クルマ好きなら毎日みてる webCG 新車情報・新型情報・カーグラフィック

ホンダ・ヴェゼル 開発者インタビュー

モビリティーの楽しさを守ります 2021.05.27 試乗記 鈴木 真人 本田技研工業
四輪事業本部 事業統括部
ビジネスユニットオフィサー シニアチーフエンジニア
岡部宏二郎(おかべ こうじろう)さん

ホンダのコンパクトSUV「ヴェゼル」が2代目に進化。2013年デビューの先代は8年間で45万台が販売されたベストセラーモデルだが、当時と違うのはその後にライバルとなる国産コンパクトSUVが続々とデビューし、競争が激化しているところだ。開発責任者を務めた岡部宏二郎さんに話を聞いた。
【webCG】クルマを高く手軽に売りたいですか? 車一括査定サービスのおすすめランキングを紹介!

2040年に向けての構想

岡部宏二郎さんは初代ヴェゼルの開発にも関わり、今回のモデルチェンジでは責任者を務めている。ミスター・ヴェゼルとも呼ぶべき存在なのだが、インタビューの時点ではすでにその任を離れていた。別の部署に異動していたのである。

岡部さん(以下、岡部):4月からは事業統括部にいます。ヴェゼルはどちらかというとスモールでしたが、今はCセグメントの次をどうするかというところに関わっています。事業戦略と商品戦略ですね。三部が言っていることを、具体的にどうやっていくか。全体の事業とグローバルで成立させるためにどういう商品が必要かを考えるんです。

三部とは、2021年2月に就任した三部敏宏新社長のこと。4月22日に就任記者会見を開き、2040年にすべてのモデルを電気自動車(EV)か燃料電池車(FCV)にするという衝撃的な発表を行った。つまり、岡部さんはこの大変革を念頭にホンダが進むべき未来図を構想する重要な役割を担うことになるのだ。

――大きな設計図を描くというのは大変な仕事ですね。

岡部:今までみたいにマーケットがこうだからこういう商品を、というわけにはいきません。環境の問題、安全の問題、そして各国の規制がある。それを全部組み合わせなければならないので、難しい作業です。

――2040年にゴールが示されていますが、20年後のことをどのくらい正確に予測できるんでしょうか?

岡部:いやー、難しい質問ですね(笑)。明確な答えもないし、言えることと言えないことがあります。2040年に向けて、まずはハイブリッドをどうはめていくか。規制もマーケットも、北米、中国、アジア、そして日本もバラバラじゃないですか。単純に足し合わせるだけでは全然成り立たない。完全な設計図は描けないので、順番にやるしかないと思います。

2021年4月23日に発売となった新型「ホンダ・ヴェゼル」。「信頼」「美しさ」「気軽な楽しさ」の3つが提供価値とされており、ユーザーの日々の暮らしの楽しさを「AMP UP(増幅)」することを目指す。
2021年4月23日に発売となった新型「ホンダ・ヴェゼル」。「信頼」「美しさ」「気軽な楽しさ」の3つが提供価値とされており、ユーザーの日々の暮らしの楽しさを「AMP UP(増幅)」することを目指す。拡大
ウィンドウエリアと一体化されたドアハンドルは先代モデルから受け継がれたポイントだ。
ウィンドウエリアと一体化されたドアハンドルは先代モデルから受け継がれたポイントだ。拡大
<岡部宏二郎さんプロフィール>
1999年に入社し、衝突安全の研究開発に携わる。その後先行プラットフォームの構造研究を経て先行商品企画を担当。初代「ヴェゼル」の車体研究領域プロジェクトリーダーやMMC完成車性能領域責任者、MMC商品開発責任者を担当し、2017年に新型ヴェゼルの商品開発責任者に就任。これまでに2代目「CR-V」や7代目「アコード」、10、11代目「シビック」、2代目「インサイト」の開発に携わっている。
 
<岡部宏二郎さんプロフィール>
	1999年に入社し、衝突安全の研究開発に携わる。その後先行プラットフォームの構造研究を経て先行商品企画を担当。初代「ヴェゼル」の車体研究領域プロジェクトリーダーやMMC完成車性能領域責任者、MMC商品開発責任者を担当し、2017年に新型ヴェゼルの商品開発責任者に就任。これまでに2代目「CR-V」や7代目「アコード」、10、11代目「シビック」、2代目「インサイト」の開発に携わっている。
	 拡大
ホンダ ヴェゼル の中古車webCG中古車検索

軸足はハイブリッド

――新型ヴェゼルも、将来に向けてのロードマップの中に位置づけて開発したんでしょうか?

