ポルシェ911カレラS(RR/8AT)
掛け値なしにサイコー 2020.04.07 試乗記 半世紀以上にわたる歴史を持つ、ポルシェのアイコニックなスポーツカー「911」。最新世代の後輪駆動モデル「911カレラS」に試乗した筆者は、かつて称賛した先代からのさらなる進化に、深いため息をついたのだった。変化は数字に表れる
せっかくポルシェ911カレラSがあるのだから箱根まで行こう、と早起きする。朝ぼらけのなか、リモコンキーでドアのロックを解除すると、指の入る余地がないほどボディーにべったり貼りついているドアハンドルが機械音を発してポップアウト、外に飛び出す。これが、2018年11月のロサンゼルスモーターショーでデビューした現行8代目911の大きな特徴だ。外見は、私のような注意力散漫な人間には991.II、すなわち991の後期型と見分けがつかないけれど、ボディーは全部、まるごとすっかり新しくなり、アウタースキンはすべてアルミニウム製になっている。
2450mmのホイールベースは991型と同一ながら、全長は20mmだけ長くなり、「カレラ」およびカレラSのリアのアクスルの全幅が最大45mm広げられて、4WD、および一部の高性能モデルと同じになった。だから、気のせい、いや、スポーツカーは気のものだから、気のせいこそ重要ともいえますが、リアビューミラーに映るリアフェンダーのふくらみがこころもち大きくなった。フロントのアクスルはRWDも4WDも45mm拡大し、991型「GT3」並みになっている。これにより、フロントフェンダーのふくらみも大きくなっている。
さらに前後20インチだったホイールは、前20インチ、後ろ21インチと、前後異サイズとなった。前245/35、後ろ 305/30というタイヤサイズは、リアの直径を除けばこれまで通りである。
でもって、ドライバーズシートに着座すると、リアビューミラーに映るそのリアのフェンダーの張り出し具合がとてもステキに思える。ということはすでに書いた。そして着座してみて、筆者はしみじみ思った。911のパッケージングはやっぱりすばらしい、と。911以外のスーパーカーに比べると、着座位置がはるかに高めで乗降しやすく、だけど乗用車っぽくはなくて、ちゃんとスポーツカーしている。なのに視界がよくて、実にコンパクトに感じられる。
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硬いけれども不快じゃない
ダッシュボード、およびインストゥルメントパネルのデザインも一新されている。10.9インチのタッチスクリーンモニターが導入されて未来的、いや現代的というべきか、モダンになりつつ、それこそ1963年から始まる911の70年代のモデルにインスパイアされた、とプレスリリースにある計器盤は、メーターナセルの中心にタコメーターがデンとあって、そのタコメーターの一部はリアルなモノとして存在している。つまり、すべてがスクリーン上のCGではない。クラシックとモダン、もしくはフューチャーが同居している。
スタートは、ボタンを押すのではなくて、かつてキーを入れていた場所に、キーの背中だけ、差しっぱなしになっているようなデザインのスイッチがあって、それをひねる。すると、ごう音を発してリアの2981ccの6気筒ボクサーエンジンが目を覚ます。
早朝のこととて、道路はすいている。一般道をフツーに制限速度で走っていて、PDKという名のポルシェのデュアルクラッチ式トランスミッションは7速に入る。991型から992型への進化のひとつとして、PDKは7段から8段へと、1枚ギアが増えている。911カレラSの3リッター水平対向ツインターボは最高出力が420PS/6500rpmから450PS/6500rpmに、最大トルクは500N・m/1700-5000rpmから530N・m /2300-5000rpmへと、それぞれ30PSと30N・mずつアップしている。
一般道では乗り心地は硬い。と思ったら、意外にしなやかでもある。試乗車はPASM(ポルシェアクティブサスペンションマネジメントシステム)付きスポーツサスペンションを装備していて、このPASMのおかげなのだろう。硬いけれど、しなやかで、路面の凸凹に対してガツンとはぜんぜんこない。車高が10mm低くなってカッコよさも増す。15万6852円のオプションだけれど、ぜひ付けておきたい。
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臨場感あふれる走り
それと、印象的なのはボディー剛性のカチンコチンな、鉄っぽく堅牢(けんろう)な感じだ。911ならでは、というべきで、ボディーがしっかりしているから硬い乗り心地もへのかっぱなのである。首都高速、東名高速、小田原厚木道路をスイスイ快適に走って箱根の山道に到着すると、ステアリングホイールのT字型のスポークの3時と6時の中間に設けられたドライブモードの切り替えダイヤルをカチリと回して、ノーマルからスポーツプラスにする。
試乗車にはスポーツクロノパッケージとスポーツエキゾーストシステムがオプションから選ばれていて、これがまあ、なんともよいのである。
スポーツクロノを選ぶと、ダッシュの上のストップウオッチだけではなくて、モードの切り替えダイヤルがステアリングに設けられる。これをスポーツにするとスポーツエキゾーストシステムがごう音を発するようになる。さらにスポーツプラスにすると、8段PDKのギアが1段落ち、エンジン回転を積極的に引っ張るようになる。減速時、ブレーキを踏むだけで、豪快なブリッピング音をグオングオンッととどろかせて2段連続ダウンシフトする。
