カブリオレ、コンバーチブル、ロードスター……
オープンカーの名前にまつわるあれこれ
2019.01.28
デイリーコラム
オープンカーの名前とスタイルの関連性
2019年1月の東京オートサロンにて展示された、「マツダ・ロードスター ドロップヘッドクーペ コンセプト」。近年では、ロールス・ロイスの一部モデルでしか聞くことのない「ドロップヘッドクーペ」という言葉に、興味を覚えた方もいらっしゃることだろう。
ドロップヘッドクーペとは、自動車のオープンボディーのジャンルのひとつである。特にイギリスでは、クローズドの「フィクスドヘッドクーペ(Fixed Head Coupe:ヘッドが固定されたクーペ)」の対義語のごとく多用されてきた呼称なのだが、それでは「ロードスター」や「スパイダー」「カブリオレ」「コンバーチブル」などとは何が違うのか……? と疑問を持たれる向きも多いかもしれない。
そこで今回は、ガソリンエンジンを搭載した自動車の誕生以前、馬車の時代までさかのぼりつつ、オープンボディーの定義を再確認してみることにしよう。
拡大 |
スパイダー=スピードスター!?
まず、マツダ・ロードスターの車名の由来である「ロードスター(Roadster)」は、スポーツ/乗馬競技用の馬、ないしはスピードを最重視した軽装馬車から転用されたとされる、英語由来の呼称である。翻って自動車の世界では軽量化を最優先した、スパルタンでスポーツ志向の強い2座席オープンを指す。
オープンスタイルがデフォルトとされ、ウインドスクリーンは脱着式、または前方に倒せる可倒式。サイドスクリーンも左右ドア上部に差し込む脱着式で、実用性や耐候性は最小限にとどめられる。加えて、ロードスターの中でも特に速さを強調したモデルは「スピードスター」とも呼ばれ、のちにポルシェのモデル名として定着することになった。
その傍らで、イタリア車に代表される「スパイダー(SpiderないしはSpyder)」というジャンルは、もともとロードスターからの派生といわれている。その呼び名については、スピードスターから変化した……? あるいは「もっと速く走る」という意味の「Speeder」をイタリア風に発音した……? さらには地をはうような低いスタイルがクモを連想させるものだった……? などの諸説が存在するようだ。
拡大 |
きっかけは「ジャガーEタイプ」
一方、主にアメリカから発生したとされる「コンバーチブル(Convertible)」の呼称は、元来サルーンやクーペをベースに改装したオープン版を称したものともいわれるが、1960年代以降はカブリオレの耐候性とロードスターのスポーツ性を兼ね備えた、万能型のオープンカーという意味合いが強くなってきたようだ。スタイリングはロードスター的にスポーティーであっても、サイドスクリーンは巻き上げ式となり、ソフトトップも手動、ないしは電動でワンタッチ操作できるものとなったのだ。
この流れを決定づけた要素のひとつに、英国のジャガーの動きがあるだろう。同社は1950年代の「XK150」まではロードスターとドロップヘッドクーペを併売してきたが、1961年にデビューした偉大な「Eタイプ」では、スポーティー&スタイリッシュで快適性も高い「OTS(オープン2シーター)」に統一。本場アメリカの代表選手「シボレー・コルベット」も同様のキャラクターとなっている。
この現代的コンバーチブルの特質は、マツダ・ロードスターや「アルファ・ロメオ・スパイダー」など、それぞれ異なるカテゴリーを示すネーミングが与えられたモデルにも息づき、2シーター/4シーターを問わず、確実に現代のオープンボディー車における主流となっているのである。
拡大 |
ドロップヘッドクーペはクローズド状態がデフォルト
そして最も耐候性が高くて快適志向、古今東西の高級車ブランドから数多くの名作が輩出してきた「カブリオレ(Cabriolet)」は、馬1頭立ての2人乗りオープン軽装二輪馬車を指すフランス語から転じた呼び名である。現在では英語にも転用されているほか、特にドイツ車では「カブリオ(Cabrio)」と略称される例もある。また、このカテゴリーに属するフランス車の一部では「デカポタブル(Decapotable)」と称するモデルも存在した。
冒頭でお話ししたとおり「ドロップヘッドクーペ(Drop Head Coupe:ヘッドが降りるクーペ)」は、初代「ロータス・エラン」(シリーズ3以降)のごとき偉大な例外はいくつかあるものの、おおむねは欧州大陸におけるカブリオレ的なオープンモデルの英国式表記である。
その名が示すように、ドロップヘッドクーペではソフトトップを閉めたクローズド時のスタイルがデフォルトとされ、雨や寒さにも負けない耐候性を重視。気密性の高い巻き上げ式のサイドウィンドウと、内張りや遮熱・遮音材を張った分厚いソフトトップを特徴とする。ソフトトップでも十分な耐候性が確保されるため、ハードトップのオプション設定がないモデルも少なくない。
つまり、ロードスター的コンバーチブルであるマツダ・ロードスターに取り外し可能なハードトップを追加したドロップヘッドクーペ コンセプトは、伝統を厳密に踏まえて言うならば、ドロップヘッドクーペを名乗ることにいささかの疑問を感じる。むしろ、耐候性の点で申し分ないソフトトップを持つ歴代ロードスターは、すでに全モデルがドロップヘッドクーペであった……ともいえるだろう。
これまでエンスー的な取り組みを数多く行ってきたマツダが、単純に間違えたとは考えにくい。おそらくは旧来のカテゴライズにとらわれることなく、「新しいドロップヘッドクーペ像」を構築しようとしているのであろうか……? 実に興味深いところである。
(文=武田公実/写真=ポルシェ、ロールス・ロイス、webCG/編集=藤沢 勝)
拡大 |

武田 公実
-
「スバルBRZ STI SportタイプRA」登場 500万円~の価格妥当性を探るNEW 2025.11.26 300台限定で販売される「スバルBRZ STI SportタイプRA」はベースモデルよりも120万円ほど高く、お値段は約500万円にも達する。もちろん数多くのチューニングの対価なわけだが、絶対的にはかなりの高額車へと進化している。果たしてその価格は妥当なのだろうか。
-
2025年の一押しはコレ! 清水草一の私的カー・オブ・ザ・イヤー 2025.11.24 この一年間で発売されたクルマのなかで、われわれが本当に買うべきはどれなのか? 「2025-2026日本カー・オブ・ザ・イヤー」の正式発表に先駆けて、清水草一が私的ベストバイを報告する!
