第183回:「MINI」と「シトロエンDS3」に刺客登場! スズキの“サムライデザイン”
2011.03.05 マッキナ あらモーダ!第183回:「MINI」と「シトロエンDS3」に刺客登場!スズキの“サムライデザイン”
おもしろ日本語ファッション
ボクは過去にも本欄で、欧州で遭遇した不思議な日本語ファッションをたびたび紹介してきたが、そのムーブメントは今も終わっていない。今回の“入荷”ひとつ目は、パリである行列に並んでいたとき、前の若者が着用していたブルゾンだ。
その文字は「極度乾燥」である。
後日調べてみると、『Supergroup』という1985年設立の英国のアパレルメーカーがプロデュースする「Superdry.」というブランドであることが判明した。メーカーがいう正しい表記は「Superdry. 極度乾燥(しなさい)」というものだ。言っておくが原文のままである。
パリの日本料理店も最近面白い。日本人ではないアジア系の人がやっている店が増えたためである。一見日本風だが、よく見るとちょっとヘンな日本語表記が増えているのだ。
写真に示した看板はその一例である。
「しこほんりより」とは「日本料理」のことだと脳内で理解するのに、数秒のタイムラグというかトルコンスリップが生じた。
いっぽうイタリアの空港で発見したのは、「JR」のロゴが入ったブルゾンを着た人だ。そう、あの電車の車体に書かれているのとうり二つである。イタリアではキティちゃんが大人気の昨今、もしや日本のJRもイタリアの鉄道オタク向けにライセンス商品で進出? もしくは愛社精神にあふれたバカンス中のJR社員か? と思いきや、実際は某アパレルブランドの頭文字であることがわかった。日本をコピー大国だと言ってはばからない先入観バリバリの親父が多いわりに、「おい、なんだヨ」という感じである。
イタリア限定の「スイフト」特別仕様
JRマークは日本語じゃないので脇においておくが、ともかくそうしたニッポン=クールの風潮にあやかったのか、スズキのイタリア法人スズキ・イタリアが2011年2月22日、面白い特別仕様車を発売した。
ずばり「スズキ・スイフト サムライデザイン」だ。
2010年に投入された欧州版「スイフト」の5ドアベースに、日本海軍旗をモチーフにしたデザインをルーフとミラーに加えたものである。Cピラーにはプラックアウトが施され、「武者」という白文字の漢字デカールが貼られている。そしてサイドシルとテールゲートには「samurai design」であることを示すサインが加えられている。
そもそも「samurai」は長年にわたる「スズキ・ジムニー」の海外名で、イタリアでもスペイン・サンタナ社製のSJ型ジムニーを2000年代初頭まで「サムライ」の名で販売していた。さらにスズキのイタリア法人は、2010年11月にもジムニーの40周年記念仕様車に日の丸を思わせるロゴを用いた。だが、今回のサムライデザインは企画・インパクトにパワーアップしている。
昨今は「MINI」や「シトロエンDS3」の登場により、ルーフに派手なデカールを貼ったクルマがヨーロッパの若いドライバーの間でちょっとしたトレンドになる気配がなきにしもあらずだ。
そうしたなかで、スイフト サムライデザインは、MINIやDS3に充分張り合える迫力である。ボクなどは、ライバルメーカーの人でもないのに「なんで今までこのアイデアを思いつかなかったのだろう」と悔しくなる。
さらに泣けるのは、2011年3月末までは標準仕様と同じ価格で提供するということだ。ちなみに欧州におけるスイフトは、スズキ・ハンガリー工場製である。
“外し”もご愛嬌?
そんなある日、スズキ・イタリアのオフィシャルサイトでディーラー発表会があることを知ったボクは、さっそく地元販売店に駆けつけてみた。残念ながら、というか、イタリア地方都市の家族経営然とした店では当然なのか、肝心の「サムライデザイン」はショールームにはなかった。
だが店の親切なおじさんは、早くも1件のオーダーがあったことを明かしてくれた。注文したのは若い男性だというが、カタログもまともにない、言ってみればかなり特異なルックスの特別仕様車を、こんな地方で登場直後にポン! と買ってくれる人がいたのだから、「サムライデザイン」企画はけっして外れではない。
参考までに、スイフトを買う人が持ってくる典型的下取り車は、「フォルクスワーゲン・ポロ」やフィアット、フォードといったところらしい。
日本人として唯一残念なのは、リアのデカールだ。武士をイメージしたシルエットなのだろうが、かぶっているのがベトナム帽に見えてしまう。そのためか、着物のめくれ方もアオザイか何かと錯覚してしまう。足も日本人にしては長すぎる。いずれもガイジンが描くサムライによくあるパターンだ。
スズキ社内で、事前チェックする日本人はいなかったのだろうか? まあボクとしては、日本ブランド屈指のワールドワイドモデルで帰国子女のようなスイフトが、うっかり“外して”しまった勘違いということで、かえって好感を抱いているが。
(文=大矢アキオ、Akio Lorenzo OYA/写真=スズキ・イタリア、大矢アキオ)

大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、24年間にわたってリポーターを務めている。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
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