BMW CE 04(RWD)
夢の電動六輪生活のすゝめ 2022.07.05 試乗記 BMWから新型の電動スクーター「CE 04」が登場。お値段160万円オーバー、航続距離130kmの都市型電動コミューターは、どんな人に所望されているのか? 偶然にも知ることとなったそのオーナー像を、電動車ならではの圧巻の走りとともに報告する。オーナー像がつかめない……
たとえBMWの看板を背負っているとはいえ、160万円を超える電動バイクを誰が買うのだろう? けなしているわけではなく、純粋に不思議に思っていた。この2022年2月16日にリリースされたBMW CE 04のことである。
CE 04は、搭載されたバッテリーからの給電のみで走るBEVならぬBEM(バッテリー・エレクトリック・モーターサイクル)。“中免”こと普通自動二輪免許で乗れるビーエムだ。60.6Ah(8.9kWh)の容量を持つリチウムイオンバッテリーを載せ、フル充電で130kmの走行が可能とされる。ただし、日本の急速充電器に採用される「CHAdeMO」規格には対応しておらず、出先での充電を期待してのロングツーリングは現実的ではない。
ということは、その行動範囲は単純計算で65km。おそらく実際には8掛けといったところで、そのうえピュア電動バイクのバッテリー残量が少なくなっていくさまは、必要以上にライダーの心を萎縮させる。CE 04を駆って出かけられる範囲は、片道50km程度になろう。
価格は、「ライト・ホワイト」のボディーカラーで161万円。「マジェラン・グレー・メタリック」が163万9000円となる。BMWモトラッドのラインナップ中では安価な部類とはいえ、絶対的にはハードルが高い買い物である。
さて、集合場所に現れた試乗車は、お借りする際に一時的ながらシステムが起動しなくなり、走行可能になってからも警告灯がついたため、念のためBMWのサービスセンターに直行することとなった。ところが、ガレージで診断器をあてても問題は検出されない。チェックしたメカニックの人からは、走行用のバッテリーとは別に備わる補機用のバッテリーが弱っていて、そのためにエンジンスタート……ではなくモーター起動時に給電が不安定になって、不具合と認識されたのではないか、との説明をいただいた。
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すでにBMWの電動車を持っている人が多い
「展示車両などで時々生じるのですが……」と前置きしてから語られた“あるある”によると、CE 04はスタートボタンが押されるとセキュリティーの一環として電波を飛ばし、適合するキーを探しに行く。キーを所持したオーナーがそのまま使用するなら問題ないのだが、例えば販売店にディスプレイされた車両のボタンを、訪れたお客さんが押してしまった場合、CE 04はそのつどしばらくキーを探し続けるため、思いのほか電力を使ってしまうのだそうだ。
これはあくまで販売店での特殊なケースだが、放電や待機電流などで補機用バッテリーが消耗するのは、自分の愛車でもあり得ること。CE 04のオーナーも「走行用バッテリーは充電しているから」と油断していると、こんなことが起こるかもしれない。ちなみに、当然ながらCE 04はエンジンが回す発電機たるオルタネーター/ジェネレーターを持たない。バイクが目覚めてしまえば、走行用のバッテリーから適時、補機用のそれに電気が送られる。
せっかくなので、BMW電動バイクの充電事情についても少しうかがった。CE 04は、基本的には比較的簡単な電気工事で設定できる200V(12A以下)電源を使って自宅で充電される。カラの状態からだと約4時間でフルチャージが可能だ(Mode 2)。同じ200Vでも、より大容量(最大32A)の電気を流せる「Mode 3」の充電器なら所要時間を3分の1ほどに短縮できるが、こちらの設置には大がかりかつ高額な専用工事が必要となるので、特殊な例となる。
説明を聞きながら「160万円超の車両価格にプラスして電気工事代もかかるんですねぇ」と月並みな感想を述べると、「すでに『BMW iシリーズ』をお持ちの方が、買われているみたいです」と教えてくれた。
なるほど! 充電器は四輪・二輪で共通だから、BMW製の電気自動車を保有していれば、“ついでに”電動バイクにも使えるわけだ。そのうえバイエルンのBEVは大変高価だから、充電器代くらいクルマの値引きに含めてくれるかもしれない!? そしてCE 04に手を伸ばす人なら、同じBMWのクルマの1台や2台所有していても、おかしくはないだろう。
いまのところリッチピープルがピュア電動モデルを買う理由は、環境問題に敏感という意識の高さをアピールすることと、そのための財力に不足がないことを庶民に知らしめることだから、足を延ばす距離と用途によってエレキの四輪と二輪を使い分けるのは、ちょっとシビれるライフスタイルになろう。BMW CE 04の存在意義はソコにあったのかぁ……。目からウロコの情報でした。
