のみならず、ミニバンやSUVのエンジニアリングでもしばしば取り上げられる。ともあれBMWにとっての精神的支柱は、「7シリーズ」でも「i8」でもなく、このクルマであることは間違いない。
パワートレインを大刷新
「ライフサイクル・インパルス」の頭文字をとって「LCI」というBMW用語はすなわちビッグマイナーチェンジの意。LCIモデル、俗にいう後期型となった3シリーズの概要は先ごろ日本でも発表された。
後期型の最も大きな変更点といえば、パワートレインの大刷新だろう。最適燃焼のためのシリンダーキャパシティーを気筒あたり500ccに設定するというモジュラーコンセプトの全面採用により、ガソリン仕様のエントリーグレードには1.5リッター3気筒、次いでパワー違いで2種の2リッター4気筒を、そしてトップグレードには3リッター6気筒と、計4種類のエンジンを用意。そして設計の40%、部品の60%をこのガソリンエンジンと共用するディーゼルエンジンも、2リッター4気筒のチューニング違いを4種、3リッター6気筒を2種と、計6種類が用意される。合わせると10種類ものエンジンバリエーションの全ては、最新世代のツインパワーターボテクノロジーで統一されており、専用のエンジンマネジメントが与えられた「320dエフィシエントダイナミクス(ED) エディション」では、空気抵抗低減のための車高ダウンなど徹底的な高効率化を追求。8段ATとの組み合わせで99g/kmと、コンベンショナルなパワートレインのモデルとしてはクラストップの低燃費を実現している。
ただし、日本仕様においては排出ガス規制の違いもあり、この320d EDエディションは導入未定となっている。現状、発売されるモデルは従来と同様の184psを発生する直列4気筒の「320i」を皮切りに、同じく直列4気筒で252psを発生、従来の「328i」の後継となる「330i」、そして新設計の直列6気筒となる「340i」と、ガソリンモデルは3グレードとなる。加えてディーゼルモデルは「320d」を継承。ただし、こちらも新設計の直列4気筒を搭載しており、特に音・振動まわりの大きな洗練が期待できそうだ。
豊かになった低速トルク
生産立ち上がりというタイミングもあり、今回、いち早く試乗がかなったグレードは340iのみだったが、その走りは想像以上に前期型とは印象を違えていた。
新しいストレート6は、326psと従来のユニットよりも20ps高いパワーと、5.1kgm(50Nm)上乗せされた45.9kgm(450Nm)のトルクを発生する。試乗で強く感じられるのは、ピークパワーの向上よりむしろ、歴然と豊かになった低回転域のトルクや、6000rpmオーバーのトップエンドまでストレスなく駆け上がる回転フィールの素直さにある。特に低回転域のトルクはストレート6ならではの滑らかさもあって、1500rpm以下も十分に実用域としている。恐らく日常の燃費にも相応の貢献があるはずだ。そこから上の出力特性は試乗実感としてはひたすらフラットだが、奏でられるサウンドはそれを補う高揚感に満ちている。
同時に新型3シリーズでは、足まわりのセットアップにも細かなチューニングが施された。担当エンジニアに話を聞くと、標準、アダプティブダンパー、Mスポーツのいずれもダンパーはソフト側を重視した設定とし、乗り心地を重視したリファインを加えているという。一方でブッシュ系は若干締めることで中高速域の曖昧な動きを抑え、操舵(そうだ)応答性をよりダイレクト寄りに変更。快適性とスポーティネスのさらなる両立を図ったということだった。
より柔らかく、よりフラットに
アダプティブダンパー付きの試乗車は、ランフラットではなく標準タイヤを装着していたが、そのぶんを差し引いて考えても、新型3シリーズは乗り心地が確かに向上している。復習の意も兼ねて直前に乗っておいた前期型に比べると明らかに路面アタリは柔らかく、特に高架ジョイントのような人工的な段差では鋭い突き上げがかなり軽減されているようだ。加えて前期型は高速や高負荷域で、大きな凹凸を乗り越えると上屋の動きの収まりが悪い、つまりサスの伸び側の収束がいまひとつと感じられたが、新型ではその癖もかなり軽減され、フラットなライド感が際立てられている。
一方、節を固めての操舵応答性の向上は、前期型でも十分にハイゲインかつコントローラブルだったこともあってか、街乗りやワインディングロードを気持ちよく駆ける程度の速度域ではあまり感じられなかった。何にせよ、車格を忘れさせるほどの軽快感は後期型でもしっかり生かされている。そう感じるのは本来ズシッとした手応えをステアリングに伝えるはずのストレート6が、かなり軽くできていることもあってのことだろう。
現行Cクラスの好調なセールスに加えて、先日は満を持してA4のフルモデルチェンジが発表された。再び三たびの戦国時代。が、新型3シリーズ、迎え撃つ準備は万全である。
(文=渡辺敏史/写真=BMW)
テスト車のデータ
BMW 340i
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4633×1811×1429mm
ホイールベース:2810mm
車重:1540/1615kg(DIN/EU)
駆動方式:FR
エンジン:3リッター直6 DOHC 24バルブ ターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:326ps(240kW)/5500-6500rpm
