インドに注力! トヨタと提携! 小さなクルマの第一人者スズキが描く大きな未来
2021.07.02 デイリーコラムインドでは日本の2倍も売れている
日本の自動車ユーザーからすると、スズキといえばやはり「日本が主戦場」という印象が強い。このイメージは、米国・中国という海外の巨大市場から、あえて手を引いたことによるところも大きいだろう。しかし、現在のスズキの四輪車販売は、圧倒的に海外が主軸だ。
2020年度の実績を振り返ると、コロナ禍もあって世界販売は前年度比9.8%減の257万1000台となった。その内訳を見ると、トップはインドの132万3000台、次いで日本の64万7000台、アジア(除くインド)の23万6000台、欧州の20万6000台と続く。なんとスズキは、インドで日本の約2倍のクルマを販売しているのだ。
今や世界第5位の自動車市場へと成長を遂げたインドにおいて、長年にわたり販売台数で首位に君臨するのが、われらのスズキなのだ。もちろん売上高を見ると、2020年度は1兆1390億円の日本に対して、インドは9157億円にとどまる。これは販売車種の価格帯の違いによるものだが、それでもインドが、スズキの世界戦略上重要なマーケットであることに変わりはない。先述した売り上げも、有力市場のひとつである欧州と比べれば2.4倍にもなる。
生産拠点としても、インドの存在感は大きい。今日におけるスズキの主な海外生産拠点は、インド、タイ、インドネシア、ハンガリーとなる。日本人にとってなじみが深いのは、現行型「エスクード」の故郷でもあるハンガリーだろう。走りにうるさい欧州は、日本のユーザーにも間接的にメリットをもたらす、厳しくもよき市場である。また、ちょっと詳しい人なら、日本でも最近までインド製の「バレーノ」が売られていたことを覚えていることだろう。先述した4カ所のうち、輸出も担う巨大な生産拠点として挙げられるのはインドとハンガリーなのだ。特に巨大な国内市場向けの生産も担うインドでの生産規模は大きく、その台数はスズキのなかで今や世界最大となっている。インドなくして、今のスズキは語れない。
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インドでの生産能力を225万台に増強
直近における、供給拠点としてのインドの活躍例としては、2021年に開始された海外向け「ジムニー」の生産が挙げられる。近年のジムニー需要は日本よりも海外のほうが多く、かつ安定していたが、爆発的なヒットとなった現行型の生産拠点は日本のみ。それが、国内で「ジムニーシエラ」(≒海外向けジムニー)の人気が沸騰し、国内外での納期拡大につながったため、インドでの生産が決定されたのだ。
ジムニーのインド生産は、マルチ・スズキ・インディアのグルガオン工場にて行われ、中南米、中東、アフリカなどに輸出されるという(ちなみにインド国内では販売されない)。日本での海外向けジムニー(日本でのジムニーシエラ)の生産も継続されるが、世界的な供給の円滑化に、インドが一役買ったというわけだ。
スズキは今もインドの生産能力増を図っており、2017年2月に稼働したグジャラード工場では、2021年4月に年間25万台の生産能力を備えるC工場を新設。年間の総生産能力を75万台に引き上げた。これにマルチ・スズキの年間150万台を加えると、年間で225万台もの供給能力を持つことになる。スズキがインドに寄せる期待の大きさと、供給拠点としての重要度の向上ぶりがうかがえるだろう。
一方で、前項の表からは、現時点での海外供給のメインが依然として日本であることもわかる。またスズキの関係者によると、同社の海外戦略は「あくまで『市場に合わせたモデル開発』『販売地域への輸送コスト』『工場の生産能力』等を鑑みて生産拠点を決定している」とのこと。海外拠点をインドに集約するわけではなく、輸送コストや時間などを考慮してグローバルでの供給体制を構築していくようだ。
中近東やアフリカへの輸出拠点としても期待
では、スズキは増強を続けるインドの生産拠点に、どのような役割を期待しているのだろうか。輸出拠点としてのインドのメリットはなにか。それについてスズキに尋ねたところ、「中近東やアフリカへの輸送コストの低さ」「それらの地域とインド国内で展開する車種の親和性の高さ」が回答として返ってきた。中近東やアフリカのマーケットはインドと同じく新興国であり、地理的な近さも含め、インドのリソースを生かしつつ最適化させた車種を供給しやすい環境にあるわけだ。生産能力が強化されたグジャラード工場も、これらの地域に近いインドの西端に位置。港も非常に近いという好立地から、新たな輸出拠点としての活躍が期待されている。
