第601回:来日したマーケティング担当者を直撃! アルピーヌのブランド戦略と今後の展開を問う
2019.11.07 エディターから一言![]() |
輸入車ブランドが大量撤退した今回の東京モーターショーで、アルピーヌがあえて新規出展した理由を「日本市場はアルピーヌにとって世界で3番目の重要市場だから」と説明する、同社マーケティング・ダイレクターのレジス・フリコテ(Régis Fricotté)氏。そんな彼にアルピーヌの実情と、新バリエーション「A110S」について聞いてみた。
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
いたずらに台数を追いかけるのではなく
――フリコテさんとは先代「ルノー・メガーヌ」の「ルノースポール」(以下、R.S.)の取材でお会いしていますね。さらにいうと、アルピーヌの現チーフビークルエンジニアであるジャン・パスカル・ドゥースさんもR.S.に在籍していましたし、A110の開発テストを担当したロラン・ウルゴンさんはR.S.のカリスマ・テストドライバーとして知られています。
あのときにお会いしたのは別人です(笑)。……と、それは冗談ですが、ブランドとしてのアルピーヌはルノーからは完全に独立していますので、必然的にアルピーヌはR.S.ともまったく別物ということになります。現場のプロフェッショナルとしてR.S.の人間がアルピーヌの開発を手伝うことはありますが……。
アルピーヌ専属となる私のデスクも今はR.S.カーズのあるレズリスではなく、ブローニュ=ビヤンクール(=ルノー本社内)に置かれています。
――アルピーヌ発祥の地でもあるフランス北部のディエップ工場では、昨2018年末まで「ルーテシアR.S.」も生産していました。昨年1年間の生産台数はルーテシアR.S.が3932台、アルピーヌA110が3304台だったと公表されていますが、現在はルーテシアR.S.は生産されていませんね。
はい、現在ディエップでつくっている量産車はA110だけで、現在は1日あたり約15台のペースで生産しています。増産も不可能ではないですが、無理に増やすつもりはありません。あくまで需要に応じて適切に生産していくのがアルピーヌの戦略です。
サーキットでの速さがすべてではない
――新しいA110Sは、従来のA110をより速くしたモデルと考えていいでしょうか?
A110の「S」は確かにエンジン性能もグリップ性能も引き上げられていますが、単純にスピードを求めたのではなく、さらに個性を際立たせるのが第1のコンセプトです。従来の「ピュア」や「リネージ」はあえてドライバーが腕をふるう余地を残した古典的な操縦性が特徴であり、ある意味で運転がむずかしい面もありました。対して、Sはより正確で安定した走行性能を追求したモデルといえます。
――今回のSは、既存のピュアとリネージに続く第3のA110ということですね?
そうです。この3モデルがアルピーヌA110の今後の基本ラインナップとなります。Sはより正確でモダンな走行性能を得たことで、競合車と直接的に比較したうえで選ばれるケースが、これまで以上に増えると考えています。その競合車がなにかは、私から申し上げませんが……。
――「ポルシェ・ケイマン」「アルファ・ロメオ4C」、それにロータス各車といったところでしょうか?
ご想像におまかせしますが、いい線をいっていると思います(笑)。
――A110Sはこれまでよりハードなサーキット走行を想定したアルピーヌでしょうか?
アルピーヌはスポーツカーですからサーキットでももちろんお楽しみいただけますが、サーキットでの性能はわれわれの最優先事項ではありません。Sを含めたすべてのA110は通勤や買い物、週末の旅行など日常的に使える快適性を犠牲にしません。日常性とスポーツ性の両立こそ、アルピーヌ最大の独自性だと考えています。
――それは1960年代に誕生したオリジナルA110に通じるDNAということですか?
そのとおりです。サーキットで本当に心地よく速く走らせるにはサスペンションを硬くする必要がありますが、それではあのラリーでの活躍はできなかったことでしょう。日常性に富み、あらゆるコンディションに対応するのがアルピーヌのDNAです。
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
アルピーヌにとって日本は重要な市場
――日本はアルピーヌにとってフランスとドイツに続く3番目の売り上げとなる市場だそうですが、それは予想していたことですか?
日本のお客さまにアルピーヌが好評をもって受け入れていただけたことは、われわれが期待していたとおりです。私がR.S.に在籍していた時代から、日本にはクルマを深く理解して、クオリティーや性能、メカニズム、さらには歴史や生産方法まで、本当に細かいところまでこだわるエンスージアストがたくさんいらっしゃることは分かっていました。
アルピーヌにとって日本は優先度がとても高い市場で、クルマの開発でもヨーロッパ向けと日本向けを同時進行で行っています。
――気が早い話ですが、A110Sに続くA110も期待していいんでしょうか?