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メットの中で顔がひきつる
CE 04に先立つこと約5年、2017年に登場した「Cエボリューション」は、電動バイクの特殊性を薄めるためかオーソドックスな(高級)スクーターのスタイルを採っていたが、今回のCE 04は「ショーモデル!?」と思わせる近未来的なデザインが魅力的。ことに真横から眺めるとステキだ。
全長2285mmとボディーは大柄で、1675mmの長いホイールベースが外観を特徴づける。車体の低い位置にバッテリーが置かれるほか、ヘルメットを収納できるラゲッジスペースまで用意される。ギリギリまでバッテリーを積んで航続距離を延ばすアプローチをとらなかったのが、いかにもプレミアム。
サイドスタンドを払ってCE 04を移動しようとして、「オッ!」と思わせる重量感に身構える。空車車重231kg。シート高は800mm。スクエアな形状のシートにまたがると、スクーターにありがちなのだが、シート下のボディー部分が左右に膨らんでいるので、重めの車重と併せやや気を使う足つきだ。それだけに、微速後退用のバックギアならぬバックスイッチが備わるのがありがたい。両側に別のバイクが止まっている、狭いスペースから自車を引き出すのに役立った。
CE 04はその名が示唆するように、エンジン車で言うと400ccクラスの動力性能を持つ。電気モーターは、常時使える定格出力が20PS、最高出力は42PS/4900rpm。62N・mの最大トルクは、停止状態からでもスロットルをひねるやいなや発生する。
この“いきなり大トルク”を生かしたスタートダッシュを得意とするのは、車輪の数を問わず電動モデルの特徴である。CE 04もその例に漏れず、「0-50km/h加速=2.6秒」と誇らしげにスペック表に記載される。試しに全開加速を試みると、CE 04は周囲に高周波音をまき散らしながらライダーの首がもげそうな加速を披露する。ヘルメットの中で、顔、ひきつります。
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細かなところまで手が込んでいる
ライディングモードは「エコ」「レイン」「ロード」「ダイナミック」の4種類。出力特性を変えるだけでなく、回生ブレーキを使って積極的にストッピングパワーもコントロールする。液晶ディスプレイには各モードの特性が、右にパワー、左にチャージとUの字型に表される。おもしろいのは、エコだけでなくダイナミックモードでも回生機能が最大限に働くこと。発電によるストッピングパワーが、「環境」だけでなくキビキビとした「駆けぬける歓(よろこ)び」にも貢献しているわけだ。
駆動系を観察すると、モーターをサスペンションアームと一体化するのではなく、ボディー側に積んでいる。一般的なスクーターよりタイヤの路面追従性はよさそうだ。片持ち式のいわゆるプロアームになっているのも、見た目のスポーティーさを加速する。駆動力の伝達には静粛性に意を払ってか、チェーンではなくベルトが用いられる。値段にたがわぬ、ぜいたくな電動スクーターである。
ロングホイールベースは、細かい路地での取り回しには少々不利だけれど、高速巡航時の高いスタビリティーを担保してくれるはず。BMWのラインナップでは「アーバンモビリティー」に分類されるCE 04だけれど、意外とアーバンハイウェイを活用しての都市間移動でも真価を発揮しそうだ。なろうことなら、ヘルメットの収納スペースをつぶしてバッテリーを増設する「ツーリングオプション」(仮名)があってもいいのでは!? ……などという考えは、スイマセン、貧乏くさかったですね。
(文=青木禎之/写真=郡大二郎/編集=堀田剛資)
【スペック】
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=2285×855×1150mm
ホイールベース:1675mm
シート高:800mm
重量:231kg(空車重量)
モーター:永久磁石式同期電動機
最高出力:42PS(31kW)/4900rpm
最大トルク:62N・m(6.3kgf・m)/0-4900rpm
トランスミッション:--
一充電走行距離:130km(WMTCモード)
交流電力量消費率:7.7kWh/100km(WMTCモード)
価格:163万9000円

青木 禎之
15年ほど勤めた出版社でリストラに遭い、2010年から強制的にフリーランスに。自ら企画し編集もこなすフォトグラファーとして、女性誌『GOLD』、モノ雑誌『Best Gear』、カメラ誌『デジキャパ!』などに寄稿していましたが、いずれも休刊。諸行無常の響きあり。主に「女性とクルマ」をテーマにした写真を手がけています。『webCG』ではライターとして、山野哲也さんの記事の取りまとめをさせていただいております。感謝。
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