トヨタC-HR 開発者インタビュー
主査の思いを背負って 2016.11.15 試乗記 トヨタ自動車Mid-size Vehicle Company
MS製品企画 ZE チーフエンジニア
小西良樹(こにし よしき)さん
東京モーターショー2015で国内初披露されてから1年。間もなくトヨタの新型クロスオーバーモデル「C-HR」が発売される。その開発のポイントはどこにあるのか、同車の開発に関わったキーマン3人に話を聞いた。
TNGAファミリーの第2弾
試乗会場で開発者にインタビューさせてほしいとお願いすると、主査は不在だがチーフエンジニアがいるとの答え。チーフエンジニアとはすなわち主査なのだと思っていたら、今は違うのだという。今年4月にトヨタではカンパニー制を導入した。組織改編に伴って、開発のプロセスも変化している。ややこしいので、小西良樹氏にまずは新たな体制について伺った。
小西良樹氏(以下、小西):7つのカンパニーに分かれまして、製品軸ではコンパクト、CV、レクサスと私の属するミッドサイズ・ヴィークル・カンパニーがあります。合計18名のチーフエンジニアがいて、それぞれのもとに主査が何人かいるという体制ですね。ミッドサイズ・ヴィークル・カンパニーには「カムリ」「カローラ」「RAV4」「クラウン」などがありまして、私はカローラ・ファミリーを担当しています。「プリウス」や「プレミオ/アリオン」も入りますね。C-HRもそうで、古場博之という者が主査を務めます。
――映画のプロデューサーと監督のような関係ですか?
小西:うーん、ちょっと違いますね……。大統領と首相と言ったほうが近いかもしれません。昔は主査だけで、チーフエンジニアという言葉はなかったんですね。昔の主査が今のチーフエンジニアのような存在とも言えます。
――C-HRはプリウスに続いてTNGA(Toyota New Global Architecture)を採用していますね。
小西:これからのカローラも含め、TNGAファミリーということになっていきます。僕の場合ずっとプラットフォームをやっていて、プリウスの開発と並行してTNGAを立ち上げました。C-HRも僕がプラットフォームをやって古場がアッパーをやって、2人でクルマを作ってきたというような関係です。
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改良点はプリウスにもフィードバック
TNGAは単なる新しいプラットフォームではなく、トヨタの開発思想なのだと説明されている。プリウスの主査を務めた豊島浩二さんは、「10年、20年たってから、TNGAのプラットフォームは完成するんです」と話していた。
小西:TNGAの狙いは「もっといいクルマづくり」ですから。C-HRはより磨きをかけて、ある部分はプリウスに比べて性能を豊かにしています。次のクルマではもっとレベルアップするでしょう。今回の改良は、プリウスにもフィードバックしていきますよ。成長をストップさせるわけにはいきません。
――コスト削減もTNGAの目的のひとつだと言われますが、実際に効果は表れているんでしょうか?
小西:コスト削減はだいたい20%ぐらいですね。C-HRは車高が高いので、TNGAのプラットフォームはプリウスと違う部分があります。ただ、際限なく変えていくとコストもかかってしまいますから、そこはしっかり見ていくという役目ですね。
――ハイブリッドとエンジン車の2本立てですが、ハイブリッドだけではダメだったんでしょうか?
小西:四駆が必要だったんです。ハイブリッドのE-Fourという選択もあったんですが、今回は走りがテーマなので少し物足りない。古場の意向もあって、キビキビ走れる1.2リッターのターボということになりました。欧州ではターボのFFもあるんですが、日本ではこの2種類でスタートします。
――トヨタがEVに力を入れていくという新聞報道がありましたが、C-HRでEVを出すという計画はあるんですか?
小西:……具体的なことに関しては、他社に負けないように研究しております、としか言えません(笑)。ただ、TNGAはEVにも対応していて、開発を進めていますよ。電池の搭載などの問題がありますから、C-HRをそのままEVにするのは難しいでしょう。電池もすごい勢いで変化していますから、それに対応するプラットフォームは作らなければなりませんね。
グローバルで通用する走り
車両開発のマネジメントを担当した刑部太郎氏にも話を聞いた。全体を見た中でも、運動性能、仕様、質量などの面に大きく関わったという。
――TNGAの効果はありましたか?
