第722回:【Movie】欧州で「ゴルフ」より売れてるコンパクトカー 「ダチア・サンデロ」購入者を直撃!
2021.09.09 マッキナ あらモーダ!山が動いた
2021年8月、ヨーロッパの自動車業界にある衝撃が走った。
グループ・ルノーのいちブランドであるダチアの小型車「サンデロ」が、ヨーロッパ月間乗用車販売台数で、「フォルクスワーゲン(VW)ゴルフ」を抑えて1位となった。
JATOダイナミクスのデータを見てみよう。
- 1位:ダチア・サンデロ(2万0446台/前年同月比+6%)
- 2位:フォルクスワーゲン・ゴルフ(1万9425台/前年同月比-37%)
- 3位:トヨタ・ヤリス(1万8858台/前年同月比+3%)
サンデロにとっては2008年の初代発売以来、初の首位獲得であるとともに、1位の常連であるゴルフを破ったことは、関係者に大きな驚きをもって迎えられた。
現行サンデロは2020年9月に発売された3代目である。欧州仕様はダチアブランドゆかりの地であるルーマニア製だ。5ドアハッチバックのほか、一部の国では4ドアセダンもラインナップされている。
使用されているプラットフォームはルノー・日産の「CMF-B」で、細部は異なるが基本的には「ルノー・クリオ」や日産の「ジューク」「ノート」と同じである。
筆者の周囲にも、つい2021年6月末にサンデロを購入したばかりの人物がいる。サンドロ・デル・パスクワさん(1949年生まれ)である。「サンドロのサンデロ」というわけだ。
彼の場合は、イタリアで人気のLPG/ガソリン併用仕様を選んだ。本人によるサンデロ談義は動画をご覧いただこう。
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愛される秘密
なぜサンデロが1位になったのか?
まずダチアというブランドのイメージである。モデルチェンジごとにスタイリッシュさを向上させたことにより、もはやチープ感に目をつぶっての選択というムードは、ユーザーの間で薄くなった。立派さという点では、姉貴分にあたるルノーブランドとの差が極めて小さくなった。日本のアパレルに例えれば、ルノーがユニクロならダチアはGUくらいの違いしかない。
第2は絶対的なお得感だ。サンデロは9050ユーロ(約118万円。以下、いずれもイタリアにおける付加価値税込価格)からという低価格設定である。
VWゴルフが2万6600ユーロ(約347万円)からであるのと比較すると、サンデロは約3分の1である。欧州の分類ではゴルフがCセグメント、サンデロはBセグメントゆえに当然なのだが、もはや人々はCセグメントでさえぜいたくと考えるようになったと捉えることができる。
新型コロナウイルス感染収束の兆しが見えないヨーロッパで、誰もが節約志向に走るのは当然といえる。
サイズ的なお得感もある。サンデロの全長は4088mmでゴルフの4284mmより短い。だが、なんと全幅は1848mmでゴルフの1789mmより広い。それに伴う室内幅のゆとりは、サンドロさんの夫人であるマルチェッラさんが動画内で指摘するとおりだ。
第3はシンプルなグレード体系だ。イタリア版を例にとれば、内装/装備グレードはたった3つに絞られている。エンジンも最高出力によって3タイプ(LPGは1タイプ)あるが、いずれも同じ1リッター3気筒である。変速機も標準の65PS仕様のみ5段MT、それ以外は6段MTもしくはCVTと極めて明確だ。
車体色で追加料金が不要なのは、「ロッソ・フュージョン」というソリッドの赤のみである。サンドロさんも迷わずこれを選んだ。他の6色は円換算で4~8万円の追加料金が発生する。
選択肢が多すぎると選ぶことが困難になり消費者の購買意欲が下がってしまう、心理学で言うところの「ジャムの法則」を考えれば、この単純なラインナップが奏功していることは確かだ。
ただしLPG仕様といった、特に南欧地域のユーザーが好む仕様は的確にそろえ、その地域の広告ではかなりのスペースをそれに割いている。
エアコンはベース仕様には付いておらず、ひとつ上の仕様でも510ユーロ(約6万6000円)のオプションという徹底ぶりも目を見張る。これは「1万ユーロ未満で買えるクルマ」というキャッチのためと捉えることもできる。だが、地球温暖化が深刻化する昨今においてもなお、アジア地域と比べて相対的に湿度が低いヨーロッパでは、いまだエアコンが装着されていても使わないユーザーが少なくない。したがってこうした仕様は、一部のユーザーに訴求することだろう。
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お前の時代だ
グループ・ルノーは、2030年までにルノーブランドが販売する車両の90%を電動化する目標を立てている。
いっぽうダチアは、2021年9月のミュンヘン自動車ショーで、SUV「ジョガー」を発表した。2023モデルイヤーからはルノー・クリオと同じ1.6リッター4気筒ベースのハイブリッド仕様も投入予定だが、それまではガソリン仕様およびLPG/ガソリン併用車の2本立てである。ダチアブランドはアフォーダブルな価格の商品を提供する、としていることからして、内燃機関車をルノーブランドよりも後まで残すことは確実だ。
今回紹介するオーナーのサンドロさんは、「次もLPG/ガソリン併用仕様にする」と話す。理由を聞けば「EVは充電施設の少なさ以上に、エンジン音がなくてつまらない。そもそもATでさえ退屈だよ」と話す。
前述したように、今回のダチア・サンデロ躍進は、新型コロナウイルスが追い風となったのは事実だろう。
だが、同時にEV化に前のめりなブランドとそれをあおるメディアばかりが目立つなか、現実のユーザー視点に立ち、逆張りともいえる作戦で臨んだマーケティングの勝利ともいえる。
「ブルーバード、お前の時代だ」というのは1970年代末における日産自動車のキャッチフレーズであるが、まさに「サンデロ、お前の時代だ」なのである。
【サンドロさんのサンデロ】
(文=大矢アキオ<Akio Lorenzo OYA>/写真と動画=Akio Lorenzo OYA/編集=藤沢 勝)
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大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、24年間にわたってリポーターを務めている。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
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