マツダ・アテンザワゴンXD Lパッケージ(FF/6AT)
いい仕事ができそうな気がする 2016.11.10 試乗記 デビューからおよそ4年がたち、マツダのフラッグシップモデル「アテンザ」にマイナーチェンジが施された。“人間中心の開発哲学”に基づき最新の技術を投入したという、改良版の仕上がりやいかに? ディーゼルのワゴンモデルで確かめた。食わず嫌いを直すには
最近のマツダは統一感のある躍動的なデザインがいい、と評価する人も多いと思うが、実をいうと私はあのアグレッシブなフロントグリルはちょっと苦手だ。それよりも改良を積み重ねてきたまっとうな中身にこそ真価があると思う。だが、パッと見て人目を引かないメカニズムや細部の工夫はなかなか目に留まらない。しかも実際に使う人でないとその効果が分かりにくい。となれば、より派手で分かりやすいものが優先され、そうでないものは後回しにされがちなのは、商売ではよく聞く話である。
たとえば、「アクセラ」に続いて今回アテンザにも採用された例の「G-ベクタリング コントロール」にしても、「ドライバーに分かりやすくアピールできないものは採用する意味はないのでは」という意見も実は社内にはあったらしい。だが「効果があるならやろう、やるべきだ」と判断された。この辺に派手な「やっちゃえ」とは異なるマツダの考え方が表れていると思う。結果としてここ数年で、マツダ各車は以前とは見違えるように上質になった。デザインや内装がどうの、という表面的な話だけではない。今では新世代モデル全車がオルガン式アクセルペダルを採用し、適切なドライビングポジションが取れるコックピットを備えている。これは基本的な車両パッケージングに関わるだけに、小手先でどうにかなるものではない。10年も前から始まった社運を賭けた取り組みが、今、実を結んでいるというわけだ。あの当時、ハイブリッドモデルを持たずにこの先どうするつもりなのか、と詰め寄った新聞記者の皆さんにこそ、新しいマツダに乗ってその進化を体験してほしいと思う。
派手ではないが効果は明らか
2012年の「CX-5」とアテンザを皮切りに、次々に新世代モデルを送り出してきたマツダも今年はちょっと一息という感じで完全なニューモデルはなかったが、代わりに順次マイナーチェンジを加え、着実に洗練度を向上させている。新しいアテンザも、派手ではないが実質的な改良が数多く加えられている。見た目はほとんど変化ないものの、実はかなり大がかりなマイナーチェンジである。
アテンザはセダンとステーションワゴンの両方に2.2リッターディーゼルターボ搭載モデルが設定され、しかもMTも4WDも用意されているというちょっとユニークなトップモデルである。時々雪道を経験するのではなく、冬になれば毎日当たり前のように雪道や凍結路を走らなければならない北国のユーザーにとっては実にありがたいことだ。ディーゼルの逞(たくま)しいトルク、MTと4WDを組み合わせたダイレクト感はドライバーにとって非常に頼りになるものである。結果的に悪路でもストレスなく快適に走れることは、ヘビーユーザーには必須の要件である。
快適なのはアクセラに続いて導入された例のG-ベクタリング コントロール(GVC)の効果もあるはずだ。ステアリング操作に応じてエンジン出力をわずかに絞り、前輪荷重を増やして接地性を高めるというシステムだが、その減速Gはごく小さいために、ドライバーがその作動具合を感知することはできない。けれども実際に効果はある、ということは以前、テストコースで体験させてもらったことがある。特別にオンオフできる機構を取り付けた車両で、同じコースを同じように走ってみると、車線変更時などの修正舵が減少していることがステアリング舵角の変移グラフでも確認できた。ドライバーは常にほとんど無意識に修正舵を当てているものだが、それが減る。まるでノイズがなくなってすっきりクリアにラジオが聞こえるようにストレスがなくなる。快適というより疲労感が少ないといったほうが正確かもしれない。こういうものは実体験とデータの両方で確認できることが重要で、その点、あのアルミホイルのようなテープを貼り付けて空力を改善するというものとは違う。一般道で走り比べて「違い、分かりますよね?」と迫られても、残念ながら分からないものは分からないのである。私が鈍感なだけかもしれないが、マツダのGVCシステムはその違いをはっきり確認できたのは事実である。降雨降雪時など悪天候下では特に効果が大きいはずだ。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
