プジョー308シエロ(FF/6AT)
非凡なる平凡 2015.09.25 試乗記 Cセグメントを「フォルクスワーゲン・ゴルフ」の独壇場だと思ってはいないだろうか。決して侮れない実力の持ち主がフランスにいることを忘れてはいけない。「プジョー308」の最上級グレード「シエロ」に試乗し、その実用度をチェックした。【総評】飽きずに長く付き合えそう……★★★★★<5>
取り立てて派手にアピールするような部分には乏しいけれども、実用車らしく基本ポイントをしっかりと押さえた造りや、設定の確かさが魅力。旧型より外寸を小さく(長さ-55mm、幅-15mm、高さ-45mm)、軽く(-70kg)した見識はさすがプジョー。飽きずに長く付き合えるクルマである。次のクルマが見当たらず、古い「306」を大事にしているプジョーファンもそろそろ乗り換えるタイミングにあると思うが、現行型の308に試乗してみることをお勧めする。
項目別の評点は必ずしも満点ではなく、重箱の隅をつつけば細かな欠点も指摘できるが、乗り終わったあとにクルマの全体像を振り返ってみれば「いいクルマだなー……」という感想に尽きる。項目別の評価を集計した点数が必ずしも総合評価につながるとは限らないだろうし、項目ごとの配点だってすべてが「均等」ではないはずだ。それで総合点では★を5つとした。
また、今回テストしたのはAT車だったが、現地仕様にはMT車があることを考えてしまうと、左ハンドルのMT車(日本の現ラインナップには存在しないから並行モノを選ぶしかない)が個人的には欲しくなってしまった。
世界規模で見ればフォルクスワーゲン・ゴルフの人気は高いけれども、ゴルフに似せないクルマを作っているところがフランス人の意地であり、コチラに共感する人々もまたそれなりに多いということだろう。308はプジョーの中でも看板の主力車種であり、内容的にも中庸を得た使いやすさがある。日本でもっと売れていいクルマだと思う。
<編集部注>各項目の採点は5点(★★★★★)が満点です。
【概要】どんなクルマ?
(シリーズ概要)
2013年9月のフランクフルトショーでワールドデビュー。日本ではその1年後の2014年9月にハッチバックとワゴン(SW)が同時に発表された(販売開始は同年11月)。車名の308は旧型から引き継いだもの。プジョーの命名法に従えば「309」となったはずだが、プジョー309(1985~1993)はすでに存在しており、308が継続使用された。なお、新興国マーケット向けの車両に関しては“ふりだし”に戻して「301」と命名された。
EMP2と呼ばれるC/Dセグメント用の、新開発(当時)のモジュラープラットフォームが使用されており、ボディーの小型化と車重の軽量化が図られている。また、ガソリン仕様のベースエンジンを1.2リッターの直列3気筒としたり、「i-Cockpit(アイ・コックピット)」と呼ばれる新奇な運転席デザインを採用したり、外装デザインをそれまでの路線から一転してオーソドックスなものに改めたりと、総じて「プジョーの新時代」を印象づける力の入った内容となっている。
(グレード概要)
日本市場では、ハッチバックモデルはベーシックな「プレミアム」(284万6000円)、装備が充実した「アリュール」(310万1000円)、スポーティーさを押し出した「GTライン」(314万円)、最上級グレードの「シエロ」(345万8000円。今回のテスト車)という4グレード構成がとられる。
また、日本で用意されるエンジンは、130psの1.2リッター直3ガソリンターボのみ。欧州では1.2リッター直3の低出力版(82ps)や1.6リッター直4(125psと156ps)が存在するほか、ディーゼルも1.6リッターと2リッター(ともに直4)がそろうなど、エンジンラインナップの幅広さがひとつの売りになっている。トランスミッションも日本は6ATのみだが、現地ではモデルに応じて5MT、6MT、6ATが設定されている。
なお、欧州では2015年6月に高性能仕様の「GTi」が発表された。1.6リッター直4ターボエンジンを搭載し、最高出力は250psと270psの2種類のチューンがある。
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【車内&荷室空間】乗ってみると?
