第597回:初代「プリウス」も立派な古典車!?
欧米で人気を集める“ちょっと古い日本車”
2019.03.22
マッキナ あらモーダ!
雑誌もにぎわす日本車ヤングタイマー
ここ1~2年、ヨーロッパのヒストリックカーオークションを訪れたり、ちょっと古いクルマの雑誌を閲覧したりしていて気づくのは、日本車の人気である。
そのバロメーターのひとつは、フランスの比較的若いヒストリックカー専門誌『ヤングタイマー』の投稿欄だ。毎号読者が国内や旅先でスナップ撮影したクルマを編集部が掲載している。それを見ると、「ダイハツ・コペン」「ホンダCR-X」「日産フィガロ」といった日本車が、他の古い欧州車とともに、毎回必ず何台かページをにぎわせている。
巻末にある売買欄を眺めても、日本車を容易に見つけることができる。ここ数カ月の号から拾ってみると、1995年「ホンダNSX」が6万7000ユーロ(約846万円)、1993年「トヨタ・セリカ」が4700ユーロ(約59万円)、1992年「トヨタMR2」が1万0400ユーロ(約131万円)といった具合だ。1992年「ホンダ・プレリュード」は走行20万5000kmと、ちょっと走りすぎているので、3900ユーロ(約49万円)である。
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ランドクルーザー、ついに700万円台目前
著名なオークションは、より希少な日本車で盛り上がっている。
2019年2月パリのグラン・パレで催されたボナムス・オークションには、元ワークスの1994年「セリカGT-FOURグループA」が出品され、20万7000ユーロ(約2610万円。以下も価格はプレミアム込み)で落札された。
本稿第584回で記した40系「ランドクルーザー」も、引き続き好評だ。そのときは、2018年10月にイタリア・パドヴァのボナムス・セールで1976年型BJ40が1万5819ユーロで落札されたと記した。その後2019年2月にパリで開催されたアールキュリアルのセールでは、1984年式BJ46型が、ついに5万4832ユーロ(約693万円)でハンマープライスとなった。ヨーロッパには輸入台数が少なかったソフトトップ、かつフルレストア済みであることが評価されたと思われる。
あらためて、こうした日本車人気の裏には、何があるのか?
専門家が分析する「人気の理由」
前述の『ヤングタイマー』のメイン執筆者のひとりで、フランスの日本車研究における第一人者ティエリー・アスティエール氏に、フランスを例にとって解説してもらった。
「ランドクルーザーはフランスでは1973年に輸入開始されました。コレクターの間で、間違いなく最も有名な日本製4×4です」と証言する。
ただし、日本車人気全体に関していえば、車種は限定的という。「ランドクルーザー、セリカ、『ホンダS800』、そして『ダットサン/日産Z / ZX』です」
いずれにせよ、アスティエール氏は日本車人気の秘密を「希少性ではないか」と考える。背景にあるのは、新車当時の貿易摩擦だ。「フランスでは1977年から1992年まで、日本車の販売台数は市場の3%に抑えられていました」。
同時に一部メーカーは、ヨーロッパへの正規進出が遅かったこともあるという。「スバル、スズキ、ダイハツは1992年までフランスで販売していませんでした」。
筆者が住むイタリアでも、1970年代後半、日本車には年間2200台の輸入枠が課せられ、台数は徐々に緩和されていったものの、規制は1990年代まで続いた。
そのため、フランスでもイタリアでも、積極的なディーラー展開がみられなかった。結果として台数が少なく、最終的に希少性が増す結果となったのである。
日本製オフロードカーに関していえば、イタリアなどではサイズや排気量で類似する欧州製競合車がなかったことから、台数規制の適用外だった時期がある。したがって乗用車とやや状況は異なるが、例えばランドクルーザーは、「メルセデス・ベンツGクラス」や「ランドローバー・ディフェンダー」よりも明らかに希少性が高いことは事実だ。
ただし、希少性だけを追求するのであれば、他国のブランドでもいいはずだ。日本車を目指すファンがいるのは、なぜか。
日本カルチャーの普及が後押し
まず考えられるのは、現行の日本車や販売店を街中で見かける頻度が高くなっただけでなく、ヨーロッパのメディアでも頻繁に登場することがあろう。国連の人道支援だけでなく、時には反社会的勢力も日本ブランド車を用いていたりする。
しかし、そのような表面的な事象よりも、考えるべきは、今日ヨーロッパで日本の、特に1970~1980年代のデザインが共感を呼んでいるからではないかと筆者は推察する。
その萌芽(ほうが)といえるもので思い当たるのは、筆者が1987年の冬、パリで見たポンピドー・センターの特別展「前衛芸術の日本 1910-1970」だ。20世紀の日本における前衛美術がかつてない規模で紹介されたこの展示では、「NTカッターA型」などの工業デザインまで紹介されていた。参考までにこのA型は、今日のヨーロッパでも、カッターにおけるスタンダードである。
こうした識者によるデザインを通じて認識された日本カルチャーを、さらに強固なものにしたのは、日本製アニメだろう。
例えばイタリアでは、かのシルヴィオ・ベルルスコーニが1980年、従来所有していたミラノのローカルテレビ局を全国放送に改変。その後も次々とチャンネルを増やした。イタリア初の民間放送でもあったそれらの局は、公営放送RAIよりも積極的に日本アニメ放映を売りにした。
そうしたアニメウオッチャーが成長すると、第2次大戦前~終戦直後に生まれた旧世代が持つ「日本人=コピー国民」というイメージは、イタリアで一気に薄らいだ。
同時に、アニメ世代の後に続いたミレニアル世代は、レイバンの「アビエーター」、もしくはティアドロップ型サングラスに代表される1970~1980年代ムードの流れとして、本稿578回でも紹介したカシオ製スタンダードウオッチ、通称チプカシを“クール”と捉えた。
そうした中でちょっと古い日本車に関心が向けられるのは、納得がいく流れである。
人気の陰で心配なこと
ちょっと古い日本車人気は止まらないようだ。
筆者のもとに届いたRMサザビーズのカタログによると、2019年4月にドイツ・エッセンで開催されるセールには、1992年「日産300ZXツインターボ」が載っている。米国にあったというその個体は、走行わずか2万5000kmであるという。
また大西洋を挟んだ米国ミシシッピー州で同じ4月に開催されるボナムスのセールには、初代「トヨタ・プリウス」が2台も出品される。
ところで、かつて日本車を追って欧州上陸を果たした韓国車はといえば、ようやく初代「ヒュンダイ・クーペ」(1996-2002年)が一部のノスタルジー系自動車誌で取り上げられるようになった程度である。目下のところ韓国車は、まだコレクターの趣味対象にはなり得ていない。
ただし、日本車すごい! というのは早計だ。現行のヨーロッパにおける日本車ラインナップを眺めてみるといい。将来コレクターズアイテムとなり得るクルマが今以上にあるのだろうか? と考えたとき、いささか心配になるのは筆者だけではあるまい。
(文=大矢アキオ<Akio Lorenzo OYA>、写真=Akio Lorenzo OYA、ヒュンダイ/編集=藤沢 勝)

大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、24年間にわたってリポーターを務めている。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
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