扱いやすいことが快適
パワーユニットにも洗練度アップの手がいろいろと加えられている。まず「CX-3」で導入された「ナチュラル・サウンド・スムーザー」はピストンピンにダンパーを組み込み、ピストンピンとコンロッドの振動を抑えてノック音を低減するもの、また「ナチュラル・サウンド・周波数コントロール」は燃料噴射タイミングを精密に制御することでエンジン燃焼による圧力波と構造系の共振のピークをずらしてノック音を抑える技術である。さらに「DE精密過給制御」は、燃料噴射と過給圧制御を最適化することで、緩加速時のレスポンスを向上させるというもの。スロットル操作に対する“ツキ”が良く、スピードコントロールが容易であるということは快適な運転に大いに関わる。楽に加速できれば、その分ストレスも減るからだ。
同様に、フロントサイドウィンドウガラスが、サンドイッチ構造の遮音ガラスに変更されている点も、まったく目立たないけれど実質的な改良だ。実際に「アテンザXD」は以前よりずっと静かにスムーズに、そしてレスポンス良く走るようになった。とりわけ高速道路ではそのフラットな乗り心地や安定感、静粛性、そしていつでも手に入る力強い加速など文句をつけるところがない。これならば仕事先が遠くにあっても、嫌がる人は少ないはずである。
実用ロングツアラーのかがみ
新しいアテンザでは当然安全運転支援システムも進歩している。いわゆる自動ブレーキシステムはこれまでの赤外線レーザーセンサーからカメラで検知するタイプに変更され、アドバンストSCBS(スマート・シティ・ブレーキ・サポート)に進化、歩行者も検知できるようになり、作動速度域も30km/h以下から80km/h以下に引き上げられた(ちなみに「Lパッケージ」にはミリ波レーダーによるブレーキサポートも標準装備)。
それ以外でも私が役に立つと感じるのは交通標識認識システム(TSR)だ。進入禁止や制限速度などの標識をカメラが読み取り、ヘッドアップディスプレイの左上に表示するというもので、欧州車では同様のシステムは常識になりつつある。日本は交通標識の設置方法が自治体(公安委員会)ごとにバラバラで、すべて正確には認識できないという理由で導入に消極的と聞いたことがあるが、それこそ本末転倒の言い訳ではないだろうか。実際に、読み間違いのような表示もあったが、そのようなエラーは致命的なものではない。どんどん試してみて改良していけばいいし、それが標識設置の適正化を促すことにもなると思う。
距離や天候にかかわらず、走らなければならない人にアテンザXDは打ってつけである。食わず嫌いでこれまでマツダを避けてきた人(その気持ちも分かるけれど)にこそ、今のマツダを試してみてほしい。“走る”ドライバーに真面目に向き合っていることが分かるはずである。
(文=高平高輝/写真=田村 弥/編集=関 顕也)
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
テスト車のデータ
マツダ・アテンザワゴンXD Lパッケージ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4805×1840×1480mm
ホイールベース:2750mm
車重:1560kg
駆動方式:FF
エンジン:2.2リッター直4 DOHC 16バルブ ディーゼル ターボ
トランスミッション:6段AT
最高出力:175ps(129kW)/4500rpm
最大トルク:42.8kgm(420Nm)/2000rpm
タイヤ:(前)225/45R19 92W /(後)225/45R19 92W(ブリヂストン・トランザT001)
燃費:19.6km/リッター(JC08モード)
価格:377万4600円/テスト車=371万5200円
オプション装備:DVDプレーヤー+地上デジタルTVチューナー<フルセグ>(2万7000円)/4スピーカー(-8万6400円)
テスト車の年式:2016年型
テスト開始時の走行距離:4461km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(8)/山岳路(1)
テスト距離:285.2km
使用燃料:19.6リッター(軽油)
参考燃費:14.6km/リッター(満タン法)/14.6km/リッター(車載燃費計計測値)

高平 高輝
-