ぜひ期待してください。われわれはA110に2つの方向性を考えています。ひとつが今回のSのようなスポーツ性を高めたモデルであり、もうひとつは快適性や高級感、移動する喜びにフォーカスした、他社でいう「GT」のようなモデルです。いずれにしても、アルピーヌのスポーツカーは軽さと旋回性能、そして日常性……という基本レシピを変えることはありません。毎週末サーキットに通うというより、日常的に楽しんでいただける多機能なスポーツカーがアルピーヌなんです。
(文=佐野弘宗/写真=峰 昌宏、アルピーヌ、webCG/編集=堀田剛資)

佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。
-
第845回:「ノイエクラッセ」を名乗るだけある 新型「iX3」はBMWの歴史的転換点だ 2025.9.18 BMWがドイツ国際モーターショー(IAA)で新型「iX3」を披露した。ざっくりといえば新型のSUVタイプの電気自動車だが、豪華なブースをしつらえたほか、関係者の鼻息も妙に荒い。BMWにとっての「ノイエクラッセ」の重要度とはいかほどのものなのだろうか。
-
第844回:「ホンダらしさ」はここで生まれる ホンダの四輪開発拠点を見学 2025.9.17 栃木県にあるホンダの四輪開発センターに潜入。屋内全天候型全方位衝突実験施設と四輪ダイナミクス性能評価用のドライビングシミュレーターで、現代の自動車開発の最先端と、ホンダらしいクルマが生まれる現場を体験した。
-
第843回:BMWの今後を占う重要プロダクト 「ノイエクラッセX」改め新型「iX3」がデビュー 2025.9.5 かねてクルマ好きを騒がせてきたBMWの「ノイエクラッセX」がついにベールを脱いだ。新型「iX3」は、デザインはもちろん、駆動系やインフォテインメントシステムなどがすべて刷新された新時代の電気自動車だ。その中身を解説する。
-
第842回:スバルのドライブアプリ「SUBAROAD」で赤城のニュルブルクリンクを体感する 2025.8.5 ドライブアプリ「SUBAROAD(スバロード)」をご存じだろうか。そのネーミングからも想像できるように、スバルがスバル車オーナー向けにリリースするスマホアプリである。実際に同アプリを使用したドライブの印象をリポートする。
-
第841回:大切なのは喜びと楽しさの追求 マセラティが考えるイタリアンラグジュアリーの本質 2025.7.29 イタリアを代表するラグジュアリーカーのマセラティ……というのはよく聞く文句だが、彼らが体現する「イタリアンラグジュアリー」とは、どういうものなのか? マセラティ ジャパンのラウンドテーブルに参加し、彼らが提供する価値について考えた。
-
NEW
ボルボEX30ウルトラ ツインモーター パフォーマンス(4WD)【試乗記】
2025.9.24試乗記ボルボのフル電動SUV「EX30」のラインナップに、高性能4WDモデル「EX30ウルトラ ツインモーター パフォーマンス」が追加設定された。「ポルシェ911」に迫るという加速力や、ブラッシュアップされたパワートレインの仕上がりをワインディングロードで確かめた。 -
NEW
メルセデスとBMWのライバルSUVの新型が同時にデビュー 2025年のIAAを総括する
2025.9.24デイリーコラム2025年のドイツ国際モーターショー(IAA)が無事に閉幕。BMWが新型「iX3」を、メルセデス・ベンツが新型「GLC」(BEV版)を披露するなど、地元勢の展示内容はモーターショー衰退論を吹き飛ばす勢いだった。その内容を総括する。 -
“いいシート”はどう選べばいい?
2025.9.23あの多田哲哉のクルマQ&A運転している間、座り続けることになるシートは、ドライバーの快適性や操縦性を左右する重要な装備のひとつ。では“いいシート”を選ぶにはどうしたらいいのか? 自身がその開発に苦労したという、元トヨタの多田哲哉さんに聞いた。 -
マクラーレン750Sスパイダー(MR/7AT)/アルトゥーラ(MR/8AT)/GTS(MR/7AT)【試乗記】
2025.9.23試乗記晩夏の軽井沢でマクラーレンの高性能スポーツモデル「750S」「アルトゥーラ」「GTS」に一挙試乗。乗ればキャラクターの違いがわかる、ていねいなつくり分けに感嘆するとともに、変革の時を迎えたブランドの未来に思いをはせた。 -
プジョー3008 GTアルカンターラパッケージ ハイブリッド(FF/6AT)【試乗記】
2025.9.22試乗記世界130カ国で累計132万台を売り上げたプジョーのベストセラーSUV「3008」がフルモデルチェンジ。見た目はキープコンセプトながら、シャシーやパワートレインが刷新され、採用技術のほぼすべてが新しい。その進化した走りやいかに。 -
第319回:かわいい奥さんを泣かせるな
2025.9.22カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。夜の首都高で「BMW M235 xDriveグランクーペ」に試乗した。ビシッと安定したその走りは、いかにもな“BMWらしさ”に満ちていた。これはひょっとするとカーマニア憧れの「R32 GT-R」を超えている?