岡部:ここにきて大きくグッと動いたみたいになっていますけど、そもそも電動にいく、2030年に3分の2を電動化ということは言っていました。その戦略の中でハイブリッドの比率を上げていくということです。今回はヨーロッパも含めて軸足はハイブリッド。前のモデルは日本だけ「i-DCD」を入れてあとはガソリンとディーゼルでした。この次はハイブリッドとEVの配分をどうしていくかを考えなければなりません。

――今回はプラットフォームを変えてはいませんね。

岡部:2世代使うのが普通ですからね。まだ使い切ってはいないのですが、次はボディーをつくり直さなきゃダメだなと思っていました。ボディーを固めて、バネは強度が持つところの一番下まで落として、足はしっかり動くようにする。そしてダンパーで上屋を押さえてフラットライドにしたわけです。

――次は大幅に刷新することになりますか?

岡部:EVを増やしていくなら当然そっちにも注力していくので、ハイブリッドのプラットフォームを次にどうしていくのというのは議論があるでしょう。進化は必要ですが、刷新ということになるかどうか、ちょっと今は言えません。

――EVに向けて準備はしていかなくてはなりませんよね。

岡部:正直言って、これからは差別化が難しくなると思います。バッテリーの置き方はみんな同じなんです。これまで各メーカーが内燃機関でオリジナリティーを出そうと思っていたことが、コモディティー化みたいになってしまうのがちょっと怖い。でもまだこの10年ぐらいはハイブリッドのユニークさは表現したいと思っています。

新型「ヴェゼル」ではハイブリッドが主力。先代モデルの1モーター式から、現行「フィット」と同じ2モーター式の「e:HEV」に刷新されている。
新型「ヴェゼル」ではハイブリッドが主力。先代モデルの1モーター式から、現行「フィット」と同じ2モーター式の「e:HEV」に刷新されている。拡大
ハイブリッドの基本構造は「フィット」と同じながら、ボディーの大型化に合わせて1.5リッターエンジンの最高出力が98PSから106PSへと、駆動用モーターの最高出力が109PSから131PSへとそれぞれ強化(いずれもトルクは同じ)。リチウムイオンバッテリーの容量も48セルから60セルへと増やされている。
ハイブリッドの基本構造は「フィット」と同じながら、ボディーの大型化に合わせて1.5リッターエンジンの最高出力が98PSから106PSへと、駆動用モーターの最高出力が109PSから131PSへとそれぞれ強化(いずれもトルクは同じ)。リチウムイオンバッテリーの容量も48セルから60セルへと増やされている。拡大
発売から1カ月が経過した2021年5月24日の時点で約3万2000台の受注があったという新型「ヴェゼル」。そのうち93%をハイブリッドモデルが占めているという。
発売から1カ月が経過した2021年5月24日の時点で約3万2000台の受注があったという新型「ヴェゼル」。そのうち93%をハイブリッドモデルが占めているという。拡大
ホイールベース間のフロア下に駆動用バッテリーを敷き詰めるという方法はどのメーカーのEVでも変わらないため、コモディティー化を心配する岡部さん。そうした時代を迎えるまでは、ハイブリッドならではのユニークさをさらに発展させていきたいという。
ホイールベース間のフロア下に駆動用バッテリーを敷き詰めるという方法はどのメーカーのEVでも変わらないため、コモディティー化を心配する岡部さん。そうした時代を迎えるまでは、ハイブリッドならではのユニークさをさらに発展させていきたいという。拡大

伸びしろのある2モーター

――「e:HEV」はまだ進化すると?

岡部:この2モーターは伸びしろがあるし、もっと訴求していきたい。低速域のなめらかなモータードライブと、内燃機関でしか味わえない上の伸び感の両方を持っているんです。いいとこ取りですね。モーターだけのセッティングって限られてしまうんですけど、ハイブリッドシステムはものすごく複雑な制御ができる。今後は四駆のモーターとの協調というところももっとやっていきたいですね。もっと意のままに動くダイナミクスは表現できると思っています。

――2代目はハイブリッドだけにするという可能性はあったんですか?