(インパネ+装備)……★★★★☆<4>
メーター類の配置は「208」で採用されたステアリングホイールの上から見るタイプを採用。左右に振り分けられた速度計とエンジン回転計はそれぞれ外側から内側へ向けて針が動く。それゆえ針の動きは追いやすいが、これは左ハンドル向けと思われ、回転計を注視する人はいつも右端を向いていることになり、やや不便。もし左右を入れ替えるとすれば回転方向も変えねばならず、専用品が必要となる。左ハンドル仕様をそのまま右ハンドル仕様に流用してしまったワイパーの過去の例とは異なる。デザイナーの独善を許すか我慢するか、論議は分かれる。もっとも、パッと見た場合のインテリアデザインとしては新鮮な感じも受ける。
(前席)……★★★★☆<4>
シートのサイズや形状は概して良好。しかし、座面後端や背面下端の処理が独特で、見た目にはきれいだが、腰がぴったり後ろに収まりにくい。また、フロントスクリーンの傾斜が強いため、前からの光でダッシュボードが映り込んでしまい、前方が見にくい状況あり。サイドミラーは見やすく、サイドウィンドウ前方の処理は秀逸。パノラミックガラスルーフは開放感抜群。開かないのは残念だが、開口部の絶対的な広さやスライド機構によって天井が厚くなり、室内高が制限されてしまうことに比べれば、固定式のメリットもある。シェードを閉めてエアコンを利かせると、ルーフを開けて風を入れるよりも快適な場合もある。ドアハンドルの位置や閉める時の引き具合も問題なし。ドアポケットにはドリンクボトルが入る大きさあり。
(後席)……★★★★☆<4>
ヘッドクリアランスを含めて空間的な余裕は大きい。後席に大人3人掛けも可能。ひざ前の空間も前席シートバックのえぐりが効いて余裕あり。畳めるタイプのシートにしてはクッションの厚みも十分にあって、やや高めに座る目線により、前方の眺めも良好。ひざ下の寸法も高いほうで、足を広げて座る感じは少ないだろう。センタートンネルもFFゆえに低めで、真ん中に座ってもFR車ほど窮屈ではない。だが、センターコンソールの後端は邪魔。つま先は前席の下に入る余裕あり。背面は比較的平板であるが、クッションが沈み込むおかげで、旋回時に発生する横方向のGにも耐えられる。ヘッドレストは引き上げにくい。
(荷室)……★★★★☆<4>
トノカバーの位置は高く、十分に大きな容積が確保されている。フロアは低く、リッドの敷居は段差となっているおかげで、不用意に開けても中から荷物が転げ落ちる心配は少ない。スペアタイヤをもたず、パンク修理材とエアーポンプで済ます例が増えるなかで、プジョーは相変わらず交換タイヤを備えている。ユーザーにとってはありがたい親切な設定。今は保険会社へ電話一本でレッカー移動してもらえる時代ながら、いろいろな状況があり、積んであるだけでも安心材料となる。
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【ドライブフィール】運転すると?
(エンジン+トランスミッション)……★★★★☆<4>
1.2リッターエンジンは130psあって、1320kgのボディーを軽々と運ぶ。以前の4気筒もスムーズに回る点では文句なかったが、没個性的な点でプジョーファンには不評だった。新エンジンは自社開発となり、小排気量化するにあたり1シリンダーあたりの排気量を小さくせず、ドンと勢いよくレスポンスするところが個性的。3気筒であることをあらかじめ知らされていなければ振動面からはわからない。十分滑らか。注意深く観察すると音が4気筒と違うかなーという程度。6ATのシフトパドルはチルトコラムと一体に動き、ステアリングから手を離さずに指先で操作可能。6段は自分の「意識管理の範囲」にあり、エンジンブレーキ時に効果的な落差を提供する。
(乗り心地+ハンドリング)……★★★★★<5>
乗り心地をはじめとする走行感覚の点で、現在のラインナップ中、最もプジョーらしい乗り味が得られる。ボディーはフラットに、路面に対しておおむね平行に移動し、アシの動きはしなやかに路面の凸凹に追従する。直進性に優れ、ピッと切れる応答の良さもプジョー伝統の操舵(そうだ)特性。無用に過敏なだけがスポーティーとはいえず、ドライバーの意識に感応する動きが大切。この自然さがプジョーの伝統。コーナーでは内輪、外輪それぞれにかかる荷重に対して、それなりの移動分があり、ロールもそれに従って発生する。この内輪が浮かない感覚こそ、両輪が接地している実感につながる。バネ系を固めてロールを抑えてしまうチューンもあるが、タイヤグリップの限界が唐突に訪れる例もあり、滑り出し付近が曖昧になることもある。前後輪の関係についてはアンダーステア/オーバーステアのステア特性に関わってくるが、プジョーのニュートラル特性は伝統的なもので、自分が旋回中心近くにいる感覚は独特な安心感をもたらす。ただタイヤグリップに頼るだけでなく、前後左右輪が微妙に動きながら旋回作業に加担し、それをステアリングに伝えてくるところがプジョーの味。
(燃費)……★★★★☆<4>
小排気量エンジンによる省燃費感覚は十分に感じられる。箱根のターンパイクなどの長い登り坂でエンジンを回して使った場合には2桁を割るけれども、普段は12~14km/リッターは保ち、状況によっては17~18km/リッターというドライブコンピューター表示を確認した。都内から箱根・伊豆を往復した実用燃費(満タン法計測)は12.6km/リッターだった。燃料タンク容量は52リッターであり、満タンで走れる航続距離は計算上600km以上と十分に長い。
(文=笹目二朗/写真=小林俊樹)
テスト車のデータ
プジョー308シエロ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4260×1805×1470mm
ホイールベース:2620mm
車重:1320kg
駆動方式:FF
エンジン:1.2リッター直3 DOHC 12バルブ ターボ
トランスミッション:6段AT
最高出力:130ps(96kW)/5500rpm
最大トルク:23.5kgm(230Nm)/1750rpm
タイヤ:(前)225/45R17 91V/(後)225/45R17 91V(グッドイヤー・エフィシエントグリップ)
燃費:16.1km/リッター(JC08モード)
価格:345万8000円/テスト車=373万2860円
オプション装備:ボディーカラー<パール・ホワイト>(8万1000円) ※以下、販売店装着オプション 308タッチスクリーンナビゲーション(18万3600円)/ETC車載器(1万260円)
テスト車の年式:2015年型
テスト開始時の走行距離:3723km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(7)/山岳路(2)
テスト距離:212.8km
使用燃料:16.9リッター
参考燃費:12.6km/リッター(満タン法)/13.1km/リッター(車載燃費計計測値)

笹目 二朗
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