アウディA6アバント40 TDIクワトロ スポーツ(4WD/7AT)
飾り気のない高級車 2020.06.29 試乗記 “ドイツ御三家”がしのぎを削る欧州Eセグメント。そこで奮闘する「アウディA6」に、本命ともいえる2リッターディーゼルモデル「40 TDIクワトロ」が追加された。新たなパワートレインを得たA6の走りを、幅広いシチュエーションでチェックした。日本ではエントリーグレード
V6搭載モデル「55 TFSI」に試乗したとき、「A6、極まったな!」という印象を持った。アウディらしい徹底した無機質さと、隙のない操作系の正確さをもって、これをプレミアムライドの域にまで高めた55 TFSI。気やすくエモーショナル性を訴えず、あくまで技術の洗練によって上質さを表現した乗り味には、ジャーマンスリーの中でもひとつ抜けた“オヤジ殺し”を感じたのだった。
そして今回は、そんなA6のエントリーモデルとなる「40 TDI」(204PS/400N・m)に試乗できるという。クリーンディーゼルを搭載しながらも、価格設定としてはガソリンモデル「45 TFSI」よりさらに身近な一台となるその実力は、一体どんなものなのだろう。
試乗したグレードは40 TDIの中でもスポーツサスペンションを装備した「スポーツ」で、その価格は828万円。さらに試乗車は、オプション価格の151万円を加算すると979万円となる高級車だった。
ちなみに“素”の「A6 40 TDIクワトロ」(セダン)は745万円と、「BMW 523i」(666万円)よりは明確に高いが、「メルセデス・ベンツE200アバンギャルド」(734万円)との差はさほど大きくない。さらに本国では、同じ直列4気筒でも真のエントリーモデルとなる「35 TDI」(163PS/370N・m)が用意され、また上位機種には3リッターV6ターボ(286PS/620N・m)の「50 TDI」が収まる。つまり40 TDIは、本国だと“ディーゼルの真ん中のグレード”となるわけだ。また日本仕様の駆動方式は、いまのところ4WDのみとなっている。
まずは静かさに驚かされる
注目の2リッター4気筒ディーゼルターボは、12Vマイルドハイブリッドシステムが付く「EA288 evo」。コールドスタートでブルン! と目覚めるエンジンはアイドリングもディーゼル感丸出しのにぎやかさだったが、パワーウィンドウが閉まると同時にシュタッ! と車内が外界から切り離されたのには、高級車としての威厳が感じられた。
走りだしてからも、この静寂感は続く。意地悪く耳を澄ませば特有のノック音は聞こえるものの、そんなことを無理やり詮索しても疲れるだけ。シートと足まわりが織りなす快適な乗り心地に身を委ねてしまえば、こうした低周波ノイズはロードノイズよりも低く、それ以降は気にならなくなった。
むしろ気になるのは、足裏からうっすらとエンジンの振動が伝わることで、ここはガソリンモデルに軍配が上がる。これをディーゼルエンジンの特性として納得するか、エントリーモデルとはいえコミコミで1000万の大台に迫るプレミアムエステートとして不満に思うかは、ひとつの分かれ目となるかもしれない。参考までに、その燃費はWLTCモード(総合)で16.1km/リッター。同じ直列4気筒のガソリンモデルである45 TFSIは11.4km/リッターとなっている。
そんな40 TDIだが、見せ場はまず高速巡航で訪れた。日本の法定速度下におけるエンジン回転数は極めて低く、回転を2000rpm以下にとどめることはたやすい。風切り音はその存在すら忘れるほどで、良好な路面ではロードノイズまでもが収まってしまう。さらに言うと、アダプティブクルーズコントロールを使えば足裏の振動も気にならない。
出自を感じさせる中間加速の伸びのよさ
加速については、パーシャル領域から少しアクセルを踏み込むような場面だと、そつなくトルクを継ぎ足して速度を上げてくれる。一方で、グッと踏み込んだ際の反応は、“ディーゼルターボ”と聞いて寄せられる期待値に対し、少々パンチに欠ける。
12Vマイルドハイブリッドで得られるアシストは、約8PS/60N・m。資料によるとこれがエンジンアシストとして働くには約5秒間という制約が付き、さらに言うとモーターの主たる役割は“ブースター”ではないらしい。また、エンジン自体も高価な排ガス浄化装置をずらりとそろえながら、初期ブーストをさほど高めてはいないように感じる。ちなみに204PS/400N・mというアウトプットに比しての車重は1880kgで、試乗車のオプションを付けるとさらに20kg重くなる。車格を思えばまずまずとはいえ、この加速感には重さも少なからず影響しているはずである。
一方で、ある程度スピードが乗ってからもアクセルを踏み続けた際の加速は、伸びやかで大変よろしい。日本では息の長い加速を楽しむ前に制限速度に達してしまうので、「ただただ静かで乗り心地がいいクルマ」に思えてしまうのが残念だが、ヨーロッパのようにアベレージ速度が高いシチュエーションなら、そのよさがさらに引き出せそうだ。
