ルノー・トゥインゴ インテンス(RR/6AT)/スマート・フォーフォー ターボ(RR/6AT)(前編)
お国柄は隠せない 2016.10.10 試乗記 「ルノー・トゥインゴ」と「スマート・フォーフォー」、もともとは国籍もメーカーも違うコンパクトカーだが、この新型から基本構造を共有する“兄弟車”になったのはご承知のとおりである。そこで今回は試乗記の趣向を変え、トゥインゴとフォーフォーに登場願った。前編では主にトゥインゴにスポットライトを当て、その実力を浮き彫りにする。ノーズの軽さが新鮮
トゥインゴは久々に登場した見て楽しく乗って面白い種類の車だ。フランス製の小型車は「シトロエン2CV」や「ルノー4(キャトル)」を引き合いに出すまでもなく個性的で魅力的な車が多い。新しいトゥインゴもまたそんなフランス製小型車の香りを惜しみなく発散している。かわいらしい雰囲気に負けると欲しくなってしまうから個人的には我慢我慢。エンジンや駆動系、ボディー骨格などをスマート・フォーフォーと共用する成り立ちを持つものの、そこはドイツとフランスの味付けの違いが色濃く出ている。この2台の比較は後編でお届けするとして、まずはトゥインゴ単体でのインプレッションから始めよう。
トゥインゴは外観のサイズから受ける印象よりも、中に入ってシートに座った方が広々と感じる。それは爪先にエンジンや駆動関連の張り出しがなくて、フロア形状にも足元の空間的にも余裕があるからかもしれない。
リアエンジンゆえのノーズの軽さ、回頭性の良さは言うまでもなく、スッと鼻先が動き出すときの軽快さは長らくご無沙汰していた感覚だナーと懐かしく思う。これは単にギア比を小さくしたり、操舵力を軽めにアシストして作り出したものとは根本的に異なる。小型車は特に前輪駆動車が主流になってしまい、駆動輪であり同時に操舵輪でもある前輪に荷重がしっかり掛かっていて、パワーステアリングの恩恵もあって軽く向きを変えてくれることに慣らされてしまった。エンジンが前軸の前にオーバーハングしていても、今ではそれが気にならないほどにチューニングも進んでいる。しかしながら、前半部重量マスの大きさまで完全に消し去ることはできない。それは操舵に対する遅れとなって感じる。
前輪荷重400kg台の軽さを久しぶりに実感すると、ああ昔はこうだったよナー……と思い出す。今では太くてグリップのいいタイヤ装着車がちまたにあふれ、操舵レスポンス自体に不満を感じる例はまれになってしまったけれども、切り始めにスッと動き出す感覚はヨーレスポンスというよりも、横Gが発生する強引さにごまかされてしまうような気もする。たとえ操舵角に対するゲインは大きくとも、その遅れは操舵感を紛らわすことにはならない。
最近はエアバッグの重さやセンターパッド上のスイッチ類、そしてハンドル自体の太いグリップなどにより、ホイール全体の慣性モーメントも大きく、手応えとして鈍なものが一般化されてしまっているので、この遅れ感覚もまた看過されてしまう傾向にある。そんな時代ゆえに、なおさらこのノーズの軽い感覚は新鮮であり、イイナー……と思えてしまう。
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コーナリングが楽しい
リアエンジンだからといって、オーバーステア感覚は今や皆無。むしろリアの大きな駆動輪荷重にターボパワーが加わると、プッシュアンダー気味に押し出されてノーズの軌跡が膨らむ。それを抑えるというか無用に膨らませないために制動力を残して、前輪の接地力を保持させつつコーナーを曲がるという操作が有効となる。これもまた古典的な操縦法として楽しめる。
意識してコーナーを攻めないときでもそうすると曲がりやすいし、繊細な感覚が味わえてタイヤグリップの何たるかをあらためて思い知る。普段タイヤ性能に頼ってグイッと曲がってしまうことが日常化しているから、ずぼらな操舵でも最近は事足りるけれども、このトゥインゴに乗るとそんな微細なことを観察するのも楽しい。
もっとも、この程度のアンダーステアならば少し操舵角を切り増す程度でも事足りる。これらアクセルの軽いオンオフによるわずかな接地面変化もまた、操舵と連携づける楽しさは常時体感できる。
繊細なステアリングフィール
自動車の電動化が進み、自動運転すら当たり前になりつつある時代にあって、単なる移動手段としてしかクルマを見ていない人たちにとっては、どうでもいいことだし、煩わしいだけかもしれないが、繊細な感覚を持つ手のひらに伝わる極微の信号を大切にしてきたわれわれ世代のドライバーにとって、操舵フィールは自動車を操縦する楽しみの最上位にある。それがトゥインゴでは日常的に簡単にかなえられるのだ。
全長に対するホイールベースの長さが安心感を与えてくれるところもある。下り坂のコーナリングでもテールヘビーな重量配分によりスピンアウトする気配はない。タイヤは四隅にあって確実に支えてくれている。この感覚はリアエンジンというよりもミドシップエンジン車の感覚に近い。
