スバル・インプレッサG4 1.6i-L EyeSight(4WD/CVT)
スッピンの魅力 2017.05.10 試乗記 “素のグレード”の出来栄えにこそ、そのモデルの実力が表れる。スバルのCセグメントセダン「インプレッサG4」のエントリーモデル「1.6i-L EyeSight」に試乗。その走りや装備の充実度、静的質感などを通して、スバルの最新モデルの地力に迫る。思い出のテンロク水平対向
いきなり私事で恐縮だが、かつてわが家には「スバル・レオーネ」があった。もちろんそれは私のではなく父の愛車で、1977年当時の話である。モデルは初代の後期型で、丸目4灯のサッシュレス4ドアセダン。当時のスペックを確認すれば、エンジンは1.6リッターの水平対向4気筒OHV、最高出力は95ps、最大トルク12.3kgmとある。
その頃ちょうど小学生だった私は、「どうしてウチのクルマはこんなにもカッコ悪いんだ」と嘆いていた記憶がある。同級生の家のクルマを見ると、日産党であれば「ブルーバード」や「スカイライン」、トヨタ党であれば「カローラ」や「コロナ」というラインナップが人気だった。幼少期の私の目にレオーネはひどくカッコ悪く映り、したがって、よその家のクルマがうらやましかった。
それから年を経て多少クルマというものが分かるにつれて、ウチのオヤジはなかなかの好き者であったことが分かってきた。なにせわが家のマイカーといえば、レオーネの前は「ホンダ1300 99」だった。本稿テーマ車とはもはや一切関係ないので、興味のある方は時間の許すときにでも各自で調べていただきたいが、ホンダの99といえば、1.3リッターのオールアルミ製空冷直4を搭載したFFと、今考えてもなかなかマニアックなメカニズムを採用していたのである。
さて、現行型インプレッサだ。フルモデルチェンジ時は2リッターモデルのみのラインナップだったが、エントリー版ともいうべき1.6リッターモデルも、昨年12月から販売が開始されている。「スポーツ」「G4」ともに価格は同一で、FF車は192万2400円からという戦略的な値付けも注目された。
私にとっては、実に40年の時を経てレオーネと同じスバルの1.6リッターモデルに乗ることになり(無論当時は運転できなかったワケだが)、それがどことなく懐かしく、感慨深い。歴史をひも解けば、レオーネの正当な後継モデルが「レガシィ」なのは明白だが、サイズに関していえば、このインプレッサでもレオーネに比べれば大きすぎるぐらいである。
ただ安いだけではない
今回連れ出したインプレッサG4 1.6i-L EyeSightに搭載されるエンジンは、最高出力115ps、最大トルク148Nmと、くしくも先代モデルと同じスペックである。2リッターモデルのそれが直噴化されたのに対して、こちらはオーソドックスなEGIのままで、一見先代モデルからのキャリーオーバーにも思えるが、実際には大幅な改良が施されており、構成部品の約9割が変更となっているという。パワーとトルクの数値は同じだが、最高出力の発生回転数は600rpm引き上げられた6200rpm、最大トルクは400rpm下がった3600rpmという点、そして数値に表れないレスポンスやフィーリングなどで違いを見せているとスバルは言う。
そんな1.6リッターエンジン搭載車は、平たく言えば廉価バージョンだ。しかし、エントリーモデルが単に安いだけの代物ではないのがスバル。このモデルであっても、直感的な操作が可能で、日本で最も使いやすく、(西日に弱いなどのウイークポイントはあるものの)すこぶる実用的なADAS(先進運転支援システム)であるといえる進化したアイサイトは標準装備となるし、駆動方式についてもFFと4WDの両方をラインナップ。内外装ともにエントリーモデル臭漂うチープな箇所はさほど見受けられず、2リッター版と比較しても205/50R17サイズのタイヤが1インチダウンの205/55R16になった程度と、外観上の差も多くない。
2リッターモデル比で39psダウンとなるパワーは、確かに加速シーンなどで、アクセル開度の違いとなってその差が印象付けられる。同じような加速を求めると、どうしてもよりペダルを踏み込む必要がある。約25%ダウンの最高出力と、1360kg(4WD)という1.6リッターモデルにしては決して軽くない車重が影響しているといえそうだ。しかし、それはあくまでも比較論であって、単体で見れば1.6リッターモデルが非力だという印象にはならない。
遅くはないが、速くもない
そうしたフィーリングには、CVTの緻密な制御が貢献しているはずだ。「エンジンは回っているのに加速がついてこない」という、CVTに独特な「ラバーバンドフィール」と呼ばれるネガな感覚は薄く、非力さもさほど感じない。逆に加速フィールと実際の速度のシンクロ率は予想以上に高く、従来モデルで覚えたような件(くだん)の違和感は少なかった。確かに、最近の出来が良すぎる多段ATのようなダイレクト感やクリック感にかなうものではないが、実用的なトランスミッションとしてみれば、もはやCVTだからとそれを毛嫌いする必要もなさそうだ。
とはいえ、もちろん決して速くもないので(そこはやはり115psなりだ)いささか表現が難しいのだが、2リッターの154psまではいかずとも、「実用レベルでのパワーはこれで十分」と思わせるだけの力はある。高速道路での追い越しなどは先代モデルとは確かに異なり、後方から迫るクルマにあまり気兼ねすることなく右レーンに打って出られる。
確認したところ、同じ4WD車で比べると、2リッターモデル(2.0iーL EyeSight)との車重の違いはわずか10kg。もちろん1.6リッターモデルのほうが軽いのだが、それは正直に言うと体感できない。ただし、ステアリングに素直に反応するハンドリング特性もあって2リッターモデルより“ヒラリ感”は強い。テスト車に装着されていた、転がり抵抗の少ないタイヤ(ブリヂストンの「トランザT001」でサイズは205/55R16)も関係しているだろう。ドライ路面では十分なスタビリティーを保ちながら、乗り心地がよくロードノイズも少ない、快適な走りをもたらしてくれる。
