第6回:天上天下唯我独尊カー(前編)
2016.12.12 バイパーほったの ヘビの毒にやられまして![]() |
「ダッジ・バイパー」の魅力(と横暴)をあまねく世に訴えるため、webCGほったが立つ! 今回は、編集部きっての運転ベタが“試乗記”なるものに手を出すに至った経緯と、このひと月半で感じた○と×……の、主に「×の方」を紹介させていただく。
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腐ってもスーパースポーツ
すべての発端は、第4回「人の縁を運ぶクルマ」において、とある御仁からいただいたフェイスブックのコメントだった。
「たまには走りの話もしてほしいですw」
これについては、何をおいてもまずは御礼申し上げねばなるまい。当該コメントをくださった方はもちろん、フェイスブックなどで激励、声援をくださる読者諸兄姉の皆さま、いつもありがとうございます。webCGほった、皆さまからのメッセージを糧に本連載に取り組んでおります。今後ともどうぞよろしくお願いいたします。
しかしまあ、うーむ。困った。
確かに本連載の題材は、16年落ちのジジイとはいえ世界に冠たる高性能スポーツカーである。記者自身、いつかは“走り”にも触れねばならぬと、うすうす感づいてはいた。感づいていながら、のらりくらいと避けていたのだ。
その理由については、私が執筆したさまざまなドライビングセミナーのリポート、もしくはスバル社内研修制度の取材記などをご覧になった方ならお察しのことだろう。
しかし、あえてはっきり言わせていただく。
webCGほった、運転がヘタです。運動神経が非常に残念です。
フルブレーキングの練習では脚がつり、ジムカーナでは華麗な大回転を披露してスバルの関係者を心胆寒からしめる。そんなヤツが最高出力450ps、最大トルク67.7kgmの怪獣のインプレッションを開陳したところで、誰が真剣に受け止めてくれようか。
懸案はそれだけではない。およそ10年にわたりバネとダンパーがへたり切った「ローバー・ミニ」に乗り続けた結果、わが尻から背中にかけての感覚神経は、完全に天に召された。そして軽トラックですら「すわロールス・ロイス!?」と感じてしまう体質に成り果てたのだ。そんな私が「いやー、このクルマ乗り心地がサイコーですね!」と言ったところで、信ぴょう性はゼロ、いやむしろマイナスである。
そんなわけで、本連載では毎回「走りの話はまた今度」と先送りを繰り返していたのだ。
しかし、FBのコメントで読者の方より要望をいただいてしまうとは……。はす向かいの席では、当該コメントを発見した企画担当の折戸がニヤニヤしている。年貢の納め時である。
読者諸兄姉の皆さま、webCGは期待に応える自動車メディアです。今回は前後編の2回に分けて、納車からのひと月半で記者が感じた“バイパーのあれやこれや”をリポートさせていただく。
デイリーユースはほぼ苦行
神奈川・川崎の自動車屋さんで触れたダッジ・バイパーの“ファーストインプレッション”を、記者は今も鮮明に覚えている。それは「なんじゃこのドラポジは!?」というものだった。
シートに収まり、「それじゃあエンジンかけましょか」といつものつもりで真っすぐ右足を伸ばしたら、そこにあるのはブレーキじゃなくてガスペダル。このクルマでは、乗員はペダルひとつ分以上、腰から下を外にひねって座らねばならないのだ。
また、クラッチペダルのミートポイントが手前過ぎるのにも大いにあせった。ABペダルに合わせてドラポジを決めた場合、クラッチをつなぐにはステアリングホイールにヒザ蹴りをかますくらい、左脚を折り込まねばならないのだ(これについてはクルマの設計とは違う原因もあるのだが、それはまた別の機会に)。
お店のまわりをぐるぐるしながら、記者は思ったもんである。「なんちゅう運転しづらいクルマだ」
しかもマイカーとして日々乗ってみると、バイパーの“運転しづらいポイント”はそこだけにとどまらなかった。
例えばこのクルマ、とにかく車両感覚がつかみづらい。前輪の位置についてはボンネットの隆起で感じ取れるものの、そこから先、すなわち車両前端部の位置がまず分からない。低いハナ先は運転席から視認できず、しかもフロントオーバーハングが地味に長いため、前輪の位置からテキトーに想像するだけでは、ことによっては悲劇を招く。
それでも前方はまだいい。泣けてくるのは後側方である。
バイパーのスタイリングは古典的なコークボトルラインで、しかも超・安産型。アメリカ人の欲望そのままにプリップリに張り出たフェンダーのせいで、後輪側の車幅や障害物との距離が読みにくいのだ。
駐車時など、サイドミラーの光景に「ギャー、ぶつかる!」とビックリして降りてみたら、実際にはまったく寄せ切れておらず、きつねにつままれたような気分になる。初訪問の駐車場で記者は必ずこれを体験するのだが、きっと妖怪のせいなのね。そうなのね。
そんなわけで、バイパーは駐車も大の苦手(?)。車両感覚がつかみづらいので枠の中央にクルマをすえることが難しく、それどころか、枠へ向けて真っすぐバックすることすら困難である。読者諸兄姉の中にも、ショルダーラインのうねったクルマを所有していて、駐車場で悪戦苦戦した記憶のある方はいらっしゃるだろう。アレの、よりひどいバージョンである。
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これが1100万円……
そんな時、人は一体どうするのか。ドアを開け、サイドシルと白線を確認しながらクルマを下げるんですねえ。しかし残念! それは毒蛇のワナである。バイパーのトレッドは、前が1515mm、後ろが1540mm。しかも後ろには前よりはるかにぶっといタイヤを履いている。真上から見たら等脚台形のカタチをしており、すなわちサイドシルはナナメっているのだ。
実際、サイドシルを白線と平行にして駐車すると、バイパーは枠内で思いっきり左を向く。クルマがクルマだし、“その筋の方”と間違われるような駐車の仕方は、厳に慎みたいものである。
……ここまで書いてて気づいたのだが、ワタクシ、バイパーを全然褒めていないですね。グチってばかり。しかもまだまだ出てくるのだから始末が悪い。
例えば、トランクが狭い。ドリンクホルダーがない。収納はあるけれど、どれもロクに使えない。シートがツルッツルすべる。そしてなにより、内装がチープ。ものっそいチープ。So cheap!! どのくらいチープかというと、日本での売価1100万円(当時)のクルマにして、「NAロードスター」のベースグレードとタメをはれるくらいチープ。デートにも、買い出しにも使えないクルマ。それがダッジ・バイパーである。
ここまで読まれた皆さんは、きっとこう思うだろう。「じゃあなんで持ってんだよ?」と。そんなもん、某スーパーカーオーナーじゃあるまいし、生涯貯金(2016年10月23日時点)の半分をつぎ込んで手に入れたクルマを、ひと月半で手放せるか! ……というのは冗談で(半分ホントだが)、なんだかんだ言って、このクルマが気に入っているのである。(後編へ続く)
(webCGほった)

堀田 剛資
猫とバイクと文庫本、そして東京多摩地区をこよなく愛するwebCG編集者。好きな言葉は反骨、嫌いな言葉は権威主義。今日もダッジとトライアンフで、奥多摩かいわいをお散歩する。
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