第691回:【Movie】いきなり登録ナンバーワン! 新型「フィアット500」に乗ってみた
2021.01.28 マッキナ あらモーダ!ほっこりとした未来感
電気自動車(EV)である新型「フィアット500」が、イタリアにおける2020年12月のEV登録台数で1位(1549台)となった。2位「ルノーZOE」の1153台、3位「テスラ・モデル3」の851台を大きくしのいだ形である(データは「UNRAE」調べ)。
第689回に登場した、地元フィアット販売店に勤務するセールスパーソン歴38年のフランチェスコ氏から「試乗車の準備ができた」との知らせを受けた。
用意されていたのは、カブリオの中間グレード「アイコン」だった。
当日はあいにくの雨。ルーフを開けることはできずじまいだった。
せっかくのEVならではの静寂な室内も、ワイパーの作動音や曇りよけに奮闘するエアコンの送風音のほうが耳についてしまう。
さらに、第689回で紹介した例の歩行者向けオリジナル警告音を楽しみにしていたのだが、サービス工場でのプログラミングが未設定だったために聴くことができなかった。
音に関してもうひとつ言えば、フランチェスコ氏が出庫&入庫しているときに外で聞こえたモーター音が一番カッコよかったかもしれない。
それでも、新型コロナの感染拡大による州外移動制限により、メーカー保有のメディア向け試乗車を借りる機会を逃してしまった筆者としては、ありがたいチャンスである。
試乗コースは、筆者が過去二十数年にわたり、自分のクルマや知人のクルマで数え切れぬほど往来している街道や県道、そしてスーペルストラーダ(自動車専用道路)にしてもらった。ここを運転すると新型500の素性が最もわかりやすいと思ったからだ。
スペックを見ると、最高出力でも0-100km/h加速でも、同じシティーユースを目指したEVである「スマートEQ」を上回る。
だが体感的には、スマートEQのような、やんちゃともいえる“かっ飛び感”はほぼ感じられなかった。これまでのフィアットらしくない遮音性能およびボディー剛性の高さ――実際、従来型から全体の90%の部品が新しくなっているーーと上質なインテリアが貢献しているところが大きい。
歴代500のデザイン言語を忠実に再解釈したエクステリアおよびインテリアも、乗る人に安心感を与える。
あまりに“500”なためだろう。新型にもかかわらず、歩行者がほとんど振り向かない。ようやく気がついたのはギーク系の若者だけだった。
新型500は、ユーザーをEV生活にさりげなく移行させられる可能性を備えている。
従来の「俺、EVに乗ってるぞ」といった気負いがない、ほっこりとした未来感。
この粋な趣旨に賛同する人には、まさに「この指止まれ」的なクルマである。
【大矢アキオが新型フィアット500に試乗】
(文=大矢アキオ<Akio Lorenzo OYA>/写真と動画=大矢麻里<Mari OYA>、Akio Lorenzo OYA/編集=藤沢 勝)

大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、24年間にわたってリポーターを務めている。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
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