ベントレー・ベンテイガ(4WD/8AT)
ハマってしまう 2021.02.20 試乗記 マイナーチェンジを受けた「ベントレー・ベンテイガ」のV8モデルに試乗。大きく変わった内外装デザインと、リアトレッド拡大やドライブモードの追加で磨きのかかった走りを中心に“元祖ラグジュアリーSUV”の進化を確かめた。大胆に刷新されたデザイン
ベントレーによれば、2015年に発表したベンテイガは、ラグジュアリーSUVの先駆けであり、まったく新しいセグメントを創出したパイオニアなのだという。2000年以降、あまたのSUVがリリースされ、高級なモデルはプレミアムSUVなどと呼ばれてきたが、ベンテイガはそれらと一線を画す存在ということなのだろう。
プレミアムブランドとラグジュアリーブランドは何が違うのか調べてみたところ、前者はターゲットとするセグメントおよびユーザーを定め、機能や品質といった商品力を磨くことで、競合との差別化を図って立ち位置を確保していく一般的なマーケティング手法によってブランディングするのだという。対して後者は、そういった意識は薄く、つくり手が持つ独自の世界観をひたすらに磨き上げることで成立するのだそうだ。
ユーザーが選ぶ基準となるのは機能や品質といった相対的な価値ではなく、「ブランドの世界観という絶対的な価値」であるということらしい。つまりベンテイガを選ぶ動機は「ベントレーだから」ということになる。わかったような、わからないような、モヤモヤとした気分になるが、実際にベンテイガを目の当たりにすると「ベントレーなんだからすごいに違いない」と圧倒されてしまうのは確かだ。
大幅改良を受けて新型となったベンテイガは、大型化されたフロントグリルがより垂直に近くなり、丸型から楕円(だえん)形へと改められたLEDマトリクスヘッドライトは従来よりも外側の30mm高い位置へ移動したことで、押し出しが強くなっているから余計に圧倒される。ベントレーではおなじみのクリスタルカットガラスをモチーフにしたというヘッドランプは、自動車用としてはおそらく世界一きらびやかなこともあって、フロントマスクから放たれるオーラは一層強くなっている。そうした一方でボンネットの形状を変更し、先端を延長。開口部の位置が変更されたことで、正面から目に留まる隙間をなくした。
リアはさらに大胆に刷新されている。テールゲートが車幅いっぱいまで伸ばされたことで、こちらも開口部の隙間が後方からは目立たなくなった。「B」の文字をモチーフとした長方形から新たに楕円形へとデザインが変更されたテールライトは、従来の分割式ではなく一体式になった。さらに、ライセンスプレートをバンパー下へと移動したことでテールライト左右間にすっきりとした面が広がり、そこに配されるエンブレムが際立って見える。必要のないデザインエレメントをそぎ落とすことで洗練されていくという、シンプル&クリーンのお手本のようなデザインだ。
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考えられたユーザーインターフェイス
インテリアは最高級の素材とハンドクラフトによる伝統的なベントレーの雰囲気を保ちながら、フルデジタル仕様のメーターパネルや10.9インチの高解像度センターディスプレイなどでモダナイズされた。オーディオやカーナビなどの操作は基本的にセンターディスプレイのタッチパネルで行うようになっているが、すぐ下のスイッチもあわせて使える。
エアコンやドライブモード切り替えなどもロータリー式スイッチでわかりやすい。なんでもかんでもタッチパネルでの操作に集約してデザインをすっきりと見せることが流行しているが、使いづらくなっては元も子もない。ベンテイガは洗練されたルックスと使いやすさのバランスが絶妙で、初試乗でもパパッと直感的に操れることに、さりげないおもてなしを感じた。
ラグジュアリーブランドはつくり手本意なものなのだというにわか知識から、ユーザーはたとえ使いづらくても盲目的に従うことを強いられるのかと勘違いしていたが、決してそうではない。競合の動向などトレンドに流されず、ユーザビリティーに重きを置くのもベントレーの持ち味なのだ。
そういった、ユーザーに寄り添うベントレーの優しい一面は、新型ベンテイガの走りにも表れていた。例えば発進時にアクセルの踏み方が少々乱雑だとしても動きは至ってスムーズ。決して鈍いわけではなく、踏めば踏んだだけ豊かなトルクが湧き出てボディーの重さを意識させず力強く加速していくのだが、ガクンとするような唐突な動きがまるでなく、どんな場面でもあくまでスムーズなのだ。
今回の試乗車はV8エンジンで、後に続く「ベンテイガ スピード」に搭載されるW12エンジンに対して最高出力は58PS、最大トルクは130N・mほど下回ることになるが、単体で乗っているかぎりはこれ以上何を望むのか? と思えるほどに頼もしい。今どきの直噴ターボは直3や直4の実用車用ユニットでも低回転域のトルクが充実していて、街なかから高速道路の巡航まで2000rpm前後でほぼこと足りてしまう。ベンテイガはそれにも増して余裕があり、高速道路の追い越しでも2000rpm以上回す必要をほとんど感じなかった。
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大径・低偏平タイヤを履きこなす
100km/hの巡航は8速1500rpmで、そこから緩やかに速度を上げるために右足でアクセルペダルをそろりと踏み増していくと、シフトダウンせずともストレスなく加速していった。もう少しだけ速やかに、例えれば助手席ですやすやと寝ている人がいたとしても起こさない程度に急ぐイメージで、アクセル開度20〜30%まで踏んでいくとさすがにシフトダウンしたが2000rpmをほんの少し超えたところで120km/hに達して、おそらく90km/hのスピードリミッターぎりぎりで走行しているトラックの隊列をスイスイと追い抜いていけた。
こういったときも加速Gは立ち上がりが穏やかで、エンジンサウンドも遠くのほうからフォーンとささやいている程度。寝た子を起こすことなく、交通の流れを上手にリードしていくことができる。心に余裕を持って穏やかに運転しているつもりだが、意識せずとも目的地に早く着いてしまう。そんな不思議でぜいたくな移動が、ベンテイガに乗っていると自然と実現してしまう。
