第439回:熱烈ファンも健在! “不死身のライオン”プジョーのいま
2016.03.04 マッキナ あらモーダ!PSAプジョー・シトロエン、急回復!
PSAプジョー・シトロエン(以下PSA)のカルロス・タバレスCEOは2016年2月24日、「フランス国内の全従業員に約2000ユーロ(約25万円)のボーナスを支給する」と明言した。
同社が2015年に12億ユーロ(約1524億円)の純利益を確保したのを、社員に還元するものだ。参考までに記すと、前年である2014年は5億5500万ユーロ(約704億円)の赤字を計上していた。黒字転換は5年ぶりで、リーマンショック以来続いた長い経営不振のトンネルに、ようやく出口が見えてきたかたちだ。
フランスの公営テレビ局のニュース『TV5モンド』は、背景として、パリ郊外オールネイ・スー・ボワの工場の閉鎖、2014年2月に決定した東風汽車によるPSAへの増資、そして2014年春、ルノーのCOOからPSAのCEOに就任したタバレス社長による「バック・イン・ザ・レース」と名付けられた経営改革が実を結んできたことを挙げている。
製品では「プジョー308」の好調、収益率の高いプレミアムブランドであるDSシリーズが軌道に乗りつつあることが、功を奏しているという。
街でも見られる“PSAのいま”
このPSAの復活劇、人員削減に反対する従業員がオフィスのパソコンを机から落として壊す風景が伝えられたかつてを思えば、うそのようである。
パリの街を見渡せば、PSAはグランダルメ通りのプジョー・パリ本社を2012年に売却しているし、1928年まで歴史をさかのぼれるシャンゼリゼのショールーム「C42」も、2013年にカタール資本の手に渡った。いずれも現在は、テナントとして継続使用している。
国内ディーラー網も、かなり整理されている。先日セーヌ左岸にあった市内屈指の古いショールームの前を通ると、「移転統合しました」の張り紙だけを残し、もぬけの殻となっていた。
一方で「攻め」の姿勢も見られる。新興市場中国とは対照的に「投資対効果がなかなか見込めない」として展開をためらっていた、欧州におけるDSブランド専売店も、ここにきてようやく変化の兆しが見えてきた。
筆者が住むイタリアでも、昨2015年6月のミラノに続き、2016年2月には首都ローマに2店目の「DSストア」がオープンした。
あとは、ライバルであるルノー日産グループのダチアのような廉価ブランドをPSAが用意するのか否か、お手並み拝見といきたい。
ヒストリックカーショーの中で
話は変わって、2016年2月3日から7日にかけて開催されたパリのヒストリックカーショー「レトロモビル」には、今年もプジョー、シトロエン両ブランドの熱いファンたちが多数参加した。
本エッセイでは、たびたびシトロエンのファンミーティングの様子をお伝えしてきたので、今回はプジョーの愛好者にスポットを当ててみよう。
前身である粉ひき工場を含めれば、16世紀にまで歴史をさかのぼるプジョーだけに(?)、戦前のモデルや、途中からグループに加わったシムカといった、多様なブランドの愛好会が軒を連ねる。
ボクの世代のモデルとしては、近年、「205」のクラブが元気だ。今回は、かの有名なテニス全仏オープンにあやかった「ローラン・ギャロス」仕様を展示していた。
しかし欲をいえば、個人的にはもう少し渋いモデルが好みである。ボクがここ数年顔を出しているのは「604クラブ」のスタンドだ。
「604」は、1975年から85年まで10年にわたりプジョーのフラッグシップとしてカタログに載り続けたピニンファリーナ・デザインのベルリーヌだ。当時日本でも西武自動車が輸入していて、自動車誌『CAR GRAPHIC』の表紙をめくると広告がたびたび掲載されていたので、ご記憶の方もいらっしゃるだろう。
ライオンは死なず
「クラブ・アンテルナショナル604」の名物役員でブルターニュ支部長のジャン-クロード・ドボリュー氏は「604は、かつてプジョーの故郷ソショー工場で作られたトップモデル。ジスカール・デスタン、ミッテランといった大統領が専用車として愛用したモデルなのです」と熱く語る。
ちなみに、プジョー製とは別に、ボディー製造業者のアンリ・シャプロンの手になるランドーレットや、ユリエーズ製のリムジンといった特装車両も存在した。旧東ドイツのホーネッカー国家評議会議長も、公用車として用いていた。
ミートショップを経営するドボリュー夫妻は、なんと604ばかり11台を所有しているという、つわものである。
今日欧州の中古車検索サイトをのぞいてみると、604の相場は、部品取り用が1200ユーロ(約15万円)、“それなりの状態のもの”が6000ユーロ(約76万円)といったところだ。
彼ら愛好家によると、604中古車探しの第一原則は「さびのないクルマ」を選ぶことだという。補修費用が意外に高額なためらしい。「エンジンは6気筒のインジェクションモデルが、走りを楽しめるという観点から最良」と薦める。
気になるパーツの供給体制は、クラブ内での情報交換に加え、プジョーの一部門「アヴァンチュール・プジョー」の努力もあって、安心できるという。とかくヒストリックカー向けサポートサービスというと、ドイツブランドの完璧なオーガナイズばかりが話題になるが、プジョーもそれなりにしっかりとやっているのは、ボク自身、同ブランドの博物館があるソショーに何度か訪れて確認している。
