メルセデス・ベンツC180アバンギャルド(FR/9AT)/C200アバンギャルド(FR/9AT)/C220dステーションワゴン アバンギャルド(FR/9AT)/AMG C43 4MATICクーペ(4WD/9AT)
ため息が出る 2018.10.06 試乗記 精神的支柱は「Sクラス」かもしれないが、メルセデス・ベンツの販売の柱といえば「Cクラス」をおいてないはずだ。そのCクラスがマイナーチェンジを受けた。電動化モデルも投入された改良型の出来栄えを、雨の軽井沢で試す。目に見えない変更点が6500
7月にオープンしたばかりの軽井沢のホテルに大勢のモータージャーナリストを招き、新型Cクラスをズラリとそろえた大がかりな試乗会である。気合の入りようから、メルセデス・ベンツがCクラスをいかに重要と考えているかが伝わってきた。2014年にデビューした現行モデルは、「セダン」と「ステーションワゴン」を合わせて累計6万9000台が日本で販売されたという。SUVが売れ筋になろうとも、メルセデス・ベンツの屋台骨となっているのはオーセンティックな車型なのだ。
今回のマイナーチェンジでは「クーペ」と「カブリオレ」を含む4バリエーションが同時にリニューアルされたということで、試乗会場には「C63」シリーズ以外のすべてのモデルが集められた。ボディータイプが4種類にパワーユニットも4種類あるから全モデルには乗れない。クーペとカブリオレはどちらかしか選べなかったので、残念ながらオープンモデルの試乗はできなかった。
6500にも及ぶ改良点があるというが、目に見える部分は少ない。エクステリアデザインはほとんど変わっていないのだ。現行型のスタイルが好評で、むやみにイジる必要がなかったということだろう。基本デザインがダメだと、マイチェンで手を加えてさらに悪化するものだ。細かい変更はあって、わかりやすいところでは「AMGライン」にダイヤモンドグリルが採用されている。セダンのリアコンビネーションランプは「C」の文字をモチーフにしたデザインになった。
インテリアや安全装備などさまざまなところに手が入れられているものの、最大のトピックはパワーユニットの進化だろう。中でも注目されるのは「C200」で、従来の2リッターターボから1.5リッターターボへと変更されている。排気量は下げられたが、新たにマイルドハイブリッドを採用している。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
「S450」とは違うマイルドハイブリッド
ヨーロッパで各メーカーやサプライヤーが躍起になって推進している48V電気システムが使われている。メルセデス・ベンツでは、すでに「S450」で採用されていた。ただし、C200のシステムはそれとは全く違うものだ。S450で使われたのは、「ISG(インテグレーテッド・スターター・ジェネレーター)」をエンジンに組み込み、電動補助チャージャー(eAC)まで加えた複雑怪奇な機構である。コストがかかりすぎて、Cクラスに適用するのは無理がある。
C200に採用されたのは、ISGではなく「BSG(ベルトドリブン・スターター・ジェネレーター)」である。ベルトを介してクランクシャフトと接続され、スターターとジェネレーターの役割を担う。回生ブレーキで発電した電気は容量1kWhのリチウムイオン電池に蓄えられ、ターボの効力が発生しない低回転時にアシストを行う仕組みだ。ギアシフト時に素早く回転数をそろえる効果もあるという。
エンジン単体では最高出力184ps、最大トルク280Nmだが、モーターの14psと160Nmが加わるので従来の2リッターターボを上回る計算だ。スターターボタンを押すと、即座にエンジンが始動した。「トヨタ・プリウス」などのストロングハイブリッドとは違い、モーター単体で走行することはできない。電動車だと思わせる要素は薄く、運転感覚は通常のガソリン車と同じだ。
モーターは前面に姿を現さず、あくまで裏方として働いている。発進時のレスポンスは、明らかにガソリン車より優位に立つ。1.6リッターターボの「C180」はもちろんのこと、2リッターディーゼルターボの「C220d」や3リッターV6ツインターボの「AMG C43」と比べても素早い動きを見せる。S450に乗ったときも感じたが、瞬時にパワーが立ち上がらないというガソリンエンジンの弱点をモーターが見事にカバーしている。
エンジン始動時の振動を解消
コーナーが連続する登り坂でも、ハイブリッドシステムのメリットが如実に表れる。立ち上がりのよさは明らかで、スポーティーさが際立つ。絶対的な速度はたかが知れているが、軽快感が心地よい。軽井沢はあいにくの雨で霧も発生したが、ワインディングロードを楽しんで走ることができた。モーターが回転数を速やかに上昇させることで9段ATの変速がスムーズに行われることも、ドライバビリティーの向上に役立っているのだろう。
48Vシステムの威力が発揮されるのは、走りの場面だけではない。従来モデルはアイドリングストップからの復帰でボディーが大きく揺れるのが“ガッカリポイント”だったが、それが解消されている。大きなモーターにより余裕をもってエンジン始動ができることが、ハイブリッドのありがたみである。高級感を損なう振動を解消したのは、大きなアドバンテージになる。
