アウディR8 V10プラスクーペ5.2 FSIクワトロ(4WD/7AT)
最後の砦 2016.10.13 試乗記 「アウディR8」の上級グレード「V10プラスクーペ5.2 FSIクワトロ」に試乗。スーパースポーツとて“ダウンサイジングターボ化”が避けられないこの時代、R8は大排気量の自然吸気エンジンが楽しめる最後の砦(とりで)だ。610psを発する5.2リッターV10自然吸気ユニットは、われわれに何を訴えかけてくるのだろうか。インテリジェンスを武器に
「ホンダNSX」が2370万円のプライスタグを付けたことがちょっとした話題になっているが、それを考える上でもいまアウディR8に試乗するのは、とても面白いとボクは感じた。
なぜならこのR8というプレミアムスポーツカーも、もはやオーバー2000万円が当たり前となったこのカテゴリーに、NSXと同じくインテリジェンスを武器として参入しているからである。ただその表現方法は、ちょっと違う。
ちなみに初代R8が登場したのは、いまから9年前の2007年。当時の価格は、4.2リッターのV型8気筒FSIエンジンを搭載して1670万円だった(それでも十分高額だが)。そして翌年に5.2リッターV10 FSIが登場し、1994万円に。翌年の価格改定によって、ついに大台に乗り、2012万円となった。
そして2代目となったR8に乗る。しかもこのR8からは、V8エンジンが廃止されV10オンリーとなった。今回試乗したのは、その最上位グレードとなるV10プラス5.2 FSIクワトロである。
R8が素晴らしいのは、80km/hで走っていても“納得できる”ことだ。
それは社会性というものを重視するこれからの時代において、とても重要な性能になると思う。「ロードテイスト性能」とでも言おうか。
単に乗り心地がよいのではない。そんなの当たり前だ。
むしろそれに関してR8は、超高速域での安定性を担保するために用意された大径タイヤが、時折コツコツとオシリを突き上げることもある。この点だけで言うと同じコンポーネンツを使う、「ランボルギーニ・ウラカン」の方がラグジーな感じさえする。
低速域でも退屈にならない
では、何がよいのか? それは、ドイツ車の味。もっと言えば、フォルクスワーゲングループの中における、アウディの乗り味がしっかりと低速域から実現されていることだ。
鍛え上げられたボディーがもたらす動きの正確さ。安定感がありながらも重さを感じさせないその身のこなしは、アルミスペースフレームの軽さと、それを要所要所カーボンで補強したシャシーのたまものだろう。ステアリングの取り付け剛性も非常に高く、サスペンションの伸縮が手のひらで読み取れる。トランスミッションは7段と、流れの速いこの世界においてはコンサバな段数となっているが、そのつながり感や変速スピードには文句の付けようがない。というかDCTの制御はアウディが一番優れている。たとえば同じ一族であるポルシェなどは、そのクラッチミートをあえて強めることで、スポーツカーらしさを強調しているフシがある。しかしアウディは、どこまでもクールに、しかしながらきちんとその高性能ぶりを乗り手に伝えるつながり方をする。
これこそがアウディ車全体に通じる精緻さであり、技術によるインテリジェンスである。それが、運動性能を第一としたスポーツカーだと、よりわかりやすく、濃密に味わえる。だからR8は、その性能を解き放たなくても、質感で楽しめるのだ。
NSXのロードテイストに多くのジャーナリストたちが幾分退屈を感じているのは、ホンダにこうした主張が少ないからだと思う。もっとも、NSXはきちんとトラックで走らせれば、その素晴らしさがわかる。しかし、ロードテイストで表現するのは技術ではなく乗り心地だと思っているから、退屈されてしまう。これはトヨタが初めて「セルシオ」を世に出したときと同じ方法論だが、セルシオはセダンであるからまだよかった。ともかくこの過剰なおもてなしを重んじる性質は、日本人の気質なのだろう。
噛みごたえがある
その点アウディは、クールなふりして我が強い。インテリぶって、野蛮。だから噛みごたえがある。一流のレストランで極上のサーブを受けており、その肉質も最上級ではあるけれど、赤身の肉なのだ。日本人が極上をイメージするのは、“サシ”のたっぷり入った霜降り肉だと思うけれど、そこは文化がまったく違う。
よってR8の性能を奥歯でしっかりと噛み込めば、それはもう半端なくジューシーなのは想像に難くない。フロントにエンジンを搭載しないミドシップのハンドリングは、シャープ過ぎずリニアに味付けされている。アルミシャシー特有の反発感がフロントスプリングの伸縮から伝わってくるものの、それが個性と感じられるところまでにうまくとどめられており、むしろその身のこなしの素早さにメリットを感じる。
