BMW 750Li xDrive(4WD/8AT)/745Le(FR/8AT)
本質は“キドニーグリル”の奥にあり 2019.05.16 試乗記 マイナーチェンジされた「BMW 7シリーズ」に試乗。より存在感を増した“キドニーグリル”の大きさも気になるところだが、その進化の本質は“バイエルンのエンジン工場”ならではのパワートレインの洗練にあった。きちんとフルネームを名乗るべき
バイエリッシュ・モトーレン・ヴェルケを略してBMW。クルマ好きにとってはいまさらなその名の由来をエンブレムの下に記した広告物を見かけるようになったのは昨年くらいからだろうか。
どうやらこれはBMWのラグジュアリーモデル群におけるコミュニケーションのキーワードとなっているようだ。日本でも先に登場した「8シリーズ」のテレビCMで確認できるので『YouTube』などで掘り出してみていただければと思う。
しかしなぜ、今になって正式名称をあらためて提示する必要があったのか。この試乗会の際に会場に来ていたラグジュアリーモデル群担当の副社長に理由を尋ねてみた。「例えばアパレルやアクセサリーなどにおいて、明確な主張を持ったプレミアムブランドは、フルネームを名乗ってユーザーに接していますね。われわれもそこを意識すべきと考えたわけです」
……と、言われて初めて一生懸命考えてみると、だ。「LV」印が敷き詰められたカバンを売っているブランドも、「HW」印の宝石で有名なブランドも、実店舗やウェブサイトでの表札にあたる一等地にはフルネームが記されている。なるほど世はそういう傾向にあるのか。クルマのネタを追っかけるので精いっぱいの自分にはどうやら無知の領域であったらしい。
パワーユニットは6種類
傾向という話で言えば、昨今のBMWは随分と顔面力が高まっていますが、これも世のならいということですかね?
……と聞いてみるのを忘れていたのは、多分現物に目が慣れて違和感を覚えなくなってしまったからだろう。BMWが言うところの「ライフ・サイクル・インパルス(LCI)」、つまりビッグマイナーチェンジを受けた7シリーズで良くも悪くも話題を集めたのは、件(くだん)の巨大化したキドニーグリルである。プレゼンテーションではデザイナーがその拡大率を前型比40%とドイツ人らしく定量化して説明していたのが印象的だった。が、実車ではグリル部にうまく立体感が施されていることもあってか、あるべきものとしてすんなり受け止められた……自分にちょっと驚いている。
新しい7シリーズに搭載されるパワーユニットはガソリンエンジン2種、ガソリンプラグインハイブリッド1種、ディーゼルエンジン3種の計6バリエーションだ。うち先代でも日本に導入されていたプラグインハイブリッドの「740e」は、搭載エンジンが直6へと置き換えられ、組み合わされるモーターやバッテリーも強化、「745e」の名前が与えられている。
そのエンジン最高出力は286ps、そしてモーター最高出力は113ps。搭載されるバッテリーはサムスンSDI製リチウムイオンで、容量は12kWhだ。これらをもってEV走行時は最大58kmのモーター走行が可能となる一方、ドライブモードをスポーツの側にすれば394psというシステム出力をもって0-100km/h加速で5.3秒の俊足を発揮する。
また、「750i」もエンジンが最新世代の4.4リッターV8ターボへと刷新され、こちらは530ps/750Nmをマークする。これは前期型に対して実に80ps/100Nmの大幅な向上だ。また、個人的には近年のBMWにおいての最高傑作だと思っている「M760i xDrive」が継承されたのもうれしいニュースである。
Mやアルピナもかくやの運動性能
室内ばかりかガラスルーフまでを妖しく照らすアンビエントライティングの採用や、8シリーズや「3シリーズ」ともつながる新しい意匠の採用など、内装まわりも演出が強化され、変貌感が著しい7シリーズだが、その走りはいい意味で相変わらずのBMW調だ。
はじめに乗ったのは大幅な動力性能向上を果たした750iのリムジン仕様「750Li xDrive」だが、搭載される4.4リッターV8はCLARプラットフォームの恩恵でライバルよりも軽量に仕上がった車体には、もはやあり余るとも称せるほどに力強さがあふれ出る。6500rpmのレッドゾーン付近まで極端なパワーのダレ感もなくスキッと回り切り、0-100km/h加速は4.1秒というから、そのスポーティネスはもはやMやアルピナにも比肩しそうな勢いだ。
