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第556回:スバルは「リアル」な雪国を走る
日本有数の豪雪地帯で4WDの伝統と実力を再確認

2019.02.23 エディターから一言 高平 高輝
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今回「スバルテックツアー」と銘打たれた雪上試乗イベントで、山形市内から乗り換え地点(昼食会場)までの試乗車となった「フォレスター アドバンス」。
今回「スバルテックツアー」と銘打たれた雪上試乗イベントで、山形市内から乗り換え地点(昼食会場)までの試乗車となった「フォレスター アドバンス」。拡大

降雪地帯の日常を知るために、訪れたのは山形県だった。実は月山の北東麓に位置する肘折温泉は、昨2018年2月に445cmという観測史上4位の積雪を記録した、日本でも有数の豪雪地帯である。クルマにも人間にも厳しい環境下におけるロングドライブで、スバルが長年培ってきた4WDの実力を試してみた。

中継地点となる肘折温泉に行く途中、スバルテックツアー参加者一行が立ち寄った銀山温泉。昭和の古き良き温泉街のイメージが、そこには残されていた。
中継地点となる肘折温泉に行く途中、スバルテックツアー参加者一行が立ち寄った銀山温泉。昭和の古き良き温泉街のイメージが、そこには残されていた。拡大
「スバルff-1 1300G 4WD」(プロトタイプ)の雪上テスト映像。テストは昭和46年に、今回のルート近くとなる月山で行われたという。今に続くスバルAWDの原点である。
「スバルff-1 1300G 4WD」(プロトタイプ)の雪上テスト映像。テストは昭和46年に、今回のルート近くとなる月山で行われたという。今に続くスバルAWDの原点である。拡大
先代から継承したSUVスタイルを持つ「フォレスター」のボディーサイズは、全長×全幅×全高=4625×1815×1730mm(ルーフレール装着車)、ホイールベースは2670mmとなっている。試乗車はモーターアシスト機能付きパワーユニット「e-BOXER」を搭載した「アドバンス」だった。
先代から継承したSUVスタイルを持つ「フォレスター」のボディーサイズは、全長×全幅×全高=4625×1815×1730mm(ルーフレール装着車)、ホイールベースは2670mmとなっている。試乗車はモーターアシスト機能付きパワーユニット「e-BOXER」を搭載した「アドバンス」だった。拡大
数m先も見えないような吹雪に見舞われ、視界が奪われると、スバル自慢のアイサイトも“認識不能”との警告が表示される。
数m先も見えないような吹雪に見舞われ、視界が奪われると、スバル自慢のアイサイトも“認識不能”との警告が表示される。拡大

一般道でこそわかる真実

スバルの雪上試乗会は、他の同様のものとは違う。世界販売の98%を占める自慢のAWD(4WD)モデルの実力を体験してもらうのが狙いであることは言うまでもないが、テストコースなどのクローズドコースではなく、現実の一般公道を走り「リアルワールド」を体験できるのがユニークだ。

この時期、凍結した湖上や北海道の特設コースなどで行う“雪上試乗会”は珍しくはないが、ついでにちょこっと一般道をひとまわり、ぐらいが関の山で、変化する天候の中でさまざまな路面コンディションが現れる本当の雪道をおなか一杯走ることはまず難しい。ずっと前からどこかが企画してくれないかと期待していたのだが、スバルが昨年から乗り出してくれた。さすがは4WDを“家業”とするスバルである。

もちろん、特設コースでの雪上試乗会にもメリットはある。ほとんど雪道の経験がないドライバーでも安心して試せるのが一番大きな利点だ。安全に“限界”を経験できることも挙げられるが、いっぽうで箱庭的なコースではウインタードライブのごく一面しか経験できず、そこを何周かしただけで「やっぱり4WDはすごい!」と手放しで喜ぶのは、まあ経験ある人には無理な話だ。

