ヤマハMT-09 SP ABS(6MT)
新時代のスタンダード 2021.07.09 試乗記 アグレッシブな走りとスタイリングが自慢の、ヤマハのネイキッドスポーツモデル「MT-09」がフルモデルチェンジ。高い機動性に加え、上質なライドフィールも得た新型は、ヤマハ製スポーツバイクのスタンダードと呼べるマシンに仕上がっていた。エンジンもフレームも刷新
ヤマハのネイキッドスポーツモデル、MT-09がフルモデルチェンジされた。エンジンは、ガソリンの爆発から燃焼トルクだけを効率よく引き出す設計思想「クロスプレーンコンセプト」や、並列3気筒という基本構造はそのままに、ストロークアップによって排気量を拡大。ピストンやコンロッド、カムシャフト、クランクシャフト、クランクケースなど、主要パーツも新設計となっている。フレームやスイングアームも一新されており、特に前者は、アルミの最低肉厚を3.5mmから1.7mmまでそぎ落とし、軽量化と剛性バランスの最適化を図りながら横方向への剛性を50%も引き上げたという。さらにはエンジンの搭載角度も変更と、先代との違いを挙げればきりがない。
試乗して真っ先に感じたのは、スポーツバイクとしての進化だ。初代MT-09は並列3気筒エンジン+等間隔爆発クランク特有のシルキーさを持ちながらも、ちょっと危なっかしいくらいに過激な出力特性が与えられていた。それはまさに、切れ味鋭い日本刀のようで、誰にでも気軽に扱えるようなものではなかった。2017年に発売された2代目では、その過激さはある程度抑え込まれていたが、基本的な切れ味のよさは依然として残っていた。
対して新型エンジンは、そこがしっかりとしつけられている。拍子抜け……というと語弊があるのだが、アクセル操作に対して乱暴なくらいの反応を予想して身構えていたところ、意外や自分のイメージやアクセル操作に対し、その通りに加速していくのだ。特に中低回転域での扱いやすさは格段に上がっている。
ボタンひとつで過激に豹変
この走りの進化には、走行中の車体状況をバイクが正確に把握できるようになったことが効いている。ヤマハのスーパースポーツモデル「YZF-R1」のものをベースに開発された新しい6軸IMUの採用により、4段階の出力特性を選択できる「D-MODE」や、それと連動するAPSG(電子制御スロットル)、さらにはトラクションコントロールをはじめとするさまざまな電子制御デバイスを、より緻密に制御できるようになったのだ。そしてなにより、排気量拡大やクランクマスの増大などといった、エンジンのメカニカルなバージョンアップが功を奏している。走り味の下地として、エンジンそのものの進化が十分に感じられた。
正直に言うと、このエンジンレスポンスや出力特性の忠実ぶりに、最初は久しぶりに再会した友人が社会にもまれて丸くなってしまったような、得も言われぬ寂しさを感じてしまった。あれほど「過激なヤツだ」と眉をひそめていたのに、それが鳴りを潜めれば「寂しい」とは、なんとも自分勝手な話である。
ただ、D-MODEで最もアグレッシブな「1」を選択してコースインしたら、印象がガラリと変わった。シャープでダイレクトな出力特性に、新型MT-09が初代に通じる過激さを持ち続けていることを知ったのだ。同時に、古い友人が今もギターを弾き続けていることを知ったような、なんとも言えないうれしさを覚えた。やっぱりMTはこうじゃないと。
よりしなやかに より上質に
新型の進化の土台には、もちろん新しくなったフレームも貢献している。大きく異なるのは、ステアリングヘッドの位置とエンジンの傾き、そしてスイングアームピボッドまわりの造形だ。
初代および2代目(=先代)は、ネイキッドバイクとモタード(オフロードバイクをベースに足まわりをオンロード向けに改良したもの。俊敏な走りが特徴)をミックスしたようなスタイルとするため、エンジンを前傾させて低重心化を図りながら、ステアリングヘッドを高く上げてオフロードバイクのようなヒラヒラとしたハンドリングを実現していた。また、フレーム後端のスイングアームピボットをスイングアームの内側に収め、それによって左右ステップの幅を抑えていた。これがライダーとマシンの一体感を生み、軽快なハンドリングを生み出す要因のひとつとなっていたのだ。