駆動方式は4WDだが、日常でそのフロントトルクによるアンダーステアを感じることは一切ない。それがビスカスカップリングから多板クラッチ式になったディファレンシャルの動きによってもたらされるシームレス感なのか、そもそもオンロードではフロントのトルクがそれほど発揮されていないのかはわからないが(ここは、NSXの方がSH-AWDの優位性を主張する)。
大人の男心を魅了する
エンジンは日常域での音量や鼓動、質量感がベストバランス。そしてスポーツ・エキゾーズトボタンをひと押しすると、サイレンサーのバルブが開放されてV10のピュアサウンドが鳴り響く。そう、アウディ(とランボルギーニ)は、はやりのダウンサイジングターボではなく、自然吸気エンジンを採用する“最後の砦”なのだ。
フェラーリのように(といっても先代「458イタリア」になるが)、これみよがしなバリトンをまき散らすことはないが、コーン! と突き抜けるサウンドは明瞭。精密機械が強大なトルクとパワー(560Nmと610ps)を紡ぎ出していることを実感できる喜びは、大人の男心をくすぐりまくる。
ただしスタンダードなV10(540ps、540Nm)との差を明確にすることは、ロードテストではできなかった。その出力差は、20Nm増やされたトルクを8250rpm(レブリミットは両者同じ)まで回したときに生み出されるのだろうが、それをオープンロードで確認するのは無理だ。
またV8がラインナップから外されながらも開発中とうわさされているから、今後のエミッションに対応したユニットを、これで提案するのかもしれない(あくまで勝手な臆測だが)。そういう意味でNSXは、このジャンルにモーターを初めて持ち込んだことが、もっと大きく評価されていい。
そこから先はサーキットで
ここまでジューシーな赤身肉を、ひとくち噛んだだけでお預けされてしまうのはとても殺生な話なのだが、それでもフラストレーションがたまらないのは、前述の通りR8がこの領域からアウディらしさをきっちりと与えてくれるからである。そしてオーナーであれば、この性能を解き放つステージ(サーキットトラックだろう)にいつかは行きたい! と前向きな希望を持てるはずである。
ボクがR8(V10)に初めて乗ったのは、富士スピードウェイでのテストだった。このときはまだ初めてのミドシップにハンドリングが定まらず、クワトロシステムながらかなりオーバーステアだった挙動に戸惑った。
しかし2代目R8は、そのレーシング版である「LMS」の活躍を見てもわかる通り、最上級の完成度を持ったスポーツカーに仕上がっているはずである(GT3規格のマシンは、ベースモデルの基本性能が問われるのだ)。
ちなみにボクもあと数日で、R8をトラックで走らせる機会を得る。それがいまから楽しみでならない。
(文=山田弘樹/写真=小林俊樹)
テスト車のデータ
アウディR8 V10プラスクーペ5.2 FSIクワトロ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4426×1940×1240mm
ホイールベース:2650mm
車重:1630kg
駆動方式:4WD
エンジン:5.2リッターV10 DOHC 40バルブ
トランスミッション:7段AT
最高出力:610ps(449kW)/8250rpm
最大トルク:57.1kgm(560Nm)/6500rpm
タイヤ:(前)245/30ZR20 90Y/(後)305/30ZR20 103Y(ピレリPゼロ)
燃費:--km/リッター
価格:2906万円/テスト車=3079万円
オプション装備:ボディーカラー カモフラージュグリーン マットエフェクト(76万円)/アルミホイール 10スポークYデザイン グロスブラック 8.5J×20(鍛造)(0円)/サイドブレード マットチタン(0円)/ヘッドライニング アルカンターラ ダイヤモンドステッチング(49万円)/エクステリアミラー 電動調整&格納機能 自動防げん機能 ヒーター(0円)/バング&オルフセン サウンドシステム(27万円)/ファインナッパレザー(スポーツシート)電動調整機能(21万円)/TVチューナー(0円)
テスト車の年式:2016年型
テスト開始時の走行距離:4322km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(3)/高速道路(7)/山岳路(0)
テスト距離:197.3km
使用燃料:37.0リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:5.3km/リッター(満タン法)/6.1km/リッター(車載燃費計計測値)

山田 弘樹
