電気で走るチンクエチェント!? 「フィアット500クラシケev」が示した新しいクラシックカー像
2020.09.23 デイリーコラム“博物館発”のベンチャープロジェクト
クラシックカーをコンバートした電気自動車(EV)が、ここ数年、その筋のスペシャリストたち、あるいは自動車メーカーの手によって続々と誕生していることを、ご存じの向きも多いだろう。このクラシックカー業界最新のムーブメントのなかでも、格別にアイコニックで、格別にカワイイ一台が誕生することになった。しかもそれは、日本のエンスージアストたちが主導したアイデアに基づくもの。古きよき“チンク”こと「フィアット500」を蒐集(しゅうしゅう)するプライベートミュージアム「チンクエチェント博物館(Museo Cinquecento)」のプロデュースにより、イタリアの名匠たちの手で製作される「フィアット500クラシケev」である。
日本発のアイデアによるものとはどういうことか? 車名の「クラシケ」とは何を意味するのか? そのあたりを理解してもらうためにも、まずはチンクエチェント博物館のこれまでの取り組みについて紹介したい。
今を去ること20年前の2000年、愛知県にオープンしたチンクエチェント博物館は、初代“トポリーノ”と2代目“ヌォーヴァ”という2世代のフィアット500とそのファミリーたちの保護・保存に取り組んできた。さらに「ミュージアム館内で展示するだけでなく、このクルマへの愛を共有するエンスージアストに入手・所有してもらい、いつまでも元気一杯走らせ続けてもらうことも、チンクエチェントという文化遺産を守ることにつながる」と考え、イタリアのスペシャリストが手がけた500のリフレッシュ車両、名づけて「フィアット500クラシケ」の輸入・販売を行うことを決意した。
レストアした「500」にEVパワートレインを搭載
こうして誕生したフィアット500クラシケは、イタリアで日常的に走行している車両のなかから、比較的ボディーコンディションのよい個体を選んで輸入・販売する「ベース」、内外装パーツの多くを新品に交換し、エンジンやトランスミッション、足まわり、ブレーキなどに入念なメンテナンスを施した「スタンダード」、顧客のフルオーダーに基づいてボディー全体を取り外し、新たに板金塗装まで行う「フルレストア」の3つのステージを用意。また、往年のアバルトのお家芸的チューニングを現代に復活させたライトチューン車両「mCrt 595」と「mCrt 650」が、スタンダードとフルレストアの両仕様で選択できるという。
そして、フルレストア仕様限定で、まったく新しい価値を提供するべくつくられるのが、EVの500クラシケevなのだ。
チンクエチェント博物館のフィアット500クラシケevは、リアの、本来ならば空冷直列2気筒OHVエンジンが収まるコンパートメントに、イタリア・ニュートロン社製EVコンバージョンキットを組み込んだもの。このコンバージョンキットは、車両を走らせるためのモーターやコントロールユニットによって構成される。そして、オリジナルでは燃料タンクと小さなトランクが置かれるフロントに、モーター駆動用のリチウムイオンバッテリーが搭載される。
バッテリーは1基(ONE BATTERY)と2基(TWO BATTERY)から選択可能で、総電力量は前者が5.5kWhで後者は10kWh。バッテリーの充電は家庭用の200V電源に対応しており、一回の充電で可能な走行距離は「ONE BATTERY」仕様で約40km、「TWO BATTERY」仕様では約80kmとされている。
クラシックなれど新しい時代の楽しいクルマ
フィアット500クラシケevというクルマの存在を初めて耳にしたときから興味津々だった筆者は、まだ試作車段階というONE BATTERY仕様に、ごく短時間・短距離ながら試乗するチャンスを得た。
2気筒のガソリンエンジンを搭載するオリジナルの500は、排気量479cc、最高出力13PSというか細いパワーにすぎなかった初期モデルはもちろん、中期以降の499.5cc、18PSのモデルであっても、ノーマルのままなら日本の都市部で交通の流れに追いつく、あるいは急勾配の坂道を軽快に走るのは、正直なところなかなかの冒険的行為だった。
一方の500クラシケevは、最高出力こそ13kW(約18PS)と古きよきガソリンエンジン車と変わらないのだが、一方で最大トルクは160N・m(約16.3kgf・m)と、初期モデルの実に5倍以上の数値をマークする。しかも、電動モーターの特徴でアクセルペダルを踏み込んだ直後から太いトルクが立ち上がるので、キュートな見た目の印象とは裏腹の速さ(あくまで体感的なものだが……)を発揮する。
加えて、車両重量はONE BATTERY仕様で590kg、TWO BATTERYで650kgという、現代のクルマでは考えられないような圧倒的な軽さも、このクルマの特異なキャラクターを決定づけているだろう。軽量であるがゆえに、レスポンスのよい加速感や強い回生制動などに代表される電動モーターの特質が、面白いほどダイレクトに伝わってくる。
まるで遊園地の乗り物をストリートで乗るようなワクワク感を、超絶キュートな“チンク”で体感できるこのクルマは、ほかに何者にも似ていない新時代のファンカーと得心したのである。
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
日々に彩りを添えてくれるクラシックカーという提案
もちろん、一回の充電で走らせられる距離は限られるので、ドライブは自宅などの充電環境から近距離に限定されるものの、コロナ禍もあって“近距離を最大限に楽しむ”過ごし方が再認識されるようになった今日にあって、こういった日常生活で満喫できるクラシックカーの登場は、とても歓迎すべきことと思われる。
フィアット500クラシケevは、在庫車両以外はすべてカスタムオーダーとなり、受注から納車までの納期の目安は約6カ月。オーダーの場合、ベースモデル(「500D」「500F」「500L」から選択可能)やボディーカラー、インテリアの仕立てなどが自由に選べるほか、オリジナル500の最初期型に存在した「トラスフォルマービレ」のようなロングサンルーフや、「フィアット・アバルト695SS」のようなオーバーフェンダー付きなどのカスタマイズも対応可能とされている。
ちなみに、お値段はスタート価格でONE BATTERY仕様が506万円、TWO BATTERY仕様は550万円とのこと(消費税込み)。ご興味を持たれた方には、まずはチンクエチェント博物館の公式ホームページを訪ねることをおすすめしたい。
(文=武田公実/写真=チンクエチェント博物館/編集=堀田剛資)

武田 公実
-
トヨタ車はすべて“この顔”に!? 新定番「ハンマーヘッドデザイン」を考える 2025.10.20 “ハンマーヘッド”と呼ばれる特徴的なフロントデザインのトヨタ車が増えている。どうしてこのカタチが選ばれたのか? いずれはトヨタの全車種がこの顔になってしまうのか? 衝撃を受けた識者が、新たな定番デザインについて語る!