スポーティーということではC43のハイパワーも魅力的である。3リッターV6ツインターボエンジンはターボの大型化などで従来型より23psアップの390psを得ており、圧倒的な力強さを誇る。C200の軽快さとは異なる濃厚でコッテリとした強烈さを感じさせる。雨の中ではあまり飛ばす気にはならなかったが、31:69というリア寄りのトルク配分を行う四輪駆動システムは頼れる存在だ。
C220dの2リッターディーゼルターボエンジンもリファインされている。排気量を下げているが、最高出力は24ps増の194psにアップ。シリンダーのアルミ化などによって重量が約16%減少していることも走行性能の向上に寄与しているという。スポーティーとは言いにくいが、日常使いでは最も乗りやすいと感じた。肩肘張らずに乗るには、ゆったりとした乗り味を持つクラシックなメルセデスらしさに価値がある。
日本の事情に合わせた変更も
唯一パワーユニットの変更がアナウンスされていないのがC180である。1.6リッターターボエンジンを搭載するこのモデルは魅力に乏しいのかというと、そんなことはない。最高出力は156psにすぎないが、9段ATの働きによって十分な動力性能が保証される。ほかのモデルと同様の上質なインテリアや先進的な安全装備が500万円を切る価格で手に入ることは歓迎すべきだ。
多岐にわたる変更点を余すことなく紹介することはできない。Sクラスと同レベルのインテリジェントドライブが採用され、テレマティクスサービスの「Mercedes me connect」が全モデルに標準装備されるなど、安全性や快適性の面でも充実は著しい。細かいところでは、衝突時の衝撃音による耳の負荷を低減する仕組みが採用されている。衝突を検知するとスピーカーから音を出して防御反応のアブミ骨筋反射を引き起こすというのだが、なんとも微細なところに目をつけたものだ。日本車もかくやというおもてなし機能である。
日本の事情に合わせた変更もある。ごく一部のグレードを除いてランフラットタイヤが廃止されたのだ。日本の道路状況ではパンクの発生率は高くない。乗り心地が硬くなりがちなランフラットタイヤを使うメリットが感じられにくいという事実を本国ドイツに説明し、変更を実現させたそうだ。文句なしの販売実績を持っているからこそ、要求が通りやすかったのだろう。
4台を乗り比べてみると、Cクラスのバリエーションの幅広さにあらためて気づかされる。車型とパワーユニットの組み合わせで多様性に満ちたラインナップが生まれ、選択肢が広い。価格を見ても、最大で3倍ほどの開きがある。同一性を保ちながらバリエーションを増やすという王者の戦略だ。Cクラスだけで一つの広大な生態系を構成している中に、BSGという新たな武器を備えたモデルが加わった。あまりの盤石ぶりにため息が出る。
(文=鈴木真人/写真=郡大二郎/編集=藤沢 勝)
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
テスト車のデータ
メルセデス・ベンツC180アバンギャルド
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4686×1810×1445mm
ホイールベース:2840mm
車重:1550kg
駆動方式:FR
エンジン:1.6リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:9段AT
最高出力:156ps(115kW)/5300rpm
最大トルク:250Nm(25.5kgm)/1200-4000rpm
タイヤ:(前)225/45R18 94W/(後)245/40R18 94W(ブリヂストン・トランザT001)
燃費:--km/リッター
価格:489万円/テスト車=604万6000円
オプション装備:スペシャルメタリックペイント<ヒヤシンスレッド>(19万5000円)/レーダーセーフティーパッケージ(20万1000円)/ベーシックパッケージ(19万8000円)/AMGライン(34万6000円)/パノラミックスライディングルーフ<挟み込み防止機能付き>(21万6000円)
テスト車の年式:2018年型
テスト開始時の走行距離:1245km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター
メルセデス・ベンツC200アバンギャルド
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4686×1810×1442mm
ホイールベース:2840mm
車重:1590kg
駆動方式:FR
エンジン:1.5リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
モーター:交流同期電動機
トランスミッション:9段AT
エンジン最高出力:184ps(135kW)/5800-6100rpm
エンジン最大トルク:280Nm(28.6kgm)/3000-4000rpm
モーター最高出力:14ps(10kW)
