ホンダ・シビックe:HEVプロトタイプ(FF)
新時代のハイブリッド 2022.04.14 試乗記 「ホンダ・シビック」に間もなくハイブリッドモデル「e:HEV」が追加される。将来的にエンジン搭載車をやめると宣言したうえで2リッター直噴エンジンを新規開発したというのだから、その力の入りようが伝わってくるというものだ。プロトタイプモデルの仕上がりをリポートする。ゴルフよりも年長のシビック
今年(2022年)、シビックは登場から50年の節目を迎える。誕生日は7月12日。なんか身に覚えのある日柄だなぁと思ったら、うちのおふくろの誕生日が同じ日だった。どうでもいい話ですみません……。
同じ名前で半世紀。クルマの世界では、ありそうでなかなかない話だ。「トヨタ・カローラ」の6つ年下にして、「フォルクスワーゲン・ゴルフ」の2つ年上と聞けば、クルマの歴史が浅いホンダにとっての、その重さがうかがい知れる。
現在のシビックの主力市場はアメリカだ。販売上位にトラックやSUVがひしめくなか、かの地ではパッセンジャーカーとくくられる普通の車型カテゴリーでは「トヨタ・カムリ」と並んでベスト10内に食い込んでいる。その数、年間30万台をうかがうあたり。ホンダにとっては「CR-V」と並ぶ大黒柱となっている。
再ブレイクのきっかけとなったのは先代モデルだ。日本では名前から抱く印象に対して、サイズや価格の面で賛否が渦巻いた覚えがあるが、ビジネス的には功労者だったということだろう。
その大当たりに気をよくして、現行型は市場要請を受けて大きくなっても不思議ではなかったが、ホイールベースを延長しながらサイズはほとんど変わりなく収まっている。聞けば拡幅の検討もあったというが、日本の駐車環境的に使い勝手の分水嶺(れい)となる1800mmは堅守しようということになったという。
その現行シビック、日本では当初の予定を若干下回るあたりで販売が推移しているようだ。立ち上がり時は最も多い顧客層が20歳代という若さ、そして販売の3分の1がMTモデルという意外さが驚きとして伝えられた。が、秘めたるスポーティネスを知れば、さもありなんという気にもなる。
エンジンを新開発
そして間もなく追加される新たなパワートレインが、日本では本丸となるだろうe:HEV、すなわちハイブリッドだ。既に「フィット」から「アコード」まで展開されているe:HEVは、シリーズとパラレルの両方式のいいとこ取りを実現したうえで、エンジンの効率が最も高い中~高速巡航域では駆動直結によって燃費の伸びしろを稼ぎ出す、言ってみればトヨタの「THS」と日産の「e-POWER」のいいとこ取りを狙ったようなシステムだ。シビックに搭載されるのはこれが初めて……というか、ハイブリッドがシビックに設定されること自体が3代ぶりのことだ。
シビックに搭載されるe:HEVは、新しい2リッター直噴エンジンの採用を軸に、あらゆるエレメントが進化を遂げた新世代のシステムとなる。ホンダ側は当然言及しないが、将来的には他のモデルにも搭載される、その第1弾であることは想像に難くない。
要となるエンジンは高剛性クランクシャフトの採用を筆頭とする本体骨格の強化に加えて、吸気パッケージの最適化やインシュレーターの配置を工夫するなどして音源からの静粛性向上とともに耳に心地いいサウンドを追求している。また、350barとディーゼル並みの高圧インジェクターを緻密に制御し、インマニやピストンの形状、バルブの鏡面加工など各部の工夫と合わせて細粒化された燃料の理想燃焼を追求。13.9という高圧縮比を実現しながら、従来のポート噴射ユニットに対してNOxやHCを各20%以上低減している。ユーロ7などのエミッション規制クリアも見据えつつ、41%の熱効率を達成しているという。
主たる動力源として搭載される走行用モーターは最高出力184PS/最大トルク315N・m。e:HEVを積む直近の「インサイト」に比べて53PS/48N・mのプラスとなる。パワーコントロールユニットやバッテリーユニットも薄型化が推し進められて構成部品が小型化されたほか、高電圧DCケーブルは材料を銅からアルミへと置換し、従来比で36%の軽量化を図るなど、電気まわりのダウンサイジングも果たしている。
完璧な連携のパワーソース
プロトタイプへの試乗では、既に販売されているガソリンモデルにも乗ることができた。比べて走りを確認してほしいという計らいだ。現行シビックの個人的な動的評価はお世辞抜きで相当高い。ゴルフや「プジョー308」などの欧州Cセグメント勢に対峙(たいじ)できる日本勢としては、「マツダ3」と双璧だと思っている。