一方、2リッターモデルでは標準装備となる、2つの走行モードからなるドライブセレクトシステム「SI-DRIVE」は、1.6リッターではオトコらしく省略。これはしかし、どのシーンであっても全く問題なく、欲しい、または使用したいとさえ思わせなかった。そういえば、以前「レガシィ アウトバック」に1年ほど乗っていた期間があったのだが、その時もほとんどSI-DRIVEは「I」(インテリジェントモード)に入れっぱなしで、あまり使った記憶がない。それを考えると、これは人にもよるだろうが、実用性重視の2リッターモデルでもSI-DRIVEの使用頻度はあまり高くないかもしれない。
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“実用ターボ”を試してみたい
インプレッサにはスバルの良心が詰まっているような気がする。ドアを開けてシートに座った瞬間にスッと決まるシートポジションには、やはり“ドライバーファースト”という理念を感じる。ダッシュボードや、チルト&テレスコピックの可動範囲が大きなステアリングホイールの質感は、先代に比べて大幅に向上しており、オシャレだったりカッコ良かったりというほどではないが、簡単に言えばイイモノ感にあふれている。価格を聞けば二度ビックリするだろう。1.6i-L EyeSightは、200万円ちょっと(正しくは4WDで213万8400円)で、アイサイトver.3を含む充実した装備をかなえているのだ。おなじみの0次安全性を考慮した視界やユーザーインフォメーションは、もちろんスバルの流儀で保たれている。コストパフォーマンスの高さはライバルから抜きんでている。
総じてインプレッサG4のエントリーグレードは、スタイリッシュなスポーツと比べてスタイリングも地味だが、実にツウ好みというか、玄人ウケしそうなモデルである。一般的に欧州車、特にイタリア車やフランス車は軒並みベーシックモデルの評価が高いが、そんな欧州車に通じる“スッピンの魅力”さえ感じる。少々褒めすぎのようだが、これが偽らざる印象だ。
ただ、最大トルクの発生回転数は先代モデルより低めに設定され、CVTの進化と合わせてパワートレインの使いやすさは幾分向上しているが、このエンジンがフォルクスワーゲンのような小排気量ターボであったなら、最高速はともかく、街乗りでは格段に乗りやすくなりそうだとも想像できる。このあたりに余裕が出ると「なにもわざわざドイツの小型車に乗らなくてもインプレッサで十分」とさえ言えるようになるだろう。
綿々とターボエンジンを作り続けてきたスバルの、実用性を最優先した本気のターボが見てみたい。今思い出しても変なカタチをしていたわが家のレオーネから40年、あのクルマと同じく1.6リッターの水平対向エンジンを搭載する、あのクルマとは比べものにならないほどに洗練されたスバルの最新モデルに乗りながら、そんなこともつい考えてしまうのだ。
(文=櫻井健一/写真=荒川正幸/編集=堀田剛資/撮影協力=河口湖ステラシアター)
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テスト車のデータ
スバル・インプレッサG4 1.6i-L EyeSight
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4625×1775×1455mm
ホイールベース:2670mm
車重:1360kg
駆動方式:4WD
エンジン:1.6リッター水平対向4 DOHC 16バルブ
最高出力:115ps(85kW)/6200rpm
最大トルク:148Nm(15.1kgm)/3600rpm
タイヤ:(前)205/55R16 91V/(後)205/55R16 91V(ブリヂストン・トランザT001)
燃費:17.0km/リッター(JC08モード)
価格:213万8400円/テスト車=274万8708円
オプション装備:LEDヘッドランプ+本革巻きステアリングホイール&セレクトレバー+クリアビューパック+キーレスアクセス&プッシュスタート(16万2000円) ※以下、販売店オプション フロアカーペット(3万0240円)/パナソニックビルトインナビ(23万4360円)/ETC車載器(3万2184円)/リアビューカメラ(1万7280円)/LEDアクセサリーライナー(2万7000円)/パナソニックフロント2スピーカー+2ツイーター(6万4584円)/リア2スピーカー(4万2660円)
※販売店オプションの装着には、別途付属品や工賃が必要。
テスト車の年式:2017年型
テスト開始時の走行距離:3041km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(7)/山岳路(1)
テスト距離:319.5km
使用燃料:26.5リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:12.1km/リッター(満タン法)/13.3km/リッター(車載燃費計計測値)
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櫻井 健一
webCG編集。漫画『サーキットの狼』が巻き起こしたスーパーカーブームをリアルタイムで体験。『湾岸ミッドナイト』で愛車のカスタマイズにのめり込み、『頭文字D』で走りに目覚める。当時愛読していたチューニングカー雑誌の編集者を志すが、なぜか輸入車専門誌の編集者を経て、2018年よりwebCG編集部に在籍。
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