ポルシェ911カレラGTS(RR/7AT)
ココロがときめく911 2017.10.12 試乗記 最高出力450psを発生する「911カレラGTS」に試乗。スポーツカーのサラブレッド「ポルシェ911」の中でも高性能モデルと位置づけられる駿馬(しゅんめ)は、どんな走りを見せるのか? さまざまな道でむちを当てた。男のロマンをかき立てる
ターボ化された911(991.II)に加わったGTSは、「カレラS」が快適になりすぎたとお嘆きの、しかし「GT3」ではハードコアにすぎるという、911ユーザーとそのファンの鬱屈(うっくつ)を解消するためのモデルである。2015年に登場した991後期型と並行して開発されていたのだろう。クーペとカブリオレの後輪駆動と4WD、それに4WD専用のタルガの計5種に一挙どどーんと、車名の最後にGTSと名の付くスポーティーバージョンが用意され、日本でも2017年2月から販売開始となった。
ざっとおさらいすると、ボディーは基本的に4WDの「カレラ4」、つまりリアの膨らみがよりセクシーなワイドトレッドをベースとし、アクティブサスペンションのPASMを標準にして車高を20mm下げ、運動性能を上げている。3リッターのフラット6ターボは新開発のターボチャージャーを装着することで、カレラS比30psアップの最高出力450psを発生。フロントのスポイラーはより低く、リアの格納式スポイラーはより高く天に向かって屹立(きつりつ)し、前後のダウンフォースを稼ぐ。
もしも、いわゆる男のロマンのメーターというものがあったら、これだけでかなりギュウウンッと跳ね上がるのではあるまいか。しかもスポーツエキゾーストシステムが標準装備され、ここが肝心なところだけれど、遮音材が減らされている!
音だけでもワクワクする
インテリアも見どころのひとつだ。ドアを開けるとそこにアルカンターラの世界が広がる。そこに行けばどんな夢もかなうという……のはガンダーラですが、あれはどのタイプのGT3だったか、初めてアルカンターラで覆われたステアリングホイールを握った時、手のひらがステアリングに張り付いて絶対に滑らないであろう、バックスキンのような合成皮革であるアルカンターラのもたらす安心感と、触感それ自体の心地よさに、ステアリングから手を放したくなく、いつまでも握っていたい、と思ったものだった。
虎ノ門の超高層ビルの地下駐車場で、私はポルシェ ジャパンの広報車の1台である濃紺のカレラGTSクーペに乗り込んだ。スターターキイをひねったその瞬間、リアからの爆裂音が一発ヴァフォンッ! と閉ざされた空間の中でとどろいた。同時にタコメーターの針が9000rpmと書かれた右端までヒュンッと振り切れ、それからアイドルを開始した。アイドルはやがて静かになった。けれど、爆裂音を聞いた刹那(せつな)、脳内には快楽物質があふれ始めた。水冷フラット6のエンジン音に心がかき乱される。ざわつく。それはそうなんである。自動車、なかんずくスポーツカーとは本来、冒険なのである。
地下駐車場から地上に出ると、芝方面を目指して首都高速に上がった。硬い。硬いよ、乗り心地が。タイヤは「Pゼロ」、サイズは前245/35、後ろ305/30の、いずれもZR20という超偏平、超大径である。サイズ自体は991.IIのカレラSが登場した時に拡大されている。ということは、この硬さはタイヤによるものではなくて、ピュアに引き締められた足まわりによるものなのである。PASMは前述したように車高が20mm低められているわけだけれど、クーペの場合、さらに10mm低いスポーツサスペンションが採用されている。
MR車のごときコーナリング
乗り心地が硬くて、エンジン音が大きい。まるで、昔の911みたいなのだ。昔って、いつのこと? と問われると答えに窮する。空冷まではいくらなんでもさかのぼらない。997ぐらいだろうか。あるいは、男たち(女性もいらっしゃるかもしれない)が思い描く理想の911、どこにも実在しないけれど、なんとなくみんながこれぞ911だと想像しているような愛の国の911、そういうものとしてGTSは開発されているように筆者には思われる。
全開走行をほんの一瞬なりとも試みると、胸がすく、というのはこういうことをいうのだ、というえもいわれぬ感情にとらわれた。例によってドライブモードはノーマルからS、S+まである。
Sで十分、ワクワクドキドキがいや増した。それは、映画『007』を見ているようなトキメキ。映画館ではジェームズ・ボンドの活躍を見ているだけだけれど、911カレラGTSのドライバーズシートのスクリーンはジェームズ・ボンドの視点を映し出す。コーナーがみるみる迫る。ハイライトはブレーキをかけた時に訪れる。Sモードで減速するとPDKが自動的にブリッピングを入れながらダウンシフトする。ヴァフォンッ! ヴァフォンッ! コーナーを抜けたら、全開だ! 超高性能スポーツカーならではの高揚と陶酔。PDKにはGTS独自のプログラミングが設定され、レスポンスがより速くなっている。
