ホンダ・フリード+ ハイブリッドEX(FF/7AT)
確かな進化を感じる 2016.11.24 試乗記 ホンダの小型ミニバン「フリード」シリーズが2代目にモデルチェンジ。ハイブリッドシステムの刷新と新プラットフォームの採用により、その走りはどう変わったのか? 2列シート車の「フリード+」に試乗し、進化のほどを確かめた。ユーザーの志向は“デザイン<機能”
「This isサイコーにちょうどいい、ホンダ!」というショーン・レノンの叫びとともに初代フリードは大ヒットとなった。なんだか懐かしいなあと思ったら、もう8年も前の2008年のことだ。そして、恐ろしいことに初代フリードは、モデルチェンジもなしでつい最近まで売れ続けており、2014年は新車販売ランキング(登録車)の年間12位、2015年は22位を記録している。ホンダにとっては、なくてはならない大きな柱となったのだ。
そのフリードが第2世代に代替わりした。発売は2016年9月16日で、10月の販売ランキングでは、早速5位に。ちなみに2016年10月の販売ランキング1位は「トヨタ・プリウス」、2位が「トヨタ・アクア」、3位が「日産セレナ」(新型)、4位が「トヨタ・シエンタ」、5位がフリードだ。ライバルであり、昨年に発売となったシエンタを抜けなかったのは、ホンダとしては悔しいだろうが、それでもホンダでは最上位であり、立派な数字である。新型フリードは、市場に好評を持って受け入れられたのだろう。
では、実際に新型フリードはどのようなクルマなのか? 試乗を併せて紹介したいと思う。
フリードは3列シートを備えたミニバンではあるが、初代モデルには兄弟車として2列シートの「フリードスパイク」が存在した。フリードには子育て真っ最中の女性ユーザーが多く、フリードスパイクには子育てとは関係のない男性オーナーが多かったという。ところが調査によって「フリードスパイクのオーナーは機能優先でクルマを選んでおり、ルックスの差別化はどうでもいい」ということが判明。そこで2列シートモデルは、外観は3列モデルと同じくして機能を磨き込むことに。併せて名称をフリード+とすることになった。つまり、3列シートモデルがフリードで、2列シートモデルがフリードスパイク改めフリード+ということになったのだ。
レイアウト変更がかなえた超低床化
初代モデルが8年もモデルライフを引っ張ったこともあり、2代目の新型ではプラットフォームは真っさらな新しいものとなった。併せてパワートレインも最新のものが搭載されている。新しくなったプラットフォームは、全長が50mm拡大している。コンパクトなことが売りのフリードで全長を伸ばすのはいかがなものか? という議論が当然あったため、開発陣はユーザーへ調査を行ったという。結果は「80mmまでなら拡大してもいい」という答えが大多数。それでもなるべく拡大は小さくしようと50mmになったというのだ。
全長は50mmの拡大だが、室内はさらに広くなった。1列目と3列目のヒップポイントの距離は90mm拡大、2列目シートの前後スライド量は120mmも伸びている。2列目シートの広々感は、格上の「ステップワゴン」に匹敵するというから驚きだ。ちなみにホイールベースは旧型と同じで、最小回転半径はライバルであるシエンタと同等の5.2mを守っている。
新しくなったプラットフォームについては、駆動用バッテリーの搭載位置を変更した。従来のリアのオーバーハング部から、2列目シート下に移動したのだ。これにより、運動性能がアップ。そして、もうひとつの大きなメリットができた。それがフリード+のラゲッジルームの超低床化だ。なんと旧型よりも185mmも低められたのだ。開口部の地上高は335mm! スライドドア側のステップ高は390mmなので、それよりも低い。この超低床化のおかげで、フリード+は26インチの自転車を2台積載できるほどの広いラゲッジルームを得た。またラゲッジボードを使えばこのスペースを上下2段に分けることができ、かつ上段は大人2人がのびのびとくつろげるほどのフラットな空間となる。車中泊ユーザーには、これ以上ないうれしいニュースだろう。また、低床化されたラゲッジルームはスロープ付きの車イス仕様車を作るのにもピッタリ。今回のモデルには244万円から車イス仕様車が用意されているのもトピックだ。
燃費競争はほどほどに
続いては、実車の試乗を通してのリポートだ。借り出したのはフリード+の「ハイブリッドEX」。運転支援機能「ホンダセンシング」を装備したFFの上級グレードだ。
ドライバー席から見る室内の印象はシック。インストゥルメントパネルは落ち着いた色合いで、シートのファブリックの模様にも上質感がある。ほかの機会に見た別グレードでは、まるでマンションの北欧調リビングのようなインテリアが用いられていた。ポップな若々しさを狙うのではなく、フリードは落ち着いた雰囲気を狙っているようだ。
試乗車はハイブリッドで、最高出力110ps(81kW)/最大トルク13.7kgm(134Nm)の1.5リッターアトキンソンサイクルDOHC i-VTECエンジンと、同29.5ps(22kW)/同16.3kgm(160Nm)のモーターを内蔵した7段DCTを組みあわせたパワートレインが搭載される。JC08モード燃費は最大27.2km/リッターで、ライバルのシエンタと同じ数字。むきになって抜かなかったのは、個人的には良いことだと思う。カタログ燃費競争が激化すると、ドライバビリティーや実燃費に悪影響が出かねないからだ。このクラスで、この程度の数字が出れば十分なのではないだろうか。
ちなみにガソリンエンジン版は最高出力131ps(96kW)/最大トルク15.8kgm(155Nm)の1.5リッター直噴DOHC i-VTECにCVTの組み合わせでJC08モード燃費は最高で19.0km/リッター。こちらもミニバンでの数字としては十分なものではないだろうか。