ワンメイクレースやスーパー耐久に参戦経験をもつ、実践派のモータージャーナリスト。動力性能や運動性能、およびそれに関連するメカニズムの批評を得意とする。愛車は1995年式「ポルシェ911カレラ」と1986年式の「トヨタ・スプリンター トレノ」(AE86)。
-
メルセデス・ベンツGLC400 4MATIC with EQテクノロジー(4WD)【海外試乗記】 2026.6.11 「メルセデス・ベンツGLC」のモデルラインナップに電気自動車版の「GLC400 4MATIC with EQテクノロジー」が仲間入り。システム最高出力は489PS、一充電走行距離は700km超と、まず間違いのなさそうなスペックが示されている。本国ドイツで仕上がりを試した。
-
マツダ スピリット レーシング・ロードスター(FR/6MT)【試乗記】 2026.6.10 マツダ スピリット レーシングを象徴するハードコアモデル「ロードスター12R」と同時に発表された、台数限定2200台の「ロードスター」に試乗。12Rとの比較を交えながら、最高出力184PSの2リッター直4エンジンがもたらす走りの印象を報告する。
-
スバル・トレイルシーカーET-HS(4WD)【試乗記】 2026.6.9 スバルから電気自動車(BEV)の第2弾モデルである「トレイルシーカー」が登場。ルーフの長いステーションワゴンスタイルのクロスオーバーという、いかにもスバルらしいBEVは、機能的で快適で、走らせても楽しい万能なマシンに仕上がっていた。
-
ホンダ・クロスカブ110ライト(4MT)【レビュー】 2026.6.8 125ccクラスなのに原付一種扱いとなる、世にいう新基準原付。そのニューモデルである「ホンダ・クロスカブ110ライト」に、普段の道で試乗した。厳しい環境規制と、それに対するある種の救済措置が生んだ数奇なマシンの、ちょっと不思議な使用感を報告する。
-
ボルボXC40ウルトラB4 AWD(4WD/7AT)【試乗記】 2026.6.6 ボルボのエントリーモデルにしてブランドの屋台骨を支える「XC40」も登場からはや8年。これまで内外装やパワートレインにおいて地道なアップデートが重ねられてきたコンパクトSUVは、いかなる進化を遂げたのか。トップグレード「XC40ウルトラB4 AWD」の走りを報告する。
-
NEW
ディフェンダー110ハードトップX-DYNAMIC SE D350(4WD/8AT)【試乗記】
2026.6.13試乗記写真を見ていつもの「ディフェンダー」とはどこか違うと思われた方は鋭い。このクルマは1ナンバー、つまり商用車登録の「ディフェンダー・ハードトップ」である。全長約5mのボディーに備わるシートは前の2座のみ。広大な荷室を使いこなす生活を思い描いてみた。 -
キャデラックCT5スポーツ(4WD/10AT)【試乗記】
2026.6.12試乗記アメリカのプレミアムブランド、キャデラックが擁する4ドアセダン「CT5」。その最新モデルに試乗する機会を得た。今や“上質な4ドア”というだけでも貴重な存在だが、さらにCT5には、ジャーマンスリーとは趣の異なる個性が確かに宿っていた。 -
ここがヘンだよCEV補助金! ―電気自動車のヘビーユーザーが不透明な補助金制度に物申す―
2026.6.12デイリーコラム普通車の「ホンダ・スーパーONE」は130万円で、軽自動車の「N-ONE e:」は58万円。ジープやテスラは120万円超なのに、BYDはたったの15万円! CEV補助金の支給額は、いったいどうやって決まるのか? EVのヘビーユーザーが、不透明な制度に苦言を呈す。 -
インディアン・チーフ ヴィンテージ(6MT)
2026.6.12JAIA輸入二輪車試乗会2026創業は1901年というアメリカの老舗、インディアンモーターサイクルの「チーフ ヴィンテージ」に試乗。往年の「チーフ」をオマージュしたという一台は、ネオクラシックモデルとしての完璧な趣と、濃厚なファン・トゥ・ライドを併せ持つマシンに仕上がっていた。 -
思考するドライバー 山野哲也の“目”――トヨタ・カローラ クロス“GRスポーツ”編
2026.6.11webCG Moviesレーシングドライバー山野哲也が「トヨタ・カローラ クロス“GRスポーツ”」に試乗。ほかのカローラ クロスとは異なるパワーユニットや足が与えられたスポーティーモデルを、プロはどのように評価するのか? -
メルセデス・ベンツS450d 4MATIC/S580 4MATICロング
2026.6.11画像・写真過去最大規模の改良を施したという、「メルセデス・ベンツSクラス」の最新型が上陸。2026年6月11日、東京・虎ノ門ヒルズで発表会が開催された。会場に展示された「S450d 4MATIC」と「S580 4MATICロング」の姿を紹介する。





