モーター最大トルク:160Nm(16.3kgm)
タイヤ:(前)225/45R18 95Y/(後)245/40R18 97Y(コンチネンタル・コンチスポーツコンタクト5)
燃費:--km/リッター
価格:552万円/テスト車=694万8000円
オプション装備:メタリックペイント<モハーベシルバー>(9万1000円)/レーダーセーフティーパッケージ(20万1000円)/AMGライン(37万円)/レザーエクスクルーシブパッケージ(55万円)/パノラミックスライディングルーフ<挟み込み防止機能付き>(21万6000円)
テスト車の年式:2018年型
テスト開始時の走行距離:1426km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター
メルセデス・ベンツC220dステーションワゴン アバンギャルド
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4702×1810×1457mm
ホイールベース:2840mm
車重:1650kg
駆動方式:FR
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ディーゼル ターボ
トランスミッション:9段AT
最大出力:194ps(143kW)/3800rpm
最大トルク:400Nm(40.8kgm)/1600-2800rpm
タイヤ:(前)225/45R18 94W/(後)245/40R18 94W(ピレリ・チントゥラートP7)
燃費:--km/リッター
価格:602万円/テスト車=755万2000円
オプション装備:スペシャルメタリックペイント<ダイヤモンドホワイト>(19万5000円)/レーダーセーフティーパッケージ(20万1000円)/AMGライン(37万円)/レザーエクスクルーシブパッケージ(55万円)/パノラミックスライディングルーフ<挟み込み防止機能付き>(21万6000円)
テスト車の年式:2018年型
テスト開始時の走行距離:1824km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(軽油)
参考燃費:--km/リッター
メルセデスAMG C43 4MATICクーペ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4693×1810×1402mm
ホイールベース:2840mm
車重:1675kg
駆動方式:4WD
エンジン:3リッターV6 DOHC 24バルブ ツインターボ
トランスミッション:9段AT
最高出力:390ps(287kW)/6100rpm
最大トルク:520Nm(53.0kgm)/2500-5000rpm
タイヤ:(前)225/40ZR19 96Y/(後)255/35ZR19 96Y(コンチネンタル・コンチスポーツコンタクト5P)
燃費:--/kmリッター
価格:950万円/テスト車=983万円
オプション装備:スペシャルメタリックペイント<ヒヤシンスレッド>(11万4000円)/パノラミックスライディングルーフ<挟み込み防止機能付き>(21万6000円)
テスト車の年式:2018年型
テスト開始時の走行距離:1185km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター

鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。
-
スズキ・クロスビー ハイブリッドMZ(FF/CVT)【試乗記】 2025.11.17 スズキがコンパクトクロスオーバー「クロスビー」をマイナーチェンジ。内外装がガラリと変わり、エンジンもトランスミッションも刷新されているのだから、その内容はフルモデルチェンジに近い。最上級グレード「ハイブリッドMZ」の仕上がりをリポートする。
-
ホンダ・ヴェゼルe:HEV RS(4WD)【試乗記】 2025.11.15 ホンダのコンパクトSUV「ヴェゼル」にスポーティーな新グレード「RS」が追加設定された。ベースとなった4WDのハイブリッドモデル「e:HEV Z」との比較試乗を行い、デザインとダイナミクスを強化したとうたわれるその仕上がりを確かめた。
-
MINIジョンクーパーワークス エースマンE(FWD)【試乗記】 2025.11.12 レーシングスピリットあふれる内外装デザインと装備、そして最高出力258PSの電動パワーユニットの搭載を特徴とする電気自動車「MINIジョンクーパーワークス エースマン」に試乗。Miniのレジェンド、ジョン・クーパーの名を冠した高性能モデルの走りやいかに。
-
ボルボEX30クロスカントリー ウルトラ ツインモーター パフォーマンス(4WD)【試乗記】 2025.11.11 ボルボの小型電気自動車(BEV)「EX30」にファン待望の「クロスカントリー」が登場。車高を上げてSUVっぽいデザインにという手法自体はおなじみながら、小さなボディーに大パワーを秘めているのがBEVならではのポイントといえるだろう。果たしてその乗り味は?
