ポルシェ・マカンGTS(4WD/7AT)
スポーティーを超える価値 2020.12.12 試乗記 マイナーチェンジを受けた「ポルシェ・マカンGTS」に試乗。最高出力380PSの新世代2.9リッターV6ターボエンジンと熟成されたシャシーの出来栄えをチェックしながら、他のモデルとは異なるGTSならではの特徴と魅力を探った。マイナーチェンジでGTSも進化
水平対向6気筒エンジンをボディー後端の低い位置に搭載するという固有の記号性を守り、改良と進化の手を休めないことで誕生から半世紀以上、常に「世界第一級のスポーツカー」というポジションをキープしながら歴史を刻んできた「ポルシェ911」。
かくも由緒あるストーリーを紡ぎながら、同時に変化する時代性を素早くつかみとり、時に長年のファンが戸惑うほどにドラスティックな戦略変更すらもためらわないのがまた、実はポルシェというブランドの特徴でもある。
最近では、ターボ付きの水平対向4気筒ユニットの搭載へと宗旨替えをしたかに思えたミドシップ系モデルに、あらためて自然吸気式へと戻した水平対向6気筒ユニットの搭載モデルを設定したことで、ひと騒動を起こした(?)ことも記憶に新しい。したがって伝統と変わり身の早さが複雑に共存するポルシェからは、いっときたりとも目が離せないのである。
というわけで今回紹介するのは、2013年末に「カイエン」の弟分として誕生したマカンに再設定されたGTSグレード。かつて「シリーズ内で自然吸気エンジンを搭載する最もスポーティーなグレード」と表現すればおおよそこと足りたGTSというキャラクターも、そんな不文律が通用しなくなってから早幾年(いくとせ)。
そもそも「ターボ」というネーミングを、採用ハードウエアの内容とは別に「シリーズ中で特にハイパフォーマンスなモデルを指し示す名称」として用いるようになってからのポルシェの場合、マカンのように当初からすべてのグレードがターボ付きエンジンを搭載し、そもそも前述の“GTSの流儀”にのっとっていなかった事例さえも存在する。
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ポジションはターボとSの中間
原則としては、搭載するエンジンの出力レベルによって、ベースモデルからターボ系まできちんとした階層をなすのがポルシェのグレード設定における暗黙のルール。それに従うと、ハイパフォーマンスバージョンの「S」とトップモデルであるターボとの中間に位置するのがGTSということになる。
実際、2019年末に発表されたマカンのGTSとしては2世代目となるここに紹介するモデルも、2.9リッターのターボ付きV型6気筒エンジンが発する380PSの最高出力は、S用ユニットが発する354PSと、ターボ用ユニットが発する440PSの間に収まる数値。ちなみにそんな上下に位置するモデルの最大トルク値はSが480N・m、ターボが550N・mだから、520N・mというGTSのデータは、こちらも見事に中間に落ち着く結果となる。
一方でこうして再度の追加設定というカタチをとったGTSグレードを、ポルシェ自身は「もっともスポーティーなマカン」とも紹介している。前述のようにエンジン出力的にはターボのほうが上をいくものの、Sグレード比でさらに15mmのローダウン化が図られた専用サスペンションのセッティングや、よりファットで大径化されたシューズ、さらにスポーツエキゾーストシステムの標準装備化などが、その根拠ということになるのだろう。
ブラックのアクセントカラーが随所に採用されるのは、911やカイエンをはじめとする各モデルのGTSグレードで定石となるメニュー。フロントエプロンやルーフスポイラー、リアのエプロンがエクステリアカラーと同色となる「スポーツデザインパッケージ」もGTSでは標準装備される。
シートのセンター部分やコンソールのアームレスト、ドアトリムにアルカンターラがあしらわれるなど、インテリアでもスポーティーでありながらゴージャスなムードが強調されるのも、各GTSグレードに共通する特徴点。つまり、走りのポテンシャルと見た目の雰囲気の両面から特別感を演出するのが、GTSであるといえる。
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見た目だけにとどまらない価値
試乗車は「カーマインレッド」という高価なボディー色を筆頭に、ハイグロスブラック仕上げのルーフレールやアルカンターラルーフライニング、クレヨンシートベルトといったオプションのアイテムが、GTSグレードならではのスペシャルさをより加速させることになっていた。
そうしたアイテムを除外しても、専用デザインのボディーキットからなるスポーツデザインパッケージを標準で装備することなどによって、随所にブラックのアクセントカラーを配したエクステリアのデザインや、ティンテッド処理が施されたリアのLEDライトバーが、すでに見慣れたマカンのルックスを“ひと味違う特別なモデル”という雰囲気に仕立て上げている。
インテリアでは、立体感の強い専用スポーツシートの標準装備が一番の特徴。カタログモデルでありながら、細かなポイントで「まるでビスポークバージョンのような仕上がり」を連想させるのも各GTSグレードに共通する戦術だ。ちなみにそんなGTSグレードの価値が、見た目のみにはとどまらないことは、これまでのモデルの実力からも明らかだ。
7段DCTとの組み合わせで搭載するツインターボ付きの2.9リッターエンジンは、ベースとなるS用の3リッターユニットと同じV型6気筒ながらも実はまったく異なった設計で、380PSという最高出力は26PS、520N・mの最大トルクは40N・m後者を上回る。電子制御式の可変減衰力ダンパー「PASM」を採用するサスペンションも、「特別なチューニングにより15mmのローダウンが図られ、オプションのエアサスペンションを選択するとさらに車高は10mm低くなる」とアナウンスされている。