一方で実用速度域ではスロットルコントロール性のしつけもよく、緩やかに滑らかに走らせることも苦にならない。コンベンショナルなパワー&ドライブトレインの組み合わせは今日び日陰者にみられがちだが、運転動作に対する応答の自然さやつながりの良さにおいては、やはり一日の長があると再認識させられる。
直6とモーターは相性抜群
なんだかんだ言ってコンベが一番という印象を抱いたのは事実だが、次に試乗した745eのリムジン「745Le」の洗練ぶりも相当なものだった。最高速にして140km/hまで、100km/h維持での巡航も無理なく行えるように強化されたモーターは、言い換えれば日常におけるあらかたの場面をカバーできるということでもある。実際、モーター走行時の力強さはかなりのもので、充電状況次第では急なスロープにでも出くわさない限りエンジンを頼りにすることはないだろう。
そしてエンジンとモーターとの協調的な場面においては、一次振動がなく爆発の粒感がきめ細かいストレート6を搭載したこともあって、モーターのトルク感との親和性は確実に高まっている。クラッチの制御もうまく試乗中に駆動的な違和感を覚えることはほとんどなかった。前世代からの進化はかなりのもので、BMWのハイブリッドが高級車にふさわしいシルキーなドライブユニットへと成長したことをうかがわせる。
ADASやインフォテインメントも最新世代へとアップデートを果たし、その商品力は万全。検討する御仁におかれての最大の懸案はやはり、間もなく上陸するその姿が、自身の眼鏡にかなうものなのかということになるだろう。
(文=渡辺敏史/写真=BMW/編集=藤沢 勝)
テスト車のデータ
BMW 750Li xDrive
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=5260×1902×1479mm
ホイールベース:3210mm
車重:2000kg(DIN)
駆動方式:4WD
エンジン:4.4リッターV8 DOHC 32バルブ ターボ
最高出力:530ps(390kW)/5500-6000rpm
最大トルク:750Nm(76.5kgm)/1800-4600rpm
タイヤ:(前)245/40R20 99Y XL/(後)245/40R20 99Y XL(ブリヂストン・ポテンザS001)※ランフラットタイヤ
燃費:9.6-9.5リッター/100km(約10.5-10.4km/リッター、欧州複合モード)
価格:--円/テスト車=--円
オプション装備:--
テスト車の年式:2019年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター
BMW 745Le
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=5260×1902×1479mm
ホイールベース:3210mm
車重:2035kg(DIN)
駆動方式:FR
エンジン:3リッター直6 DOHC 24バルブ ターボ
モーター:交流同期電動機
エンジン最高出力:286ps(210kW)/5000-6000rpm
エンジン最大トルク:450Nm(45.9kgm)/1500-3500rpm
モーター最高出力:113ps(83kW)/3170rpm
モーター最大トルク:265Nm(27.0kgm)/0-2700rpm
システム総合出力:394ps
システム総合トルク:600Nm
タイヤ:(前)245/40R20 99Y XL/(後)245/40R20 99Y XL(ブリヂストン・ポテンザS001)※ランフラットタイヤ
ハイブリッド燃料消費率:2.3-2.2リッター/100km(約43.5-45.5km/リッター、欧州複合モード)
価格:--円/テスト車=--円
オプション装備:--
テスト車の年式:2019年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター

渡辺 敏史
自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。
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