-
メルセデス・ベンツGLB200d 4MATICアーバンスターズ(4WD/8AT)【試乗記】 2025.11.10 2020年に上陸したメルセデス・ベンツの3列シート7人乗りSUV「GLB」も、いよいよモデルライフの最終章に。ディーゼル車の「GLB200d 4MATIC」に追加設定された新グレード「アーバンスターズ」に試乗し、その仕上がりと熟成の走りを確かめた。
-
NEW
「レクサスLSコンセプト」にはなぜタイヤが6つ必要なのか
2025.11.19デイリーコラムジャパンモビリティショー2025に展示された「レクサスLSコンセプト」は、「次のLSはミニバンになっちゃうの?」と人々を驚かせると同時に、リア4輪の6輪化でも話題を振りまいた。次世代のレクサスのフラッグシップが6輪を必要とするのはなぜだろうか。 -
NEW
第92回:ジャパンモビリティショー大総括!(その1) ―新型「日産エルグランド」は「トヨタ・アルファード」に勝てるのか!?―
2025.11.19カーデザイン曼荼羅盛況に終わった「ジャパンモビリティショー2025」をカーデザイン視点で大総括! 1回目は、webCGでも一番のアクセスを集めた「日産エルグランド」をフィーチャーする。16年ぶりに登場した新型は、あの“高級ミニバンの絶対王者”を破れるのか!? -
NEW
ポルシェ911カレラGTSカブリオレ(RR/8AT)【試乗記】
2025.11.19試乗記最新の「ポルシェ911」=992.2型から「カレラGTSカブリオレ」をチョイス。話題のハイブリッドパワートレインにオープントップボディーを組み合わせたぜいたくな仕様だ。富士山麓のワインディングロードで乗った印象をリポートする。 -
NEW
第853回:ホンダが、スズキが、中・印メーカーが覇を競う! 世界最大のバイクの祭典「EICMA 2025」見聞録
2025.11.18エディターから一言世界最大級の規模を誇る、モーターサイクルと関連商品の展示会「EICMA(エイクマ/ミラノモーターサイクルショー)」。会場の話題をさらった日本メーカーのバイクとは? 伸長を続ける中国/インド勢の勢いとは? ライターの河野正士がリポートする。 -
第852回:『風雲! たけし城』みたいなクロカン競技 「ディフェンダートロフィー」の日本予選をリポート
2025.11.18エディターから一言「ディフェンダー」の名を冠したアドベンチャーコンペティション「ディフェンダートロフィー」の日本予選が開催された。オフロードを走るだけでなく、ドライバー自身の精神力と体力も問われる競技内容になっているのが特徴だ。世界大会への切符を手にしたのは誰だ? -
第50回:赤字必至(!?)の“日本専用ガイシャ” 「BYDラッコ」の日本担当エンジニアを直撃
2025.11.18小沢コージの勢いまかせ!! リターンズかねて予告されていたBYDの日本向け軽電気自動車が、「BYDラッコ」として発表された。日本の自動車販売の中心であるスーパーハイトワゴンとはいえ、見込める販売台数は限られたもの。一体どうやって商売にするのだろうか。小沢コージが関係者を直撃!






















































