メルセデス・ベンツV350アンビエンテ ロング(FR/5AT)【試乗記】
デカさが魅力!? 2011.03.03 試乗記 メルセデス・ベンツV350アンビエンテ ロング(FR/5AT)…… 683万8000円
内外装のデザイン変更やサスペンションの見直しにより、高級感と快適性の向上が図られた「Vクラス」。その乗り味を探るべく、全長5m超の「ロング」を試乗に連れ出した。
サイズに圧倒される
全長5015mm×全幅1910mm×全高1930mmの「Vクラス」。数字だけでも凄いが、実物を目の当たりにすると、あらためてその大きさに圧倒される。そもそもデカイうえに四角いから、数字以上に大きく見えるのだろう。果たして、自宅の狭い駐車場に収まるのか? のっけからちょっぴり不安になる。
2011年1月21日に日本で発売された新型Vクラスは、新型といってもフルモデルチェンジではなく、ビッグマイナーチェンジが施された進化型だ。内外装のリニューアルに加えて、サスペンションのチューニングなどにより、快適性の向上を図った、というのがメーカーのうたい文句である。
ラインナップは、「V350トレンド」(449万円)、「V350アンビエンテ」(617万円)、「V350アンビエンテ ロング」(637万円)の3モデルで、3.5リッターV6エンジンと5段オートマチックの組み合わせはすべて共通。高級モデルのV350アンビエンテとV350アンビエンテ ロングには、セルフレベリング付リアサスペンションが装着される。このなかから、今回は標準モデルに比べてリアオーバーハングが245mm長いV350アンビエンテ ロングを試乗に連れ出した。なるほど、デカイわけだ。
シートで筋トレ!?
残念ながら、マイナーチェンジ前のVクラスや「ビアノ」を名乗った時分のモデルに乗ったことはないが、FFだった初代に比べると、まるで別物である。言い遅れたが、現行VクラスはFRレイアウトを採用している。室内の印象は、まさに高級車の雰囲気で、上質な仕上がりのコックピットや、たっぷりとしたサイズのレザーシートなど、土足で上がり込むのをためらってしまう。
もちろん、このクルマの見どころは広いキャビンである。フルフラットなフロアに、取り外し可能なセカンドシート/サードシートを配置するが、仮に7名乗車の場合でも十分なレッグスペースが全員ぶん確保されるし、全体的にシート位置を前にずらせば、荷物のスペースも必要十分だ。各シートにリクライン機構が備わるのもうれしい点だ。セカンドシートは、後ろ向きにして対座のレイアウトにしたり、目一杯後ろに下げて、足を伸ばしたりすることも可能だ。
一方、大量の荷物を積みたいときには、必要に応じて2列目、3列目を取り外せばいい。全部取り外せば奥行き2400mmの広大なスペースが現れるから、収納能力は半端ではない。
ただ、Vクラスのシートは、2列目は1人掛けのシートが2脚、3列目は1人掛けと2人掛けのシートがそれぞれ1脚ずつという構成。1人掛けでも結構な重さで、2人掛けともなるとひとりでは持ち上げられないほど。これを脱着するのはひと仕事で、また、外したシートを保管場所まで運ぶのも大変な作業だ。確かに自在にシートアレンジは可能だが、イメージほど簡単ではなかった。
運転が意外に楽しい
そんな苦労はあるものの、あの広大なキャビンはやはり魅力である。では、気になるドライビングは? 私自身、決して車両感覚がいいわけではないので、ステアリングを握るまでは正直不安だった。運転席に収まると、際立って高いポジションから行き交うクルマを見下ろすことになり、最初は奇妙な感覚だった。
いざ走り出すと、3.5リッターのV6エンジンが実によく働いてくれる。低回転からトルク豊かなこのエンジンは、出足の鈍さもなく、車両重量2250kgのVクラスをストレスなく加速させるほどの実力だ。動力性能は申し分なし。そのうえ、その気になってアクセルを踏み込むと、3500rpmあたりから盛り上がりを見せて、結構スポーティな感覚を味わわせてくれる。
四角いボディだけに、高速ではそれなりに風切り音が高まるが、直進性は悪くないし、フラットさもまずまず。いまどきのミニバンに比べると乗り心地に多少の粗さはあるものの、快適さには合格点がつけられる。
意外だったのは、こう見えて身のこなしに鈍重さがなく、それどころかFRらしい素直な動きが、気持ちのいいドライビングをもたらしてくれたことだ。また、ステアリングの切れ角が大きく、予想以上に小回りが利くから、狭い場所での切り返しや車庫入れの場面では重宝する。
思いのほか運転しやすく、クルマを返すころには試乗前の不安はすっかり吹き飛んでしまった私。価格といい、サイズといい、誰にでも薦められるクルマではないが、多くの人、あるいは、多くの荷物とともに颯爽(さっそう)と移動したいという人には、このスリーポインテッドスター付きのMPVはとてもさまになるし、それも含めて、オーナーの満足度は高いに違いない。
(文=生方聡/写真=小林俊樹)

生方 聡
