第194回:2台の聖遺物
2020.11.23 カーマニア人間国宝への道世界遺産級のコンディション
わたくし、このたび、「ランボルギーニ・カウンタック」を買いました。
ただし半分だけです。中古フェラーリ専門店コーナーストーンズのエノテンこと榎本 修代表が所有する白い「25thアニバーサリー」を、半額払って共有させてもらったのです。
なぜ半分かというと、1台買うと3000万円で、ちょっと高すぎたこともありますが、なにせ私は大乗フェラーリ教開祖を名乗る者。その当人が、フェラーリとランボルギーニを1台ずつ所有するのは、気持ちのバランスがよろしくない。ランボに関しては一歩引いて、半分くらいがちょうどいい。
エノテンにとっても、これは悪い話じゃないはずだ。なぜならエノテンはクルマ屋さん。職業柄、お客さんに「売ってください!」と頼まれると断りづらい。実際彼はこれまで、大好きなカウンタックを何度か所有したものの、すぐ売ってしまっている。
でも、私が半分オーナーになれば、自分の一存では売れなくなる!
エノテンの今回のアニバーサリーは、内外装ともに白という神がかった個体。コンディションも世界遺産級だという。私に半分だけ売れば、そのご神体を守ることができるはずだ。めったに乗るクルマじゃないから半分ずつで十分だし、お互いにメリットだらけじゃんか! と思ったのです。
それを思いついたときは、あまりにも名案すぎて、断られたら生きていけないとすら感じました。で、エノテンに恐る恐る申し入れたところ、「それで行きましょう!」と快諾してくれました。うれしくて涙が出ます。
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スーパーカーは存在がすべて
ところで、いったいなぜ今カウンタックなのか。
それは、私の脳内の化学変化によりまする。老人力の増加ともいえますが。
かつて私はランボルギーニを、デリカシーのカケラもない、田舎っぺのクルマと考えていました。しかし最近になってようやく、カウンタックの真価がわかってきたのです。
存在だけで、すべての理屈を吹っ飛ばしてしまうクルマ。それがカウンタックだ。スーパーカーはカウンタックに始まりカウンタックに終わる。フェラーリはフェラーリだけど、スーパーカーはカウンタックに尽きる。
そのことは、以前から頭では理解しておりました。なにせ10年前に半年だけ所有したこともあるし。でもあの頃はまだ、フェラーリを崇拝する者としてその事実が悔しく、認めたくなかった。最近ようやく心身両面で受け入れられるようになりました。
もはやスピードへの情熱は消え、スーパーカーは存在こそすべてであり、もっと具体的に言うと、公道をフツーに走ったり、そこらの駐車場(例・首都高辰巳PA)に止めて眺めたりした時に、どれだけ感動できるかだと悟るに至りました。その時、かさぶたが落ちるように、つまらぬこだわりが消えたのでしょう。
近年の旅客機は、速度ではなく経済合理性だけを追求して開発されている。もう人類はコンコルドを必要としていない。
クルマの世界では、今はまだ新しいスーパーカーを欲しがる人がいっぱいいるけれど、私はもう欲しいとは思わない。新たな自動車テクノロジーに関しては、スピードではなく、経済合理性(≒環境性能)を追求するタイプのほうがときめく。ガチで内燃機関を駆逐するような革新的EVが出たら、ぜひ購入したい。
カーマニア人間国宝の完成形とは?
でも、コンコルドは永遠だ。「人類史上最もカッコいい旅客機」として、私の脳内に刻まれている。
クルマの世界では、それが「フェラーリ328」であり、カウンタックなのです。どちらも永遠の聖遺物です。
スーパーカーは、もう進歩する必要はない。過去に静止したままでいい。いや、静止していないといけない。世界遺産みたいに。
当連載の第5回で「私にはヒストリックカー趣味はない」と書きました。わずか4年前のことです。
当時乗っていたフェラーリは、「458イタリア」。愛称は「宇宙戦艦号」でした。宇宙戦艦号は、その名の通りUFOのようなクルマでした。
でも3年前、その宇宙戦艦号を手放して、「328GTS」に買い替えました。そしてこのたびは、人生初のフェラーリ2台体制(328GTSと「348GTS」)を崩し、348のほうを手放して、カウンタックを買うことにしたのです。
ともに1989年製の31歳。ヒストリックカーまではいかないけど、見事なネオクラシックカーです。
458イタリアまでは、新しいフェラーリに巨大な夢と可能性を感じていたのですが、突如それがしぼみ、3年前から、むしろ古いほうに夢と可能性を感じています。
89年というのは、私が初めてフェラーリ様を運転させていただいた年。私のスーパーカー史はそこから始まっている。いわば89年は私のスーパーカー元年。その元年製(くしくも平成元年)のスーパーカーが、手元に2台そろったのです! 正確には1.5台だけど。
フェラーリ328とカウンタック。これほどまでに完璧な美女と野獣の組み合わせがあるだろうか。まさに究極の2台。ありがたくて涙が出ます。
この2台の聖遺物に、地球環境の崩壊を防ぐ任務を担った革新的エコカーがそろえば完璧だ。その時こそ、わたくしなりのカーマニア人間国宝の完成形と考えることにいたしたく存じます。
(文と写真=清水草一/編集=櫻井健一)

清水 草一
お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。
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