岡部:ガソリンモデルをやめるという議論はありました。ただ、220万円ぐらいのエントリーモデルを求めている人はいて、そこをいきなりなしにするというのは乱暴だろうというので、シンプルなトリムのモデルを用意しました。

――3代目ではガソリンモデルがなくなりますか?

岡部:明言はできないけど、2040年にEVとFCVで100%って言っているのを考えると、おのずとそういう戦略になるかもしれません。

――電動化の進展とともに、新しいヴェゼルのテーマとしてSUVのプレゼンスを高めると言っていますね。

岡部:SUVはもはやトレンドのカテゴリーではなく、完全に主流です。セダンとかハッチバックの市場はグローバルでも先行きが見えなくなっていて、これからはSUV中心に考えていくしかない。以前のような定義はなくなっていて、自由なジャンルなんです。ハッチバック車に近いようなSUVもできますし、SUVというカテゴリーの中でニーズに応えられるモデルをつくっていけばいいと思います。

ハイブリッド車でも「ヴェゼル」の4WDシステムは後輪をプロペラシャフトによって駆動。前後6:4~5:5の範囲でトルクを配分し、基本的に常時4輪を駆動する。
ハイブリッド車でも「ヴェゼル」の4WDシステムは後輪をプロペラシャフトによって駆動。前後6:4~5:5の範囲でトルクを配分し、基本的に常時4輪を駆動する。拡大
インテリアは塊感のあるフォルムで力強さを表現しつつ、ソフトパッドを多用することで優しさもアピール。上位グレードでは明るいグレーの内装色も選べる。
インテリアは塊感のあるフォルムで力強さを表現しつつ、ソフトパッドを多用することで優しさもアピール。上位グレードでは明るいグレーの内装色も選べる。拡大
サスペンションの基部などを強化しつつ、基本的なプラットフォームは先代モデルから踏襲。後席座面のチップアップなどは、ホンダが誇るセンタータンクレイアウトならではの機能だ。
サスペンションの基部などを強化しつつ、基本的なプラットフォームは先代モデルから踏襲。後席座面のチップアップなどは、ホンダが誇るセンタータンクレイアウトならではの機能だ。拡大
「クーペらしさを強めているので先代モデルよりも狭くなっているように感じるかもしれませんが、後席などはかえって広くなっているんです。荷室もゴルフバッグやスーツケースなどの主要なものがきちんと積めるようになっています」
「クーペらしさを強めているので先代モデルよりも狭くなっているように感じるかもしれませんが、後席などはかえって広くなっているんです。荷室もゴルフバッグやスーツケースなどの主要なものがきちんと積めるようになっています」拡大

1980年代ホンダデザインの復活?

――見た目はかなり変わりましたね。

岡部:クーペライクでSUVの信頼性があってユーティリティー性が高い。そういうところは変わっていません。でも、時代が変わるのに、ヴェゼルの形は変わらないというのは違うでしょう。パーソナルの定義も変わる。しっかりとした安心感と走行性能があり、使い勝手がいいというSUVのニーズを考え、どういう組み合わせでパッケージすればいいか。コンセプトと狙いは変わっていなくて、時代に対してアップデートしたんです。

――フラットデザインは、最近のホンダデザインが志向する方向性ですね。

岡部:デザイナーは“シンプリシティー&サムシング”とか難しいことを言っていますが(笑)。まあ、シンプルなところに光るものをということでしょう。もともと、1980年代のホンダデザインはシンプルでした。水平基調でクリーンで、それでいてユニーク。後発の自動車メーカーとして、ほかの国産車とは違う欧州車のようなイメージを目指していました。だから、原点回帰のようなものですね。

――1980年代のホンダ車というと……。

岡部:「シティ」とか「プレリュード」の時代です。プレリュードはフードを鬼のように低くするためにダブルウイッシュボーンにしていました。ホンダがとんがっていましたね。「アコード」にリトラクタブルヘッドライトがあったり、「インスパイア」にストレート5縦置きのFFミドシップがあったり。面白い会社だなあと思っていました(笑)。

――ヴェゼルもシンプルな方向性ですね。

岡部:演出的なデザインではないでしょう。空力のために付加物をつけるとかではなく、一体で見せることにはこだわりました。

――エンジニアの皆さんが元気そうで安心しました。エンジンがなくなるというニュースの後だったので、ショボンとしているんじゃないかと……。

岡部:(笑)。エンジンをつくっているのではなく、クルマをつくっているんですから。サステイナブルな環境を守りながらモビリティーの楽しさを僕らは残していかなければいけない。そういう使命をみんなが共有して、ポジティブな気持ちを持つことが大切だと思います。

