ベントレー・コンチネンタルGT V8コンバーチブル(4WD/8AT)
至上の伝統的オープンカー 2022.07.23 試乗記 最高出力550PSの4リッターV8直噴ツインターボを搭載する「ベントレー・コンチネンタルGT V8コンバーチブル」に試乗。100年以上の歴史を誇る英国のラグジュアリーカーブランドが綿々と守り続けてきた、独自の世界観を味わった。今や主力は4リッターV8に移行
ベントレーがフォルクスワーゲン グループ傘下となったのは1998年、その新体制下で新開発された「コンチネンタルGT」が登場したのが2003年のことだ。コンチネンタルGTは、同グループの技術の粋を集めた6リッターW12ツインターボエンジンや4WDシステムを大きな特徴とした。以降、W12エンジンは新世代ベントレーの代名詞的な存在となった。
そんなベントレーも、最近はパワーユニットの置き換わりが急速に進んでいる。「ベンテイガ」は2018年から、コンチネンタルGTは2019年から、「フライングスパー」は2020年から、それぞれ4リッターV8直噴ツインターボを積むようになった。日本では今もラインナップされるW12だが、環境規制が厳しい欧州ではすでに姿を消しつつある。
今回はそんなV8を搭載したコンチネンタルGTコンバーチブルの試乗とあいなったが、その試乗車の目にも鮮やかな“紅白”という内外装の仕立てには驚いた。外板色の「アークティカ」は社内コーチビルダー「マリナー」が手がける特別なソリッドホワイトで、ベントレーでも一番人気だそうだ。そこに組み合わせられるソフトトップはボルドー産赤ワインを指す「クラレット」を名乗る。
内装色はホワイトが「リネン」、レッドが「ホットスパー」。職人技全開の美しいステッチも、リネン部に赤糸、ホットスパー部には白糸というコントラストカラーが基本だが、同色レザーをつなぎ合わせる部分にはレザーと同系色の糸を使うなどの“作法”はきちんと守られる。
ちなみに、紅白という色の組み合わせを縁起がいいとするのは日本だけらしい。いずれにしても、こういうカラー選びで「無難なほうがリセールはいい」とか「汚れが目立たないように」といった言い訳をつけるのは、筆者を含めた庶民の思考である。ベントレーはそんなセコい考えなど脳裏をよぎりもせず(?)、3000万~4000万円をポンと出せる富裕層のためのクルマである。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
クーペとは異なる走行テイスト
ベントレーのコンバーチブルともなれば、衆目を集めそうな場所でこそちゅうちょなくトップを下ろして「世の中には、これほどぜいたくでカッコいいクルマが存在するのだ」と広く知っていただくのが、われわれのような仕事の社会的責任(?)であることは承知している。ただ、東京・御殿山で試乗車を借り受けた当日は、関東地方で梅雨明け宣言が出た直後の記録的猛暑の真っただ中。炎天下をオープンで走り回るのは生命の危険を感じもしたので、まずはトップを上げたクローズ状態で走りだすことを(勝手に)お許しいただいた。
そこで気づいたのは、このクルマがトップを上げても、意外なほどコンバーチブル感が強いことだ。クーペと直接乗り比べなくても、ロードノイズがよりリアルに耳に届くのは明らか。剛性感も十二分に高いが、驚くほどではない。
「オープンだから当たり前だろ?」とのご指摘もあろうが、昨今の最新鋭オープンスーパースポーツは、トップを上げてしまうと、なんの誇張もなくクーペとまるで区別がつかなくなるタイプも少なくない。筆者の経験でいうとポルシェの「911」やBMWの「8シリーズ」(あえていえば「4シリーズ」も)のカブリオレがそうだ。これらは見た目でソフトトップを装いつつも、内部には分割式パネルが仕込まれており、トップを上げると前後が剛結される構造になっている。その種のトップはクローズ時の剛性や遮音性が飛躍的に高まるだけでなく、トップ形状も低く流麗にしやすい。
しかし、コンチネンタルGTのコンバーチブルトップを観察すると、驚くほど分厚い多層構造で、前席天井部分にだけパネルを内蔵するものの、基本はZ字に折りたたまれる正真正銘のソフトトップである。トップを閉じた姿をあらためて眺めても、その骨組みの存在をうかがわせる伝統的ソフトトップの作法が、見た目にもわかる。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
すっきり素直な操舵感覚
このクルマの心臓部となる4リッターV8直噴ツインターボは、ベントレーだけでなく、ポルシェにアウディ、ランボルギーニ……といったグループ内で広く共有されているエンジンである。欧州各社のV8が4リッターターボに集約しつつあるのは“1気筒あたり0.5リッター”が出力や抵抗、効率を考えた際のひとつの黄金律であると同時に、中国での自動車税制によるところも大きい……とは以前の海外試乗記で山崎元裕さんが指摘しているとおりだ。
このエンジンはさすがポルシェ主導で開発されただけに……というのもなんだが、とてもチューニングの幅が広い印象だ。ポルシェやランボルギーニでは鋭く回るが、このベントレー版は全域で豊かなトルクと滑らかさが際立つ。オープンだけにロードノイズはそれなりに聞こえてくるが、エンジン音は見事なまで上品に抑え込まれている。
とくにアクセルペダルに力を込めた瞬間から、素直にトルクが立ち上がる柔軟性と頼もしさは5リッター超の自然吸気エンジンのごとしで、事前知識がないとターボとは気づかないくらいだ。しかも、これがトルクコンバーター式ATより融通がききにくい8段DCTとの組み合わせであることを考えると、なおさら感心する。乗っているとDCT特有の鋭いキレ味は伝わってくるが、不快なシフトショックが見事なまでに取り除かれている。なんとも高級車の作法に忠実なパワートレインというほかない。