285/40ZR22の大径・低偏平タイヤは乗り心地に有利とはいえないが、実際には夢のように快適で驚く。まさしく“BORN TO RUN”とでも言えばいいのか、たとえソールが薄い素足感覚のシューズを履いていたとしても、生まれ持った足が優れていれば最高のランナーたりえる。ベンテイガのシャシーはそういう例えをしたくなるほど高度だ。
ドライブモードは「Comfort」「B」「Sport」の基本3種に任意設定できる「Custom」が加わり、乗り心地も相応に変化する。Bモード(Bentleyマーク=一般的なAutoに相当)は丹念につくり込まれているようで、実はこれ一択でもまったく問題ない。自分もずぼらなほうだから家電製品やカメラなどでは何も考えずに推奨モード的なもので使い過ごすことが多いが、クルマだけは手に入れたときに取説をじっくりと読んでモード切り替えなどがあれば試してみる。パワートレインやシャシーが持つポテンシャルや特性、つくり手の思いなどを知ると幸せな気分になって愛着が湧くからだ。
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だんだん体になじんでくる
ベンテイガで最も幸せを感じたのはComfortモードだった。ドライブモードが切り替えられるのは今どき特別なこととはいえないが、Comfort(やそれに準じるモード)ではその多くの場合、街なかなど低速域では快適なものの、速度や走行負荷が高まるにつれて状況に合わなくなっていくことが多い。スプリングが金属ゆえ固定レートなのにダンパーが減衰力可変式となれば、整合性がとれない領域が出てくるのは当然である。重量級のラグジュアリーSUVで幅広く良好なマッチングをとるには、ベンテイガの例をみるまでもなく可変レートのエアスプリングシステムは必須だろう。
さらに、車両重量が重く車高も高い大型SUVで快適な乗り心地とフラットな操縦安定性を両立させるためには、素早く幅広いレンジでロール剛性をフレキシブルに可変できるスタビライザーが有効だ。ベンテイガが世界初とうたう「アクティブロールコントロールテクノロジー」は、そういった要求に応えるシステムである。リアトレッドを20mm広げてきた新型は、基本的なスタビリティーを向上させたことでステアリング操作に対する俊敏性が高まり、結果的に正確性が高く一体感のあるハンドリングに進化した。ラグジュアリーの頂点であると同時にドライバーズカーでもあるベントレーの世界観においては、そこに磨きをかけることも大事なのだろう。
自分のライフスタイル……というよりも、むしろお財布事情とは相いれないから、1泊2日の、距離にしてたった300km強の短い付き合いは極めて冷静に過ごし、なんの感慨もなく別れるのだろうと想像していたが、最後にベントレーオーナーならあまりやらないだろうセルフ給油をしていると、なんだか寂しくなってきた。短いながらも高速道路やワインディングロードで濃厚な試乗時間を過ごしているうちにすっかりと体になじみ、しまいには街なかのせせこましい道でもあの巨体を意識することなく、乗り慣れた愛車のように運転できたからだ。
それだけベンテイガは、ドライバビリティーおよびユーザビリティーに優れた、人に寄り添うクルマづくりがなされているのだろう。そこには秘伝のレシピや何やら崇高なフィロソフィーがあるに違いない。そう思わされたということこそが、ベントレーというラグジュアリーブランドの世界観に見事にはまってしまったということなのかもしれない。
(文=石井昌道/写真=花村英典/編集=櫻井健一)
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テスト車のデータ
ベントレー・ベンテイガ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=5125×1995×1755mm
ホイールベース:2995mm
車重:2440-2530kg
駆動方式:4WD
エンジン:4リッターV8 DOHC 32バルブ ツインターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:550PS(404kW)/5750-6000rpm
最大トルク:770N・m(78.6kgf・m)/2000-4000rpm
タイヤ:(前)285/40ZR22 110Y/(後)285/40ZR22 110Y(ピレリPゼロ)
燃費:13.3リッター/100km(約7.5km/リッター、WLTPモード)
価格:2185万7000円/テスト車=2954万6900円
オプション装備:ボディーカラー<ソリッド&メタリック>(84万1400円)/カーペットオーバマットにコントラストバインディング(3万3370円)/コントラストステッチ(35万2140円)/マリナードライビングスペック<22インチブラックペイント&ブライトマシン仕上げホイール>(210万1080円)/サンシャインスペック(30万4310円)/ツーリングスペック(115万8330円)/5シートコンフォートスペック(77万4700円)/アコースティックサイドガラス(11万5700円)/ブライトクロムロワーバンパーマトリクス(17万6700円)/Breitling clockダークマザーパールのフェイス(55万9520円)/イルミネートトレッドプレート(23万7110円)/TVチューナー(18万0580円)/コントラストシートベルト(11万8560円)/Bentleyダイナミックライドシステム(73万6400円)
テスト車の年式:2021年型
テスト開始時の走行距離:1333km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(6)/山岳路(2)
テスト距離:365.9km
使用燃料:51.7リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:7.0km/リッター(満タン法)/7.5km/リッター(車載燃費計計測値)

石井 昌道
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