そもそも、せっかく安全に試すことができるクローズドの特設コースを設営するなら、4WDではなくても簡単に乗り越えられるモーグル路などではなく、限界を体感できる難コースも作るべきではないかと思う。自分たちの製品の長所をアピールしたいのは当然ではあるけれど、できることとできないことを知らしめることが大切なはずである。

だったら両方やればいいじゃないか、というのはもちろん正論だが、厄介なのは一般道をある程度の距離を走る試乗会は何より主催者側の負担が大きいことだ。準備と実際のオペレーション、万一のアクシデントの場合の対応などを考えれば、特定の場所で行うものと、一般車が行き交う公道を丸一日走るものとでは手間暇もリスクも大違いである。だからこそスバルの英断が際立つ。何より冬の山間部は天候が急変するリスクもある。

実際に今回も肘折温泉に登る山道では、一時数m先も見えないような吹雪に見舞われた。視界が真っ白くなると、スバル自慢のアイサイトもたちまち音を上げ、“認識不能”との警告が表示された。カメラのみの検知方式はこういう状況ではお手上げだから仕方がないが、それも合わせて体験できることが、繰り返すが重要なのである。雪国に暮らす人は日常的にそんな場面に遭遇している。AWDもADASもスタッドレスタイヤも大変ありがたい装備ではあるが万能ではないということを忘れてはいけない。

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それは不運ではない

では猛烈な吹雪や、除雪が追い付かないような激しい降雪に遭遇した場合、ドライバーはどうすればいいのか。答えは実は簡単、無理に運転を続けることなく、できるだけ安全なところに速やかにクルマを止め、状況が改善するのを待つしかない。

本来はそのような悪天候の可能性がある場所は避けるのが第一だが、誰も好き好んで吹雪の中を走りたいわけではない。それでも仕事や家庭の用事の都合で出掛けなければいけないこともある。

そんな場合に難しいのは、個別の状況は自分で判断するしかないということだ。雪壁が迫った細い道や見通しの悪い場所で停車するのは避けたいが、1m先も見えないような状況では動けない。だが、あなたほど慎重ではない他のクルマが突っ込んでくるかもしれない。こうすれば安心、などというマニュアルは本当の非常時には役に立たないものだ。

まあ、こんな話は雪国で暮らす人には釈迦(しゃか)に説法もいいところだが、それでもほとんど雪が降らない地域に住む経験のないドライバーの中には、十分な装備を持たないまま、天気予報にも耳を傾けずに雪山へ出掛けて、あげくに後から「こんなに降るとは思わなかった」とか、「大丈夫だと思った」などと不運を嘆く人がいる。こういう人はほぼすべて不用意で、不運でもなんでもなく単に判断を誤ったにすぎないのだが、現実に大勢いるので厄介だ。

中継地点で車両を乗り換え、午後のルートの友となった「XV 2.0i-Lアイサイト」。出羽三山神社三神合祭殿へと向かうルートは、深い雪の中だった。
中継地点で車両を乗り換え、午後のルートの友となった「XV 2.0i-Lアイサイト」。出羽三山神社三神合祭殿へと向かうルートは、深い雪の中だった。拡大

そぼ降る雪の中を走ると、フロントマスクに雪が付着。タイヤハウスの中に堆積した雪と共に、定期的にチェックし雪を落とす必要があると、スバルではユーザーマニュアルに明記している。


	そぼ降る雪の中を走ると、フロントマスクに雪が付着。タイヤハウスの中に堆積した雪と共に、定期的にチェックし雪を落とす必要があると、スバルではユーザーマニュアルに明記している。
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左右にせり立った雪壁の中を走る「XV」。路面が雪で覆われ、センターラインなどが見えないので注意が必要だ。
左右にせり立った雪壁の中を走る「XV」。路面が雪で覆われ、センターラインなどが見えないので注意が必要だ。拡大
「XV」のリアフォグランプは全グレードで標準装備。荒天時や視界不良時に自車位置を他車に知らせる役割を持つ。
「XV」のリアフォグランプは全グレードで標準装備。荒天時や視界不良時に自車位置を他車に知らせる役割を持つ。拡大