一方で、スズキがインドでの生産を強化している理由には、インド政府の方針も挙げられる。「メイク・イン・インディア」や「自立するインド」といった経済政策に対する、スズキの協力の一環、つまりはインドによる「輸入よりも現地生産」という政策の結果でもあるのだ。
そもそも、スズキは1980年代に当時のインド政府が推進した国民車構想に協力。現地企業と合弁会社を設立し、インド進出を果たした。以来、スズキはインドの国民車として愛され続けている。先ほどスズキのグジャラート工場における生産増強の例を挙げたが、こうした投資にも通常は大きなリスクが伴う。それは新規参入や現地での歴史の浅い企業では特に顕著となるのだが、長年にわたりインドに根差してきたスズキの投資リスクは、そうしたライバルよりもずっと低いといえる。この点については、スズキのインド参入を主導し、先日会長退任を発表したばかりの鈴木 修氏の活躍が大きかった。
トヨタとの提携の狙いと恩恵
このように、インド市場でのアドバンテージを生かしたグローバル戦略を構築するスズキだが、一方でプロダクトに関する戦略はどうだろうか? スズキの将来について多くの人が懸念するのが“電動化”だろう。むろんスズキも手をこまねいているわけではなく、現時点では欧州を中心に生産車のマイルドハイブリッド仕様への切り替えを進めている。「ビターラ(日本名:エスクード)」「Sクロス」「スイフトスポーツ」には48Vマイルドハイブリッドを導入。「イグニス」と「スイフト」は12Vマイルドハイブリッドとなっているが、こちらは日本と同様の仕様だ。
さらにCO2規制への対応を補完するため、提携先のトヨタから「カローラ ツーリング ハイブリッド」のOEM車「スウェイス」や、「RAV4 PHV」のOEM車「アクロス」の供給を受けている。もちろん、今後は自前のハイブリッドシステムの投入も計画しており、またスズキも協力するトヨタZEVファクトリーのEVを積極的に市場投入することで、将来的な環境規制にも対応していくとしている。
こうしてスズキがトヨタグループ側から電動化技術の提供を受ける一方で、スズキが得意とするインド生産の小型車を、アフリカ市場でトヨタにOEM供給する取り組みも始まっている。
その一例が、2020年9月にアフリカで復活を果たした「スターレット」で、これはスズキのコンパクトカー、バレーノのOEM車にあたる。ちなみにインド国内では、トヨタはバレーノのOEM車を「グランツァ」の車名で販売している。今のところ、両社はグローバル戦略において、互いの強みを提供しあうWIN-WINの関係にあるのだ。
日本で鍛えた小型車づくりの力を生かせ
また電動車のラインナップ拡充に加え、今の世界的なSUVブームのなかを、小型車を中心としたラインナップでいかに乗り切っていくかも、スズキにとっては勝負の分かれ目となるだろう。ジムニーやエスクードなどでSUVのイメージが強いスズキだが、現在の世界販売の上位5車種に、その姿は見当たらない。
ただ、日本市場で培った軽自動車や小型車の技術を世界でフルに活用すれば、スズキの将来は明るいと私は見ている。
いつの時代のどこのマーケットでも、自動車の普及が進めば、オーナーたちは次にちょっと背伸びをしたモデルを選ぶ傾向が強い。しかしながら、より市場が育てば実用に即したクルマの価値も見直されてくるはずだ。そこでは、品質が高くて機能的で、ちょっとした上質さも備える日本の小さなクルマが、実力を発揮できるのではないだろうか。
遅れているといわれる電動化についても、そもそも顧客が買えない価格のもの、コストパフォーマンスが悪いものは、スズキの強みにはならない。当面は“チーム日本”の代表であるトヨタの協力を仰ぐのがベターだが、電動化は日本でも直面する課題であり、スズキの内部でもひそかに対応が練られているのだろう。「ソリオ」やスイフトで実現した独自のストロングハイブリッドも、次なる世界への着実なステップとなるはずだ。
スズキの未来は、意外と明るい。楽観的かもしれないが、最近のスズキを見ていると不思議とそう思えてくる。もちろん、キャラクターがキャラクターだけに派手さはないかもしれないが、これからの時代も、さまざまなマーケットで「こういうのでいいんだよ」という絶妙なあんばいの製品を届けてくれるはずだ。
(文=大音安弘/写真=スズキ、トヨタ自動車/編集=堀田剛資)
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大音 安弘
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