165/65R15という太過ぎないタイヤサイズも路面フィールを正確に伝えてくれる。20mmありそうな前輪のスクラブ半径の設定もまた、操舵感として路面反力が伝わってきて心地よい。グリップを緩めれば手の中でスルスルと自然復元して直進に戻る感覚もまた懐かしい。これらの繊細な運転感覚は最近の車では得がたくなってきている。
強力な900ccターボエンジン
来年度には5MT仕様も輸入されることが約束されているが、日本市場ではATで右ハンドルでないと受け入れがたいとする風潮もある。それが輸入開始期日を遅らせた原因でもあるらしいが、ツインクラッチの6段ツーペダル仕様は初代トゥインゴのオートクラッチ時代から格段の進歩を遂げている。
6段化したためにギア比のステップアップ比の段差が少なくなり、よりスムーズな変速が可能になった。以前は自動変速で乗るよりも手動でシフトするチャンスの方が多かったが、今度は以心伝心がうまく働いて、「フェラーリ488GTB」ほどではないにしても、変速に対するこちらの意思がちゃんと伝わるようになった。スロットルを戻せばエンジンブレーキも利くし、ギアポジションの選択も迷いがなくなった。また、トルコン式のATやCVTのようなスリップ感とは無縁のエンジンとタイヤがダイレクトに伝わっている感覚があって、小型AT車の中では面白みのある一台だ。クラッチ容量が増えたことによる安心感も大いに歓迎したい。
900ccエンジンのターボ過給による90psもまた強力であり、1tちょっとのボディー重量を軽々と速度に乗せてくれる。3気筒エンジンの振動や音はアイドリングを含む低回転域でこそそれなりの存在感を主張するが、2000rpmも回してしまえば気にならなくなる。
振動面では試乗会の折に乗せてもらったキャンバストップの方が静粛だったし、こもり音の点では上に抜ける方が確かに有利と感じた。これもアイドルストップが効果的に働けば問題はない。また慣らしなど個体差によるものもあるかもしれない。(後編に続く)
(文=笹目二朗/写真=高橋信宏)
テスト車のデータ
ルノー・トゥインゴ インテンス
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3620×1650×1545mm
ホイールベース:2490mm
車重:1010kg
駆動方式:RR
エンジン:0.9リッター直3 DOHC 12バルブ ターボ
トランスミッション:6段AT
最高出力:90ps(66kW)/5500rpm
最大トルク:13.8kgm(135Nm)/2500rpm
タイヤ:(前)165/65R15 81T/(後)185/60R15 84T(ミシュラン・エナジーセイバー)
燃費:21.7km/リッター(JC08モード)
価格:189万円/テスト車=192万7800円
オプション装備:フロアマット(1万9440円)/スマートフォンクレードル(5400円)/ETC車載器(1万2960円)
テスト車の年式:2016年型
テスト開始時の走行距離:1469km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(7)/山岳路(1)
テスト距離:277.4km
使用燃料:25.8リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:11.8km/リッター(満タン法)
スマート・フォーフォー ターボ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3550×1665×1545mm
ホイールベース:2495mm
車重:1060kg
駆動方式:RR
エンジン:0.9リッター直3 DOHC 12バルブ ターボ
トランスミッション:6段AT
最高出力:90ps(66kW)/5500rpm
最大トルク:13.8kgm(135Nm)/2500rpm
タイヤ:(前)185/50R16 81H /(後)205/45R16 83H(コンチネンタル・コンチエココンタクト5)
燃費:22.0km/リッター(JC08モード)
価格:256万円/テスト車=272万5900円
オプション装備:メタリックペイント<サファイアレッド×ブラック>(3万4000円) ※以下、販売店オプション スマートベーシックキット(ETC車載器+フロアマット+スマートカラビナ<オレンジ/ブルー2個セット>)(3万2000円)/ポータブルナビ(9万9900円)
テスト車の年式:2016年型
テスト開始時の走行距離:846km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(7)/山岳路(1)
テスト距離:198.6km
使用燃料:20.0リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:9.9km/リッター(満タン法)

笹目 二朗
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