日本で最も雪深いコース

昨年のリアルワールド雪上試乗会は八甲田山麓を越えて青森と岩手の安比高原を結ぶコースで行われたが、今年は山形市から庄内空港へ至るおよそ200kmのルートが設定されており、経由地は山形県大蔵村の肘折温泉だ。

月山の北東麓に位置する肘折は開湯1200年余という歴史ある温泉地で、日本有数の豪雪地帯でもある。気象庁の歴代最深積雪ランキングでは、テレビのワイドショーなどでもたびたび取り上げられる青森市の酸ヶ湯温泉が566cm(2013年)で2位だが、実はトップの滋賀県伊吹山(1182cm/1927年)の記録は、昭和のはじめに観測所があった頃のもので、現在は観測が行われていないから実質的には酸ヶ湯が日本一、同ランキングでは肘折は4位(445cm)だが、これは昨2018年2月に観測されたものなので最新の記録である。

2000年代に入ってからは酸ヶ湯と肘折がほぼ不動のトップ2を占めているが、山形駅前で立ち寄った居酒屋の女将(おかみ)さんに言わせると、どこに気象庁の計測ポイントがあるかが問題で、本当は山形にもっと積雪の多い場所があるという。

肘折温泉はかつて、冬季間はバスも運行中止になるほどの陸の孤島であり、雪には大変な苦労をしてきたはずなのだが、青森のほうが雪が深くて大変だろうと世間が思うのはどうにも納得できないらしい。とにかく世界中の雪道を走った経験がある私から見ても、降雪量や雪の種類の豊富さでは日本が世界一の雪国であると言ってもいい。

開湯1200年余という歴史ある肘折温泉。温泉街の除雪は行き届いているが、月山の北東麓に位置する豪雪地帯だ。
開湯1200年余という歴史ある肘折温泉。温泉街の除雪は行き届いているが、月山の北東麓に位置する豪雪地帯だ。拡大
成人男性(筆者)の背丈よりも積もった雪の壁。写真は肘折温泉の駐車場にて撮影した。
成人男性(筆者)の背丈よりも積もった雪の壁。写真は肘折温泉の駐車場にて撮影した。拡大
出羽三山神社の鳥居下を走るスバルテックツアーの試乗車両。
出羽三山神社の鳥居下を走るスバルテックツアーの試乗車両。拡大
出羽三山神社へ向かう雪深い道。雪が降り続き除雪が間に合わなくなると、「XV」のオードクリアランスでもギリギリの高さになってしまう。
出羽三山神社へ向かう雪深い道。雪が降り続き除雪が間に合わなくなると、「XV」のオードクリアランスでもギリギリの高さになってしまう。拡大

半世紀近い4WDの伝統

今回のルートには含まれていなかったが、月山山麓を越える国道112号バイパス、通称月山道路は、2018年12月、国交省が指定した国道6カ所(他に高速道路7カ所)のチェーン規制区間のうちのひとつである。

チェーン規制区間とは、大雪特別警報などが発令された場合、チェーンを装着していない車両の通行を規制する道路で、たとえスタッドレスタイヤを装着した4WD車であっても、チェーンを装着していないクルマは通行ができない。

ここ数年発生した立ち往生した車両による大規模な交通マヒへの対策として導入された規制だが、不用意なドライバーに注意を促す効果よりも、誤解を生む可能性が高い非合理的な場当たり的施策と言わざるを得ない。何より問題は、チェーンさえ装着していれば大雪の場合でも大丈夫であるという間違った認識を与えてしまう可能性があることだ。