電子制御ダンパーシステムにもかかわらず、路面がうねったところだと、ちょっぴりあおられる。やっぱりリアヘビーだからだろう。それがまたいい。嵐に翻弄(ほんろう)される小舟のごとくで。という表現だとおっかないみたいだけれど、クルマの動き自体はゆっくりだし、それほど大きくうねるわけではない。適度に路面の状況を伝えてくれる。と言い換えたほうがいいかもしれない。クルマがコンパクトに感じられもする。路面の状況いかんにかかわらず、どこでもクルマが平穏無事に通過してしまったら、なんの面白みもない。ロードノイズも大きめに入ってきて、それが臨場感と情感を生み出してもいる。
これぞ肉体改造の成果
スポーツプラスにしていると、大径のタコメーターの赤い針が常にてっぺんの4000rpmあたりをキープし続けてくれる。でもって、アクセルを踏み込めば、レブリミットの7500rpmまでフラット6が歌いあげ、5000、6000rpmあたりから高音が入ってきて盛り上がる。軽くアクセルを緩めると、バラバラッというレーシングカーのエンジンみたいなサウンドを発する。
ブレーキも、ため息が出るほどすばらしい。PCCB(ポルシェセラミックコンポジットブレーキ)は、これまたぜひとも付けたいオプションである。
というわけで、8代目911カレラSは、3年前に『webCG』で試乗した、筆者の記憶のなかの7代目991後期型の「GTS」より、クルマとの一体感、クルマとの紐帯(ちゅうたい)がいっそう強くなっている。人間が操る、実用になる乗り物として、991から992への進化は、996から997への進化にも似ている。996だって、997が登場して初めて明確にわかったのである。ちょっと脂肪がついていたことに。
スペック表を見ると、992型911カレラSの車重は1515kg(DIN)。車検証には1540kgとある。991型カレラSは、1460kg(DIN)。前述のごとく、リアが21インチになり、PDKが7段から8段になって、ホイールベースはともに2450mmながら、ボディーはちょっぴり大きくなってもいる。人間のアスリートでいえば、筋トレと体幹トレで、体重の増加に見合ったパワーアップに成功した、ということになる。
ポルシェ911はサイコーの実用スポーツカーである。そう書かなければいけない。という職業的強迫観念のようなものが私にもある。8代目911はそんな強迫観念は置いておいて、掛け値なしでサイコーの実用スポーツカーである。燃費もいい。
(文=今尾直樹/写真=郡大二郎/編集=関 顕也)
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テスト車のデータ
ポルシェ911カレラS
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4519×1852×1300mm
ホイールベース:2450mm
車重:1515kg(DIN)
駆動方式:RR
エンジン:3リッター水平対向6 DOHC 24バルブ ターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:450PS(331kW)/6500rpm
最大トルク:530N・m(54.0kgf・m)/2300-5000rpm
タイヤ:(前)245/35ZR20 95Y/(後)305/30ZR21 104Y(グッドイヤー・イーグルF1アシンメトリック3)
燃費:8.9リッター/100km(約11.2km/リッター、欧州複合サイクル)
価格:1696万8519円/テスト車=2332万2757円
オプション装備:ブラックレザー<クレヨンステッチ入り>(66万2037円)/右ハンドル仕様(0円)/スポーツエキゾーストシステム<シルバーカラーテールパイプ含む>(43万3890円)/PASM付きスポーツサスペンション(15万6852円)/ポルシェセラミックコンポジットブレーキ(148万7037円)/カラークレストホイールセンターキャップ(2万7500円)/20/21インチCarrera Classicホイール(19万0464円)/アルミニウムインテリアパッケージ(17万8242円)/スポーツクロノパッケージ<モードスイッチ含む>(38万8056円)/ガーズレッドシートベルト(7万3338円)/自動防眩(ぼうげん)ミラー(9万1667円)/18way電動アダプティブスポーツシート<メモリーパッケージ含む>(54万4908円)
テスト車の年式:2020年型
テスト開始時の走行距離:5980km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(7)/山岳路(2)
テスト距離:307.0km
使用燃料:37.7リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:8.1km/リッター(満タン法)/7.7km/リッター(車載燃費計計測値)

今尾 直樹
1960年岐阜県生まれ。1983年秋、就職活動中にCG誌で、「新雑誌創刊につき編集部員募集」を知り、郵送では間に合わなかったため、締め切り日に水道橋にあった二玄社まで履歴書を持参する。筆記試験の会場は忘れたけれど、監督官のひとりが下野康史さんで、もうひとりの見知らぬひとが鈴木正文さんだった。合格通知が届いたのは11月23日勤労感謝の日。あれからはや幾年。少年老い易く学成り難し。つづく。
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