ルノー・メガーヌ ルノースポール カップ(FF/6MT)
深遠なる世界 2019.03.14 試乗記 ルノーのホットハッチ「メガーヌ ルノースポール(R.S.)」に、辛口バージョン「カップ」が登場。日本ではわずか100人の幸せなファン(マニア!?)のみが楽しめるハードな乗り味を、発売に先駆けてテストした。現時点で最もマニアックな仕様
市販FF車最速リーグを戦うメガーヌR.S.は現在、実用快適性を意識した「シャシースポール」に2ペダルのデュアルクラッチトランミッション(DCT)を組み合わせて、そこにオプションの19インチホイールを履かせたものが日本仕様の標準設定である。ちなみに、欧州にはより硬い「シャシーカップ」や3ペダルの6段MTも存在するから、気合の入ったマニア筋からは「日本仕様の設定はヌルすぎ」とか「どっちも選べるようにしろよ」の声があるのは当然だ。
そんなことはルノー・ジャポンも百も承知……というわけで、マニア待望の硬派モデルを限定発売する。それが今回のメガーヌR.S.カップである。その名のとおり、アシをより硬いシャシーカップ仕様としたうえで、変速機も標準とは異なる6段MTが選ばれている。
欧州におけるメガーヌR.S.もシャシースポールが標準で、変速機だけが6段DCTと6段MTが選択できるようになっている。そのうえで、シャシーカップは「カップパッケージ」というセットオプションで供給される。
そのカップパッケージの具体的内容は、サスペンションが専用に引き締められるシャシーカップのほか、トルセンLSDと赤く塗られたブレーキキャリパーが含まれる。
今回の限定車はそんな6段MTのカップパッケージ装着車に、19インチホイールとバイマテリアル・フロントブレーキという2つの本国オプションを追加したものである。19インチは日本の標準車に装着されているものと同じで、バイマテリアル~はディスクローターを鋳鉄製のままハブをアルミ化して、片側1.8kgずつのバネ下軽量化と耐フェード性の向上の一石二鳥を実現したという。
つまり、今回の限定車はただのシャシーカップでなく、現時点で考えられる最もマニアックな内容に仕立てたメガーヌR.S.である。
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ルノー・スポールのシェフも同席
サスペンションにおけるシャシーカップの具体的な内容は次のとおりだ。まずコイルスプリングのレートが標準のシャシースポール比でフロントで23%、リアで35%、フロントスタビライザーのそれも同じく7%引き上げられている。さらにダンパーの減衰力を前後とも25%ずつ高めたうえに、フルバンプ付近の最後の粘りを担当するセカンダリーダンパー「HCC(ハイドロリック・コンプレッション・コントロール)」のストロークを1割延長した。
今回の取材はいつもの試乗会とは異なり、同車のチーフエンジニアをつとめたフィリップ・メリメ氏と、同じくシェフ役(=担当テストドライバー)のロラン・ウルゴン氏を招いての“ワークショップ”と銘打ったイベントだった。まあ、幸運にもステアリングを握ることもできたのだが、それは会場となった千葉県の袖ヶ浦フォレストレースウェイのクローズドコースを5ラップのみ……という限られたものだった。
しかも、今回の走行では安全のためのヘルメットとグローブの装着を求められたこともあり、私のようなアマチュアドライバーの感受性ではせいぜい前置きの、しかも取っかかり程度しか語れないことをご容赦いただきたい。
余談だが、レースでグローブを装着するのはアクシデント時の安全確保と、ノンパワーの重いステアリングでも手を滑らせたり傷めたりしないためである。R.S.の味つけをつかさどるウルゴン氏が、パワステ付きの市販スポーツモデルをドライブする際には、じつは“素手”が基本である。今回のようなイベントでの同乗走行やアクロバティックなデモ走行、あるいはニュルブルクリンクのタイムアタックでもウルゴン氏はいつも素手なのだ。
歴代モデルとは操縦性がひと味違う
閑話休題。というわけで、4代目メガーヌでは初対面となる6段MTだが、変速機そのもののハードウエアは先代同様のPK4型で、すべてのギア比と最終減速比も先代と同じだという。もっというと、設定されるタイヤ径も先代と基本的に変わっていないが、レブリミットが400rpmほど上がっているので、各ギアのカバー速度は少し拡大している。
ついでに、それを2ペダルの6段DCT版と比較すると、4~6速の高速側レシオは両者でほぼ選ぶところはなく、1~3速は6段DCTのほうが低い。というわけで、パワートレイン単体では6段DCTのほうがわずかに中低速パンチ型になって変速も明確に速いはずだが、重量は6段MTのほうが20kgほど軽いので「どっちが速いかは状況次第」とウルゴン氏。