その走りの印象を再確認してから、ハイブリッドモデルと初対面。フロントの「H」マークが青みがかり、リアに「e:HEV」エンブレムが配され、フロントグリルやウィンドウガーニッシュがグロスブラックフィニッシュとなるあたりが外観上の識別点だ。内装ではメーターが全面液晶となり、シフトセレクターが電気式となる。加飾的演出が少ないところは個人的には好感がもてるが、市場的には物足りないという話にならないかがちょっと心配だ。
新しいe:HEVユニットは、プロトタイプという点を考慮する必要を感じないほどに洗練されていた。ノロノロ運転からの全開やパーシャルでのエンジン直結モード、停止寸前からの再加速など、クローズドコースならではの多様なアクセルワークを遠慮なく試してみたが、それに応じるモーターとエンジンの目まぐるしい連携でアラを感じることはない。クラッチやギアなどが作動する際のメカノイズやショックもきれいになましてあり、エンジン、電気系由来のノイズレベルもともにしっかり抑えられていた。
もっとも、これは車内のアクティブノイズリダクションの効果も無視はできないだろう。ともあれ個人的予想も交えて言えば、仮にこのまま「ステップワゴン」あたりに積まれても、新しい「ノア/ヴォクシー」の刷新されたハイブリッドとも十分戦える質感の高さを備えているように思えた。
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
シャシーも一級品
そのうえで、シビックのe:HEVの最大の武器ともいえるのが走りの気持ちよさだ。エンジンのサウンドはスポーツモードでまずまずの着色が入るが、根本的に濁りがなくクリーンで、ハイブリッド用ユニットでありながら回転フィールも芯がしっかり出ているような滑らかさがある。
聞けばいずれもクランクシャフトレベルからの骨格強化を施したことによる効果だとのこと。もちろん最大の狙いは高効率化=低燃費化だが、直接稼働するのが巡航時のみとはなんとももったいないフィーリングだ。2030年までに100%電動化を完了させるというのがホンダのコミットだが、それを8年後に控えて、単品でも十分戦える可能性を感じさせる内燃機が現れたというところに、研究所の意地が透けて見えるのは僕だけだろうか。
いいエンジンといいパワーマネジメントがあれば、ハイブリッドでも十分ファンなドライビングが楽しめる。クローズドコースでその実感を後ろ支えしてくれたのが相変わらず上出来のシャシーだ。路面凹凸への追従性や後ろ足の粘りのよさ、ロール姿勢の安心感といった美点は、バッテリー搭載に伴う低重心化とバッテリーパックが部材として作用した後半まわりの剛性強化とも相まって、さらに質感を高めていた。変な着色がなく素直を極めたようなハンドリングは、速度域によってはガソリンモデルより力強いハイブリッドのパワーも余裕綽々(よゆうしゃくしゃく)で受け止めてくれる。
まさに「爽快シビック」のキャッチフレーズに偽りなし……だが、ちょっと不穏な予感がするのがそのお値段だ。他社ならオプション扱いのアイテムも大抵が標準化されている近ごろのホンダ的値札とはいえ、ガソリンモデルの上位グレードが350万円オーバーということは、e:HEVは400万円をうかがう可能性もなくはない。前段に引き続き個人的予想ながら、単にCセグメントエコカー的な尺度で表せば、「プリウス」と「ゴルフTDI」の間くらいに入ってくるイメージだろうか。でも、クルマとしての魅力もまさにその間に割って入る、そんな実力を備えているのも確かだ。ともあれ発売の暁にはディーラーで試乗してみていただきたい。今までのハイブリッドとは訳が違う、それを感じてもらえることと思う。
(文=渡辺敏史/写真=本田技研工業/編集=藤沢 勝)
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
テスト車のデータ
ホンダ・シビックe:HEVプロトタイプ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4550×1800×1415mm
ホイールベース:2735mm
車重:--kg
駆動方式:FF
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ
モーター:交流同期電動機
エンジン最高出力:141PS(104kW)/6000rpm
エンジン最大トルク:182N・m(18.kgf・m)/4500rpm
モーター最高出力:184PS(135kW)/5000-6000rpm
モーター最大トルク:315N・m(32.1kgf・m)/0-2000rpm
タイヤ:(前)235/40ZR18 98V/(後)235/40ZR18 98V(ミシュラン・パイロットスポーツ4)
