第577回:いままでの常識を打ち破れ!
トヨタGRのスポーツ車開発はこう変わる
2019.07.05
エディターから一言
トヨタは今後のルマン24時間耐久レースに、市販も視野に入れた“ハイパーカー”を投入する。これにより同社のスポーツ車両開発はどう変わるのだろうか?
2年で20台の市販が条件
TOYOYA GAZOO Racingが2連覇した今年のルマン。その決勝に先立って、主催団体であるACO(フランス西部自動車クラブ)から重大な発表があった。2020年秋から始まる2020-2021年シーズン、つまり次の次のシーズンから最高峰クラスのマシンとしてハイパーカー規定(仮称)が導入されることとなったのだ。正式にはハイパーカーの外観を持ったプロトタイプカーと、市販前提のハイパーカーが最高峰クラスを戦うことになる。
このハイパーカークラスに、早速2つのメーカーが参戦の名乗りを上げた。TOYOYA GAZOO Racing、そしてアストンマーティンである。TOYOTA GAZOO Racingは2018年の東京オートサロンでコンセプトカーがお披露目された「GRスーパースポーツ」(仮称)での参戦を予定している。そして、アストンマーティンのマシンはといえば、レッドブルレーシングと共同開発中の「ヴァルキリー」をベースとする。
このハイパーカーが現在の参戦車両と大きく異なるのは、まず何より、このマシンをベースにした市販車の開発が義務付けられていることだ。しかも数台ではなく、2年間で20台の生産が必要とされる。
設計は各社自由で、パワートレインはハイブリッドとノンハイブリッドの両方が認められた。最低重量は1100kg、最高出力は750ps(550kW)。ハイブリッドは電気モーターの出力が最高270ps(200kW)までと規定されている。
ルマン24時間レースが行われるサルトサーキットの想定ラップタイムは3分30秒。今年の「トヨタTS050ハイブリッド」の予選タイムが3分15秒台だから、7~8%ほど遅くなる。
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市販車開発や人材育成にも期待
実はこのハイパーカー規定、最終決定までに内容は幾度も見直された。例えば2018年の段階では「車両重量は980kg、システム最高出力はエンジン680ps+電気モーター270psの950ps、可変空力システム搭載可能」などとされていた。それが主催者と、TOYOYA GAZOO Racingをはじめとするエントラント候補となるメーカー、コンストラクターなどとの調整を通じて、前述のような所に落ち着いたようである。できるだけ多くの参加者、特に自動車メーカーにとって魅力的な、どこも勝利を狙えるようなフォーマットとするためだ。
実はこの決定によって、GRスーパースポーツコンセプトもハードウエア仕様の一部見直しなどが行われているようである。求められるエンジン出力が変わってくれば排気量設定などにも影響してくるだろう。また、電気モータージェネレーターは供給される電力が最大200kWとされただけでなく、回生も最大200kWに制限されている。同じ200kWを、どれだけ少ないエネルギーで蓄え、放出できるか。電力変換効率を一層高めていかなければならない。
興味深いのは、そうした部分も含めてGRスーパースポーツコンセプトは、まずレーシングカーとして開発され、2020-2021シーズンより実戦投入となり、そこで得た技術やノウハウをもとに市販車がつくられるということだ。従来のように、まず市販車があって、そこからレーシングカーをつくり上げるのとは真逆のプロセスといえる。
車両の開発は現在、「TS050ハイブリッド」の開発が行われ、WEC(世界耐久選手権)チームの本拠が置かれるTMG(トヨタ・モータースポーツGmbH)にて進められている。TMGにはトヨタ側からもスタッフが送り込まれて、共同作業で開発が行われているという。それはTMGにはロードカーのノウハウがないということ、そして「クルマだけでなく人も育てる」という目的からのことだという。
新型車が投入されると数年でマイナーチェンジ、そしてまた数年でフルモデルチェンジというサイクルの量産車に対して、レースはライバルとの戦い。それこそ一戦ごとにアップデートを繰り返していかなければならない。それどころかレース中に何か問題に遭遇すれば、すぐその場で解決する必要があるという具合に、時間軸がまったく異なる。このことを知るエンジニアは、必ず将来、量産車の開発を担当する際にはそこから何かを持ち帰るはずだという考えが、その背景にはある。
持続可能なモータースポーツ活動を目指して
「GRブランドは、基本的にスポーツ専用車。モータースポーツフィールドのノウハウをつぎ込んだ、TOYOTA GAZOO Racing Companyがプロデュースしたクルマです。コンペティションで培ったノウハウと、そこで鍛えたエンジニア、メカニックを使って生み出されるということですね」
TOYOTA GAZOO Racing Companyのトップ、友山茂樹プレジデントはそう簡潔に説明する。GRスーパースポーツは、まさにそういうクルマになるし、実は「GRスープラ」もルマンへの参戦こそしていなかったが、開発段階でLM-GTE規定を見据えたコンセプトカーを製作し、冷却に必要な穴はすべて開けておく、ギアボックスやディファレンシャルなどのクーラーを付けるためのスペースを確保しておくなど、モータースポーツを強く意識していた。今後もGRの名の下に登場するクルマは、そういうものになる。
「“GRスポーツ”というのは、GRカンパニーが全部のクルマをつくるわけにはいかないので、他のカンパニーがつくったクルマを、GRがカスタマイズしたものという位置づけですね」
現在のGRのラインナップには、多くのモデルをベースに展開されているこのGRスポーツと、「86」「ヴィッツ」に用意される、より走りを研ぎ澄ませたGRがある。また、かつては限定車として「86」「ヴィッツ」「マークX」の“GRMN”が販売されていた。
「これらのクルマに加えてGRスーパースポーツの開発も進んできて、モータースポーツのフィールドで培ったものを商品にしていくというGAZOO Racingのひとつのサイクルがようやく回り始めます。それが何を意味するかというと、モータースポーツが収益に貢献するということです。例えばWECで勝つことがGRスーパースポーツの技術的価値もマーケティング的な価値も高める。そうなるとそれが売れて、収益が上がって、またそれをモータースポーツに投資できる。それがTOYOTA GAZOO Racing Companyの目指す姿なんですよ」
まずその第1弾としてGRスープラが登場し、2020年以降にはGRスーパースポーツが控えている。そして、実はその間にも興味深いモデルがいくつも準備されているようである。
「TOYOTA GAZOO RacingとしてはWRCもやっていますよね(笑)。そして今年はダカールラリーでも優勝しました。そういう方向のものだって可能性はあるんですよ」
あの大トヨタの中に出来た異色のレーシングカンパニーであるTOYOTA GAZOO Racing Companyは、今後もコンペティションフィールドにこだわり、これまでのトヨタの常識を打ち破るようなモデルを生み出す意欲、満々のようだ。「あのトヨタが!?」というクルマの登場、GRブランドには期待したい。
(文=島下泰久/写真=トヨタ自動車、アストンマーティン、webCG/編集=関 顕也)
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島下 泰久
モータージャーナリスト。乗って、書いて、最近ではしゃべる機会も激増中。『間違いだらけのクルマ選び』(草思社)、『クルマの未来で日本はどう戦うのか?』(星海社)など著書多数。YouTubeチャンネル『RIDE NOW』主宰。所有(する不動)車は「ホンダ・ビート」「スバル・サンバー」など。
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