エンジン以外もポルシェと共通コンポーネンツを使うコンチネンタルGTは、4WD機構も後輪駆動ベースに必要な分だけトルク配分するタイプで、操舵感覚もすっきり素直な仕上がりだ。さらに、ドライブモードを戦闘志向の「スポーツ」モードにすると、メーター表示上ではフロントタイヤへのトルク配分がより控えめになるのが興味深い。安定感より回頭性優先らしい。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
すべてがベントレーの作法
今どきのスーパーオープンカーとしては、ソフトトップを上げて都心部を転がしたときの剛性感や静粛性は意外と普通……ということは前記したとおりだ。しかし、そこから速度を高めても、あるいはソフトトップを下げても、その味わいや走行感覚にほとんど変化がないのには驚く。
トップを上げたまま高速に乗り入れ、その速度を特別区間の120km/hまで引き上げても、車内の平穏にまるで変化はない。ロードノイズや風切り音が高まるわけでもなく、「クーペと比較するとちょっとだけ穏やかで、車外の音が少し聞こえやすい」という一定の印象がずっと維持されるのだ。また、頭上のソフトトップが走行風でバタついたりする粗相も掛け値なしに皆無である。
山坂道に持ち込んで、トップを上げ下げしてみると、なるほどステアリング反応に多少のちがいは看取できる。しかし、そこにも911や8シリーズほどの変化はない。意識しなければ気づかない程度の差でしかない。
ドライブモードをもっともバランスのいい標準の「B(ベントレー)」、より柔らかな肌ざわりになる「コンフォート」、そして前記の「スポーツ」といろいろ切り替えても、路面感覚やエンジン音に多少のちがいは出るものの、なにかが大きく変わるわけではない。コンフォートでも上下動は一発で収束するし、スポーツモードでも乗り心地はあくまで快適……と、ベントレーの作法からは決して逸脱しない。
ここにいたっても、ステアリング周辺の振動に代表される車体の剛性感やロードノイズが、速度やトップの状態にかかわらず、ここまで変化しないのは素直にすごい。変わるのはトップを下げたときにドライバー周囲を流れる風の匂いと音だけ。それだけ車体やソフトトップなどの基本フィジカルが、やんごとないほど超絶に優秀ということだ。コンチネンタルGTコンバーチブルは、伝統的作法に忠実にのっとったオープンカーとしては、間違いなく至上の一台だろう。
(文=佐野弘宗/写真=花村英典/編集=櫻井健一)
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
テスト車のデータ
ベントレー・コンチネンタルGT V8コンバーチブル
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4880×1965×1400mm
ホイールベース:2850mm
車重:2370kg
駆動方式:4WD
エンジン:4リッターV8 DOHC 32バルブ ツインターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:550PS(405kW)/5750-6000rpm
最大トルク:770N・m(78.5kgf・m)/2000-4500rpm
タイヤ:(前)275/35ZR22 104Y/(後)315/30ZR22 107Y(ピレリPゼロ)
燃費:12.5リッター/100km(約8.0km/リッター、WLTCモード)
価格:3078万円/テスト車:3297万1380円
オプション装備:マリナーオプションペイント<アークティカ>(103万6890円)/Continentalブラックラインスペック(59万8330円)/マリナードライビングスペック<ブラックペイント仕上げホイール>(219万1380円)/LEDウエルカムランプ by Mulliner(7万5540円)/ツーリングスペック(116万9900円)/フロントシートコンフォートスペック(57万9630円)/ディープパイルオーバーマット<フロント>(6万5440円)/バッテリーチャージャー<ソケット付き>(1万8830円)/Bentleyローテーションディスプレイ(87万8780円)/エクステリアルーフ<クラレット>(12万1530円)
テスト車の年式:2022年型
テスト開始時の走行距離:153km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(5)/山岳路(4)
テスト距離:434.2km
使用燃料:80.7リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:5.3km/リッター(満タン法)/6.0km/リッター(車載燃費計計測値)

佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。
-
BMW iX3 50 xDrive Mスポーツ(4WD)【海外試乗記】 2025.12.12 「ノイエクラッセ」とはBMWの変革を示す旗印である。その第1弾である新型「iX3」からは、内外装の新しさとともに、乗り味やドライバビリティーさえも刷新しようとしていることが伝わってくる。スペインでドライブした第一報をお届けする。
-
BYDシーライオン6(FF)【試乗記】 2025.12.10 中国のBYDが日本に向けて放つ第5の矢はプラグインハイブリッド車の「シーライオン6」だ。満タン・満充電からの航続距離は1200kmとされており、BYDは「スーパーハイブリッドSUV」と呼称する。もちろん既存の4モデルと同様に法外(!?)な値づけだ。果たしてその仕上がりやいかに?