また、このマイルドハイブリッドシステムは55~160km/hのワイドレンジでコースティング走行を行う(さらに言えば22km/h以下ではアイドリングストップをも実現する)が、メーターを注視しない限りその瞬間にはなかなか気づけない。駆動が途切れた際にも不安定さや空走感を覚えさせないのは、今日の主流であるSUVに対して重心の低いエステートモデルならではの美点と、気筒休止や駆動クラッチ断続技術が進化したおかげだろう。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
乗り心地もコーナリングでのマナーも上々
試乗車はスポーツサスを組み込んだ上で、オプションの「ドライビングパッケージ」に含まれる可変ダンパーが装着されていた。その乗り心地はスチールスプリングにも関わらず、エアサスに負けないほど快適。路面のうねりではバウンスを許すが、これをワンストロークでスッと抑え込むダンパーの制御が見事だった。
スポーツサスという割にステア応答性はおっとりしているが、切り始めから車体はきちんと反応しているから、応答遅れを感じない。そしてドライビングモードで「ダイナミック」を選べば、動きがさらにまとまる。ダンパーを引き締めても乗り心地が悪くならないのは、225/55R18というタイヤのキャラクターも効いている。もう少しハンドリングに“若さ”を加えたいなら、1サイズくらい幅を広げて、扁平(へんぺい)率を下げてみるのもいいだろう。
当日は東京から中央高速道路を経由して山梨・南都留郡のワインディングロードまでアシを延ばしたが、せまい峠道では巧みにロールを抑えながらも、無理やりにこのボディーをネジ込んでいこうとはしない姿勢に、むしろ好感が持てた。つまり後輪操舵の制御も、このしなやかな足まわりとうまくキャリブレーションが取れている。
ベーシックでオーソドックスな“いいクルマ”
全体としてA6 40 TDIは、落ち着きのある大人らしいキャラクターだ。ここにラグのない動力性能を足すのなら、やはり55 TFSIのV6エンジンが必要だと思うし、よりスタイリッシュさを求めるのなら「A7スポーツバック」もあるだろう。しかし、いわゆる超オーソドックスなミドルセダンあるいはエステートが欲しいならば、A6の40 TDIは“どストライク”だと思う。あれもこれもと欲張った製品が幅を利かせる昨今、本当にベーシックで良い物を探すのはなかなかに難しい。そんな中にあって、A6 40 TDIは飾り気のない高級車である。
また今回はアバントということもあって、おっとりとしたキャラクターがむしろ道具感を引き立てる効果も高いと感じた。その柔らかい乗り味は565リッターのトランクに荷物をたくさん詰め込んで、荒れた道路や別荘地への砂利道をガシガシと突き進むためにある。雪が降ってもスコールが来ても、クワトロのトラクションが安心を与えてくれると思うと、なんだかワクワクする。
乗り味に過剰な刺激がないからこそ、A6 40 TDIはアクティブなライフスタイルに高いマッチングをみせるのではないか? この静かで上質な乗り味を、ただ漫然と走らせるだけではもったいないなぁ……と感じた試乗であった。
(文=山田弘樹/写真=荒川正幸/編集=堀田剛資)
テスト車のデータ
アウディA6アバント40 TDIクワトロ スポーツ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4940×1885×1475mm
ホイールベース:2925mm
車重:1900kg
駆動方式:4WD
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ディーゼル ターボ
トランスミッション:7段AT
最高出力:204PS(150kW)/3800-4200rpm
最大トルク:400N・m(40.8kgf・m)/1750-3000rpm
タイヤ:(前)225/55R18 102Y/(後)225/55R18 102Y(ブリヂストン・トランザT005)
燃費:16.1km/リッター(WLTCモード)
価格:828万円/テスト車=979万円
オプション装備:オプションカラー<カラットベージュM>(9万円)/ドライビングパッケージ<ダイナミックオールホイールステアリング+ダンピングコントロールサスペンション>(40万円)/パワーアシストパッケージ<電動チルト・テレスコピックステアリングコラム+パワークロージングドア>(18万円)/リアコンフォートパッケージ<シートヒーター[リア]+エアクオリティーパッケージ+サンブラインド[リアドアウィンドウ]>(16万円)/ワイヤレスチャージング(3万円)/アシスタンスパッケージ<フロントクロストラフィックアシスト+サラウンドビューカメラ+カーブストーンアシスト+リアサイドエアバッグ+アダプティブウィンドウワイパー>(14万円)/Luxuryパッケージ<コンフォートシート[フロント]+シートベンチレーション[フロント]+4ゾーンデラックスオートマチックエアコンディショナー+アウディミュージックインターフェイス リア+マルチカラーアンビエントライティング+HDマトリクスLEDヘッドライト>(51万円)
テスト車の年式:2020年型
テスト開始時の走行距離:2063km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(3)/高速道路(6)/山岳路(1)