峠道ではオプションのリアアクスルステアリング(4輪操舵、または4WS)を装備する恩恵でだろう、ほとんどミドシップのごとくに旋回する。もっと小さいものに乗っている感覚。カレラGTSには、PDKと一体化したトルクベクタリング等、ヴァイザッハが開発した、より敏しょうに動ける仕掛けがいくつも施されている。
やっぱりいいなと思わせる
フラット6は完全バランスであるがゆえ、レブリミットの7000rpm近くまで引っ張っても、極めてスムーズに回りきる。イヤな感じのバイブレーションというものがみじんもない。それでいて、ガスペダルを閉じると、ガボガボガボッとガソリンを飲み込むみたいなレーシーなサウンドを発したりする。機械はあくまでなめらかなまま、音の演出でもってドライバーをナルシシズムの世界に引きずり込む。
カレラGTSクーペ(PDK)の場合、車両本体価格は1788万円である。カレラSのPDKは1584万1000円だから、203万9000円の差がある。一方のGT3のPDKは2115万円と、その差327万円。でも、ちょっと待ってください。テスト車の場合、オプションがあれやこれやと付いている。
例えば、ポルシェ・ダイナミックシャシー・コントロールシステム(PDCC)、58万4000円。PDCCはアクティブ制御によるロール抑制システムである。だから、山道であんなに安定していたのだ。4WSは40万9000円。あとはBOSEのサウンドシステムの25万8000円とか、舵角に応じて照射角度を自動的に変えるPDLS付きアクティブヘッドライト、45万5000円などが値の張るもので、ほかにもシートヒーターやらかんやらのオプションを足すと200万円を超える。
カレラGTSはあらかじめポルシェの持っているオプションその他の装備を織り込んだお買い得仕様でもある、と書こうかと思ったのですが、どうやらそういうことでもないようである。ポルシェは憧れであり、成功者のシンボルであるからして、お金のことはいいから、ということなのである、ざっくり申し上げて。それらによって、911カレラGTSはフェラーリのV8モデルに匹敵するようなトキメキを与えてくれる。それはスポーツカーにとどまらず、自動車ってやっぱりいいなぁ、と思わせるスケール感のある感動なのだった。
(文=今尾直樹/写真=荒川正幸/編集=関 顕也)
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テスト車のデータ
ポルシェ911カレラGTS
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4528×1852×1284mm
ホイールベース:2450mm
車重:1470kg
駆動方式:RR
エンジン:3リッター水平対向6 DOHC 24バルブ ターボ
トランスミッション:7段AT
最高出力:450ps(331kW)/6500rpm
最大トルク:550Nm(56.1kgm)/2150-5000rpm
タイヤ:(前)245/35ZR20 91Y/(後)305/30ZR20 103Y(ピレリPゼロ)
燃費:8.3リッター/100km(約12.0km/リッター、NEDC複合サイクル)
価格:1788万円/テスト車=2010万7000円
オプション装備:ナイトブルーメタリック(21万4000円)/ポルシェ・ダイナミックシャシー・コントロールシステム<PDCC>(58万4000円)/リアアクスルステアリング(40万9000円)/パワーステアリング(4万8000円)/シートヒーター<フロント左右>(8万6000円)/フロアマット(3万3000円)/アルミペダル(6万3000円)/BOSEサラウンドサウンドシステム(25万8000円)/PDLS付きLEDヘッドライト<ブラック>(45万5000円)/ドアミラー下部ペイント仕上げ(7万7000円)/20インチ カレラSホイール(0円)
テスト車の年式:2017年型
テスト開始時の走行距離:3159km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(8)/山岳路(1)
テスト距離:412.9km
使用燃料:44.6リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:9.3km/リッター(満タン法)

今尾 直樹
1960年岐阜県生まれ。1983年秋、就職活動中にCG誌で、「新雑誌創刊につき編集部員募集」を知り、郵送では間に合わなかったため、締め切り日に水道橋にあった二玄社まで履歴書を持参する。筆記試験の会場は忘れたけれど、監督官のひとりが下野康史さんで、もうひとりの見知らぬひとが鈴木正文さんだった。合格通知が届いたのは11月23日勤労感謝の日。あれからはや幾年。少年老い易く学成り難し。つづく。
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