-
みんなが楽しめる乗り物大博覧会! 「ジャパンモビリティショー2025」を振り返る 2025.11.21 モビリティーの可能性を広く発信し、11日の会期を終えた「ジャパンモビリティショー2025」。お台場の地に100万の人を呼んだ今回の“乗り物大博覧会”は、長年にわたり日本の自動車ショーを観察してきた者の目にどう映ったのか? webCG編集部員が語る。
-
「アルファ・ロメオ・ジュニア」は名門ブランド再興の立役者になれるのか? 2025.11.20 2025年6月24日に日本導入が発表されたアルファ・ロメオの新型コンパクトSUV「ジュニア」。同ブランド初のBセグメントSUVとして期待されたニューモデルは、現在、日本市場でどのような評価を得ているのか。あらためて確認してみたい。
-
「レクサスLSコンセプト」にはなぜタイヤが6つ必要なのか 2025.11.19 ジャパンモビリティショー2025に展示された「レクサスLSコンセプト」は、「次のLSはミニバンになっちゃうの?」と人々を驚かせると同時に、リア4輪の6輪化でも話題を振りまいた。次世代のレクサスのフラッグシップが6輪を必要とするのはなぜだろうか。
-
NEW
第855回:タフ&ラグジュアリーを体現 「ディフェンダー」が集う“非日常”の週末
2025.11.26エディターから一言「ディフェンダー」のオーナーとファンが集う祭典「DESTINATION DEFENDER」。非日常的なオフロード走行体験や、オーナー同士の絆を深めるアクティビティーなど、ブランドの哲学「タフ&ラグジュアリー」を体現したイベントを報告する。 -
NEW
「スバルBRZ STI SportタイプRA」登場 500万円~の価格妥当性を探る
2025.11.26デイリーコラム300台限定で販売される「スバルBRZ STI SportタイプRA」はベースモデルよりも120万円ほど高く、お値段は約500万円にも達する。もちろん数多くのチューニングの対価なわけだが、絶対的にはかなりの高額車へと進化している。果たしてその価格は妥当なのだろうか。 -
NEW
「AOG湘南里帰りミーティング2025」の会場より
2025.11.26画像・写真「AOG湘南里帰りミーティング2025」の様子を写真でリポート。「AUTECH」仕様の新型「日産エルグランド」のデザイン公開など、サプライズも用意されていたイベントの様子を、会場を飾ったNISMOやAUTECHのクルマとともに紹介する。 -
NEW
第93回:ジャパンモビリティショー大総括!(その2) ―激論! 2025年の最優秀コンセプトカーはどれだ?―
2025.11.26カーデザイン曼荼羅盛況に終わった「ジャパンモビリティショー2025」を、デザイン視点で大総括! 会場を彩った百花繚乱のショーカーのなかで、「カーデザイン曼荼羅」の面々が思うイチオシの一台はどれか? 各メンバーの“推しグルマ”が、机上で激突する! -
NEW
ポルシェ911タルガ4 GTS(4WD/8AT)【試乗記】
2025.11.26試乗記「ポルシェ911」に求められるのは速さだけではない。リアエンジンと水平対向6気筒エンジンが織りなす独特の運転感覚が、人々を引きつけてやまないのだ。ハイブリッド化された「GTS」は、この味わいの面も満たせているのだろうか。「タルガ4」で検証した。 -
ロイヤルエンフィールド・ハンター350(5MT)【レビュー】
2025.11.25試乗記インドの巨人、ロイヤルエンフィールドの中型ロードスポーツ「ハンター350」に試乗。足まわりにドライブトレイン、インターフェイス類……と、各所に改良が加えられた王道のネイキッドは、ベーシックでありながら上質さも感じさせる一台に進化を遂げていた。




