第210回:カーマニア最後の桃源郷
2021.07.05 カーマニア人間国宝への道足りないのは「2CV」のようなクルマだ
「フェラーリ328GTS」「ランボルギーニ・カウンタック25thアニバーサリー」「BMW 320d」、そして「ルノー・トゥインゴ」。このラインナップなら、誰もがオレを「カーマニア人間国宝」と認めることだろう。もはや人生の目的は達した。いつ死んでもいい。
と言いたいところだが、私のココロはまだ満たされていなかった。何かが足りない……。
そんな折、某誌で「いま蘇える故障自慢」という特集を取材していて、M氏の「シトロエン2CV」の感動的なエピソードに出会った。
M氏は、31年間乗り続けている2CVで、運転中に2度シートが破れ、床に尻もちをついたというのだ!!
それだ! オレのカーライフに足りないものはそれだあぁぁぁぁぁぁぁ!
もちろんM氏とて、31年間乗り続けてようやく2回出会った貴重なトラブルだ。しかし2CVじゃなけりゃ、そんなトラブルあるはずない! うおおおお! 2CVみたいなクルマが欲しい!
そう思い立った私は、夜中にガバと跳ね起き、中古車サイトを検索した。ただ、数秒考えた後、「2CV」ではなく「ハイゼットジャンボ」と入力した。
いまさら2CVで追いかけても追いつけない。ほかに2CVのようなクルマはないだろうか? その瞬間思い浮かんだのが軽トラだったのだ。
でも軽トラは、シートが固定されていて、リクライニングできないのがツライ。リクライニングできる軽トラは、「ダイハツ・ハイゼット トラック ジャンボ」と「スズキ・スーパーキャリイ」だけ。そのぶん荷台は狭いけど、荷物を積む予定はないので問題なし。スーパーキャリイは3年前に出たばっかりだからまだ高いけど、ハイゼット ジャンボなら大昔(1983年)からあるので、古くて安いタマがあるはず。わずか数秒の間にそこまで読んだのだから、さすが“カーマニア脳“である。
で、ハイゼット ジャンボを安い順に並べ変えたところ、上から2番目のセクシーすぎる個体に電気が走った!!
30年オーバーの自家用車が3台に
「ハイゼット トラック ジャンボ/2WD/5MT/1990年式/走行距離5万8000km/車両本体34万円」
一瞬、迷った。ここまで古いタマで大丈夫だろうかと。しかもエアコンは「なし」となっている。
取りあえず問い合わせメールを入れたところ、翌日お店から電話がかかってきた。
オレ:エアコンないんですよね?
お店の代表:いえ、付いてるんですけど、利かないんです。
付いてるのか……ってことは、直そうと思えば直せるってことだ!
しかもそのお店、実車を見ずにリモートで決めれば5万円値引きするという。うおおおお!
オレがハイゼット ジャンボに求めるのは、2CVのようなプリミティブさだ。そのためには、リスクはできるだけデカいほうがいい。ならば実車を見ないで、エアコンの利かないコイツを買うべきではないか?
しかもその個体、ステッカーやらなにやらの雰囲気が、いかにもカーマニアが乗っていた風である。お店の代表が言うには、「仕事では使ってなかったクルマで、下回りの再塗装もしてあるんですよ」とのこと。確かに仕事に使ってたら、31年間5万8000kmで済むわけねぇし!
気がついた時はもう、「わかりました、買います」と答えていた。総額40万円であった。
31年落ちの軽トラ。それはまごうことなきジャパニーズ・ネオクラシックカーである。つい5年前までクラシックカー趣味がゼロだったのに、この3年で30年オーバーの自家用車が3台になるとはあぁぁぁぁぁぁ! 人生わからないものじゃ。うむうむ。
思わず顔がニヤケる
約1カ月後。ようやくハイゼット ジャンボの納車日がやってきた。
愛称はもう決めていた。「セクシージャンボ」である。
私はお店まで取りに行くと言ったが、先方は「登録して、そのままサービスでご自宅までお持ちします」と譲らなかった。お店は都内なのだが、おそらくクルマは埼玉県の奥地の激安駐車場にあり、行き来が大変なのだろう。それで「リモート契約なら5万円引き」の理由もわかった。
小雨のなか、わが家にハイゼット ジャンボで乗りつけたのは、代表ではなく謎の外国人スタッフだった。
オレ:こういう古い軽トラは、結構珍しいですよね?
スタッフ:……私は運んでくれと頼まれただけで、仕入れのことはわかりません。
しっかりした日本語だった。
オレ:あ、そうなんだ。じゃ駅まで送りますよ。
スタッフ:歩きますから大丈夫です(キッパリ)。ところで、ホントは聞いちゃいけないんですけど、これはフェラーリですか?
彼は、赤いボディーカバーをまとった328を指さした。
軽トラを買う客の家にフェラーリがある。それはまだ、珍しいことのようだった。ちなみにカウンタックは共同所有者のエノテンのところで、家にはありませんでした。
私は早速、セクシージャンボで近所を走ってみた。
うおおおお! なんて面白いんだあぁぁぁぁぁぁぁ!
ブレーキがスカスカで超コワイけど、メッチャ楽しい! そこらの路地を走っただけでこんなに楽しいクルマは生まれて初めてだあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ~~~~~~っ! 思わず顔がニヤケるうぅぅぅぅぅぅ~~~~~~~~っ!
私は確信した。軽トラを買う客の家にフェラーリやランボルギーニがあるケースは、今後決して珍しくなくなるであろうと。
(文=清水草一/写真=清水草一、馬弓良輔/編集=櫻井健一)

清水 草一
お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。
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