最大トルク:45.9kgm(450Nm)/1380-5000rpm
タイヤ:(前)225/50R17 94W/(後)225/50R17 94W
燃費:6.8~6.5リッター/100km(約14.7~15.4km/リッター、EU複合サイクル)
価格:776万円*/テスト車=--円
オプション装備:--
※数値は欧州仕様のもの。
*=日本での「340iラグジュアリー」と「340i Mスポーツ」の車両本体価格。
テスト車の年式:2015年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター
参考燃費:--km/リッター
拡大 |

渡辺 敏史
自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。
-
スズキeビターラZ(4WD)【試乗記】 2026.3.28 スズキが満を持して世に問うた、初の量販電気自動車(BEV)「eビターラ」。エントリーグレードは400万円以下! 500万円以下で4WDも用意されるというお値打ち価格のBEVは、走らせてみるとどうなのか? 東京-愛知を往復して、その実力を確かめた。
-
スズキGSX-8T(6MT)【レビュー】 2026.3.25 昨今のネオクラシックブームに乗り、いよいよスズキからも新型車「GSX-8T」が登場。しかし実車に触れてみると、既存のライバルとはちょっと趣の異なるマシンとなっていた。スタイリッシュないでたちとスズキらしい実直さが融合した、独創の一台を報告する。
-
日産セレナe-POWERハイウェイスターV(FF)【試乗記】 2026.3.24 販売台数ではトヨタ勢に差をつけられながらも、日産の屋台骨として奮闘する「セレナ」。現行型の登場から3年、マイナーチェンジで磨きがかかった最新の「e-POWERハイウェイスターV」に試乗すると、人の感性に寄り添う開発陣のこだわりと良心が見えてきた。
-
BMW iX M70 xDrive(4WD)【試乗記】 2026.3.23 BMWが擁するSUVタイプの電気自動車「iX」。そのハイパフォーマンスモデルが「iX M70 xDrive」へと進化を遂げた。かつて、BMWの志向する次世代モビリティーの体現者として登場した一台は、今どのようなクルマとなっているのか? その実力に触れた。
-
BMW i5 eDrive35LエクスクルーシブMスポーツ(RWD)【試乗記】 2026.3.21 BMWの「5シリーズ ロング」は知る人ぞ知る(地味な)モデルだが、実はエンジン車のほかに電気自動車(BEV)版の「i5 eDrive35L」も用意されている。まさに隙間産業的にラインナップを補完する、なんともニッチな大型セダンの仕上がりをリポートする。
-
NEW
第332回:クルマ地味自慢
2026.3.30カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。最近、年齢とともに地味なモデルが大好きになった。そんななか、人気の「フォレスター」や「クロストレック」の陰にひっそりと隠れたスバルを代表する地味モデル「インプレッサ」に試乗。果たしてその印象は? -
NEW
レクサスGX550“オーバートレイル+”(4WD/10AT)【試乗記】
2026.3.30試乗記スタッドレスタイヤ装着の「レクサスGX」でウインタードライブへ。クルマ好きにとってはいかにも胸がふくらむシチュエーションだが、刻一刻と変化する自然環境が相手ゆえに、なかなか一筋縄ではいかないものだ。山に分け入る際には引き返す覚悟もお忘れなく。 -
NEW
欧州メーカーもホンダも大損 EV政策はなぜ急加速から“大コケ”に至ったか?
2026.3.30デイリーコラム主要な自動車メーカーが、EV政策の見直しにより、2025年12月期または2026年3月期の決算で莫大(ばくだい)な損失を計上した。なぜEV開発はかくも急速に進められ、急減速に至ったのか。清水草一は、その理由についてこう考える。 -
トヨタGRヤリスRZ“ハイパフォーマンス” +エアロパフォーマンスパッケージ(後編)
2026.3.29ミスター・スバル 辰己英治の目利きモータースポーツへの投入を目的に開発され、今も進化が続いている「トヨタGRヤリス」。そんな“戦うためのコンパクトスポーツ”は、ミスター・スバルこと辰己英治の目にどう映るのか? STIのコンプリートカーにも通じるという、そのつくり込みに迫る。 -
スズキeビターラZ(4WD)【試乗記】
2026.3.28試乗記スズキが満を持して世に問うた、初の量販電気自動車(BEV)「eビターラ」。エントリーグレードは400万円以下! 500万円以下で4WDも用意されるというお値打ち価格のBEVは、走らせてみるとどうなのか? 東京-愛知を往復して、その実力を確かめた。 -
東京モーターサイクルショー2026(インディアンモーターサイクル)
2026.3.27画像・写真きらびやかな創業125周年記念モデルに加え、貴重な1948年製「チーフ」の姿も。東京モーターサイクルショーの会場より、現存するアメリカ最古のバイクメーカー/ブランド、インディアンモーターサイクルの展示を写真で紹介する。




































