ホンダ・シビックe:HEV(FF)
高揚するハイブリッド 2022.07.21 試乗記 スポーティーな走りに定評のある「ホンダ・シビック」に、ハイブリッドシステムを搭載した「e:HEV」が登場。「爽快(そうかい)スポーツe:HEV」をうたうこのクルマの、他のハイブリッド車との違いとは? 新しい価値と体験を追求した、ホンダの意欲作に触れた。変速機はないはずなのに
ヴァアーッ、ヴァーッ、ヴァアー!
アクセルを深めに踏み込み続けると、発電をしているはずのエンジンが、まるで高性能なトランスミッションを介してタイヤを回しているかのようにステップを刻む。エンジンの回転数をグラフの波形で表すと、ちょっと極端だが工場のイラストのようなギザギザ具合。ようするに、そのエンジン制御には人工的な有段ステップが切られている。
もちろん、実際はそこに変速機など存在しない。加速の際に高回転までエンジンを回し、そこで燃料と点火をカットし、少し回転が落ちてから再びエンジンを回すから、ドライバーはシフトアップを錯覚するのだ。クルマの加速Gには途切れがないのだが、DCTを搭載した超高性能スポーツカーだと思えば、“らしく”もある。
フロントドアのスピーカーが発生する倍音がかぶせられたエンジンサウンドにも、さほど嫌みがない。アクティブサウンドコントロールは「スポーツ」モード時のみ作動するというが、スピーカーからのエンジンサウンドを聞き慣れた“eスポーツ”世代の若者には、むしろ控えめなくらいかもしれない。
うはッ、面白い! これまでもホンダはe:HEVのエンジン制御をアクセルとリンクさせ、ハイブリッド特有の違和感をなくすよう努めていたが、これほどまでに大胆なやり方で来るとは思いもよらなかった。エンジン回転の落ち具合などは、むしろ1.5リッター直4ターボのガソリン車よりもいいくらいである。
開発陣から「期待していてほしい」と言われ続けていた新型シビック用の「e:HEV」は、確かに今までにないハイブリッドだった。
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マイルドでコントローラブル
その駆動力を受け止めるシャシーは、まとまり具合が素晴らしい。フロントに2リッターエンジンと2つのモーター、リアシート下にリチウムイオンバッテリーを内蔵した「IPU(インテリジェントパワーユニット)」を横置き搭載した“重み”が効いているのだろう。当日はガソリンモデルとの比較試乗も行ったが、路面からの突き上げはこちらのほうがうまく減衰されていて、乗り心地がマイルドだった。ただし、伸び側の減衰力が引き締められたダンパーセッティングは基本的に同じで、段差ではリア足がスッと伸びず、車体がドスンと落ちる。
電動パワーステアリング(EPS)の制御はまったりと滑らかで、ほどよく固められた足まわりとも実に相性がいい。またe:HEVではタイヤに「ミシュラン・パイロットスポーツ4」が採用されており、その上質な接地感と高い剛性感のバランスが、このEPSとシャシーにばっちりマッチしていた。
そんなシビックe:HEVだから、走らせれば当然楽しい。当日は雨が降りしきるあまりよくないシチュエーションだったが、それでもフロントタイヤは着実に路面を捉えた。回生を伴うブレーキのタッチにソリッドさはないが、コントロール性がよいからターンインでは狙いが定めやすい。ステアリングホイールにはパドルが付いており、マイナス側を引くと回生ブレーキが段階的に高まる。その減速Gの立ち上がり方も明確である。そしてコーナーミドルではボディー剛性の高さと、重心の低さ、前後重量配分のよさを感じる。これこそが、前述した電動パワートレイン搭載の効果だろう。
普段の走りは至ってクール
「インサイト」より、最高出力で+53PS(39kW)、最大トルクで+48N・mのアウトプット向上を果たした走行用モーターは、パワフルさよりリニアで正確な反応が際立つ。右足の微妙な操作に対する追従性が高く、コーナリング中は姿勢を安定させやすい。かつ立ち上がりポイントを見つけた瞬間から的確に、前輪へトルクをかけていくことができる。こうした走りは、もちろん「フィット」やインサイトでも得られていたが、シビックが一番スポーティーなモーターライドに仕上がっている。そしてここからアクセルを踏み込んでいくと、前述したエンジンのステップ制御が、ドライバーを楽しませてくれる。
このように、しかるべきシーンでは熱い走りを披露するシビックe:HEVだが、それ以外では至ってクールなのも面白いところだ。エンジンは求められる電力を供給しながら、普段はとても静かに回る。高剛性クランクシャフトや2次バランサー、オールウレタンのエンジンカバーなどによってその音量は低く抑え込まれており、かつパワーモジュールの電力変換時に発生する作動音も気にならなかった。