(インタビューとまとめ=鈴木真人/写真=向後一宏/編集=藤沢 勝)

見た目が大きく変わったように見えるが、岡部さんが「基本的な考え方は先代モデルと変わっていない」という新型「ヴェゼル」。「8年分のアップデート」を施しているのだという。
見た目が大きく変わったように見えるが、岡部さんが「基本的な考え方は先代モデルと変わっていない」という新型「ヴェゼル」。「8年分のアップデート」を施しているのだという。拡大
エンジンをかけ直してもオートブレーキホールド機能の設定(オン/オフ)がリセットされなくなるなど、使い手に寄り添った細かな改良も施されている。
エンジンをかけ直してもオートブレーキホールド機能の設定(オン/オフ)がリセットされなくなるなど、使い手に寄り添った細かな改良も施されている。拡大
ユーザーからの要望が多かったという電動オートマチックテールゲートを採用している。
ユーザーからの要望が多かったという電動オートマチックテールゲートを採用している。拡大
シンプルでありながら個性を主張するホンダ車があふれていた1980年代への原点回帰だという新型「ヴェゼル」。
シンプルでありながら個性を主張するホンダ車があふれていた1980年代への原点回帰だという新型「ヴェゼル」。拡大
サステイナブルな環境を守る一方で、モビリティーの楽しさも残さなければいけないと語る岡部さん。
サステイナブルな環境を守る一方で、モビリティーの楽しさも残さなければいけないと語る岡部さん。拡大
鈴木 真人

鈴木 真人

名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。

試乗記の新着記事
  • アストンマーティン・ヴァンキッシュ クーペ(FR/8AT)【試乗記】 2025.10.7 アストンマーティンが世に問うた、V12エンジンを搭載したグランドツアラー/スポーツカー「ヴァンキッシュ」。クルマを取り巻く環境が厳しくなるなかにあってなお、美と走りを追求したフラッグシップクーペが至った高みを垣間見た。
  • ルノー・カングー(FF/7AT)【試乗記】 2025.10.6 「ルノー・カングー」のマイナーチェンジモデルが日本に上陸。最も象徴的なのはラインナップの整理によって無塗装の黒いバンパーが選べなくなったことだ。これを喪失とみるか、あるいは洗練とみるか。カングーの立ち位置も時代とともに移り変わっていく。
  • BMW R12 G/S GSスポーツ(6MT)【試乗記】 2025.10.4 ビッグオフのパイオニアであるBMWが世に問うた、フラットツインの新型オフローダー「R12 G/S」。ファンを泣かせるレトロデザインで話題を集める一台だが、いざ走らせれば、オンロードで爽快で、オフロードでは最高に楽しいマシンに仕上がっていた。
  • メルセデス・ベンツGLE450d 4MATICスポーツ コア(ISG)(4WD/9AT)【試乗記】 2025.10.1 「メルセデス・ベンツGLE」の3リッターディーゼルモデルに、仕様を吟味して価格を抑えた新グレード「GLE450d 4MATICスポーツ コア」が登場。お値段1379万円の“お値打ち仕様”に納得感はあるか? 実車に触れ、他のグレードと比較して考えた。
  • MINIカントリーマンD(FF/7AT)【試乗記】 2025.9.30 大きなボディーと伝統の名称復活に違和感を覚えつつも、モダンで機能的なファミリーカーとしてみればその実力は申し分ない「MINIカントリーマン」。ラインナップでひときわ注目されるディーゼルエンジン搭載モデルに試乗し、人気の秘密を探った。
試乗記の記事をもっとみる
ホンダ ヴェゼル の中古車webCG中古車検索
関連キーワード
関連サービス(価格.com)
新着記事
新着記事をもっとみる
車買取・中古車査定 - 価格.com

メルマガでしか読めないコラムや更新情報、次週の予告などを受け取る。

ご登録いただいた情報は、メールマガジン配信のほか、『webCG』のサービス向上やプロモーション活動などに使い、その他の利用は行いません。

ご登録ありがとうございました。

webCGの最新記事の通知を受け取りませんか?

詳しくはこちら

表示されたお知らせの「許可」または「はい」ボタンを押してください。