トヨタGRヤリスRZ“ハイパフォーマンス”+エアロパフォーマンスパッケージ【試乗記】 2026.3.3 「GRヤリス」の新仕様として設定された「エアロパフォーマンスパッケージ」装着車に試乗。レースフィールドでの知見を交え開発したというエアロパーツの空力・冷却性能は、リアルワールドでも体感可能なのか。高速道路を経由し、郊外のワインディングロードを目指した。
-
ドゥカティ・モンスター(6MT)【海外試乗記】 2026.3.2 ドゥカティのネイキッドスポーツ「モンスター」が5代目にモデルチェンジ。無駄をそぎ、必要なものを突き詰めてきた歴代モデルの哲学は、この新型にも受け継がれているのか? 「パニガーレV2」ゆずりのエンジンで175kgの車体を走らせる、ピュアな一台の魅力に触れた。
-
フォルクスワーゲンID.4プロ(RWD)【試乗記】 2026.2.28 フォルクスワーゲンのミッドサイズ電気自動車(BEV)「ID.4」の一部仕様変更モデルが上陸。初期導入モデルのオーナーでもあるリポーターは、その改良メニューをマイナーチェンジに匹敵するほどの内容と評価する。果たしてアップデートされた走りやいかに。
-
スズキ・キャリイKX(4WD/5MT)【試乗記】 2026.2.27 今日も日本の津々浦々で活躍する軽トラック「スズキ・キャリイ」。私たちにとって、最も身近な“働くクルマ”は、実際にはどれほどの実力を秘めているのか? タフが身上の5段MT+4WD仕様を借り出し、そのパフォーマンスを解き放ってみた。
-
ホンダCR-V e:HEV RSブラックエディション(4WD)【試乗記】 2026.2.26 日本で久々の復活を遂げた「ホンダCR-V」の新型に、北海道のテストコースで試乗。雪上・氷上での“ひとクラス上”の振る舞いに感嘆しつつも、筆者がドン! と太鼓判を押せなかった理由とは? デビューから30年をむかえたCR-Vの、実力と課題を報告する。
-
NEW
BYDシーライオン7 AWD(4WD)
2026.3.5JAIA輸入車試乗会2026堂々たるスタイルにライバルの上をいくパワーと一充電走行距離、そしてざっくり2割はお得なプライスを武器とする電気自動車「BYDシーライオン7」。日本市場への上陸から1年がたち、少しずつ存在感が増してきた電動クーペSUVの走りやいかに。 -
NEW
ついにハードウエアの更新も実現 進化した「スバルアップグレードサービス」の特徴を探る
2026.3.5デイリーコラムスバルが車両の機能や性能の向上を目的とした「スバルアップグレードサービス」の第3弾を開始する。初めてハードウエアの更新も組み込まれた最新サービスの特徴や内容を、スバル車に乗る玉川ニコがオーナー目線で解説する。 -
NEW
第951回:日本が誇る名車を再解釈 「ホンダNSXトリビュートby Italdesign」の開発担当者に聞く
2026.3.5マッキナ あらモーダ!2026年の「東京オートサロン」で来場者の目をくぎ付けにした「ホンダNSXトリビュートby Italdesign」。イタルデザインの手になる「ホンダNSX」の“再解釈”モデルは、いかにして誕生したのか? イタリア在住の大矢アキオが、開発関係者の熱い思いを聞いた。 -
メルセデス・マイバッハSL680モノグラムシリーズ(4WD/9AT)【試乗記】
2026.3.4試乗記メルセデス・マイバッハから「SL680モノグラムシリーズ」が登場。ただでさえ目立つワイド&ローなボディーに、マイバッハならではのあしらいをたっぷりと加えたオープントップモデルだ。身も心もとろける「マイバッハ」モードの乗り味をリポートする。 -
始まりはジウジアーロデザイン、終着点は広島ベンツ? 二転三転した日本版「ルーチェ」の道のり
2026.3.4デイリーコラムフェラーリ初の電気自動車が「ルーチェ」と名乗ることが発表された。それはそれで楽しみな新型車だが、日本のファンにとってルーチェといえばマツダに決まっている。デザインが二転三転した孤高のフラッグシップモデルのストーリーをお届けする。 -
第863回:3モーター式4WDの実力やいかに!? 「ランボルギーニ・テメラリオ」で雪道を目指す
2026.3.3エディターから一言電動化に向けて大きく舵を切ったランボルギーニは、「ウラカン」の後継たる「テメラリオ」をプラグインハイブリッド車としてリリースした。前に2基、リアに1基のモーターを積む4WDシステムの実力を試すべく、北の大地へと向かったのだが……。