このボディー形状でよくぞここまで……
最大トルク16.3kgmもの強力なモーターがあるため、エンジンを使わないEV状態での発進が可能だ。しかし、ちょっとでもラフにアクセルを踏み込むとすぐにエンジンが始動する。また、じんわりゆっくり踏み込んでも、意外とすぐにエンジンが始動してしまう。走行中もエンジンが停止するのは、負荷の少ないときに限られ、「エンジンがたくさん働いているな」という印象が強い。ただし、エンジンの音や震動は、相当に抑え込まれており、その存在感は小さい。静粛性はそれなりに高いといえるだろう。
1.5リッターのエンジンに16.3kgmのトルクを発生するモーターを持ちながらも、ハイブリッドの加速感はマイルドなものであった。高速道路に入れば、さらにワンテンポ加速のタイミングは遅れる。モーターがあるのでリニアリティーはあるが、パワーそのものがそこそこなのだ。ビュンビュン飛ばしたい人にはおすすめできない。しかし、同乗する人には、こうしたマイルドな加速感の方が好まれるのは確実だろう。
そうしたキャラクターはハンドリングも同様で、ゆったりと曲がっていく。しかし、素晴らしいのはそこでリアが泳ぐようなグニャグニャした感じがないこと。意外にもシャキっとしており、コーナリングで腰砕けになることもない。しっかりと4輪で地面をつかんでいる安心感がある。それでいて乗り心地はフラットで、路面の凹凸を越えるときも上手にショックをいなす。シャシー性能は従来モデルよりも1ランクも2ランクも向上している。開口部の大きなリアゲートは、ボディー剛性面では相当大きな不利であったろうに、それをここまでしっかりと仕上げたとは……。開発の苦労が忍ばれるばかりだ。
全方位的な進化を実感
最近話題の運転支援機能には、ホンダの最新アイテムが用意された。ミリ波レーダーと単眼カメラを組みあわせたシステムで、事故の予防に関する機能としては、衝突被害軽減自動ブレーキに、路側帯の歩行者への追突を防ぐ歩行者事故低減ステアリング、誤発進抑制機能が備わる。運転支援に関するものでは、ACC(アダプティブ・クルーズ・コントロール)とステアリング制御を伴う車線維持支援システムのLKAS、路外逸脱抑制機能、先行車発進お知らせ機能、標識認識機能が用意される。安全とロングドライブの疲労軽減を願うお父さんドライバーには、ぜひとも装着をおすすめする。
試乗を振り返れば、新型フリードはプラットフォームの刷新によって、「室内の広さを拡大」「ラゲッジルームの実用性をアップ」「シャキッとした走りを実現」というように、全方位的な進化を遂げていることがわかった。派手なデザインや、話題の自動運転機能の採用はないけれど、クルマの基本をしっかりと玉成させてきた。地味ながらも真面目なクルマであったのだ。派手さがなかった分、販売ランキングでライバルであるシエンタを超えることはできなかったが、それでも5位を獲得できたのは、そうした真面目な部分が市場に理解されたことが理由ではないだろうか。
(文=鈴木ケンイチ/写真=高橋信宏/編集=堀田剛資)
テスト車のデータ
ホンダ・フリード+ ハイブリッドEX
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4295×1695×1710mm
ホイールベース:2740mm
車重:1430kg
駆動方式:FF
エンジン:1.5リッター直4 DOHC 16バルブ
モーター:交流同期電動機
トランスミッション:7AT
エンジン最高出力:110ps(81kW)/6000rpm
エンジン最大トルク:13.7kgm(134Nm)/5000rpm
モーター最高出力:29.5ps(22kW)/1313-2000rpm
モーター最大トルク:16.3kgm(160Nm)/0-1313rpm
タイヤ:(前)185/65R15 88S/(後)185/65R15 88S(ダンロップ・エナセーブEC300)
燃費:26.6km/リッター(JC08モード)
価格:267万6000円/テスト車=293万9131円
オプション装備:ボディーカラー<プレミアムディープロッソ・パール>(3万2400円)/Hondaインターナビ+リンクアップフリー+ETC車載器(18万9000円) 以下、販売店オプション フロアカーペットマット<プレミアムタイプ、ハイブリッド車用[FF車用]>(4万1731円)
テスト車の年式:2016年型
テスト開始時の走行距離:1529km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(4)/高速道路(6)/山岳路(0)
テスト距離:326.5km
使用燃料:18.0リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:18.1km/リッター(満タン法)/17.5km/リッター(車載燃費計計測値)
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鈴木 ケンイチ
1966年9月15日生まれ。茨城県出身。国学院大学卒。大学卒業後に一般誌/女性誌/PR誌/書籍を制作する編集プロダクションに勤務。28歳で独立。徐々に自動車関連のフィールドへ。2003年にJAF公式戦ワンメイクレース(マツダ・ロードスター・パーティレース)に参戦。新車紹介から人物取材、メカニカルなレポートまで幅広く対応。見えにくい、エンジニアリングやコンセプト、魅力などを“分かりやすく”“深く”説明することをモットーにする。
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