燃費:--km/リッター
価格:--万円/テスト車=--円
オプション装備:--
テスト車の年式:--年型
テスト開始時の走行距離:1152km
テスト形態:トラックインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:--km/リッター

渡辺 敏史
自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。
-
MINIジョンクーパーワークス(FF/7AT)【試乗記】 2025.10.11 新世代MINIにもトップパフォーマンスモデルの「ジョンクーパーワークス(JCW)」が続々と登場しているが、この3ドアモデルこそが王道中の王道。「THE JCW」である。箱根のワインディングロードに持ち込み、心地よい汗をかいてみた。
-
ホンダ・アコードe:HEV Honda SENSING 360+(FF)【試乗記】 2025.10.10 今や貴重な4ドアセダン「ホンダ・アコード」に、より高度な運転支援機能を備えた「Honda SENSING 360+」の搭載車が登場。注目のハンズオフ走行機能や車線変更支援機能の使用感はどのようなものか? 実際に公道で使って確かめた。
-
ホンダ・プレリュード(FF)【試乗記】 2025.10.9 24年ぶりに復活したホンダの2ドアクーペ「プレリュード」。6代目となる新型のターゲットは、ズバリ1980年代にプレリュードが巻き起こしたデートカーブームをリアルタイムで体験し、記憶している世代である。そんな筆者が公道での走りを報告する。
-
日産リーフB7 X(FWD)/リーフB7 G(FWD)【試乗記】 2025.10.8 量産電気自動車(BEV)のパイオニアである「日産リーフ」がついにフルモデルチェンジ。3代目となる新型は、従来モデルとはなにが違い、BEVとしてどうすごいのか? 「BEVにまつわるユーザーの懸念を徹底的に払拭した」という、新型リーフの実力に触れた。
-
アストンマーティン・ヴァンキッシュ クーペ(FR/8AT)【試乗記】 2025.10.7 アストンマーティンが世に問うた、V12エンジンを搭載したグランドツアラー/スポーツカー「ヴァンキッシュ」。クルマを取り巻く環境が厳しくなるなかにあってなお、美と走りを追求したフラッグシップクーペが至った高みを垣間見た。
-
NEW
なぜ給油口の位置は統一されていないのか?
2025.10.14あの多田哲哉のクルマQ&Aクルマの給油口の位置は、車種によって車体の左側だったり右側だったりする。なぜ向きや場所が統一されていないのか、それで設計上は問題ないのか? トヨタでさまざまなクルマの開発にたずさわってきた多田哲哉さんに聞いた。 -
NEW
トヨタ・スープラRZ(FR/6MT)【試乗記】
2025.10.14試乗記2019年の熱狂がつい先日のことのようだが、5代目「トヨタ・スープラ」が間もなく生産終了を迎える。寂しさはあるものの、最後の最後まできっちり改良の手を入れ、“完成形”に仕上げて送り出すのが今のトヨタらしいところだ。「RZ」の6段MTモデルを試す。 -
ただいま鋭意開発中!? 次期「ダイハツ・コペン」を予想する
2025.10.13デイリーコラムダイハツが軽スポーツカー「コペン」の生産終了を宣言。しかしその一方で、新たなコペンの開発にも取り組んでいるという。実現した際には、どんなクルマになるだろうか? 同モデルに詳しい工藤貴宏は、こう考える。 -
BMW R1300GS(6MT)/F900GS(6MT)【試乗記】
2025.10.13試乗記BMWが擁するビッグオフローダー「R1300GS」と「F900GS」に、本領であるオフロードコースで試乗。豪快なジャンプを繰り返し、テールスライドで土ぼこりを巻き上げ、大型アドベンチャーバイクのパイオニアである、BMWの本気に感じ入った。 -
マツダ・ロードスターS(後編)
2025.10.12ミスター・スバル 辰己英治の目利き長年にわたりスバル車の走りを鍛えてきた辰己英治氏。彼が今回試乗するのが、最新型の「マツダ・ロードスター」だ。初代「NA型」に触れて感動し、最新モデルの試乗も楽しみにしていたという辰己氏の、ND型に対する評価はどのようなものとなったのか? -
MINIジョンクーパーワークス(FF/7AT)【試乗記】
2025.10.11試乗記新世代MINIにもトップパフォーマンスモデルの「ジョンクーパーワークス(JCW)」が続々と登場しているが、この3ドアモデルこそが王道中の王道。「THE JCW」である。箱根のワインディングロードに持ち込み、心地よい汗をかいてみた。