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SUVのスポーツカー
0-100km/h加速タイムがわずかに4.7秒(スポーツクロノパッケージ装着車)で、最高速は261km/h――そうしたスペックを耳にするにつけ、いやが応でもホットな走りを連想させる新しいマカンGTSだが、いざスタートすると、大半の人がまず抱くに違いないと思われるのは「なんて乗り心地がいいんだ!」という、事前の予想とは大きく異なった感想である。
実際その印象は、「恐ろしく上質」と表現したくなるもの。もちろん、アクセルペダルを踏む右足に力を込めれば、即座にターボブーストが高まって圧倒的な加速力を味わわせてくれるのだが、「ノーマル」モードはおろかダンパー減衰力がハード側にセットされる「スポーツプラス」モードを選択した場面でも、「あれ? これってエアサスペンション付きだっけ?」と思わせる優しい乗り味が印象的なのだ。
ちなみに今回の試乗車は、ステアリングホイールに備わるダイヤル式モード切り替えスイッチを含む「スポーツクロノパッケージ」や「ポルシェ・トルクベクタリング・プラス」といった走りのオプションは採用するものの、サスペンションは標準のコイルスプリング式であった。
そんな上質という印象に輪を掛けていたのが、高い静粛性である。GTSに標準装着されるスポーツエキゾーストのモード選択によって威勢のよいサウンドを聞くことが可能である一方、ロードノイズがすこぶる低いこともあって、基本的には静粛性が非常に高いといえるのだ。
ただ、そうはいってもやはり高い走りのポテンシャルは隠しようがない。こうしたカタチのクルマとしては例外的に高い接地感は、「SUVのスポーツカー」という比喩が少しも的外れとは思えない水準である。決してサーキットオリエンテッドなモデルではないことを承知のうえでも、テストドライブ中には「こんなモデルを所有していたら、一度はサーキットへと連れていってみたい」という思いが頭をもたげてきた。
GTSというなかなか勇ましいグレード名が与えられてはいるものの、だからといって決して硬派一辺倒ではないのもこのモデルの見どころ。むしろ、ベースとされたマカン以上に、緩急剛柔を自在に操るGTSなのである。
(文=河村康彦/写真=花村英典/編集=櫻井健一)
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テスト車のデータ
ポルシェ・マカンGTS
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4686×1926×1609mm
ホイールベース:2807mm
車重:1910kg(DIN)
駆動方式:4WD
エンジン:2.9リッターV6 DOHC 24バルブ ツインターボ
トランスミッション:7段AT
最高出力:380PS(280kW)/5200-6700rpm
最大トルク:520N・m(53.0kgf・m)/1750-5000rpm
タイヤ:(前)265/45R20 104Y/(後)295/40R20 106Y(ミシュラン・ラティチュードスポーツ3)
燃費:9.6リッター/100km(約10.4km/リッター、欧州複合モード)
価格:1038万8889円/テスト車=1379万2891円
オプション装備:ボディーカラー<カーマインレッド>(39万4167円)/GTSレザーインテリアパッケージ<クレヨン>(0円)/パワーステアリングプラス(4万3797円)/ポルシェ・トルクベクタリング・プラス<PTV Plus>(24万8519円)/イオナイザー(4万7871円)/アルミルック燃料タンクキャップ(4万7871円)/ハイグロスブラックルーフレール(5万8056円)/シートヒーター<フロント>(7万0278円)/ポルシェエントリー&ドライブシステム(11万7131円)/自動防げんミラー(6万0093円)/スポーツデザインドアミラー(7万7408円)/アルカンターラルーフライニング(21万7964円)/レブカウンターダイヤル塗装仕上げ<シルバー>(0円)/スポーツクロノパッケージ<モードスイッチ含む>(18万9445円)/スモーカーパッケージ(9167円)/コンフォートライティングパッケージ(5万1945円)/BOSEサラウンドサウンドシステム(19万6574円)/アルカンターラ仕上げルーフハンドル(10万0834円)/ペイントキー レザーキーポーチ(4万8890円)/クレヨンシートベルト(0円)/トラフィックジャムアシスト付きアダプティブクルーズコントロール(11万7130円)/プライバシーガラス(7万8427円)
※数値はすべて欧州仕様車の参考値 ※価格はすべて車両発売時のもの
テスト車の年式:2020年型
テスト開始時の走行距離:2868km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(7)/山岳路(1)
テスト距離:414.4km
使用燃料:46.1リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:9.0km/リッター(満タン法)/10.0km/リッター(車載燃費計計測値)

河村 康彦
フリーランサー。大学で機械工学を学び、自動車関連出版社に新卒で入社。老舗の自動車専門誌編集部に在籍するも約3年でフリーランスへと転身し、気がつけばそろそろ40年というキャリアを迎える。日々アップデートされる自動車技術に関して深い造詣と興味を持つ。現在の愛車は2013年式「ポルシェ・ケイマンS」と2008年式「スマート・フォーツー」。2001年から16年以上もの間、ドイツでフォルクスワーゲン・ルポGTIを所有し、欧州での取材の足として10万km以上のマイレージを刻んだ。
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