試乗中は雨が降っていたこともあり、静粛性に関してはいくらか評価が甘くなっているかもしれないが、街なかではそのちょっとマッチョな車体剛性感を楽しみながら、モーター駆動で静かに走ることができたのである。
人はパンのみにて生きるにあらず
高速巡航では、「Honda SENSING」によるアダプティブクルーズコントロール任せの走行が快適だった。
今回、ホンダはe:HEVにおけるエンジン直結状態での走行領域を拡大しており、加速時にはそこにモーターアシストを加えることで、省燃費とドライバビリティーを両立している。そして減速時においても、モーターと電子制御ブレーキの連携を滑らかにすることで、追従性を向上させた。
実際に走っているときは、その細かい制御のすべてを把握することはできなかったが、法定速度で巡航する限りはエンジンの音量が低く一定に抑えられており、かつ前走者との車間調整もスムーズだった。ちなみに、その燃費はWLTCモードで24.2km/リッター。使用燃料は現行シビックで唯一のレギュラーガソリンとなる。
シビックe:HEVの価格は394万0200円(税込み)と、ガソリンモデルに対して40万円ほど高い。ホンダはシビックのメインターゲットを「Z世代の若者」としているが、北米はまだしも日本のZ世代に対してその値づけは無理があるのではないか? と質問したところ、マーケティング担当氏から「若い人たちの間では、残価設定クレジットを使って購入するケースが多い」という回答を受けた。
なるほど。今の若い世代は納得したものであればきちんとお金を払うというし、「その手もあるよね」と一応は納得できた。もはやシビックも、自分が若いときの“あすなろスポーツ”的なポジションではなくなったということなのだろう。そういう意味で言うと、今回のe:HEVは確かに上質だが、若者にはガツンと乗り味がソリッドな、ガソリンモデルの6MT車を薦めたい。
ともあれシビックe:HEVは、ハイブリッド車の“表現方法”を変えた。そのやり方はかなり人工的だが、ガソリンエンジンに慣れ親しんだわれわれの感性に寄り添うという意味では、あの疑似有段ステップは最適解のひとつだろう。そして今後は、こうした人の感覚にマッチする制御技術が、どんどん増えてくるのだろうと感じた。やっぱり人は、効率だけでは生きられないのだ。
(文=山田弘樹/写真=荒川正幸/編集=堀田剛資)
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テスト車のデータ
ホンダ・シビックe:HEV
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4550×1800×1415mm
ホイールベース:2735mm
車重:1460kg
駆動方式:FF
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ
モーター:交流同期電動機
エンジン最高出力:141PS(104kW)/6000rpm
エンジン最大トルク:182N・m(18.6kgf・m)/4500pm
モーター最高出力:184PS(135kW)/5000-6000rpm
モーター最大トルク:315N・m(32.1kgf・m)/0-2000rpm
タイヤ:(前)235/40ZR18 95Y XL/(後)235/40ZR18 95Y XL(ミシュラン・パイロットスポーツ4)
燃費:24.2km/リッター(WLTCモード)
価格:394万0200円/テスト車=406万6700円
オプション装備:ボディーカラー<プラチナホワイト・パール>(3万8500円) ※以下、販売店オプション ドライブレコーダー<DRH-204WD>(3万9600円)/フロアカーペットマット<プレミアムタイプ[ブラック]フロント・リアセット e:HEV用>(4万8400円)
テスト車の年式:2022年型
テスト開始時の走行距離:1446km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:--km/リッター

山田 弘樹
ワンメイクレースやスーパー耐久に参戦経験をもつ、実践派のモータージャーナリスト。動力性能や運動性能、およびそれに関連するメカニズムの批評を得意とする。愛車は1995年式「ポルシェ911カレラ」と1986年式の「トヨタ・スプリンター トレノ」(AE86)。
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