モータージャーナリスト。1964年生まれ。大学卒業後、外資系IT企業に就職したが、クルマに携わる仕事に就く夢が諦めきれず、1992年から『CAR GRAPHIC』記者として、あたらしいキャリアをスタート。現在はフリーのライターとして試乗記やレースリポートなどを寄稿。愛車は「フォルクスワーゲンID.4」。
-
スズキ・エブリイJリミテッド(MR/CVT)【試乗記】 2025.10.18 「スズキ・エブリイ」にアウトドアテイストをグッと高めた特別仕様車「Jリミテッド」が登場。ボディーカラーとデカールで“フツーの軽バン”ではないことは伝わると思うが、果たしてその内部はどうなっているのだろうか。400km余りをドライブした印象をお届けする。
-
ホンダN-ONE e:L(FWD)【試乗記】 2025.10.17 「N-VAN e:」に続き登場したホンダのフル電動軽自動車「N-ONE e:」。ガソリン車の「N-ONE」をベースにしつつも電気自動車ならではのクリーンなイメージを強調した内外装や、ライバルをしのぐ295kmの一充電走行距離が特徴だ。その走りやいかに。
-
スバル・ソルテラET-HS プロトタイプ(4WD)/ソルテラET-SS プロトタイプ(FWD)【試乗記】 2025.10.15 スバルとトヨタの協業によって生まれた電気自動車「ソルテラ」と「bZ4X」が、デビューから3年を機に大幅改良。スバル版であるソルテラに試乗し、パワーにドライバビリティー、快適性……と、全方位的に進化したという走りを確かめた。
-
トヨタ・スープラRZ(FR/6MT)【試乗記】 2025.10.14 2019年の熱狂がつい先日のことのようだが、5代目「トヨタ・スープラ」が間もなく生産終了を迎える。寂しさはあるものの、最後の最後まできっちり改良の手を入れ、“完成形”に仕上げて送り出すのが今のトヨタらしいところだ。「RZ」の6段MTモデルを試す。
-
BMW R1300GS(6MT)/F900GS(6MT)【試乗記】 2025.10.13 BMWが擁するビッグオフローダー「R1300GS」と「F900GS」に、本領であるオフロードコースで試乗。豪快なジャンプを繰り返し、テールスライドで土ぼこりを巻き上げ、大型アドベンチャーバイクのパイオニアである、BMWの本気に感じ入った。
-
NEW
トヨタ・カローラ クロスGRスポーツ(4WD/CVT)【試乗記】
2025.10.21試乗記「トヨタ・カローラ クロス」のマイナーチェンジに合わせて追加設定された、初のスポーティーグレード「GRスポーツ」に試乗。排気量をアップしたハイブリッドパワートレインや強化されたボディー、そして専用セッティングのリアサスが織りなす走りの印象を報告する。 -
NEW
SUVやミニバンに備わるリアワイパーがセダンに少ないのはなぜ?
2025.10.21あの多田哲哉のクルマQ&ASUVやミニバンではリアウィンドウにワイパーが装着されているのが一般的なのに、セダンでの装着例は非常に少ない。その理由は? トヨタでさまざまな車両を開発してきた多田哲哉さんに聞いた。 -
NEW
2025-2026 Winter webCGタイヤセレクション
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>2025-2026 Winterシーズンに注目のタイヤをwebCGが独自にリポート。一年を通して履き替えいらずのオールシーズンタイヤか、それともスノー/アイス性能に磨きをかけ、より進化したスタッドレスタイヤか。最新ラインナップを詳しく紹介する。 -
NEW
進化したオールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2」の走りを体感
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>欧州・北米に続き、ネクセンの最新オールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2(エヌブルー4シーズン2)」が日本にも上陸。進化したその性能は、いかなるものなのか。「ルノー・カングー」に装着したオーナーのロングドライブに同行し、リアルな評価を聞いた。 -
NEW
ウインターライフが変わる・広がる ダンロップ「シンクロウェザー」の真価
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>あらゆる路面にシンクロし、四季を通して高い性能を発揮する、ダンロップのオールシーズンタイヤ「シンクロウェザー」。そのウインター性能はどれほどのものか? 横浜、河口湖、八ヶ岳の3拠点生活を送る自動車ヘビーユーザーが、冬の八ヶ岳でその真価に触れた。 -
第321回:私の名前を覚えていますか
2025.10.20カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。24年ぶりに復活したホンダの新型「プレリュード」がリバイバルヒットを飛ばすなか、その陰でひっそりと消えていく2ドアクーペがある。今回はスペシャリティークーペについて、カーマニア的に考察した。