刑部(おさかべ)太郎氏(以下、刑部):素性がいいので、助かった部分はありますね。競合車との関係でどう立ち位置を決めるかというのが大変なんですが、TNGAでいいものをドンと用意してもらえるので、手間が省けたというのは実際に感じましたね。シートの取り付け位置を高くするなどの細かい変化はありますが、ベースはプリウスと同じですから必要なものを付け加えるという感じです。
――コンパクトSUVは激戦区になっていますが、C-HRの強みは何でしょう。
刑部:ヨーロッパでSUVを欲しいと思っている人に話を聞くと、デザインが重要だと。ただ、背が高いから運動性能が心配という声があり、デザインと走りに重きを置こうということでスタートしました。
――走りについてはどのように開発を?
刑部:開発ドライバーもチューナーもヨーロッパに行って、1カ月以上公道でテストしました。ニュルブルクリンクも走っています。われわれとして一番いいのはこれなんだ、ということで開発してきたので、足まわりは日本のモデルも同じです。ヨーロッパの環境でいいものを作れば、世界中で通用すると考えています。ストレスなくコントロールできる、姿勢変化なくフラットに走る、振動系はとにかく抑えるという3つを徹底的に追求しました。スタートしたのはヨーロッパなんですが、北米やオーストラリア、アフリカなどからも要望があり、グローバルに展開することになりましたね。
――発売前に耐久レースに出場しましたね。
刑部:車高を落として補強を入れたりはしていますが、ベースはそのままです。あえてレースに出たのは、そのぐらいの性能はありますよ、ということです。欧州ではスポーティーなイメージがあることは大事なんです。それに、主査の古場の思いの強さですね。主査の熱がこのクルマを作ったんです。
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複雑に見えても発想はシンプル
デザインを主導したチーフデザイナーは伊澤和彦氏。C-HRの仕事を終えた後にヨーロッパに異動になり、試乗会のために帰国した。
――「セクシーダイヤモンド」がデザインのキーワードだそうですが、どういう意味ですか?
伊澤和彦氏(以下、伊澤):最初にあったのは「センシャル スピード-クロス」という言葉です。そこからセクシーダイヤモンドという立体構成のアイデアが生まれました。ダイヤモンドを中心に、タイヤを四隅に置くわけです。
――SUVでは動物の意匠で力感を表現することが多いようですが、対極に位置する幾何学的なモチーフを取り入れたのはなぜでしょう?
伊澤:ツヤ感、オーガニックといったボリュームのある演出と、幾何学立体、シャープでフラットな立体の組み合わせでオリジナリティーのある造形を目指しました。単に有機的なだけとかシャープなだけというのではなく、融合や両立で新しさを表現するというのは、トヨタが以前から行ってきたことです。
――サイドビューは色によって印象が変わりますが、新色のメタルストリームメタリックは特に深い陰影が感じられました。
伊澤:もうひとつの新色のラディアントグリーンメタリックも立体のコントラストをくっきり見せられますね。国内初設定のセンシュアルレッドマイカも、レンジの広さを出すのに適していると思います。メタルストリームメタリックはヨーロッパのマーケットでは特別な意味を持っています。あちらでは、黒からグレーの無彩色が人気で、日本に比べてはるかに多くのバリエーションが要求されるんです。日本人には似通った色に見えても、欧州人は全然違うと言うんです(笑)。
――リアスタイルはかなり複雑なことになっていますね。
伊澤:確かに面数は多いんですが、発想はシンプルなんですよ。タイヤが踏ん張っている力強さを見せたいというコンセプトで、そのためにボディーを45度ほど回転させるアイデアを採用したんです。それではみ出た部分をスライスするとサイドの形が出てきて、ダイヤモンドがタイヤの上に乗っている形になります。複雑な形を作りたいとは思っていません。シンプルなところからスタートしているので、最終的にまとまりがつくんですよ。
――強力なライバルがひしめく中で存在感を発揮するのは大変ですね。
伊澤:主査の古場が走りとスタイルの2本立てで行くと。オリジナルでディスティンクティブなスタイルを実現してほしいと言われていましたから。ほかと似ていないということが大切です。
3人にインタビューして、誰もが「主査の古場」の名を口にした。自らレースにも出場する彼の強い思いが、3人をつき動かしたのだ。この日はトルコでの製造開始セレモニーに出席して日本にいなかったのだが、走りにかける古場氏の思いを聞いてみたくなった。
(インタビューとまとめ=鈴木真人/写真=向後一宏、webCG/編集=関 顕也)
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鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。
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