テスト距離:371.2km
使用燃料:29.3リッター(軽油)
参考燃費: 12.6km/リッター(満タン法)/14.9km/リッター(車載燃費計計測値)

山田 弘樹
ワンメイクレースやスーパー耐久に参戦経験をもつ、実践派のモータージャーナリスト。動力性能や運動性能、およびそれに関連するメカニズムの批評を得意とする。愛車は1995年式「ポルシェ911カレラ」と1986年式の「トヨタ・スプリンター トレノ」(AE86)。
-
ルノー・グランカングー クルール(FF/7AT)【試乗記】 2026.2.25 「ルノー・グランカングー」がついに日本上陸。長さ5m近くに達するロングボディーには3列目シートが追加され、7人乗車が可能に。さらに2・3列目のシートは1脚ずつ取り外しができるなど、極めて使いでのあるMPVだ。ドライブとシートアレンジをじっくり楽しんでみた。
-
ボルボEX30クロスカントリー ウルトラ ツインモーター パフォーマンス(4WD)【試乗記】 2026.2.24 ボルボの電気自動車「EX30クロスカントリー」に冬の新潟・妙高高原で試乗。アウトドアテイストが盛り込まれたエクステリアデザインとツインモーターからなる四輪駆動パワートレイン、そして引き上げられた車高が織りなす走りを報告する。
-
BYDシーライオン6(FF)【試乗記】 2026.2.23 「BYDシーライオン6」は満タン・満充電からの航続可能距離が1200kmにも達するというプラグインハイブリッド車だ。そして国内に導入されるBYD車の例に漏れず、装備が山盛りでありながら圧倒的な安さを誇る。300km余りのドライブで燃費性能等をチェックした。
-
アルファ・ロメオ・トナーレ ハイブリッド インテンサ(FF/7AT)【試乗記】 2026.2.22 2025年の大幅改良に、新バリエーション「インテンサ」の設定と、ここにきてさまざまな話題が飛び交っている「アルファ・ロメオ・トナーレ」。ブランドの中軸を担うコンパクトSUVの、今時点の実力とは? 定番の1.5リッターマイルドハイブリッド車で確かめた。
-
トライアンフ・トライデント800(6MT)【海外試乗記】 2026.2.20 英国の名門トライアンフから、800ccクラスの新型モーターサイクル「トライデント800」が登場。「走る・曲がる・止まる」のすべてでゆとりを感じさせる上級のロードスターは、オールラウンダーという言葉では足りない、懐の深いマシンに仕上がっていた。
-
NEW
ホンダCR-V e:HEV RSブラックエディション(4WD)【試乗記】
2026.2.26試乗記日本で久々の復活を遂げた「ホンダCR-V」の新型に、北海道のテストコースで試乗。雪上・氷上での“ひとクラス上”の振る舞いに感嘆しつつも、筆者がドン! と太鼓判を押せなかった理由とは? デビューから30年をむかえたCR-Vの、実力と課題を報告する。 -
NEW
ホンダがBEV「スーパーONE」の情報を先行公開 「ブルドッグ」の再来といわれるその特徴は?
2026.2.26デイリーコラムブリスターフェンダーが備わるアグレッシブなエクステリアデザインから、ファンが「シティ ターボII」の再来と色めき立ったホンダの新型電気自動車(BEV)「スーパーONE」。2026年中の発売がウワサされる最新BEVの特徴とホンダの狙いを解説する。 -
NEW
メルセデス・マイバッハSL680モノグラムシリーズ(4WD/9AT)【試乗記】
2026.2.26JAIA輸入車試乗会2026ボンネットやソフトトップにおにぎり形エンブレムがちりばめられた「メルセデス・マイバッハSL680モノグラムシリーズ」とは一体どんなクルマなのか。おしゃれと悪趣味の間で揺れ動く孤高のオープントップスポーツカーをドライブした。 -
右も左もスライドドアばかり ヒンジドアの軽自動車ならではのメリットはあるのか?
2026.2.25デイリーコラム軽自動車の売れ筋が「ホンダN-BOX」のようなスーパーハイトワゴンであるのはご承知のとおりだが、かつての主流だった「スズキ・ワゴンR」のような車型に復権の余地はないか。ヒンジドアのメリットなど、(やや強引ながら)優れている点を探ってみた。 -
第950回:小林彰太郎氏の霊言アゲイン あの世から業界を憂う
2026.2.25マッキナ あらモーダ!かつて『SUPER CG』の編集者だった大矢アキオが、『CAR GRAPHIC』初代編集長である小林彰太郎との交霊に挑戦! 日本の自動車ジャーナリズムの草分けでもある天国の上司に、昨今の日本の、世界の自動車業界事情を報告する。 -
ルノー・グランカングー クルール(FF/7AT)【試乗記】
2026.2.25試乗記「ルノー・グランカングー」がついに日本上陸。長さ5m近くに達するロングボディーには3列目シートが追加され、7人乗車が可能に。さらに2・3列目のシートは1脚ずつ取り外しができるなど、極めて使いでのあるMPVだ。ドライブとシートアレンジをじっくり楽しんでみた。






















