-
フェラーリ12チリンドリ(FR/8AT)【試乗記】 2025.12.9 フェラーリのフラッグシップモデルが刷新。フロントに伝統のV12ユニットを積むニューマシンは、ずばり「12チリンドリ」、つまり12気筒を名乗る。最高出力830PSを生み出すその能力(のごく一部)を日本の公道で味わってみた。
-
アウディS6スポーツバックe-tron(4WD)【試乗記】 2025.12.8 アウディの最新電気自動車「A6 e-tron」シリーズのなかでも、サルーンボディーの高性能モデルである「S6スポーツバックe-tron」に試乗。ベーシックな「A6スポーツバックe-tron」とのちがいを、両車を試した佐野弘宗が報告する。
-
トヨタ・アクアZ(FF/CVT)【試乗記】 2025.12.6 マイナーチェンジした「トヨタ・アクア」はフロントデザインがガラリと変わり、“小さなプリウス風”に生まれ変わった。機能や装備面も強化され、まさにトヨタらしいかゆいところに手が届く進化を遂げている。最上級グレード「Z」の仕上がりをリポートする。
-
NEW
ホンダ・プレリュード(前編)
2025.12.14思考するドライバー 山野哲也の“目”レーシングドライバー山野哲也が新型「ホンダ・プレリュード」に試乗。ホンダ党にとっては待ち望んだビッグネームの復活であり、長い休眠期間を経て最新のテクノロジーを満載したスポーツクーペへと進化している。山野のジャッジやいかに!? -
アストンマーティン・ヴァンテージ ロードスター(FR/8AT)【試乗記】
2025.12.13試乗記「アストンマーティン・ヴァンテージ ロードスター」はマイナーチェンジで4リッターV8エンジンのパワーとトルクが大幅に引き上げられた。これをリア2輪で操るある種の危うさこそが、人々を引き付けてやまないのだろう。初冬のワインディングロードでの印象を報告する。 -
BMW iX3 50 xDrive Mスポーツ(4WD)【海外試乗記】
2025.12.12試乗記「ノイエクラッセ」とはBMWの変革を示す旗印である。その第1弾である新型「iX3」からは、内外装の新しさとともに、乗り味やドライバビリティーさえも刷新しようとしていることが伝わってくる。スペインでドライブした第一報をお届けする。 -
高齢者だって運転を続けたい! ボルボが語る「ヘルシーなモービルライフ」のすゝめ
2025.12.12デイリーコラム日本でもスウェーデンでも大きな問題となって久しい、シニアドライバーによる交通事故。高齢者の移動の権利を守り、誰もが安心して過ごせる交通社会を実現するにはどうすればよいのか? 長年、ボルボで安全技術の開発に携わってきた第一人者が語る。 -
第940回:宮川秀之氏を悼む ―在イタリア日本人の誇るべき先達―
2025.12.11マッキナ あらモーダ!イタリアを拠点に実業家として活躍し、かのイタルデザインの設立にも貢献した宮川秀之氏が逝去。日本とイタリアの架け橋となり、美しいイタリアンデザインを日本に広めた故人の功績を、イタリア在住の大矢アキオが懐かしい思い出とともに振り返る。 -
走るほどにCO2を減らす? マツダが発表した「モバイルカーボンキャプチャー」の可能性を探る
2025.12.11デイリーコラムマツダがジャパンモビリティショー2025で発表した「モバイルカーボンキャプチャー」は、走るほどにCO2を減らすという車両搭載用のCO2回収装置だ。この装置の仕組みと、低炭素社会の実現に向けたマツダの取り組みに迫る。

















































