第584回:旧型の人気も急上昇中!
ヨーロッパで「トヨタ・ランドクルーザー」が愛される理由
2018.12.14
マッキナ あらモーダ!
ランドクルーザーの販売が好調
ヨーロッパにおいて、「トヨタ・ランドクルーザー」を見かける頻度が最も高い都市といえば、フランスのパリである。
70系をベースにした駐車違反取り締まり用レッカー車は、もはや街の風景ともいえる。パリモーターショー2018のフォトギャラリーでも記したが、おかげでランドクルーザーにちょっぴり苦い思い出のあるパリジャン/パリジェンヌのドライバーは少なくないはずだ。
いっぽう今日の欧州圏におけるランドクルーザーの新車販売台数をみると、2018年10月には535台を記録している。前年同月が347台だから、1.5倍以上の伸びである。1月からの累計をみても5969台と、前年同期の4444台を大きく上回っている。価格は例えばフランスの場合、3万7400ユーロ(約480万円)からと、決して安い買い物ではないのに、売れているのだ。
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40系LOVEな人たち
ランドクルーザーは新車だけでなく、欧州のヒストリックカー市場でも人気が高まっている。特に40系に対する関心が上昇中だ。
2018年10月にイタリアのパドヴァで開催されたヒストリックカーショー「アウトモト・デポカ」には、BJ46が出品されていた。「ヨーロッパでは極めて珍しいソフトトップ8座です」と胸を張る。
脇にいたオーナーは、ジョルジョ・スポルヴェリーニ氏。1975年生まれの彼は、4WD車に詳しい自動車ジャーナリストだ。まさに1984年の40系のチャームポイントを聞くに好適の人物である。
質問に彼は「一に頑丈さ、二にスタイル」と即座に答えてくれた。ちなみに彼はランドクルーザーで日本車の信頼性の高さに陶酔し、「スバル・フォレスター」も買ってしまった。何年乗っているか聞くのを失念したが「電球のひとつも切れない」ほど故障知らずという。
ハイブリッド人気も歴代ランクルのおかげ?
実はランドクルーザーで日本車に絶大な信頼を寄せるようになった人といえば、ボクの知人である保険代理店社長のカルロ氏もそうだ。70系の頑強さからトヨタファンとなり、歴代「プリウス」と「オーリス」を経て、現在は現行プリウスに乗っている。ちなみにイタリアではトヨタ製ハイブリッドの主力が「ヤリス(日本名ヴィッツ)」となってしまったため、現行プリウスは先代よりもお目にかかる機会が極めて少ない。それを買ってしまうのだから、彼のトヨタファンぶりがわかる。彼は今も、乗る機会は少なくなったもののガレージに70系を保管している。
参考までにイタリアでは、1990年代にEUの法律が導入されるまで、自国ブランドを保護するために独自の外国車輸入規制が施行されていた。それは事実上日本車を締め出すためのものだったが、乗用車が対象だった。商用車扱いだったランドクルーザーは規制の対象外で、格好の輸入モデルであった。
こうした話から見えてくるのは、前述の現行ランドクルーザーやトヨタ・ハイブリッドの順調な販売も、単に昨今のSUVや環境対策車ブームだけではなく、もとをたどれば旧型ランドクルーザーを体験した人が増え、またその真面目なモノ造りが語り継がれた結果といえよう。
ボナムスのオークションにも
先述したアウトモト・デポカでは、期間中に開催された有名オークションハウス、ボナムスのセールにも、なんと1976年のBJ40型が出品されていた。2018年にフルレストアが施されただけあって、筆者がこれまで見たどの40系よりもコンディションが良好だった。
図録の口上が面白い。「このクルマは、どのようなタイプのコレクションにも最適。かつ、郊外の別荘でのエレガントな足としてもうってつけです」。ランドクルーザーが「エレガント」というのは、先ほどの評論家スポルヴェリーニ氏の「スタイル」という言葉と共通点が見いだせる。
結果は、ほぼ想定の価格圏である1万5819ユーロ(203万0610円。手数料15%込み。消費税22%別)でハンマープライスとなった。だが、並み居るヒストリックカーとともに、ランドクルーザーが並ぶ時代になったのだ。
次は1分の1レプリカ?
コレクターズアイテム絡みでいえば、2018年2月にパリのヒストリックカーショー「レトロモビル」では、40系をモチーフにした子供用ペダルカーが出現した。
これを買ったのを機会に、警察予備隊への納入をもくろんで開発されたところから始まるランドクルーザー史を、えんえんと説明する親。それをおとなしく聞き、理解する子供……。そうした光景を思い浮かべるのは、個人的にはやや困難が伴う。したがって、さらにランドクルーザーブームが盛り上がっても、この縮小版レプリカのブレークにまで至るかは未知数である。
ペダルカーを手がけたのは、普段はサードパーティーとしてランドクルーザーのボディーパーツを製造している業者だった。
勢いついでに、彼らが1分の1の40系レプリカも造れば愉快だろう。「ロータス・セブン」のように複数の工房が手がけ、その出来をめぐり「こっちがいい」「あれはイマイチだ」と論戦が繰り広げられるようになれば、さらに面白い。
(文=大矢アキオ<Akio Lorenzo OYA>/写真=Akio Lorenzo OYA、トヨタ自動車/編集=藤沢 勝)

大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、24年間にわたってリポーターを務めている。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
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