第343回:「人馬一体」どこまでも
マツダの新技術「Gベクタリング・コントロール」を試す
2016.05.11
エディターから一言
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マツダの「人馬一体」思想がさらに進化する。エンジンのトルクを制御することによって車両の挙動をコントロールし、応答性や安定性を向上させる「Gベクタリング・コントロール(GVC)」とは一体どんな技術なのか? そして実際のところ、その効果はどれほどのものなのか? テストコースで行われた試乗会の模様をリポートする。
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コッテリとした試乗会
マツダの試乗会はくたびれる。こう言うと語弊があるかもしれないが、他の国内メーカーの最近の試乗会に比べると、やはりマツダのそれはみっちりと中身が詰まった“濃い”試乗会である。熱心なエンジニア諸氏が手ぐすね引いて待ち構えているから、参加するこちらもまったく気を抜けず、みっちり勉強しなければならないという覚悟が要るのだ。
近ごろはパワーポイント作成資料を映しながらサラリと技術説明に触れただけで済ませる、何と言うか軽めの試乗会も少なくないが、それだと突っ込んだ話が聞けない食い足りなさが残る。その点、マツダの試乗会のほとんどは噛(か)み応えたっぷり、ささいな質問にも「待ってました!」とばかりに開発陣が殺到(ちょっと大げさ)する合宿塾的熱気がこもっている。自分たちの開発した製品を理解してほしい、いやさきちんと分かるまでは帰しませんよ、という熱意の表れだろう。まるで“人馬一体道場”での修行みたい、といったら怒られるかもしれないが、それに対する構えがこちらにもあれば、まさしく望むところである。
先日、栃木県内のテストコースで行われた試乗会(「スカイアクティブ・ビークル・ダイナミクス」技術説明会)もそんな濃厚味で、そのうえどうやったら理解してもらえるか、試乗方法などにも苦心した様子がうかがえるものだった。何しろ、この新技術、G-ベクタリング・コントロールはパッと目を引くものではない。走りだした瞬間に違いが歴然、といった種類の技術でもなかったからだ。こういう地味な技術に人手と時間を割くのは容易なことではない。最終的に商品に落とし込んだ時どれだけの効果があるのか、それで顧客が金を払ってくれるのか、最後にはどれだけ売り上げが上がるのだ、と口を挟むエライ人が必ず出てくるからだ。ユーザーメリットを考えるのは当然ながら、一見目立たない基礎技術は後回しにされてしまうことが珍しくない昨今、そこでくじけないのはブレない信念があるからだろう。それが「人馬一体」である。
荷重移動による安定性向上
Gベクタリング・コントロールは、新世代車両運動制御技術の総称「スカイアクティブ・ビークル・ダイナミクス」の第1弾で、エンジンを活用したシャシー性能向上技術だという。簡単に説明すればステアリング操作を検知して、スロットルを微妙に絞ることによって減速Gを生み出し、前輪の接地荷重を増やすというものだ。それって当たり前の操作じゃないの? と言う人もいるだろう。確かにコーナリングの際の減速、操舵(そうだ)、加速という操作の流れはドライバーが日常的に、半ば無意識に行っていることだが、それを瞬時に緻密に制御するのがこの技術の核心だ。
実際、トルクの抑制はごくわずかであり、一定速で注意して運転していてもスロットルが絞られたことは体感できないし、もちろんタコメーターにも表れない。それほど微小なトルク減少であるから、当然発生する減速Gも0.01Gから最大でも0.05Gというぐらい微小なものだが、それでも前輪荷重を増やし、タイヤにより仕事をさせることにつながるという。ちなみに0.05Gでもエアコンのコンプレッサーが作動した時より格段に小さいらしく、それ以上になるとドライバーに違和感を与えるのだという。狙いはあくまで接地荷重を最適化することで前後・左右のGのつながりを滑らかにすること。上手なドライバーほど同乗者に不快なGを感じさせずに滑らかに走るものだが、そのために邪魔にならない範囲で車が手助けするというわけだ。
コロンブスの卵?
今では「トルク・ベクタリング・コントロール」と称するコーナリング制御技術は他のメーカーの車にも多数搭載されているが、これらは特定のホイールに駆動力あるいは制動力の差を発生させることによって旋回する力(ヨーモーメント)を生み出すものだ。つまり左右輪間の制御だが、それに対してマツダのGVCは前後Gを制御する点でその種のものとは異なる。また後から加えた機器はなく、新しいのはECUのプログラムだけと言ってもいい。したがって基本的に駆動方式にかかわらずどんな車種にも搭載することが可能であり、また日常域から限界付近まで広い範囲で効果を発揮するという。
実はもともとこの技術は神奈川工科大学との共同研究から生まれたものだという。神奈川工大が腕利きのドライバーの運転操作を解析する研究の中で、前後Gと左右の横加加速度(横Gの変移)に比例関係があることを見いだしたことがきっかけで、そこから制御ロジックを導き出したのだという。いわば逆転の発想、あるいはコロンブスの卵のような発見と言えるかもしれない。
確かに違う
そんなわずかなトルク制御で効果があるのか、と疑問を抱く向きもあるだろう。正直言えば私自身も半信半疑で走りだしたが、同乗のエンジニア氏の言葉通りに走ると確かに違うと認めざるを得ない。試乗車は現行モデルの「アクセラ」や「アテンザ」にシステムを装着し、コンソールのスイッチでオン・オフ可能として、その違いを明確に体感させようという特別仕立てである。そうやって直接比較しなければ、すぐに慣れてしまうほどの違いではあるが、システムオンで接地感が増し、ステアリングホイールの手応えに正確さが増すのは明らかだ。コーナリング時よりもはっきりとそのメリットを感じるのは直進時、およびそこからの車線変更である。現実の路面はたとえ平たんに見えても細かな不整があり、それに対してほぼ無意識に修正舵(だ)を当てて走っているものだが、GVCを作動させるとそれが減少し、また緊急回避レーンチェンジでも余計に切り込まなくて済むので切り戻しも減る。それは走行中に記録した操舵データを見ても明らかだった。結果的に横揺れが少ない、安定した走行となり、疲れないというわけだ。恐らく雪道やわだち路面などでは大いに効果があるはずだ。
エンジニア氏が苦笑いしながら言ったように、確かに地味な技術である。外から見ても分からず、パワーが倍増するようなシステムでもないのだから当然だが、このような、目立たないけれど役に立つ技術こそが“人馬一体流”を究める確かな足腰になるのは疑いない。だいたいマツダでなければ、このような試乗会の開催に踏み切るかどうかも疑問だ。マツダの試乗会はくたびれる。けれど、それはみっちり勉強をやり遂げた時のように心地よく、充実した疲労感なのである。
(文=高平高輝/写真=小林俊樹)

高平 高輝
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