しかし、新型MT-09に採用された新型フレームは、エンジンを起こし気味に搭載することで車体のバランスを変更。ステアリングヘッドを約30mm下げるとともに、先代とは逆にスイングアームピボットの内側にスイングアームを収めている。これによってリアまわりの剛性が高まり、ハンドリングにも落ち着きが生まれた。より安定志向の強い、スーパースポーツ的なフィーリングとなったのだ。加えて、今回試乗した「SP」は、エンジンやフレームなどの基本骨格はスタンダードモデルと共通ながら、DLCコーティングを施したインナーチューブ採用のフロントフォークと、オーリンズ製のリアサスペンションを装着したアップグレード版である。車体の動きはますますしなやかで、上質なライドフィールを実現している。
正直なところ、過去のMT-09が持っていたキャラクターが惜しくないかといえば、そうは言いきれない。排気量800ccオーバーの並列エンジンを抱きながら、オフロードバイクのようにステアリングを左右に切り返して走る感覚は、スーパースポーツの文脈とは違うオリジナルのものだった。個人的には、あのヒラヒラ感をもう少し強く残しておいたほうが、MT-09というバイクに合うハンドリングになったのではないかと思う。
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今のヤマハを知るのに好適な一台
それでも新型MT-09が示した進化が、車歴を問わず幅広い層のライダーに大きなメリットをもたらすことは間違いない。ビギナーはもちろん、スーパースポーツに乗り慣れたライダーにとっても違和感が小さく、すぐに自在に操れるようになるはずだ。それに、そもそもMT-09には、こうした進化が歓迎されてしかるべきバックボーンがある。
初代MT-09は2013年に発表されている。1976年に登場した「GX750」以来となるヤマハの3気筒エンジン搭載車ということ、さらには既存のスーパースポーツモデル由来ではない、新規開発のエンジンとフレームによって構成された“新定義のスポーツバイク”であったことなどから、大いに注目を集めた。欧州ヤマハが「The Dark Side of Japan」というキャッチフレーズとともに展開したプロモーションもセンセーショナルだった。
しかし、その派手な演出とは裏腹に、MT-09はヤマハの次世代スタンダードモデルとしての役割も担っていた。高いパフォーマンスと環境性能を両立し、単一プラットフォームで複数モデルを展開する次世代戦略の中心となるべく、徹底的につくり込まれたのだ。それが功を奏し、初代MT-09は好セールスを記録。MTシリーズの中核になると同時に、後に派生モデルのスポーツツアラーも生まれている。
今回の、新型MT-09の登場は、すなわちヤマハのスタンダードモデルがフルモデルチェンジしたことを意味する。スーパースポーツとは異なる生態系から生まれたこのバイクは、すべてが新しくなることによって、より幅広いライダーにおすすめできるようになった。スタンダードであればこそ、今日における“本気のヤマハ”を知れる好適な一台なのだ。
(文=河野正士/写真=荒川正幸/編集=堀田剛資)
【スペック】
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=2090×795×1190mm
ホイールベース:1430mm
シート高:825mm
重量:190kg
エンジン:888cc 水冷4ストローク直列3気筒 DOHC 4バルブ
最高出力:120PS(88kW)/1万rpm
最大トルク:93N・m(9.5kgf・m)/7000rpm
トランスミッション:6段MT
燃費:20.4km/リッター(WMTCモード)/30.4km/リッター(国土交通省届出値)
価格126万5000円

河野 正士
フリーランスライター。二輪専門誌の編集部において編集スタッフとして従事した後、フリーランスに。ファッション誌や情報誌などで編集者およびライターとして記事製作を行いながら、さまざまな二輪専門誌にも記事製作および契約編集スタッフとして携わる。海外モーターサイクルショーやカスタムバイク取材にも出掛け、世界の二輪市場もウオッチしている。
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