これも雪国では常識だが、除雪が間に合わないような激しい降雪になり、積雪がある程度以上になれば、スタッドレスタイヤにチェーンをつけていようと普通の乗用車は走れなくなる。深雪ではタイヤ径が決定的に物を言うのである。しかも国交省が言う“チェーン”には、合成繊維のカバーのようなタイプのチェーンも含まれるという。本格的な雪道で簡易的なものでもチェーンとして役に立つと考えているなら、実に何というか役人的発想だろう。ちなみにスバルは伝統的にチェーン装着も考慮して開発しているが、今や日本車でもチェーン装着不可というクルマがある。

私の意見では、あの手の立ち往生はだいたい雪を甘く見た大型トラックがきっかけだ。大型車ゆえに移動させるのも容易ではなく、他の交通をブロックしてしまう。大雪警報が発表されて見る見るうちに雪が深くなるような状況では、通行止めにするしか手はない。

切り立った雪壁に挟まれた狭い雪道でも、ブリヂストンの最新スタッドレスタイヤである「ブリザックVRX2」を装着したスバル各車の足取りはまったく乱れなかった。念のために言っておくと、最近再びはやりのオールシーズンタイヤは性能の限界を十分理解している人だけが使うべきもの、雪上氷上性能ではスタッドレスタイヤと大差があることを忘れてはいけない。

坂道発進や駐車場から出るぐらいなら簡便な“ちょっとだけ4WD”でも問題はないが、本当の雪道を長い距離走る場合には、もう半世紀近い4WDの伝統を持つスバルの安心感は絶大だ。リアルワールドの試乗会はスバルの自信がなせるイベントなのである。

(文=高平高輝/写真=花村英典、スバル/編集=櫻井健一)

スバルが「シンメトリカルAWD」と呼ぶ四輪駆動システムを採用する「フォレスター アドバンス」。半世紀近い4WD開発の歴史を持つスバルでは、OEMを除く販売車両の実に98%が4WDだという。オフロード専門ブランドではない、いち乗用車メーカーが持つこの驚異的な比率は、他のどのメーカーもまねのできないものだ。
スバルが「シンメトリカルAWD」と呼ぶ四輪駆動システムを採用する「フォレスター アドバンス」。半世紀近い4WD開発の歴史を持つスバルでは、OEMを除く販売車両の実に98%が4WDだという。オフロード専門ブランドではない、いち乗用車メーカーが持つこの驚異的な比率は、他のどのメーカーもまねのできないものだ。拡大
スバルでは、新型車開発の際に、必ず同時に純正チェーンの開発を行うという。チェーン装着時の挙動や走破性なども、すべてこの純正チェーンで十分時間をかけてテストする。「安全性とマッチングを考えれば、社外品ではなく純正品を選んでほしい」とはスバルの弁。
スバルでは、新型車開発の際に、必ず同時に純正チェーンの開発を行うという。チェーン装着時の挙動や走破性なども、すべてこの純正チェーンで十分時間をかけてテストする。「安全性とマッチングを考えれば、社外品ではなく純正品を選んでほしい」とはスバルの弁。拡大
今回用意された試乗車は、全車ブリヂストンの「ブリザックVRX2」スタッドレスタイヤを装着していた。「フォレスター アドバンス」には、純正タイヤサイズと同じ225/55R18サイズが選択されていた。
今回用意された試乗車は、全車ブリヂストンの「ブリザックVRX2」スタッドレスタイヤを装着していた。「フォレスター アドバンス」には、純正タイヤサイズと同じ225/55R18サイズが選択されていた。拡大
最上川の「さみだれ大堰・フィッシュギャラリー」にて。山形県と福島県との境にある吾妻山付近から山形県中央部を北に向かって流れる最上川は、かつて舟運ルートとして利用されていた。内陸の米や産物を、酒田まで運んだという。
最上川の「さみだれ大堰・フィッシュギャラリー」にて。山形県と福島県との境にある吾妻山付近から山形県中央部を北に向かって流れる最上川は、かつて舟運ルートとして利用されていた。内陸の米や産物を、酒田まで運んだという。拡大
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