-
スバルのBEV戦略を大解剖! 4台の次世代モデルの全容と日本導入予定を解説する 2025.10.17 改良型「ソルテラ」に新型車「トレイルシーカー」と、ジャパンモビリティショーに2台の電気自動車(BEV)を出展すると発表したスバル。しかし、彼らの次世代BEVはこれだけではない。4台を数える将来のラインナップと、日本導入予定モデルの概要を解説する。
-
ミシュランもオールシーズンタイヤに本腰 全天候型タイヤは次代のスタンダードになるか? 2025.10.16 季節や天候を問わず、多くの道を走れるオールシーズンタイヤ。かつての「雪道も走れる」から、いまや快適性や低燃費性能がセリングポイントになるほどに進化を遂げている。注目のニューフェイスとオールシーズンタイヤの最新トレンドをリポートする。
-
マイルドハイブリッドとストロングハイブリッドはどこが違うのか? 2025.10.15 ハイブリッド車の多様化が進んでいる。システムは大きく「ストロングハイブリッド」と「マイルドハイブリッド」に分けられるわけだが、具体的にどんな違いがあり、機能的にはどんな差があるのだろうか。線引きできるポイントを考える。
-
ただいま鋭意開発中!? 次期「ダイハツ・コペン」を予想する 2025.10.13 ダイハツが軽スポーツカー「コペン」の生産終了を宣言。しかしその一方で、新たなコペンの開発にも取り組んでいるという。実現した際には、どんなクルマになるだろうか? 同モデルに詳しい工藤貴宏は、こう考える。
-
NEW
2025-2026 Winter webCGタイヤセレクション
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>2025-2026 Winterシーズンに注目のタイヤをwebCGが独自にリポート。一年を通して履き替えいらずのオールシーズンタイヤか、それともスノー/アイス性能に磨きをかけ、より進化したスタッドレスタイヤか。最新ラインナップを詳しく紹介する。 -
NEW
進化したオールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2」の走りを体感
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>欧州・北米に続き、ネクセンの最新オールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2(エヌブルー4シーズン2)」が日本にも上陸。進化したその性能は、いかなるものなのか。「ルノー・カングー」に装着したオーナーのロングドライブに同行し、リアルな評価を聞いた。 -
NEW
ウインターライフが変わる・広がる ダンロップ「シンクロウェザー」の真価
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>あらゆる路面にシンクロし、四季を通して高い性能を発揮する、ダンロップのオールシーズンタイヤ「シンクロウェザー」。そのウインター性能はどれほどのものか? 横浜、河口湖、八ヶ岳の3拠点生活を送る自動車ヘビーユーザーが、冬の八ヶ岳でその真価に触れた。 -
NEW
第321回:私の名前を覚えていますか
2025.10.20カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。24年ぶりに復活したホンダの新型「プレリュード」がリバイバルヒットを飛ばすなか、その陰でひっそりと消えていく2ドアクーペがある。今回はスペシャリティークーペについて、カーマニア的に考察した。 -
NEW
トヨタ車はすべて“この顔”に!? 新定番「ハンマーヘッドデザイン」を考える
2025.10.20デイリーコラム“ハンマーヘッド”と呼ばれる特徴的なフロントデザインのトヨタ車が増えている。どうしてこのカタチが選ばれたのか? いずれはトヨタの全車種がこの顔になってしまうのか? 衝撃を受けた識者が、新たな定番デザインについて語る! -
NEW
BMW 525LiエクスクルーシブMスポーツ(FR/8AT)【試乗記】
2025.10.20試乗記「BMW 525LiエクスクルーシブMスポーツ」と聞いて「ほほう」と思われた方はかなりのカーマニアに違いない。その正体は「5シリーズ セダン」のロングホイールベースモデル。ニッチなこと極まりない商品なのだ。期待と不安の両方を胸にドライブした。