モノは変わっていないという6段MTも、新しいクルマとエンジンと組み合わせた結果、クラッチやレバーの操作感は先代より少し軽くなった気がする。これを「操作しやすくなった」と肯定的にとらえるか、「手ごたえが薄れた」と否定的に感じるかは人それぞれだろう。また、サイドブレーキターンのために、駐車ブレーキがアナログなレバー式となるのも、従来のメガーヌR.Sから受け継がれた伝統である。
サーキット上ではしなやかに感じられたサスペンションも公道ではそれなりに硬そうではあるが、今回の試乗だけではなんとも判断しづらい。またR.S.の伝統ともいえるテールスライドのコントロール性は、標準仕様でも感じられたように、四輪操舵の現行メガーヌR.S.はこれまでと少し様相が異なる。
ウルゴン氏(と自身も武闘派ドライバーであるメリメ氏)は同乗走行で面白いようにクルマを横に向けてくれたが、私が乗るかぎり、これまでのR.S.のように走りだした瞬間から自在に操れるタイプではない。少なくとも私は5ラップ程度ではどうにもクセがつかめなかった……のは、なにもグローブをしていたせいではないと思う(笑)。
まだ見ぬ「トロフィー」の正体
「シャシースポールもシャシーカップも、スライドの柔軟性を意識してバネの前後バランスをほぼ同じように調律してあります」とメリメ氏は語るが、いっぽうで「クルマをどの速度域に入れればオーバーステアを誘発しやすくなるかなど、4コントロール特有の制御やクセを把握しなければなりません。とくに逆位相領域(横滑り防止装置が解除となるレースモードで100km/h以下、それ以外のモードは60km/h以下)ではそもそもリアはスライドしやすく、カウンターステアを当てても回り込むような挙動になるのでコツが必要です」とウルゴン氏。うーん、深いね。
そんなマニア待望のメガーヌR.S.カップは3月22日が正式発売日だが、すでに「予約段階で完売寸前!?」ともいわれるシブチンの限定台数となったのは、ひとまずの様子見という意味もあろうが、さらに過激な「トロフィー」の発売が迫っているからでもあろう。
欧州ですでに公開されている新しいトロフィーは、現在より21psアップとなる300psの専用チューンのエンジンが最大のキモだ。シャシー方面ももちろんトロフィーならではの仕立てにはなるのだが、本国の資料によると、その内容は「シャシーカップをベースに19インチタイヤとバイマテリアル・フロントブレーキを標準化」とある。つまり、トロフィーのシャシーは今回の限定R.S.カップほぼそのままなのだ。
こうしたもろもろの事情を考えると、カップの国内販売は今回かぎりになるかもしれない。しかし、あくまで“至高のメガーヌR.S.”をお望みなら、そこまで残念がったり焦ったりする必要はなさそうだ。
(文=佐野弘宗/写真=荒川正幸/編集=藤沢 勝)
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テスト車のデータ
ルノー・メガーヌ ルノースポール カップ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4410×1875×1435mm
ホイールベース:2670mm
車重:1460kg
駆動方式:FF
エンジン:1.8リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:6段MT
最高出力:279ps(205kW)/6000rpm
最大トルク:390Nm(39.8kgm)/2400rpm
タイヤ:(前)245/35R19 93Y XL/(後)245/35R19 93Y XL(ブリヂストン・ポテンザS001)
燃費:12.6km/リッター(JC08モード)
価格:450万円/テスト車=453万8880円
オプション装備:なし ※以下、販売店オプション フロアマット(3万2400円)/カードキーカバー(6480円)
テスト車の年式:2019年型
テスト開始時の走行距離:781km
テスト形態:トラックインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター

佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。
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