パリ在住のボクの知人は、PSAに東風の資本が入った当時、「もはやフランスは中国の一州さ」とブラックジョークを口にしていたものだ。
しかし、こうした熱烈ファンがいるかぎり、そして地道にサポートする部門があるかぎり、フランスを代表するライオンは不死身なのである。
(文=大矢アキオ<Akio Lorenzo OYA>/写真=PSAプジョー・シトロエン、Patrick Bertoni、大矢アキオ<Akio Lorenzo OYA>)

大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、25年間にわたってリポーターを務めあげる。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
-
第964回:フィアットグッズのコレクターから学ぶ人生訓 2026.6.4 イタリア在住の大矢アキオが、トリノで著名なフィアットグッズのコレクターを取材。若き日の苦労を経て大成した人物が語る、人生で大切なものとは? フィアットやイタリアの歴史を物語る、貴重なコレクションの数々とともに紹介する。
-
第963回:ベスパで家族円満! ローカルイベントをのぞいてみた 2026.5.28 2026年は「ベスパ」の誕生80周年! 地元イタリアでは、各地で記念イベントが催されている。そのひとつである「キャンティ&ヴェルナッチャ100km」を、現地在住の大矢アキオがリポート。イタリアならでは、ベスパならではのファンの交流に触れた。
-
第962回:路上の伏魔殿? イタリア式パーキングチケット発給機のワナ 2026.5.21 ちょっとした駐車に便利な路上パーキング。イタリアでも広範に採用されており、アプリ決済も可能となるなどシステムも進化しているのだが……。イタリア在住の大矢アキオが、かの地のパーキングチケット事情と、日々の移動に潜むささやかなワナ(?)を語る。
-
第961回:海賊エンツォ・フェラーリ 敵に取り囲まれる 2026.5.14 F1における、フェラーリとイギリスのコンストラクターの戦いにフォーカス。「トリノ自動車博物館」でスタートした企画展「ドレイクの敵たち—エンツォ・フェラーリと英国のチーム」を、イタリア在住のコラムニスト、大矢アキオがリポートする。
-
第960回:レクサスは欧州人のマナーを変えた? 「ミラノ・デザインウイーク2026」の自動車ブランド出展から 2026.5.7 イタリア・ミラノで世界的なデザインの祭典「デザインウイーク」が開催された。アウディ、レクサス、ルノー、イタルデザイン……と、自動車関連の出展も数多く見られた会場の様子を、伊在住の大矢アキオがリポート。今回はどんな展示が注目を集めていたのか?
-
NEW
あの多田哲哉の自動車放談――三菱デリカミニTプレミアム DELIMARUパッケージ編
2026.6.5webCG Movies三菱の軽スーパーハイトワゴン「デリカミニ」が多くの人に支持される理由は、個性的なルックスだけなのか? トヨタでさまざまなクルマを開発してきた多田哲哉さんが、人気の秘密に迫る。 -
NEW
ホンダ・インサイト(FWD)【試乗記】
2026.6.5試乗記「ホンダ・インサイト」が電気自動車(BEV)として復活! ……というよりは中国工場製BEVにその名が与えられて日本にやってきた。さまざまな事情により、国内で販売されるのはわずか3000台のみ。日本人は“限定”に弱いとされるが、果たしてこの場合はどうか。 -
NEW
KTM 990 RC R(6MT)
2026.6.5JAIA輸入二輪車試乗会2026今年も開催された「JAIA輸入二輪車試乗会」より、魅惑のバイクを一挙紹介! 先陣を切るのは、この4月に発売されたばかりの「KTM 990 RC R」だ。オーストリアの雄が放つ最新鋭のスーパースポーツは、意外や“速さ”以外にも見どころの多い一台だった。 -
NEW
空冷の「スポーツスター」が復活!? ハーレーダビッドソンの定番商品はどんなバイクとなるのか
2026.6.5デイリーコラムハーレーダビッドソンが、一度は廃止した空冷の「スポーツスター」の復活を発表! 伝統の一台はなぜ絶版の憂き目にあい、そしてよみがえることとなったのか? ファンに愛される定番車種を刷新する難しさと、新型に課せられた使命、そして課題を考察した。 -
第290回:商用バンで砂漠を行く親子が向かうのは天国か地獄か 『シラート』
2026.6.4読んでますカー、観てますカー失踪した娘を探して親子はモロッコの砂漠へ。砂漠で開催されていたレイブパーティーが最高潮に達した頃、軍隊がやってきて中止させられる。親子が乗るFFの商用バンは次のパーティー会場にたどり着けるのか……。 -
ホンダCR-V e:HEV RSブラックエディション(前編)
2026.6.4あの多田哲哉の自動車放談ひさびさに日本市場に戻ってきた、ホンダを代表するSUV「CR-V」。最新世代の仕上がりを、トヨタの車両開発者だった多田哲哉さんはどう評価する? まずは、ワインディングロードを走らせた第一印象から。